土 地 政 策 審 議 会 答 申

−今後の土地政策のあり方について−


平成8年11月21日
土地政策審議会 

はじめに

一 土地問題に対する基本的認識

二 土地政策の基本的考え方

三 個別施策の展開方向


はじめに

(土地についての基本的認識)

 土地政策審議会は、去る4月24日、内閣総理大臣より、「今後の土地政策のあり方について」諮問を受け、検討を開始した。
 土地基本法においては、土地が、現在及び将来における国民のための限られた貴重な資源であり、国民の諸活動にとって不可欠の基盤であること等、公共の利害に関する特性を有していることにかんがみ、(1) 土地についての公共の福祉優先、(2) 適正な利用及び計画に従った利用、(3) 投機的取引の抑制、(4) 価値の増加に伴う利益に応じた適切な負担という4つの基本理念を明確にしている。
 そして、土地に関する投機的な取引がほぼ抑制され、土地の価値の増加に伴う利益に応じた適切な負担については税制により対応されている現在、土地基本法の基本理念の中で、今後の土地政策の中心的な課題は、土地についての公共の福祉優先の観点を押し進め、土地の適正な利用の実現を図ることである。
 土地基本法第3条で規定されているように、土地は、その所在する地域の自然的、社会的、経済的及び文化的諸条件に応じて、適正に利用されなければならない。土地の所有権は、この適正な利用を保障するために、与えられているものとも言えるのである。つまり、土地の所有には、利用の責務が伴うのである。
 土地の適正な利用を図るためには、社会的に認知された土地利用に関する計画が必要である。そのもとで適正な土地利用を実現していくためには、基盤施設等の整備をはじめ、情報の充実や税制等の施策を総合的に講じなければならない。
 我が国が、経済・社会の構造変化をとげ、さらに発展していくためには、土地の適正な利用を実現していくことが非常に重要な課題である。

(土地政策の新たな展開)

 バブル期の地価高騰とその後の下落をへて、土地をめぐる状況は大きく変化した。今こそ、「土地は適正に利用されるべきである」との基本的考え方のもとに、土地の資産としての価値を重視する考え方から、土地の資源としての利用価値に着目した考え方に移行し、「所有から利用へ」という理念の実現に本格的に取り組んでいくべき時である。
 現行の総合土地政策推進要綱は、バブル期における異常な地価高騰の沈静化に成果をあげることができた。しかしながら、各般にわたる構造的施策を網羅するものの、緊急的な地価引き下げを主要な政策目標に掲げるなど、地価抑制を基調としており、加えてその後の施策の進捗状況を踏まえた改訂がなされていないなど、土地をめぐる状況の変化や我が国経済・社会の構造変化に必ずしも対応できなくなって いる。
 既成市街地の低未利用地や密集市街地、都市近郊等における無秩序なスプロール等土地利用の課題への対応は、明日の国民生活のあり方に大きな影響を与える。さらに、都市・生活型公害や地球環境問題への対応が求められている。適正な土地利用の推進に向け、新たな土地政策要綱を策定し、その効果的な推進を図っていく必要がある。
 土地政策は、政府の各分野にまたがることから、各施策の連携と総合的かつ機動的な実施が必要である。またその推進にあたっては、土地についての基本理念に対する国民の理解と協力が重要であり、とりわけ土地所有者の「適正な利用の責務」への理解と実践が強く望まれる。
 今後、この答申を踏まえ、国土庁をはじめ関係各省庁及び関係各審議会において、さらに詳細な検討が進められ、具体的な施策の策定とその実施がすみやかに行われることを期待する。

