物流新時代と交通

 

第6回『効率的な物流活動を支える交通施策』

 


 前回までに見てきたとおり、物流は我が国の産業活動にとって極めて重要であるとともに、とりまく環境変化も急である。これら課題への様々な新しい取り組みも見てきたが、この節はこれらを総括する議論を行った。
 

 

[背景]

 

§自動車がもたらす環境問題

 

§企業のグローバル化の進展

 

§総合物流施策大綱

 世界経済のグローバル化やわが国経済の高コスト構造などの諸問題に対し、関係省庁が物流全体に関する共通の問題意識をもって総合的な施策を講じていくことが必要であるという認識の下、本大綱が策定された(平成9年4月4日閣議決定)。

 本大綱においては、おおむね2001年を目途に3つの基本的目標を掲げ、3つの取り組みの視点のもと、3つの分野に重点を置き施策を講じていくこととしている。

 

 

3つの基本的目標

 

@アジア太平洋地域でも最も利便性が高く魅力的な物流サービス
A産業立地競争力の阻害要因とならない物流コスト
B環境負荷の軽減
 

                            

                            

                            

 

目標を実現するための3つの視点

 

@相互連携による総合的な取り組み
A利用者の多様性への対応(マルチモーダル施策)
B競争促進による市場の活性化
 

                                             

                                             

                                             

 

横断的施策

 

1)社会資本整備(社会資本の総合連携)
   高規格幹線道路、地域高規格道路、港湾・空港のアクセス道路等
2)規制緩和(国際的調和)
3)物流システムの高度化(情報化、標準化)
   高度道路交通システム(ITS)等
 





 

 

分野別施策

 





 

@都市内物流(バイパスや環状道路の整備、道路交通の円滑化等)
A地域間物流(車両の大型化に対応した橋梁の補修・補強等)
B国際物流(輸出入貨物の国内陸上運送、国際物流拠点の整備等)
 

 

 






 

 

論点:

 

 ・物流構造改革を含むロジスティクス革新のあり方は?
 ・特に、近年顕著なサプライチェーンマネジメントと
  サードパーティロジスティクスの今後の方向性は?
 ・これらが交通に与える影響は?

 

 

[ゲストスピーカー]





 


 前2回は、物流の最先端の現場からの話を代表的な企業から頂いたが、今回はこれを総括するために、物流を主な研究テーマとする学識経験者の方をお招きした。 
 





 

 







 


林 克彦(はやし かつひこ)(流通科学大学 商学部 流通学科 教授)  物流研究の第一人者として、物流産業の構造変化に関する研究等に携わっている。今回は、物流全体を俯瞰する視点から、今日の物流における諸課題、物流構造改革の動向、ロジスティクス革新について、お話をしていただいた。
 







 

 


物流がなぜ、どのように変わりつつあるのか、そして交通との関係は
                            (話題提供:林氏)

 

 

●今後の物流に影響を及ぼす課題

(1)物流高コスト

 今日の物流をめぐる議論は、高コストに対する問題提起から始まった。橋本内閣の6大改革の議論の際にも、産業立地条件の国際比較における日本の輸送コストの高さが指摘されている。

(2)大都市環境問題の深刻化

 大都市圏では、NOxなど環境基準未達地域が多く、川崎・尼崎などは早急に改善することが求められている。

(3)地球環境問題

 京都議定書で定められたCO削減目標を達成することが求められる。

(4)長期的な労働力不足

 労働力人口(15〜64歳)は既に減少に転じ、2007年には総人口もピークになると予測されている。物流は労働集約的な産業であり、長期的に労働力不足にどう対応するか検討する必要がある。

(5)情報技術の活用

 上記の様々な課題への有効な対応策のひとつが情報技術。物流革新にはハード型の技術革新だけでなくITも積極的に活用すべきである。

(6)グローバル化への対応

 80年代後半から、国際的な水平分業が進み、アジアを中心としたグローバル化が本格化。その中で、香港・シンガポールがハブ機能を活かして重要な地位を占めるようになる一方、日本の港湾は地盤沈下が進んでいる。

 

●21世紀初頭を目指した物流構造改革

 前段で整理した諸課題を踏まえ、経済構造改革に対する認識が深まる中で、総合物流施策大綱が閣議決定された。

 大綱は、エネルギー・環境・交通安全等の課題に配慮しながらアジア地域で最も利便性の高い物流サービスを低コストで実現することをめざしている。また、本大綱では、物流の課題を、分野別課題(都市内・地域間・国際物流)と、これらを横断する課題とに分けている。この中で、特に都市内物流の改善が重要である。

