国土審議会九州地方開発特別委員会(H9.11)
議事概要


平成9年11月12日
於;東京
  1. 特別委員会の下に設置されている企画部会において、九州地方全体の発展に向けた主要課題について広域的な見地から重点的に検討を重ねてきたこれまでの審議経過(別紙)を報告し、九州地方の新たな発展のためにどのような対応を重点的に推進していくべきかについて自由な討議を行った。

  2. 委員からの主な意見は以下のとおり。

  3. 新たな九州地方開発促進計画の策定作業スケジュールについて

(別紙)

企画部会審議経過報告
平成9年11月
国土審議会九州地方開発特別委員会企画部会

  1. はじめに
     現行の九州地方開発促進計画が平成2年5月に策定された後、これを基に九州地方の計画的な整備が進められている。
    この間、人口移動の動きに変化の兆しがみられ、また、高速交通体系などの社会資本整備も進捗するなど、一定の成果が上がっている。
    一方、過疎化・高齢化問題の深刻化、高度情報化社会の到来、世界との関係の緊密化、行財政改革・地方分権の推進など、地方を取り巻く環境には構造的な変化がみられつつある。
    こうした構造的な変化に対応していくため、平成8年2月に開催された国土審議会九州地方開発特別委員会において、2010年のあるべき九州の将来像を展望し、その実現のために国及び地方がとるべき重点的対応を明らかにするという役割を担った「新たな九州地方開発促進計画」の策定を目指し、同委員会の下に設けられている企画部会において、策定に当たっての基本的方向等を検討することとされた。企画部会はこれを受けて、九州地方全体の新たな発展に向けた主要課題に関する論点を整理し、それらについて広域的な見地から重点的な検討を重ねてきた。
    本報告は、これまでの3回の会合における委員の議論を集約し、企画部会の審議経過報告として取りまとめたものである。
    新たな計画の策定に当たっては、九州地方の新たなる発展に向けて、本報告の基本的な考え方を踏まえ、財政構造改革等の最近の諸情勢にも配慮しつつ、今後新しく策定される全国総合開発計画との整合を図り、地方公共団体をはじめとする地方の各層の意見を反映しながら、議論がさらに深められていくことを期待する。

  2. (審議経過)

    国土審議会九州地方開発特別委員会企画部会審議経過

    第1回企画部会(平成8年5月17日 北九州市)
      議題1 今後の企画部会等の審議スケジュールについて
        2 新たな九州地方開発促進計画の主要課題に関する論点について
        (特別委員会で出された意見を整理した主要課題に関する論点について討議)

    第2回企画部会(平成8年10月9日 熊本市)
      議題1 九州地方の開発・発展の基本的方向について
        2 九州地方開発促進計画に関するアンケート調査(案)について
       (九州地方の開発・発展の基本的方向(案)について討議)

    第3回企画部会(平成8年12月13日 東京都)
      議題1 計画部会調査検討報告について
        2 九州地方の開発・発展の基本的方向について
        3 九州地方開発促進計画に関するアンケート調査結果について
        (九州地方の開発・発展の基本的方向(案)について討議)

  3. 九州地方の新たな発展の基本的方向について

    九州地方は成長するアジア地域と近接性を持ち、また古くから歴史・文化の交流の拠点となってきた。経済社会のグローバル化に伴い従来の圏域を越えた動きが急速に高まっており、その時代認識の中で2010年の九州の姿を展望し、それにあった活力ある九州、産業基盤を築いて行くことが求められている。
    九州地方の新たな発展の基本理念としては、魅力ある都市と豊かな自然が織りなす多様性ある地域が活発な交流を通じて一体となり、真に心の豊かさを実感できる21世紀の新しいライフスタイルの場としての、九州の実現を目指すべきである。そのためには、アジアへのゲートウェイとしての機能を強化し、地域資源を活用して特色ある産業の集積を図り、地域の有機的な連携により、九州全体が持っているポテンシャルを十分に発揮していく必要がある。
    このため、次の4つの基本戦略を進めていくべきである。