一 土地問題に対する基本的認識

1 バブル期の地価の高騰とその後の下落の影響

 我が国の土地本位的な経済体制や経済のストック化の進展等を背景に、実体経済とかけ離れたバブル期の地価の高騰とその後の下落は、資産格差の拡大や良質な住宅の取得難、社会資本整備の遅れ等の問題のみならず、企業のバランスシートの悪化や金融システムにおける不良債権問題等を引き起こし、我が国経済・社会に多大の傷跡を残した。
 高度経済成長期以来続いてきた右肩上がりの地価に象徴されるような土地をめぐる状況、およびそれを背景にした資産としての土地所有の選好という国民の意識は、今日、バブル期の地価高騰とその後の下落をへることにより、また今後の我が国経済・社会の構造変化に伴って、根底から変化する可能性が生じてきていると考えられる。

2 地価の動向

 バブル期以前の昭和58年を基準とすると、現在の地価の水準は名目GDPの水準を下回っている。商業地の地価は、収益還元価格と比較すると、バブル期におけるような乖離は相当に縮小してきている。住宅地の地価は、大都市圏において、住宅を新規に購入するに際しては、住宅の規模、立地等の質の面からはまだ高い水準にあると考えられるものの、東京圏の新規発売マンション価格(70m2換算)を見ると、ほぼ年収の5倍になってきている。
 国民に対するアンケート調査によれば、これまでの地価下落を基本的に肯定しつつ、今後については、地価の安定を望む比率が増加している。土地の資産としての有利性を肯定する者の比率は、現在でもなお5割程度を占めるものの、以前よりは減少している。
 また、我が国経済・社会の構造変化を見通すと、高齢化・少子化、経済の成熟化・ボーダレス化、国民の土地資産意識の変化等から、土地市場にも変化が生じ、中長期的には、土地に関する需給は緩和傾向にあるものと考えられる。  このように、現在の地価は全国ベースで引き続き下落しており、いわゆるバブルの部分は解消された状況にある。住宅取得が容易になりつつある一方、不良債権問題や住み替えに影響を与えるなど、経済的・社会的にメリット・デメリットはあるとしても、一般的には、その引き下げを土地政策の目標として掲げ、国民的合意のもと、地価を抑制するための緊急的な介入策を講じなくてはならない状況にはなくなっている。
 しかし、経済状況の変動等によっては、地域的に、需給逼迫や地価高騰が生じる恐れも否定することはできない。

3 土地利用の現状

 バブル期の地価の高騰とその後の下落や産業構造の転換等を背景に、都心部の不良債権がらみの土地や臨海部の工場跡地、鉄道跡地など、大都市地域を中心に低未利用地、遊休地が多数発生している。また、依然として、既成市街地における住宅・社会資本整備は遅れており、用途が混在した地域や密集市街地も多く存在し、緑地の減少や宅地の細分化が進んでいる。さらに、都心部の空洞化の進行によって、居住人口の減少、生活機能の低下、地域コミュニティの崩壊、街全体の活力の喪失等の問題が生じている。
 都市近郊から農山村等にかけて、宅地開発のスプロール化が進み、都市的土地利用と森林・農業的土地利用の両面における土地利用の混乱がみられる。

 

