建設産業再生プログラム
 
 
T 建設産業再生の意義と行政の役割

(プログラム策定の背景)
 日本経済が長期間にわたり低迷し、産業競争力の強化が焦眉の急となっている現在、建設産業は、その経営環境が極めて厳しくなっており、大きな構造変化に直面している。我が国GDPの約15%程度、雇用の約1割を占め、住宅・社会資本整備の担い手として重要な役割を担っている建設産業のあり方は、国民・市場の大きな関心事であり、今後の我が国の経済社会に大きなインパクトを有するものと考えられる。このため、現下の厳しい環境を踏まえた建設産業の戦略的な取り組みの方向について、明らかにすることが強く求められている。
 建設産業の将来ヴィジョンと建設産業政策の基本的方向に関しては、平成7年4月、「建設産業政策大綱」が策定されており、その基本的方向は、現在においても引き続き推進を図るべきものである。しかし、その後の経済社会の状況変化は、その激しさ、スピードとも当時の予想を大幅に上回るものであり、政策大綱の考え方の中にはさらに発展させていくことが求められている点もある。今回のプログラムは、その意味で産業政策大綱の延長の上で、現時点での重点的な課題整理を行うものである。

(建設産業再生の意義)
 バブルの崩壊後、我が国経済が低迷する中で、建設投資も横ばいで推移し、将来的にも大きな伸びが期待できないという厳しい環境の下で、建設産業も、競争の激化の中で、優勝劣敗、淘汰の時代を迎えようとしている。このような状況に対応するため、各企業とも市場規模の縮小にも対応できるよう懸命のリストラを実行中である。個々の企業の存亡・勝敗は、基本的には市場で決まることであるが、単に失敗した企業が排除され、リストラに成功した企業が生き残るだけでは、産業としての将来展望が明らかになったとは言い難い。国民・市場の要請に応えていくためには、個々の企業が国内、国外を問わず競争力を高め、その競争を通じて収益力を高めていくことにより、建設産業全体が21世紀の経済社会のニーズに応えられる創造力と活力を有する産業となることが極めて重要である。このことを実現することが、建設産業の再生の道すじと考えられる。

(プログラムの対象)
 建設産業の再生は、建設産業全体に共通する課題であるが、建設業者の企業規模、業態、対象市場は極めて多岐にわたり、一律の議論を行うことは困難な面がある。このうち、バブル後の建設投資の減少やその内容の変化、投資・金融市場の圧力等により、最も厳しい経営環境におかれ、経済社会の注目を集めているのは、全国的に業務を展開している大手総合建設会社である。また、中小企業や専門工事業者等の能力向上や技術の汎用化の進展などにより、大手総合建設会社でなければ施工できない分野が限定されていく中で、業態としての「ゼネコン」の今後の役割が問われている。さらに、大手総合建設会社は、例えば、大手50社の施工実績が建設業者全体の約4分の1を占めるなど、建設産業全体におけるウェイトも大きく、建設業界をリードして、国民のニーズに応え、我が国経済に寄与するとともに、その企画能力や技術力等を最大限発揮し国際競争力を高めていくことが期待されている。したがって、建設産業の再生のためには、大手総合建設会社の進むべき方向を議論することが喫緊の課題となっている。このため、このプログラムにおいても、大手総合建設会社の今後のあり方に主たる焦点を当てつつ、これとの関連で、全建設産業に共通する課題についても、必要に応じて方向性を示すこととした。