    (1)地域連携による豊かな生活の実現
    九州地方においては、福岡市や北九州市を中心として北部九州において集積が進んでおり、東京圏、大阪圏、中部圏に次いで新しい都市圏としての可能性を秘めている。さらに、30〜60万人規模の地方中核都市が域内にバランスよく配置されており、それぞれにおいて高次な都市機能を享受する環境が整っている。一方、都市以外の地域においても、豊かな自然を背景とした歴史と伝統ある生活文化を持った多様な地域社会が育まれている。そこでは、我が国でも先駆的な地域づくりが数多く行われており、既存の自然環境や伝統文化に加え、新たな魅力も付加されてきている。
    このような、高度な都市機能と豊かな自然がバランス良く配置されている特性を生かして、どこに住んでいても、多大の時間や費用をかけず、高質な教育・文化、医療・福祉等の生活サービスや就労の機会を享受できる社会を実現していく。

    (豊かな生活実現のための都市機能の整備・充実)
    近年、東京一極集中の状況に変化が見られる中で、地方中枢・中核都市の集積が高まっており、特に福岡を中心とした北部九州においては、文化やファッションなどの都市的機能を求め、九州内や域外からも人が集まってきている。今後は、交通機能の発達や人々の生活圏の拡大に伴い、東京や大阪ばかりでなく、釜山、ソウル、上海、台北など近接するアジアの都市との競争の時代となることが予想される。魅力ある豊かな生活の向上に向けて、過密等の都市問題などにも留意しつつ、アジアの中で特色ある高度な都市機能を充実する。同時に、県庁所在都市等の地方中核都市においても、九州域内の均衡ある発展に向けて、地域特性を生かした高次都市機能の強化を図るとともに、九州各地に住む人々が身近に都市的機能を享受するために、教育・文化、医療・福祉、商業、業務管理、情報活用等の高次サービス機能を整備していく。
    一方、九州地方には、地方中枢・中核都市へのアクセスが困難な半島、離島、中山間地域等の地域が広く分布しているが、そこに住む住民が日常生活に必要な医療・福祉、教育・文化等一定レベルの都市機能を享受できるようにする必要がある。このため、交通インフラ整備によるアクセスの改善が必要であるが、高度情報化社会の到来の中で、情報、通信基盤は、時間・距離の制約を克服し、地域間の関係を大きく変化させる可能性を持っており、地理的特性にも十分配慮した情報通信基盤の整備を図る。

    (地域連携軸の形成)
    また、九州内のそれぞれの集積を有機的に連携させることにより、新たな地域発展の機会を創出し、効率的な基盤整備が可能となる。このような連携の基礎となる交通、情報通信基盤の整備が遅れていることが九州地方のポテンシャルを十分発揮できていない要因であり、このことが北部九州に人口、経済が集中し域内の不均衡をもたらしている面がある。域内の地方中枢・中核都市等を結ぶ高速自動車交通網、高速鉄道網や光ファイバー等の情報通信体系の整備等を通じて、九州内の循環機能を高めるとともに広く域外との連携を強化するため、九州の各地域における地域連携軸の形成を推進する。

    (2)知識集約型の新産業の創造
    (消費者ニーズに対応した農林水産業の展開)
    九州地方は、気候風土や自然環境から農林水産業が盛んな地域であり、特に我が国の食料基地として重要な地位を占めているが、輸入拡大等に伴う経営環境の悪化、従事者の高齢化、後継者不足等により、農林水産業を取り巻く環境は厳しい状況にある。生産性を高めるために、規模拡大、経営の安定化・効率化を図り、次代の担い手を幅広く確保する必要がある。また安価な輸入品と競争するためには風味や鮮度、消費者ニーズを的確に反映した加工、安全性などの面で付加価値を高め、産地直送、観光農業、観光漁業など生産者と消費者とのつながりを強化する。