二 土地政策の基本的考え方

1 今後の土地政策の目標

 土地基本法は、第1条で、土地政策の課題として、適正な土地利用の確保と地価対策をあげている。Iで述べたように、地価については緊急の抑制策を講じる必要がなくなるとともに、今後の土地市場の需給構造における変化を見込むと、かつてのような地価高騰が再発する可能性はこれまでより少なくなると考えられるなど、適正な土地利用の実現に向けて本格的に取り組むことが可能な条件が整ってきたと 言うことができる。
 また、バブル期の地価の高騰とその後の下落をへて、国民の、土地に対する資産としての有利性の意識も弱まり、企業も含み益経営からの脱却を志向するようになっている。土地基本法の第3条に「土地は・・・適正に利用されるものとする。」と述べられているように、土地は資産として所有されるためにあるよりも、適正に利用されるためにあるという「所有から利用へ」の理念を我が国に定着させ、その 実現を図っていく時機が、今や到来したと言ってよい。
 今後の土地政策の目標としては、ゆとりある住宅・社会資本の整備と、自然のシステムにかなった豊かで安心できるまちづくり・地域づくりを目指した適正な土地利用の推進を図るべきである。
 とりわけ、大都市地域においては、既成市街地を中心に、低未利用地、遊休地が多数発生するとともに、用途が混在した地域や密集市街地も多く存在するなど、国民生活やマクロ経済の観点から合理的、効率的な土地の利用がなされていない地域があることから、土地の有効利用を積極的に図っていく必要がある。
 また、地方都市においても、既存商業地の活性化を図る必要があり、農山村等においても、優良農地や森林の保全を図るなど、自然環境と調和した適正な土地利用を進める必要がある。
 適正な土地利用を推進していくことが、土地に対する正常な需給関係と利用価値に相応した適正な地価の形成に資するとともに、我が国の国土利用の変革をもたらし、抜本的な経済構造改革を進め、真に豊かさが実感できる創造的な21世紀型経済・社会の形成につながることになると考えられる。
 我が国経済は、バブル崩壊後、これまで表面化しなかった構造問題に直面しており、このまま放置すれば、低成長・高失業の成熟経済体質となってしまう可能性が強い。こうした事態を回避するためには、早急に我が国経済の構造改革を断行しなくてはならず、その最大の目的は、雇用の安定と実質生活水準の向上などによる国民生活の質的改善にあり、その一つの核をなすものが、土地・住宅問題の解決である。今後は、このような基本的な認識の上にたって、土地政策を展開していく必要がある。

2 土地政策の基本的方向

(1) 土地の有効利用の促進

1)土地の有効利用の考え方
 土地の有効利用というと、個々の土地における建築物の高密度利用など、経済効率性を追求した土地の高度利用のみが想定されがちである。しかし、これは、土地の有効利用の一面を捉えた考え方にすぎない。
 土地の有効利用には、一般的に、次の2つの意味合いが含まれる。
・経済効率的利用−最大限に高度利用を追求する方向での利用。
・社会効果的利用−公園、緑地、森林等のオープンスペースなど、利用度の面からは低密度であっても、地域全体の土地利用計画に従い、社会的観点から総合的に効果的と判断されるような土地利用。
 土地は、そもそも単独で存在するものではなく、その利用は、基盤施設の整備により可能になるとともに、他の土地利用と密接な関係を有しており、地域的な広がりの中で考えられるべきものである。
 したがって、土地の有効利用には、単に個々の土地の経済効率的利用という視点だけではなく、本来的に社会効果的利用の視点が重要である。そのためには、土地利用規制を厳格に実施することや、経済効率性のみでは劣位にたつ土地利用であっても、公共・公益上の観点から必要なものについては支援措置を講じることが必要となる。
 このような考え方からすると、広域的な国土利用のあり方を踏まえ、市町村全体の土地利用の誘導方向に沿って、地域住民の参画により策定される計画に則した土地利用を行うのであれば、土地は有効利用されるものと判断することができる。
 今後は、特定の地域の土地利用上の限定された課題に対する問題解決型の有効利用だけではなく、広域的な視点から、より質の高いまちづくり・地域づくりを進めていくという公共・公益性を重視した土地の有効利用が求められることになる。
 要約すれば、「土地の有効利用」とは、一定の地域的な広がりの中で、適正かつ合理的な土地利用計画に則して、安全性・快適性・利便性等が確保された質の高い都市環境・地域環境の形成を目指すものである。

2) 土地の有効利用の基本的方向
 今後の土地利用のあり方を考えると、都市に本来必要な居住、業務、環境等の諸機能のバランスの回復と、スプロール等で失われてきている都市を取り巻く田園や自然の豊かさの回復を、進めていくことが必要である。
 そのためには、大都市地域等の既成市街地において、遅れている都市基盤施設の整備をはじめ、密集市街地の防災まちづくり、居住の回復と職住近接を目指す都心居住等を推進し、居住水準と都市環境の質的向上に重点を置いた土地の有効利用を進めていく必要がある。
 また、都市近郊については、自然的環境を保全するという基本的考え方に基づき、農地、森林等の自然的土地利用を保全しつつ、質の高い市街地の形成を図る必要がある。