(行政の役割)
 建設産業の再生のために、個々の企業が何をするべきかは、基本的に、各企業が自己責任と自助努力により考えるべきことであり、行政は個々の企業の経営目標等を示す立場にはない。
 しかしながら、行政は、建設産業の生産物が大きなウェイトを占める国土空間のあり方や、建設市場で重要な地位を占める公共事業の発注、さらには、建設産業の健全な発達と消費者の保護について、それぞれ責任を有している。このような立場から、建設産業を取り巻く現在の環境とその将来について、産業界とも十分な議論を行い、共通の認識を形成した上、国民の高い関心にこたえ、広く社会に明らかにする責務を負っている。「建設産業再生プログラム」の策定を契機として、今後の建設産業のあり方について、建設産業の内外で議論が広くオープンに行われることがまた、将来展望をより実効あるものとし、建設産業自らの改革努力を大きく加速していくと期待される。
 また、個々の企業が競争力を高めていく前提条件として、行政には、競争的な市場環境、すなわち、技術と経営に優れた企業が成長する環境を整備することが求められている。そのためには、消費者(=発注者)、あるいは投資家のニーズに応え、企業が戦略的な展開を行う場合に、幅広い多様な選択を可能にするような環境整備と、競争性を重視した公正な市場環境の整備を図る必要がある。
 さらに、建設市場で公共投資はおよそ半分を占めていることから、建設産業の再生に当たり、公共事業の発注者に期待される役割は極めて大きい。公共発注者は、納税者に対し、「公正さを保ちつつ、より良いものを低廉な価格」で提供する責任を有しているが、こうした公共発注者の責任を全うしていく過程の中で、より競争的な市場環境が整備され、建設産業の再生にも寄与することが期待されている。
 
U 建設投資の動向と建設産業の現状
 
1 建設投資の動向

 バブル崩壊以降、我が国経済が低迷する中で、民間建設投資が落ち込み、経済対策などによる公共投資を加えても、建設投資は横ばいである。
 さらに、今後の建設投資の見通しについては、わが国の社会資本の整備水準は、欧米先進諸国に比較して依然として立ち遅れている分野が多く、投資の必要性は高いものの、@景気が回復した後も、民間投資の大幅な伸びは見込めないこと、A公共投資の伸びについては、財政面からの制約も懸念されること、Bまた、長期的には、欧米のように貯蓄率の低下から投資余力が少なくなると見られること、C比較的規模の大きい新規建設の市場は伸びは見込めないことが予想されているなどから、全体としては弱含みで推移すると予想されている。
 
 
 
2 建設業者、建設就業者等の動向

 バブル崩壊以降、建設投資が横ばいで推移する中で、建設就業者数は、引き続き増加していたが、平成9年11月以降、減少に転じ、その後も、19ヶ月連続で、前年同月の水準を下回っている。
 建設業許可業者数については、依然として増加しているが、この中には、規模の点で大企業から中小企業や個人事業主までが含まれており、業態でみても総合建設業から専門工事業まで多様なものが混在し、実績でも完成工事高がほとんどないと思われる建設業者が多数含まれていることから、許可業者の総数だけを論じる意味はあまりない。しかしながら、公共工事の受注に関して前払金保証を受けた実績のある建設業者数は、公共投資が横ばいとなっている平成5年以降も増加し続けているほか、資本金1000万円以上5000万円未満の特定建設業者数も増加し続けている。
 これらを総じて見ると、建設市場は、供給過剰な状況にあり、厳しい経営環境の中での競争が続くと考えられる。
 
3 建設産業の経営状況等

 建設業者の経営状況を見ると、厳しい経営環境を踏まえ、財務状況が悪化している。
 特に、大手50社の受注状況は、民間の設備投資の低迷から、建築を中心に大幅な減少となっており、加えて、受注競争の激化のため、利益率の低下が著しい。また、バブル期の開発投資等に伴い、有利子負債、保証債務を増加させ、さらに、バブル崩壊以降、滞留している完成工事未収入金も増加した。
 さらに、建設業者の倒産も、近年増加の一途をたどっている。資本規模別に見ると、新規参入が多いと言われる資本金1000万円〜5000万円クラスの倒産が多いが、一部上場企業などの大型倒産も発生している。
 
V 建設市場の構造変化
1 投資分野の変化

 建設投資は、全体としては大きな伸びは見込めないが、経済社会の変化に対応して、需要内容の多様化が進むとともに、新たな需要が見込める分野も見られる。
 具体的には、都市環境の改善(中心市街地の活性化、都市防災、都市景観など)、環境対策(省エネ・新エネ分野、廃棄物処理施設、リサイクル施設、自然の復元など)、高齢化社会への対応(福祉施設、バリアフリーのまちづくりなど)、情報化への対応(ITS、光ファイバー敷設など)などの分野の成長が見込まれる。
 また、海外の建設市場も、アジア等潜在的な経済成長力が高いと見られる地域においては、今後も大型プロジェクトの発注等が予想され、技術力や提案力で国際競争力を有する企業にとっては、十分に戦略的な重要性をもつ分野である。
 さらに、CM、PMなどの施工管理等の業務、PFIなどの公的な業務、既存施設の維持・更新サービスなどの建設関連業務なども伸びると考えられる。
 これらの新規分野には、他産業からの参入も見込まれ、激しい競争となることが予想される。
 