 

●求められるロジスティクス革新

 物流とは、輸送・保管・包装・荷役・流通加工・情報の6つの要素をシステムとして統合したもので、各要素はトレードオフの関係にある。このトレードオフを前提として、全体の最適化を図ることが重要である。

 物流の最終目的は、顧客が財を利用可能な状態にすることであるが、ロジスティクスの目的は、これまで個別に対応していた調達・生産・販売にかかる物流をシステムとして統合し、戦略的な物流を展開していくことである。

 

●ロジスティクス革新の現状

 現在行われている物流構造改革とは、規制緩和やインフラ整備を通じて経済を活性化し、保護・育成政策からより競争的な環境に変えていくものである。こうした環境の中から、サードパーティ・ロジスティクスなどのニュービジネスが現れており、これらがロジスティクス革新を実現することを期待している。

 サプライチェーンマネジメント(SCM=Supply Chain Management)とは、原材料供給、製造、卸、小売など各プロセスに携わる企業のロジスティクスを連結し、サプライチェーン全体の合理化・効率化を図るものである。複数企業間の情報共有により、効率化やコスト削減が可能になる。また、顧客満足的な視点でとらえれば、企業間連携により、消費者ニーズを川上に敏速にフィードバックし、消費者ニーズに合致したものを迅速に供給することを可能にするシステムといえる。

 クイックリスポンス(QR=Quick Response)とは、ジャストインタイム(JIT=Just in Time)を流通に応用したものであり、主にアパレル業界を中心に導入されている。米国のMACY'S百貨店がアジアからのアパレル輸入を合理化したケースがある。

 一方、エフィシェント・コンシューマー・リスポンス(ECR=Efficient Consumer Response)は、小売店の販売情報を卸やメーカーが共有し、効率化するもので、加工食品業界を中心に導入された。工場、メーカー、卸、小売のどこが在庫を持つかについて最適なシステムを考えた場合、従来の多段階型物流から直行型に移行しつつある。

 こうした物流をめぐる環境変化に対して物流業者はどう対応すべきか、という解答の一つがサードパーティ・ロジスティクス(TPL=Third Party Logistics)である。荷主企業がコアコンピテンス(核となる事業)に集中し、物流機能をアウトソースするようになったため、こうしたロジスティクス機能を一括受注し、SCMを代行する企業が現れるようになった。

 

●ロジスティクス革新と交通

 SCM、TPLの視点から交通問題を考える場合、SCMなどが輸送そのものを目的とせず、いわば派生需要のような位置付けになるので、明確な答えは出しにくい。例えば、輸送量の削減などはSCMの直接的な目的にはならないが、想定される影響としては、SCの短縮化により積み換えが減ることによる輸送量の減少、その反面で在庫圧縮のための物流センター大型化に伴う配送距離の増大などがあげられる。

 交通政策と物流との関わりを考える場合、物流はいくつかの活動要素を組み合わせて最適化させるものであり、最適化の段階で交通政策とマッチさせることが必要である。環境やエネルギーに関する政策目的と合致した最適化を実現するためには、民間企業に任せきりでなく、社会的費用を考慮するなど有効な働きかけを行うことが必要であろう。

 


ディスカッション再録:物流政策のあり方はいかに
 

●物流合理化の動きはどのようなものか

Q:SCMとは「企業内物流から企業間物流への合理化の移行」と理解したが、このことと流通の簡略化との関係を説明していただきたい。

A:これまで企業内で完結していた合理化を、複数企業間でも合理化できるようにすれば、大幅なコスト削減が可能になる。例えば、今まで製造、卸、小売がそれぞれ持っていた在庫を1ヶ所にまとめれば単独企業では、なしえない合理化が実現する。今日では、企業は物流に限らず、様々な活動分野で連携したり、戦略的同盟を組むようになっている。

 

Q:企業間については、常に連携するばかりではなく、合理化のために中間をとばすこともあるのではないか。

A:卸をとばす「中抜き」などがある。これまで卸は品揃えという機能を担っていたが、POSの登場により、卸を抜いても製造や小売が代行できるようになった。

一方、卸サイドの巻き返しとして、中小の小売に対するリテールサポート(ノウハウ面の支援等)がある。

 

●物流合理化と交通量の関係は?