3) 既成市街地における土地の有効利用の促進
 既成市街地における土地の有効利用の促進にあたっては、遅れている都市基盤施設について、根幹的な施設はもとより、街区を構成する地域的な施設についても整備を進めることが不可欠である。
 低未利用地については、都市整備のための公共事業や福祉施設等の用地及びこれらの事業用地の代替地等としての活用を図るとともに、密集市街地においては、住宅地としての活用を基本に、住宅の防災性の向上とともに、道路、公園、防災拠点等を確保することによって、災害に強い街づくりを進める必要がある。
 居住の回復と職住近接を目指す都心居住を実現するため、都市基盤施設の整備を進め、オープンスペースの確保とともに、地域の状況に応じた土地の高度利用による床面積の供給増を図り、良質で安価な住宅の供給を図る必要がある。
 土地の有効利用の促進にあたっては、土地負担を軽減する方策として定期借地権制度等の活用を図るとともに、高齢社会への対応や環境・文化等への配慮が必要である。

(2) 総合的な土地利用計画制度の整備・充実
 適正な土地利用を進めるにあたっては、土地利用計画の役割が重要であり、国土利用計画や大都市圏整備計画等の広域的な国土利用の方向を踏まえ、市町村における総合的な土地利用計画と地区ごとの詳細な土地利用計画を策定し、その有機的な連携を図ることが必要である。そのためには、市町村レベルでの土地利用調整機能を充実するとともに、地区レベルの詳細計画の策定に向け、都市計画制度による地区計画等のできるだけ多くの地域での活用を図ることが重要である。

(3) 土地所有者と地方公共団体の責任と役割の明確化
 土地は、公共性・社会性を持つ財であることから、地域の土地利用のあり方については、その地域の住民等の間で合意が形成されていることが重要である。とりわけ土地の所有者は、土地を地域の諸条件に応じて適正に利用すべき責任があるとともに、自ら主体的にそのような土地利用を進める役割を担うものと考えるべきである。
 また、地方公共団体、特に市町村は、自ら適正な土地利用の実現に向けて、地方分権の観点からも、計画策定、事業実施等を積極的に推進する責任と役割を担うとともに、土地所有者の土地利用に向けての取組に対し、地域の諸条件に応じた適正な利用を一層増進させる方向に、それを先導し、支援する必要がある。

(4) 土地市場の活性化等に向けた土地情報の整備・提供
 実需にもとづく地価形成が行われるようになってきた現在、地価の決定は市場の需給に委ねられるなか、今後は土地の有効利用のための土地市場の活性化に向け、土地情報の整備・提供を進める必要がある。
 そのため、土地の所有、利用、取引及び地価の動向等をはじめ、社会、経済、金融等の土地関連情報の把握・分析を強化する必要がある。
 そのような情報の整備・提供にあたっては、全国統一的な筆界等土地の区画に関するデータを含む地理情報システム(GIS)が有効であり、その整備・普及を図る必要がある。

(5) 的確かつ機動的な地価監視体制の整備等
 適正な土地利用を進めるためには、バブル期の教訓を踏まえ、二度と地価高騰が起きることがないよう万全の配慮をしなければならない。
 地価動向の的確な把握を進め、土地取引状況、土地関連経済指標等に十分注意を払うとともに、土地関連融資に係る総量規制、監視区域制度等の施策について、的確かつ機動的な対応が図られるような体制を整備しておかなければならない。