(注)ITS:Intelligent Transport Systems
       渋滞・交通事故の低減や利用者の快適性の向上を目的に、最先端の情報通信技術を活用して作り出す新しい道路交通システムの総称。
    CM:Construction Management
       発注者の代理人あるいは補助者として、発注者の利益を確保する立場から、@品質管理、A工程管理、B費用管理を行う方式。
    PM:Project Management
       建設やエンジニアリング業の有期限・単一目的のために機能統合的に編成される特別組織の管理手法。
    PFI:Private Finance Initiative
       民間の参加による市場原理の導入により、効率的な社会資本整備を促進することを目的とした事業手法。
 
2 発注者ニーズの変化

 これまで、民間発注者は、一定の範囲内であれば、価格や品質を含め総合的な信頼関係を基本として「特命随契」を、また、施工過程、施工後において、リスク管理能力や合意形成能力といった建設業者の問題処理能力が高いことを背景に、施工に関連する全ての業務を包含して請け負わせる「一括請負契約」を活用してきた。
 しかし、発注者を取り巻く競争環境が激化していることから、建設業者に対しても、コストの削減や透明化を求めるようになってきている。
 このため、従来は、「特命による一括請負契約」で処理をしていた業務について、その内容やコスト構造について、明確化を求めてきており、競争入札の導入や分離発注、CMなどへのニーズが生じている。また、従来は、「一括請負」の下に、責任範囲をあいまいにして過度のリスクを負担するケースもあったが、発注者・受注者の責任関係の明確化等の観点から「問題処理能力」の内容を明確化する必要も生じている。
 また、公共発注についても、品質確保、コスト縮減等を図る観点から、民間の技術力を広く活用する取り組みが進められており、VE方式、技術提案総合評価方式、設計・施工一括発注方式など民間の技術力を活用した発注方式が取り入れられ始めている。
 さらに、発注者の体制に応じて外部組織を活用する仕組みや民間企業のノウハウを活用したPFIなどの制度の検討も進められているところであり、今後は、発注者のニーズに対応した新たな業務の開拓が進むと考えられる。
 
(注)VE:Value Engineering
     目的物の機能を低下させずにコストを低減する、または同等のコストで機能を向上させるための技術。
 
3 供給サイド(建設生産システム)の構造変化

 バブル期以降、事業量の増加、下請企業の技術力の向上、設備の複雑化・高付加価値化等を受けて、メーカーや専門工事業者が競争力を伸ばすとともに、「材工一式」や「分離発注制度」などの生産体制も普及してきている。
 また、建設技術の汎用化が進み、大手総合建設会社でなければ施工できない分野は限定され、中小企業等が汎用技術で施工できる分野が拡大している。
 今後、コスト面での競争が激化すると、汎用技術で施工できる分野では、労働力の確保や一般管理費の面で、中小企業や地場企業の有利性が高まり、大手総合建設会社にとって一層厳しい状況になると考えられる。
 さらに、これらの構造変化やリフォーム市場等の新規需要に対応して、専門工事業者やメーカーと総合建設業者の関係、地場企業と全国展開している企業の関係なども多様化してくると考えられる。
 
4 経済社会からの要請

 建設産業は、経済社会において大きなウェイトを占めるとともに、建設関連業界、資材業界などを含め極めて裾野の広い産業である。
 建設産業の経営不振は、個別の企業の問題にとどまらず、関連する下請企業等の連鎖倒産、建設労働者の雇用問題など、地域経済や日本経済に与える影響は非常に大きい。
 このため、大手総合建設会社を中心に、現在取り組まれている有利子負債の削減やリストラによる経費の節減等経営体質の強化が引き続き要請されるとともに、建設産業全体についても、経営改善や過剰債務の解消を早急に進めることが大きな課題である。
 また、バブル経済の崩壊以降、不良債権問題が顕在化する中で、個々の企業の財務内容等に関する情報についても、投資家や取引先などに対し、開示することが強く求められている。特に、民間発注者やエンドユーザーである国民(=消費者)に対しても、建設業者の的確な情報を開示することが必要であり、工事経歴、財務状況、技術者等の情報が広く提供され、多くの企業の中から、競争力のある企業を的確かつ容易に評価・選択できることが、極めて重要である。
 