Q:今後、SCMにより輸送量は減るかもしれないが、個別レベルで見ると小口・多頻度輸送の需要も増加すると思われる。この点については、どう分析されるか。

A:最終的に小売に進む段階で、多頻度・小口になる傾向がある。これについても、例えば、従来各ベンダーごとにスーパーに納入していたものを、窓口になる問屋を一つ決めて、まとめて運ぶことにより輸送をコンパクトにすることができる。

●JITの見直し議論から物流コスト論について

Q:顧客満足の視点で考えると確かにQRは重要だが、一方で最近、行きすぎたJITを見直す動きもある。最終的には両者をどうバランスさせるべきか。

A:まず、JITにかかるコストを明示することである。JITのために費用がいくらかかっているかをサービス需要者が知り、判断する機会を作ることが重要だ。

A:これまで、企業は金利の高さや売れ残りの損失などから在庫コストを高いものと考え、運んだ方が安いととらえていた。今後は、立地と環境の関わりなど、より広い視点で考える姿勢が求められるようになる。

 

Q:ロードプライシングの内部化について、事業者はどう受け止めるだろうか。

A:輸送コストの内訳を分解していくと、人件費は運賃の5割程度で、高速代の比率は5%弱。事業者のほとんどは中小企業で運賃交渉力が弱い。こうした状況では、社会的費用を上げようとしても、なかなか受け入れられないのではないか。

 

●物流の社会的な最適化のあり方は?

Q:物流の最適化と国や地球全体の最適化を考えた場合の政策のあり方とはいかなるものか。

A:長期的視点で環境や労働力変化等を考慮した政策ミックスが必要であり、事業者にとっては多少手痛い政策であっても出して行かなくてはならないだろう。

 

Q:共同配送は、本来、民間・公共どちらの主導で行うのが適当と考えるか。福岡の天神のような先進例はあっても、なかなか次に続くものが見あたらない。

A:民間主導で行うとした場合、本来競争関係にある事業者が協力しなければならないという点に難しさがある。もっとも、協力パターンにはいろいろな組み合わせがあると思う。

 

Q:イトーヨーカ堂やダイエーなどの流通大手間の連携による共同配送などは行われているのか。

A:中小レベルはあるが、大手企業では百貨店の共同配送を除けば例は限られる。本来、大手の同業者の相互連携が最も効果的なのだが、取引内容の情報が漏れるといった問題があって実現していない。

 

●物流合理化に向けての事業者と行政の役割は?

Q:今後、行政がどのような施策に重点を置けば、物流の改善につながると思うか。

A:一番大きな問題は都市内物流の改善であるが、これらの施策を一つひとつ積み重ねていくことである。

 

Q:効率面の最適化をめざしている企業は、公共セクターのとる施策をどのように見ているだろうか。

A:先日の研究会における日通の発言にもあったが、環状道路整備などネックになっている部分への改善要望は非常に強い。もっとも、トラックベイや共同荷受場など地方によってはそれを使用する事業者が特定されるものについては、費用負担原則をはっきりさせるべきだ。

 

●今後の物流政策に求められること

Q:企業の最適化の論理と地球全体の最適化の方向性は必ずしも一致しないが、我々は常に後者を考えながら政策立案しなくてはならない。例えば、ロードプライシングなどは事業者の抵抗が強いと思うが、こうした政策はどう進めて行くべきか。

A:難しい問題で答えはすぐには浮かばないが、まずは企業活動は自由競争が前提であることを認識し、極力これを乱さない範囲で政策を進めることが必要だ。また、取締等の規制・規則遵守を徹底させた上でソフト施策を進めることである。

 


(研究会を終えて)
 現在、物流は、さらに概念を拡大したロジスティクスの名の下に、革新が進みつつある。例えば、サプライチェーンマネジメントは、企業の枠組みを超えた物流最適化をめざし、サードパーティロジスティクスは、外部の視点でこれをアレンジする。
 しかし、物流の合理化は、必ずしも社会のめざす合理的な交通と一致するわけではないので、行政サイドからの適切な誘導が必要になる。特に、一番問題なのは、都市内物流に係る交通の問題であり、抜本的に改善する施策はないので、諸施策の積み重ねが必要である。
 

 

 

 

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