3 土地政策の総合性・整合性の確保と土地に関する基本理念の普及・啓発

 土地に関する施策は、多くの省庁に所管が分かれているが、施策間の整合性をとり、総合的な土地政策を機動的かつ効果的に進めていくことが重要である。また、土地に関する基礎的な調査・研究の強化を図る必要がある。
 土地問題の解決のためには、国民の土地に対する意識の変革が必要である。土地のもつ公共性・社会性についての理解を進めるため、「公共の福祉優先」等の土地基本法に規定する土地に関する基本理念の普及・啓発をさらに推進していく必要がある。

 

三 個別施策の展開方向

1 土地利用計画の整備・充実

(1) 土地利用計画制度の充実 ──地区計画を点から面へ広く活用──
 市町村レベルの総合的な土地利用計画については、国土利用計画法の土地利用基本計画や都市計画法における市町村マスタープランを活用して、目指すべき土地利用の姿を明らかにするとともに、地区レベルにおいては、それへ誘導するための詳細な計画を策定する必要がある。特に都市計画制度による地区計画等を、あらかじめ目指すべき土地利用の姿を明らかにして、土地所有者等のまちづくり意欲の醸成を図るため、地域の特性や地域づくりの課題に応じつつ、できるだけ多くの地区で策定されるものとする必要がある。

(2) 住民参加のシステムづくり ──協議会やアドバイザー等の活用──
 市町村レベルの総合的な土地利用計画においては、公共の福祉の実現に対する住民合意の形成を図るとともに、地区レベルの詳細計画の策定にあたっては、住民参加による合意形成が重要であり、地方公共団体、土地所有者、地域住民等関係者による協議会の設立などへの支援を図る必要がある。また住民の取組を誘導し支援するため、専門的知見を有するアドバイザー、コーディネーターの積極的な育成・活用を図るとともに、情報や技術を提供する仕組みの充実を図るべきである。

(3) 土地利用計画の実効性の確保 ──生活関連施設への支援措置の拡充──
 土地利用計画を実効性のあるものとするためには、土地利用規制と税制の緊密な連携、基盤施設の計画的整備、土地の有効利用のための多様な事業制度の活用等が必要である。
 特に地区計画の推進にあたっては、道路、公園等生活に密接に関連する公共・公益施設の整備についての支援措置の拡充が必要である。

2 土地の有効利用の促進

(1) 低未利用地の有効利用 ──土地の集約化のための新たな手法──
 大都市、地方都市を問わず中心市街地において、低未利用地を地区内で集約化する場合や地権者が地区外に転出する場合などに、土地の権利の移転を円滑にできるような、新たな制度を検討する必要がある。
 また、工場跡地等の低未利用地については、地区計画制度、土地区画整理事業、市街地再開発事業等の活用及び都市計画道路等の整備によって、計画的かつ効率的な有効利用を進めるとともに、民間活力の誘導を図る必要がある。
 民間都市開発推進機構においては、地方公共団体や住宅・都市整備公団と連携して、開発適地の把握、事業化方策の検討を行い、土地の取得、民間都市開発の支援を積極的に推進する必要がある。
 さらに、低未利用地の有効利用の促進に資する情報の収集、提供等を積極的に行うとともに、土地利用転換計画の策定による有効利用のための計画づくりの支援を強化する必要がある。
 また、市街化区域内農地については、農住組合制度や緑住区画整理事業を積極的に活用し、良好な住環境を備えた宅地等への転換を進める。

(2) 密集市街地の再整備 ──緊急整備を要する地域における総合的な施策の展開──
 防災上危険な密集市街地を再生し、新たな住宅供給を図るため、従前の居住の確保等にきめ細かく配慮しながら、土地の集約化、老朽木造建築物の除却、建て替えなどを促進するとともに、良質な共同住宅の供給、建築物の耐震診断・耐震改修や共同化・不燃化の推進、道路、公園、防災拠点等の施設や防災安全街区の整備等を総合的に推進する必要がある。
 このため、特に、円滑かつ早期に整備を図るべき密集市街地を定め、防災上危険な木造建築物の除却・建て替えを緊急に促進する制度や土地の権利の移転を円滑に行うことができる制度を創設するとともに、住宅・都市整備公団を活用し、税制上の措置等を検討するなどにより、密集市街地の再整備を総合的かつ一体的に行うための制度的措置を講じる必要がある。