 
5 建設市場における競争の激化とその局面

 今後、建設産業は、投資分野の変化、発注者ニーズの変化、供給サイドの変化などに対応して、競争が激化すると予想され、各企業は、2つの局面での競争力の強化が求められる。
(1) コストダウン
 建設産業の各分野において、@コスト管理能力の強化、A管理部門の合理化、B現場労働生産性の向上、C資材等の購入の合理化など、コストダウンや効率的で質の高い施工に向けた企業体質の強化が進むと考えられる。
 コスト競争の激化に伴って、買いたたきやダンピング、下請・資材業者への一方的な指し値によるコストの切り詰めが見受けられるとの指摘があるが、このような競争は、一時的な利益にはつながるものの、長期的には企業の経営を不安定にするだけで、生産性の向上にはつながらない。一方的に単価を切り下げるのではなく、技術力に基づく生産効率の向上や、生産システム、建設資材に係る流通の合理化に裏打ちされたコスト競争を行うことが求められている。
(2) 品質、商品開発力、提案力(差別化)
 コストダウンによる競争のほか、投資分野の変化や発注者ニーズの変化(需要の多様化)に対応した品質の確保や新たな商品開発、エンジニアリング能力、専門的施工能力など技術力を背景にした提案能力による競争が求められている。
 具体的には、CM・PMなどの施工管理等の業務、施設の継続的な維持補修、ISO規格等を活用したより一層の品質向上を図るマネジメントシステムの構築、完成物の品質や性能の保証、運営業務を含めた施設建設の受注などが考えられる。
 
W 企業戦略の方向
 
1「選択と集中」のための企業戦略

 今後、厳しい経営環境への対応として、需要の多様化と新たな需要への対応も含め、建設産業を担う各企業において、それぞれの得意分野に思い切った重点化を図り、横並び志向ではない「特色ある企業」づくりへと転換していく必要があると考えられる。
 今後、厳しい経営環境の中において、経営の「選択と集中」を通じて「利益率の向上の戦略」を修得した企業こそが、各分野において、競争に勝ち残るものと考えられる。
 特に、大手総合建設会社においては、厳しい経営環境を踏まえ、経営再建計画を策定し、有利子負債の削減等経営体質の強化に取り組んでいるところであり、コストダウンに向け、リストラによる経費の節減等を進めているところであるが、真の意味での建設産業の再生のためには、単なる規模縮小のリストラではなく、コスト面はもちろん技術力や提案力等も含めた競争力の強化につながる経営改革が求められており、今後、それぞれの企業の体力、規模、特色等に対応した早急な企業戦略の策定が必要となる。
 
 
 
2 不採算部門からの撤退と優位部門への重点化

 このような企業の戦略の方向としては、第一に、自らの活動する市場をセグメント化(分類)して自社の収益構造を分析し、将来の経済動向等を見据え、不採算部門から撤退するとともに、競争優位性を有する部門への経営資源の重点配分を図っていくことが考えられる。
 この場合、現在進められている「企業組織制度改革(連結納税、株式交換等)」、「企業会計制度改革(連結制度、時価制度等)」、「金融システムの変革(不良債権処理、債権管理の強化)」なども踏まえ、バブル期に増加した有利子負債等の早期削減や人件費の削減などのリストラを推進することも重要である。
 特に、大手総合建設会社は、自らの優位性・収益性の有無をよく点検した上で、規模が小さく技術的難易度も低いような工事への参入を見極める必要がある。なお、不良債権をバランスシートから切り離す手段の一つとしての債務免除については、金融機関等において、借り手である建設企業の再生につながることで残存債権の回収がより確実になる等の合理性を有すると判断する場合に、当該企業の経営責任の明確化等を考慮して行われるものと考えられる。
 