    (先端技術産業の充実)
    九州地方では、製造業比率及び就業者当たりの工業出荷額が他のブロックと比べて低く、工業の集積が遅れているものの、先端技術産業の九州への立地推進によってIC産業や自動車産業などの生産拠点の展開が進み、シリコンアイランド、カーアイランドと呼ばれるまでになった。今後は新製品の開発や技術開発、事業所の管理機能、人材養成機能といった機能を高め、産業としての基盤の広がりを図っていく必要がある。
    素材産業はアジアの追い上げを受け、加工組立産業では海外への展開が進んでいる中で九州の製造業は、2010年を目指して今までの垂直分業型からアジアの中で製品間、工程間の分業をネットワークする水平分業型への転換を図っていく必要がある。国際的競争のなかで、内発的な地域産業の新たな展開を図るとともに、先端技術産業等広く内外の企業を吸引できる立地条件を整備する。

    (次世代サービス業の育成)
    第三次産業については、経済、社会のサービス化、ソフト化が進行し、既に一定の集積を持つが、対事業所サービス業等の集積は未だ不十分であり、とりわけ次世代サービス業の大きな柱と目される情報通信産業やソフトウェア産業などの育成が必要である。
    観光においては、今後アジアなど海外からの観光客が増加することが期待され、域外からの観光客を誘致するため、歴史・文化や自然環境等地域特性を生かした広域的な観光ルートの整備を進める。

    (新規産業の開拓と研究開発・人材育成基盤の整備・充実)
    多様な産業が立地して地域自ら技術革新がなされる九州地方にしていくために、情報通信、航空・宇宙、海洋関連、環境・リサイクル、医療・福祉など、時代の潮流を先取りした産業を積極的に開拓していく必要がある。
    産業、経済の発展には自ら高度な知識と豊富な知恵を持つことが必要であり、ハイテク分野や農林水産、バイオ、セラミックスなど地域産業の高度化のため研究開発を行う必要がある。このため、九州が有する科学技術・学術・文化等の蓄積を生かしながら、21世紀に向けた国際的な学術研究拠点の形成を目指し、高次の研究開発機関を整備し、産・官・学の連携を強化する。
    さらに、知識を市場に結びつけるための人材の育成・確保、ベンチャーキャピタルに対する支援制度を充実する。特に九州の将来を支える若い優秀な頭脳が域外に流出する傾向にあり、時代の潮流に的確に対応できる人材を育成するため、福祉、情報、芸術、外国語など21世紀に向けた高次教育機関を充実するとともに、人材が定着できるような受け皿の充実を図る。

    (3)安全で安心な誇りの持てる地域社会の実現
    日々の暮らしが安全で、将来に対し安心できる地域社会を実現するとともに、自らの住む地域や伝統・文化に誇りを持ち、生きがいを感じられるような魅力ある地域づくりを推進する。

    (安全で安心できる地域社会の実現)
    九州地方は、台風や集中豪雨、地震や火山災害などの自然災害を受けやすい地域であり、住民が安心して生活できるよう治山、治水、防災体制等災害に強いまちづくりを推進していく必要がある。また、住みよい環境を次代に引き継ぐという観点から廃棄物処理、大気・水質汚染、騒音への対応を進める必要がある。
    住民に大きな影響をもたらす水不足問題への対応を進めるために安定的な水資源の確保と並行して、水資源の有効利用を進め「節水型社会」の形成を目指す。
    中山間地域に広く存在する森林、農地等は国土保全、環境保全、水資源の涵養等の面で、重要な役割を果たしており、適切な管理のための対応を進める。
    これらの問題は各市町村での個別対応が困難な問題も多く、防災を始めとして広域的な対処システムを強化していく必要がある。また、高齢化社会の到来に対処するため、医療・福祉や教育などに関する高度なサービスでは、個々の市町村レベルでの対応が難しくなってきており、都市機能の育成強化とともに、それを核とした地域連合、広域市町村圏での対応を進める。