(3) 都市基盤施設の整備の促進等 ──重点投資と関係省庁協議体制の拡充──
(重点的、効果的整備)
 道路、公園等の都市基盤施設や住宅、福祉施設等の整備を効果的に進めるには、複数の事業が連携するとともに、事業をできるだけ早期に完成させるという観点から、重点的な投資を行う必要がある。そのためには、省庁横断的な協議調整会議を活用するなど、関係省庁間の連携を積極的に進める必要がある。
(用地取得の促進等)
 土地の先行取得制度の活用により公共事業用地等及びその代替地の取得の促進を図るとともに、利用権設定により公共用地としての利用の拡大を図る必要がある。また、国公有地の有効利用を図るとともに、既存の都市基盤施設等の立体的な利用を図るなど、既存ストックの有効活用を促進する必要がある。
(4) 良質な住宅・宅地の供給 ──都心居住に向けた公民協働システムの確立等──
(都心居住の推進)
 大都市等の都心部に居住の確保を図ることは、通勤時間の短縮、コミュニティの維持、インフラ運営の効率性等の観点から、重要な課題である。
 そのため、都心共同住宅供給事業や市街地再開発事業等により都市基盤施設の整備と良質な住宅の供給を一体的に実施するとともに、まちなみ誘導型地区計画制度や都心居住型総合設計制度等の活用により、必要に応じ建築規制の弾力化を推進する必要がある。
 また、国、地方公共団体、公団等からなる協議会を設け、各々の企画力、信用力、技術力等を結集するとともに、地方公共団体に協力して公団のまちづくりの能力を活用する必要がある。
(公民協調による住宅・宅地の供給と市街地の整備)
 住宅・都市整備公団、地方住宅供給公社等が基盤整備及び賃貸住宅の建設を行う一方、民間事業者が分譲住宅建設を行うなど、公民の事業連携を図る必要がある。
 また、核家族化の進展等に伴う根強い住宅・宅地需要に対応するため、鉄道新線整備と一体となった優良な宅地開発等による新市街地の整備を進める必要がある。
(良質で安価な住宅・宅地の供給)
 量的不足の著しいファミリー層向けに、公団賃貸住宅や特定優良賃貸住宅等の公的助成による良質な共同賃貸住宅の供給を促進する必要がある。
 また、定期借地権等の土地負担を軽減させる手法の活用や住宅建築コストの低減を進め、住居費負担の軽減を図ることが必要である。
(住宅ストックの有効活用)
 所有者等の自助努力を支援し老朽住宅の建替えを推進するとともに、既存の公的住宅の建替え、改築等を推進するほか、旧基準に基づく建築物等について、耐震診断・耐震改修を進める必要がある。
 都市型居住形態として定着したマンションについては、適正な維持管理、計画的な大規模修繕の実施を促進するとともに、区分所有者等の合意形成の円滑化に留意しつつ、老朽マンションの建替えを促進する必要がある。
 また、ライフステージに応じた適切な住宅を確保するため、住み替えが円滑にできるよう、中古住宅市場の活性化を図る必要がある。
 さらに、高齢者が保有する住宅ストックを活用し、生涯を住み慣れた住宅で暮らし続けたいという高齢者のニーズに対応するため、リバース・モーゲージ制度について検討を進める必要がある。