3 成長期待分野、戦略的投資分野の強化

 第二に、今後成長が期待できる分野で、将来的に自社が競争優位性を持ちうる分野について、事業間の相乗効果も踏まえつつ、経営資源を戦略的に重点投入することが考えられる。
 成長が期待できる分野としては、まず、都市開発、福祉、環境、情報などに関連する分野などが考えられる。これらの分野については、多様なユーザーのニーズに的確に対応することが必要であり、施工能力もさることながら、大手総合建設会社等が有する企画、提案、設計等の能力を活用することが求められている。また、現在は、厳しい状況である東南アジアなどの海外建設市場も、潜在的な経済成長力は高く、大型プロジェクトなどが見込まれ、高度な技術力や提案力が要求される戦略的な分野であると考えられる。このような分野については、他業種との相互補完が有効な場合が多く、新たな企業連携の強化により、ノウハウの確保・サービスの向上のための戦略的な取り組みを進めることが重要である。
 さらに、維持・更新分野についても、成長が期待できる分野である。この分野は、継続的できめ細かなサービスが求められることから、ローコストで膨大なマンパワーが必要な場合も多く、専門工事業者と総合建設業者、地場企業と全国展開している企業の連携なども多様化してくると考えられる。
 一方、従来の建設業以外の分野においても、これまでの施工のノウハウが活用できる分野などは、戦略的投資分野と考えられる。例えば、不動産の証券化の際に必要となる建築物の評価業務などは、成長が見込まれる。
 なお、このような重点化を行うに当たっては、将来の需要予測を行うなど当該マーケットの本格的な成長のタイミングを見極めることが必要である。加えて、従来は受注を目的に無料で提供していたサービスや企画、提案、設計などのソフト業務について、施工と切り離し、適正な対価が取得できる業務に転換できるかどうかが大きな課題である。
 
 
4 コストダウンによる競争力の強化

 第三に、上記のような適正な事業構成を選択する一方で、建設市場における競争の激化に対応するため、各企業においては、コストダウンによって自らの価格競争力の強化を図ることが考えられる。
 その際、各企業は、新たな施工技術の開発や人件費の削減、物流の効率化、情報技術(IT)の活用など、コスト内容を吟味し、その削減を行う必要があり、その前提条件として外注費を含め、コスト構造の明確化を行うことが重要である。また、PM、CM等ソフト分野がフィービジネスとして成立する前提としても、こうした分野のコスト構造の明確化が必要不可欠である。
 
 
5 品質や商品開発力、提案力による競争力の強化

 第四に、コストダウンによる競争力強化のほか、品質や建設市場の構造変化や顧客ニーズに対応した商品開発力、提案力、エンジニアリング能力などの差別化による競争力強化を図ることが重要と考えられる。
 具体的には、自社施工物件に対する高い評価の獲得、長期間の品質保証等顧客サービスの強化、施設の運営方法等のノウハウの提供も含めた提案力の強化などにより、差別化による競争力強化を図ることが重要である。
 このような品質や商品開発力、提案力による競争を進めるためには、新たなサービスによる付加価値と顧客のコスト負担能力との関係について十分な検討を行うことが必要であるとともに、顧客に対して品質に応じたコストを明示する方策、特許など知的財産権の獲得・活用、継続的な商品開発・提案システムの構築などにより、他の企業に対する競争優位性を維持することが重要である。
 
 
 
6 経営組織の革新と連携の強化

 以上のような企業戦略に従い、得意分野や成長分野に係る業務を効率的に行うための方策としては、分社化、執行役員制度などの「経営組織の革新」と従来の業種や業態を超え、技術、工事分野、営業エリアなどの相互補完を目的とした、異分野・異業種も含む企業の合併、業務提携、フランチャイズ化などの新たな「連携の強化」が考えられ、他産業と建設産業の関係、専門工事業者と総合建設業者の関係、地場企業と全国展開している企業の関係なども多様化してくると考えられる。
 また、コスト削減のための方策として、地域ごとの分社化等により人件費の縮減を図ったり、管理部門の独立会社化や既存の施工会社の子会社化等によるアウトソーシングの推進を図ることなども考えられる。
 具体的には、@ 自社の分社化を図る、A MBO等の活用により企業分割等を行う、B 優位性を有する他社と業務提携を行う、C ノウハウのある企業とフランチャイズを結ぶ、D 他社の優位性を有する部門の営業譲渡を受ける、E 他社に資本参加を行い子会社化する、F 他社と合併を行うことなどが考えられる。
 
