「今後の自動車の検査及び点検整備のあり方について」
運輸技術審議会答申(平成5年6月17日)


答申[要旨]

1.審議に当たっての基本的な考え方

 自動車の検査及び点検整備のあり方の検討に当たっては、広く関係各方面からの意見を聴取する機会を設けるとともに、国内外の各種調査を行う等自動車の検査、整備の実態を踏まえ、次の視点に立ち、技術的、専門的に検討した。

a.自動車技術の進歩、自動車の使用形態の多様化等の状況の変化に適切に対応する。

b.安全の確保、公害の防止を図る上で支障がないことを前提とし、併せて、国民負担の軽減にもつながるよう配慮する。

c.モータリゼーションの成熟化に伴い、今後、自己責任の原則に則り、自動車ユーザーによる本来の自主的な保守管理が励行されるよう促す。

2.審議結果

 本答申では、上記の考え方に基づき慎重に検討した結果、時代の要請に対応した今後の自動車の検査及び点検整備のあり方について、次の提言を行う。

(1) 自動車の検査及び点検整備制度について

 極めて高密度な車社会が形成されている我が国において、自動車の安全の確保、 公害の防止を図る上で、検査制度と点検整備制度とが相まって重要な役割を果しており、その基本は維持すべきである。

(2) 自動車の点検整備について

a.定期点検整備

@) 定期点検項目等

・定期点検の項目の一部は、削減又は時期の延長を行うことが可能である。
また、現行の自家用乗用車等についての運行前点検は廃止し、これに代わるものとして、自動車の使用状況に応じて適時行う日常点検とすることが適当である。

自家用乗用車等の定期点検項目の見直しの状況

現行の項目数 見直し後の項目数
6か月点検 16 義務付けの廃止
12か月点検 60 30程度
24か月点検 102 60程度

・ 国の定める点検項目は、標準的な使用を前提とした必要最小限のものであるため、自動車ユーザーは自己の責任において、使用状況等に応じて適時、自主的に点検 整備を行うことが必要である。

A)定期点検整備の時期への走行距離の加味

・ 定期点検整備の実施間隔については、実施時期の管理が容易である必要があることから、期間に基づいた設定とすることが適当である。

・ 走行距離の少ない自家用乗用車等については、期間だけで点検時期を設定 すると過大な項目設定となるおそれがあることから、ブレーキ・パッドの摩耗等走行距離により劣化する度合いが高い項目に限定して、前回の点検からの走行距離を加味して次の点検時期までを限度として、その点検を延期する方法を導入することが適当である。

b.定期交換部品

・ 定期交換部品のうち自家用乗用車等の大部分のゴム部品について、自動車メーカーは定期交換部品の対象品目から外し、点検の結果、必要に応じて交換を行うこととすることが可能である。

・ 一部の油脂液類について、自動車メーカーは交換時期の延長を行うことが可能である。

c.定期点検整備の実施時期(検査の前後)

・本来、自動車の保守管理は自動車ユーザーの責任において自主的になされるべきものであるが、必ずしもそのとおり実施されていないことから、現在、国は、点検整備の確実な励行及び自動車ユーザーの利便に資するために、検査前の定期点検整備の実施の指導を行っている。しかし、一方において、検査前の定期点検整備の実施により、自動車ユーザーの保守管理意識の向上を阻害している面があり、また、一部には車検のための整備であるとして車齢、使用状況等に対応しないで一律に整備が行われる等の状況も見受けられる。
 このため、現状のままでは、

ア 自動車ユーザーの保守管理意識の向上が妨げられ、長期的観点から安全のの確保、公害の防止上好ましくないこと。
イ 整備事業者の努力にも係わらず整備に対する自動車ユーザーの理解、信頼が得られないこととなり、その結果、整備事業の健全な発展を妨げること。 等を考慮し、また、諸外国においては検査と整備が分離していることを踏まえ、自家用乗用車等について、今後、自動車ユーザーのより確実な点検整備の実施を前提として、定期点検整備の実施時期は検査の前後を問わないこととし、自動車ユーザーによるその実施時期の選択も可能とする。

d.自動車の適切な保守管理の徹底対策

・ 定期点検整備の実施時期は検査の前後を問わないことによって自動車の安全の確保、公害の防止を図る上での後退がないようにし、また、自動車ユーザーが点検整備の必要性を認識し、従来にも増して自主的に点検整備を実施するように促す必要がある。このため、国、整備事業者、自動車メーカー、自動車販売事業者等の関係者は、検査と点検整備の目的と役割の相違を周知徹底することなどにより自動車ユーザーの保守管理意識を高揚するとともに、定期点検整備を促進するための対策を講ずることが必要である。
・ 特に、自主的な保守管理を促進するため、自動車ユーザーの保守管理責任を法令等で明確にする必要がある。

(3)整備料金、整備内容の適正化について

a.自動車ユーザーによって自動車が適切に保守管理されるためには、整備料金、整備内容の適正化を図り、整備に対する自動車ユーザーの理解と信頼を得ることが必要不可欠である。

b.このため、国、整備事業者等の関係者は、それぞれの立場において、自動車ユーザーに分かりやすい点検整備記録簿の工夫等整備料金、整備内容の適正化に係わる所要の措置を講ずることが必要である。

(4)自動車の検査について

・現行の自動車検査証の有効期間は概ね適当であるが、車齢が11年を超える自家用乗用車並びに車齢が10年を超える小型二輪自動車及び大型特殊自動車の有効期間については、現行の1年を2年に延長することが可能である。
・なお、今後、使用過程車の排出ガスの検査手法の改善、交通事故で破損した自動車の修理後の検査等について検討することが望ましい。

(5)答申を実施するに当たっての留意事項

  1.  定期点検整備の実施時期は検査の前後を問わないこととすることによる国の 検査業務の増大に対しては、現行の指定整備制度が一定の要件を備えた整備事業者に対して確実な整備の実施の下に検査を委ねることにより、検査の公正性・中立性を確保しつつ民間能力の活用を図った制度であることから、同制度の考え方を維持しつつ、これを活用することが適当である。

  2.  整備事業は、自動車の安全を確保し、公害を防止する上で重要な社会的役割を担っている。しかしながら、整備事業は、現在、整備技術の高度化への対応、 人材の確保等の構造的な問題を抱えており、また、そのほとんどは中小零細企業であり、加えて今回の答申への対応も必要となるため、今後、適切な整備の提供を確保する観点から、国としても整備事業に対して所要の支援措置を講ずることが必要である。

  3.  今回の答申に沿って、定期点検整備の内容の見直し、定期点検整備の実施時 期は検査の前後を問わないこと、自動車検査証の有効期間の見直し等を実施するためには、関係者における準備作業が必要であることから、直ちにこの作業を進め、準備が整い次第、速やかに実施に移すことが望まれる。
     特に、定期点検整備の実施時期は検査の前後を問わないこととするためには、検査に合格したことをもって定期点検整備の実施を省略できるものでないことを周知し、自動車ユーザーにより保守管理が適切になされるための対策、自動車ユーザーの利便が低下しないような検査の受入体制の充実等を総合的に講ずることが必要である。そのためには、法令上の整備を含め、関係者の準備期間が必要となるが、その準備が整うまでの間は従来どおり検査前の定期点検整備の実施の指導を継続し、自動車の安全の確保、公害の防止を図る上で後退がないように、また、検査業務の処理に当たって混乱が生じ自動車ユーザーの利便が低下することのないように、自動車ユーザーの理解と協力を求めることが必要である。


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