1.内航海運の現状 1.内航海運の現状

(1)国内物流の大動脈であるが輸送シェアは低下傾向にあること

 内航海運は、その輸送特性である大量性、低廉性等を活用した鉄鋼、石油、セメント等の基礎素材物資分野の輸送が大半を占めており、その輸送量は経済の好不況等に大きく影響されるが、概して伸び悩みの状況にある。一方、雑貨品等のモーダルシフトに適した貨物の輸送は、内航海運全体に占める割合は小さいものの、近年、高い増加率を示している。現在、内航海運の輸送シェア(トンキロベース)は約44%と国内物流の大動脈を担っているものの、そのシェアはかつての50%台から低下傾向にあるが、これは昭和50年代後半に重厚長大から軽薄短小へと産業構造が変化し、これに伴う輸送需要構造の変化の影響を受けたものである。

(2)中小零細性の強い業界であること

 内航海運においては、事業者数の減少とともに事業規模の拡大が着実に図られてきているが、それでもなお95%は中小企業であり、かつ所有船舶数一隻の者が大勢を占めている。また、小規模な事業者を中心に、資本の内部蓄積が極めて乏しく、資金の相当部分を船腹調整事業に係る引当資格を担保に借入金で賄うことにより高額な船舶を所有すること等から、負債比率が異常に高く経営基盤が極めて脆弱な状態にある。内航海運の抱える問題の大半はこの中小零細性に起因しており、これを改善するため経営基盤の強化等を目的とした構造改善の必要性が指摘されているが、その進捗状況は十分とは言えない。

(3)船腹の需給ギャップが生じやすい市場であること

 内航海運は、船腹需要が市場変動の影響を受けやすいのに対し、船舶の使用期間が長期であること、輸送サービスのストックが不可能であること、係船等の輸送力調整が困難であること等から供給調整面での機動性を欠くため、船腹の需給ギャップが生じやすいという産業特性を有している。現に内航海運市場は、現在はやや船腹過剰状態であるが、平成景気時には船腹需給が逼迫し、それ以前は長期にわたり船腹過剰の状態が続いたという経緯がある。

(4)取引関係において荷主優位性が強い市場であること

 内航海運の運賃等は、自由運賃であり市況に左右されやすい。さらに、基礎素材物資輸送の分野では、荷主、元請の内航運送業者、内航船舶貸渡業者の関係につき大企業である荷主を中心とした縦の系列化が確立されていることもあり、取引関係において荷主優位性が強い市場になっている。そして、この系列取引が内航海運における競争環境の阻害要因となっている面があるとの指摘もある。また、用船市場においては、元請の内航運送業者から実際に運航を行う内航船舶貸渡業者に至るまでの間に多数の者が介在し、取引関係が複雑化している場合が多い。

(5)輸送効率化等が着実に進展していること

 内航海運においては、いまだ老朽船の割合は多いものの、船舶の近代化、大型化等による輸送効率の向上が着実に進んでいる。また、港湾施設、荷役機器等の整備改善とともに、ソフト面でも、情報システムの構築等により積載効率や船舶回転率の向上等をはじめとした運航効率の改善が着実に進展してきている。

(6)内航船員の高齢化及び後継者確保問題が深刻化していること

 内航船員の高齢化は急速に進展しているが、その一方で、離社会性等の海上労働の特殊性に加え、賃金等の労働条件、労働環境等が陸上労働者に比べて十分でないこと等から、若年船員は減少の一途にある。また、小規模な事業者では、事業に対する魅力不足等から、後継者確保問題が深刻化している。


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