(注)MBO:Management Buy Out(マネージメントバイアウト)
     経営陣が、金融機関等の助けを借りて、自社の全部又は一部を買い取って、独立して経営を行う手法。
X 行政による環境整備の課題
 
1 行政の基本的スタンス -競争的な市場環境の整備-

 建設産業再生に向けての企業戦略は、各企業が、厳しい経営環境を踏まえ、各々の自己責任、自助努力で、「経営組織の革新」と「連携の強化」を進めて行くべきものである。行政は、建設産業再生の動向を的確に把握し、その動きを促進するような競争的な市場環境を整備することによって、建設産業のユーザー(消費者)または建設産業への投資家等としての国民の利益に資する責務を有している
 とりわけ、厳しい経営環境の下で優勝劣敗、淘汰の時代に直面し、業態としてのあり方も問われている大手総合建設会社について、その再生に向けた努力を促すような市場環境を早急に整備することが求められている。
 このため、企業が多様な組織形態を選択できるための環境整備、競争力のある企業評価できる市場環境の整備、価格や品質、商品開発力、提案力による競争の促進、新たな成長分野等の育成・支援、公共工事における競争性・透明性の向上を進めるとともに、リストラの促進とセーフティネットの整備を行うことが求められている。
 
 
 
2 経営組織の革新と連携の強化への対応

 各企業において、厳しい経営環境の変化に対応して、先に述べたような企業戦略の明確化を進めていくため、会社の分割や分社化、執行役員制度の導入など「経営組織の革新」とともに、企業の合併、営業譲渡、業務提携、フランチャイズ化などの新たな「連携の強化」が始まると考えられる。
 今後、6月11日に決定された「緊急雇用対策及び産業競争力強化対策について」に基づく「株式交換・株式移転制度」、「会社分割制度」、「産業再生のための適切な事業再構築等を推進する特別法」などの具体化の動向も踏まえ、各企業が、多様な組織形態を選択できる環境整備を行い、経営の自由度を拡大する必要がある。
 このため、これらに対応した許可制度、経営事項審査、技術者の専任制のあり方について検討を行うことが必要であり、当面、分社化、資本参加等に対応した経営事項審査のグループ評価のあり方、新たな企業連携のあり方などについて検討する。
 
 
3 情報開示による透明で公正な市場の確保

 建設産業の再生の前提条件として、ユーザーや投資家等としての国民が競争力のある企業を正当に評価・選択できるよう、企業情報が的確に開示されていることが、極めて重要であり、各企業は、積極的に情報を開示し、国民や市場の信頼を得ることが必要である。
 このため、企業情報の標準化を進め、企業情報の一層の開示を推進するとともに、それらの情報の活用を図る必要がある。特に、発注経験の少ない民間発注者にとって、公共事業の発注者が保有する企業情報は、専門家がまとめた貴重な情報であり、その開示が求められている。
 具体的には、企業会計基準が国際会計基準等へ移行することへの対応、建設工事原価計算基準の策定、経営事項審査に関する企業情報等のデータベース化、専門工事業者企業力指標の拡充等の検討を進めるとともに、これらの情報について、許可時はもとより入札・契約時における活用方策について検討を行う。また、経営事項審査の算定に用いるデータのチェックの強化などにより、審査等の厳正化を図る。
 
 
4 ニーズの変化に応える市場づくり

 建設産業における競争は、市場メカニズムを通じて、実現されるべきものであるが、建設生産は、単品受注生産であり、品質の差が契約前はもとより引渡後も短期的に顕在化しにくいなどの理由で、品質や商品開発力、提案力による競争が行われにくい。現に、民間市場では激しい価格競争が生じており、ダンピングの防止や適正な品質確保などの問題が指摘されている。今後は、耐久性等も含めた総合的な品質や商品開発力、提案力、エンジニアリング能力など、価格競争と併せて、品質や商品開発力、提案力による競争を促進するための環境整備が求められている。
 このため、発注者のニーズに対応したPFIやCM、PMなどについては、大手総合建設会社等のマネジメント能力を活かしつつ、その普及促進を図るとともに、建設生産における瑕疵担保保証、品質保証のあり方などについて検討を行う。
 また、各企業の技術開発力の差が競争に反映されるよう、技術力が評価できる発注方式や知的財産権の一層の活用方策についても検討を行う。
 さらに、エンドユーザーである国民の新たなニーズが期待できる成長分野や大規模プロジェクト、民活インフラプロジェクトなどが見込まれる海外建設市場等に対応するため、新たな成長分野の研究や官民共同による技術開発の推進、海外建設市場への展開の円滑化の促進、それに対応した人材育成・活用策の検討などを行う必要がある。
 