(5) 土地の有効利用促進にあたっての留意点
(防災・福祉・環境・文化等のニーズへの対応)
 土地の有効利用の促進にあたっては、阪神・淡路大震災を契機に都市の安全性の向上に対する要請が高まっていることから、災害に強いまちづくりを目指すとともに、高齢社会に対応して、住宅と福祉施設の一体的整備等により、既成市街地での福祉施設等の立地を進める必要がある。また、緑化、エネルギー消費の少ない都市構造への変換等の推進により、環境への負荷の少ない土地利用の実現に努めるとともに、美しい街並み景観の形成等文化の観点も踏まえた有効利用を進める必要がある。
 さらに、地域の特性に応じた公共交通等の基盤施設の整備を図ることが、福祉、環境等の面からも土地の有効利用を進めるために必要である。
(小規模敷地の統合化等の促進)
 小規模な敷地を統合化することが、より有効利用を促進する効果があることから、最低敷地規模規制の多様な地域における活用を検討するとともに、敷地の統合を支援するほか、道路等の整備を推進して、街区単位での地区整備を進める必要がある。
 また、土地・建物の一体的整備を図ることにより、土地の有効利用を促進するために、土地区画整理事業等を建築物等の整備と一体的、計画的に行う必要がある。
(定期借地権制度等)
 定期借地権制度の普及促進を図るためには、土地所有者・利用者双方が安心して取り組める事業方式やそのための環境の整備を図るとともに、特に、都市部において集合住宅への活用を進めることが重要である。また、住宅のみならず、公共施設用地の確保、市街地整備事業等への活用を図る必要がある。
 また、いわゆる定期借家権については、その必要性や有効性等を十分に見極めつつ、引き続き検討を進めるべきである。
(資金調達手法)
 土地利用には、土地の造成や建物の建設、その管理・運営等の一連の事業プロセスが伴うことから、事業の円滑な遂行を図るため、不動産特定共同事業、不動産証券化、プロジェクト・ファイナンス等多様な資金調達手法の整備を図る必要がある。

3 土地に関する情報の整備・提供

(幅広い土地情報の整備・提供)
 土地の所有・利用に関する土地基本調査の充実を図るとともに、地価公示の精度の一層の向上に努め、地域ごとの取引動向の把握を促進する必要がある。また、土地に関する基礎的な情報を整備する地籍調査を推進するほか、土地に関連した経済・社会指標等の把握・分析の強化を進める必要がある。
(土地情報整備のための体制の強化)
 土地に関する情報の収集、分析のための体制を強化するとともに、行政機関相互の連携を進め、不動産登記統計、税務統計等の利活用を推進する必要がある。
(地理情報システム(GIS)の整備等)
 土地の所有、利用、取引、価格等のデ−タを土地の区画ごとに把握するためには、地籍調査の成果等を基図とした地理情報システム(GIS)が有効な手段であり、その整備が必要である。このため、地域の実情を踏まえ、GISを導入する市町村に技術的支援等を行うとともに、早急にGISの基図を整備するため、地籍調査の進捗が遅れている地域において、必要最小限の情報である官民境界の先行的調査等に取り組む必要がある。

4 土地の有効利用促進のための土地税制

(基本的考え方)
 土地税制は、負担の公平を確保しつつ、土地に対する過大な資産選好を弱め、土地の有効利用の促進等を図る上で、土地政策上重要な手段の一つであり、長期的・構造的な観点から、適正な土地利用の確保や地価の安定を図る役割が期待される。
 このような考え方に基づく現行の土地税制は、土地基本法の制定を受けた平成3年度の土地税制改革以降、土地をめぐる状況変化等に対応した見直しがなされてきているところである。今後とも、土地政策上、以下のような観点から、より一層、土地の有効利用の促進に向けた検討が必要であると考えられる。
(保有課税)
 保有課税については、土地の有効利用を促進する観点から、公的土地評価の均衡化・適正化を図りつつ、資産価値に応じて適正な負担を求めるべきである。
 今後、保有課税のあり方について必要な検討を行う場合にも、基本的には、このような考え方を踏まえる必要がある。なお、地価が引き続き下落している状況における税負担について、当面の対応策を講じる必要があることは理解できる。
(土地取引の活性化のための配慮)
 不動産取得税及び登録免許税については、有効利用に向けた土地取引の活性化の観点から、固定資産税の土地の評価替えに伴い、その負担が急増するようなことのないよう適切に対応する必要がある。
 譲渡益課税については、土地の公共性に鑑み、有効利用に結びつく土地の円滑な供給に資する観点を踏まえ、長期・安定的な制度の確立を図るべきである。