    (魅力的な地域づくりの推進)
    九州地方では、農山漁村で人口流出が続き、安心して暮らしていくために重要な コミュニティが崩壊しつつある地域も見られる。
    一方、一定の生活レベルが確保できれば、自然の豊かな農山漁村で生活したいと考える人が近年着実に増加しており、空間的ハンディを克服して雇用機会の創出を可能にする情報・通信技術も徐々に実用化されつつある。また、大都市の都心部においても、伝統芸能や祭に若者が回帰する兆しがみられるなど、住みよさの価値観が多様化しつつある。
    中小都市、中山間地域、離島地域等を含む農山漁村等の豊かな自然環境に恵まれた地域を、21世紀の新たな生活様式の実現を可能とする国土のフロンティアとして「多自然居住地域」と位置づけ、農林水産業を始め、地域の特性を生かした自由時間対応型などの多様な産業の展開による就業機会の確保や快適な生活の確保に向けた生活基盤の整備を行うとともに、新しいライフスタイルの学習・体験施策、若者がそこに住みやすくする施策、UJIターンの促進等を進めていく。
    定住志向を高めるためには、自らの住んでいる地域に誇りを持てることが不可欠である。九州の各地域が持つ美しい自然、長い歴史や景観、地域文化を次世代に継承・発展させていく必要がある。一方、都市においては、スピードや効率性を最優先するこれまでの考え方から、ゆとりやうるおい、やすらぎ、自然とのつながりなどを求める人が増加している。水、緑、土などの自然を再認識し、景観的にも美しく、他都市の人々に誇れるような都市再開発やウォーターフロント開発を進める。地域固有の伝統や文化は、他地域との交流を通して再認識、再発見される場合も少なくない。そのためにも九州域外、海外との交流、都市と田舎の交流を活発にするための仕掛けをつくっていく必要がある。

    (4)「九州・アジア国際交流圏」の形成
    九州地方は、歴史的にも、我が国の対外交流の最前線として機能した時期が長く、常に海外からの刺激を受けつつ発展してきた。そしてNIES、ASEANの経済発展と中国の改革開放以降、九州と東アジアの交流が再び急速に活発化している。九州地方は、世界経済の発展の極である東アジアに最も近接している。空路では、東京、ソウル、上海、台北などの東アジアの主要都市まで2時間以内と利便性が高く、海路では、太平洋、黄海・東シナ海、日本海の3つの海を結節する優れた地理的環境にあり、大交流、大競争の新たな国際化の時代を迎え、九州を舞台とした国際交流のポテンシャルは非常に大きなものとなっている。

    (国際交流基盤の整備)
    しかしながら、九州は、これらの国際交流を可能とする様々な基盤が脆弱であり、人、物、情報の流れを支えきれない状況にある。それは、戦後の一時期、欧米との交流が拡大する中で、九州はアジアのゲートウェイとしての機能が弱まり、国際交流基盤の整備も三大都市圏と比較してかなり遅れてしまったからである。今後の国際交流は質・量共に飛躍的な伸びが見込まれ、その対象となる海外の地域、分野も多種・多様なものとなることが予想されるが、東京、大阪等の大都市圏だけでなく、九州地方においても国際交流ネットワークへのアクセスや高度な都市機能、世界水準の学術・研究開発機能の整備を図る必要がある。このため、国際空港や国際港湾、情報拠点などの中枢的な国際交流基盤の整備・充実を図るとともに、人、物、情報等の国際交流を円滑にするためのサポート機能の整備も進め、港湾や空港の24時間化、低コスト化や、通関、情報などのサービス機能を高めていく。

    (「九州・アジア国際交流圏」の形成)
    また、これらを支える国際的感覚を身につけた人材を九州独自で供給できる教育機関、技術研修機関等の整備を推進するほか、東京等の大都市に集中している国際的な機能を九州においても充実を図り、国際的な相互理解を深め、地域の活性化と文化的豊かさ、人材育成のための民間の草の根レベルの国際交流を活発にする。さらに、学術、技術、芸術、文化、スポーツ、観光など、多様な分野でアジアを中心とする海外との双方向の交流を活発にし、将来的には九州の持つ伝統・文化と異文化が融合する新たな九州文化の創造を求めて、「九州・アジア国際交流圏」の形成を目指す。


問合せ先:問合せ先:国土庁地方振興局総務課 (係長)大庭
     (電話)03-5510-8051 (FAX)03-3501-7368