5 機動的な緊急地価対策の整備等

(地価動向及び土地取引動向等の把握)
 今後、地価高騰及びその恐れが生じた場合には、的確な対応を適時に講じることができるよう、地価動向や土地取引の動向とともに、経済・金融の動向について、引き続き、的確な調査・把握に努める必要がある。
(土地取引規制)  国土利用計画法に基づく土地取引規制については、地価高騰期に指定された監視区域は、既にほとんど解除されたところであるが、今後の社会経済情勢等に応じ適時適切に運用することができるよう、今後とも、国と地方公共団体が緊密な連携を図る体制を維持する必要がある。
(土地関連融資規制)
 土地関連融資に係る規制については、地価高騰の恐れが生じた場合には、経済・金融情勢等に応じ、トリガー制度の運用再開及びこれを受けた総量規制等の必要な施策を、タイミングを失することなく的確に行うことが必要である。
(経済・金融政策及び企業融資・企業経営における配慮)
 地価動向は経済や金融の動向と密接に関係していることから、経済・金融政策においても地価高騰に対して十分な配慮をすることが必要である。
 また、企業融資・企業経営においては、プロジェクト・ファイナンス等の導入の推進などにより、あまりにも土地の担保価値に依存した融資や不動産の含み益に過度に頼った経営からの脱却を図る必要がある。

6 国土政策との連携

 国土政策と土地政策とは、相互に密接な関係を有するものであり、複数の国土軸からなる望ましい国土構造の形成を目指す国土政策と連携し、個性的で魅力的な地域づくりに資する、適正な土地利用の推進を図る必要がある。
 また、首都機能移転の推進にあたっては、それが土地投機につながらないよう、機動的な土地投機防止対策を講じる必要がある。移転先の新都市の整備に向けては、それが21世紀におけるまちづくりのモデルとなるよう、円滑な用地の取得や適正かつ合理的な土地利用の確保等を図るため、所要の措置について検討を進める必要がある。また、移転跡地の有効利用についても検討を進める必要がある。

7 土地に関する基本理念の普及・啓発等

(土地に関する基本理念の普及・啓発)
 土地問題の解決のためには、国及び地方公共団体における諸施策の総合的な実施が必要であるが、それを実効あるものとするためには、「土地の所有には利用の責務が伴う」との基本的認識や土地基本法に定める基本理念について、国民一人ひとりの理解と実践が不可欠である。
 今後とも、土地のもつ公共性・社会性についての理解を進めるため、あらゆる機会をとらえて、「土地についての公共の福祉優先」等の土地に関する基本理念の普及・啓発を図っていく必要がある。
(土地に関する調査・研究の推進)
 バブル期の地価の高騰とその後の下落は、我が国の経済・社会に多大な傷跡を残したことから、地価や土地市場、土地利用等に関する基礎的な調査・研究を進めるとともに、その成果を広く一般に提供することが重要であり、そのための調査研究体制の整備を図るとともに、土地についての研究者を広範に育成していく必要がある。
 さらに、このような調査研究に資するため、土地に関する情報を網羅的、体系的に整備し、その分析・活用・提供の円滑化を図る必要がある。


問合せ先:国土庁土地局土地政策課
     (課長) 長瀬 哲郎  (課長補佐) 河野 俊嗣
     (電話)03-5510-8030 (FAX)03-3510-8828