 
 公共工事における競争性・透明性の確保
 
(1)公共工事における競争性の向上

 入札・契約制度については、これまで、中建審建議を受けて、大規模工事についての一般競争方式の採用、公募型や工事希望型の導入等指名競争方式の改善、履行保証制度の抜本的見直しなど、抜本的な改革が進められてきたところであり、その徹底を図ることが必要である。
 また、技術開発の進展が著しい分野や固有の技術を有する分野等については、民間の技術力を活用した発注方式などが取り入れられ始めており、公共工事の品質確保、コスト縮減等を図る上で大手総合建設会社等が有する技術力、企画力、提案力等の一層の活用が求められている。
 このため、多様な入札・契約方式の導入などについて検討するとともに、施工の効率性の確保等の観点も踏まえたJV制度・運用のあり方などについて検討する。
 
(2)市場ルールの遵守の徹底等

 建設産業の再生のためには、競争力のある企業が市場において適正に評価されることが必要であり、そのためには、市場のルールに従わない不良不適格業者の徹底した排除が不可欠である。特に、地方公共団体における発注の中には、建設業者の施工能力・体制を十分に勘案せずに発注を行い、いわゆる「上請け」等の弊害が生じている事例もあるとの指摘もあり、その解消に向けた検討が必要である。
 また、公共工事の市場については、産業実態を踏まえた受注機会の確保等の観点から政策的な関与が行われているが、その運用が行き過ぎた場合には、建設業者数の増加と不良不適格業者の参入を招き、真面目な業者の障害となっているとの指摘もあり、本来の政策目的を逸脱した運用がなされないよう適切に対処することが必要である。
 このため、許可時における専任技術者のチェックや入札参加時等における発注者支援データベースを活用した監理技術者の専任制のチェックの徹底などを行うとともに、一部の自治体において指摘されている過度な分割発注の是正について検討する。また、建設業者の法令違反等に対しては、監督処分に関する基準の明確化により厳正な対処を図る。
 
 
 
 リストラの促進とセーフティネットの整備

 建設産業の日本経済に占めるシェアは大きく、また関連する産業も多いため、「建設産業の再生」の過程で生ずる「雇用転換」や「過剰債務・設備の解消」、「連鎖倒産の防止」については、建設産業界での努力はもとより、広く全産業的な視野と関連する制度の活用によって、対応しなければならない課題も多い。
 このため、建設分野の中でも、維持・更新など雇用吸収力が見込まれる成長分野については、その成長の促進を図り、建設産業内での人的資源の活用を進めるとともに、「緊急雇用対策及び産業競争力強化対策について」を踏まえ、「雇用保険の改革」、「事業の存続を前提とした会社の円滑な再建(新再建型倒産手続の導入、債務の株式化のための環境整備)」、「企業財務の健全化、資産流動化の促進等のために必要な税制」などに関連する制度の具体化の動向を踏まえ、建設産業のリストラの促進やセーフティネットの充実などの環境の整備を進める。
 
Y おわりに

 このプログラムは、建設産業の再生に関する基本的な認識と政策の方向について、建設省として取りまとめたものである。プログラムの策定に当たっては、建設産業再生プログラム研究会のご意見をいただくとともに、建設産業の各界にわたり緊密な意見交換を実施した。今回の主たる焦点である大手総合建設会社についての議論はこれで終わるものではなく、今後の変化を踏まえ、引き続き、そのあり方等について、検討を加えていくことが必要である。

(行政による環境整備の課題の検討の進め方)
 プログラムに示した「行政による環境整備の課題」のうち、当面、次に掲げる事項について、施策の実施に向けて検討を進めていくこととする。また、その他の事項については、施策の一層の具体化に取り組み、または、現状を把握し課題の整理を行う等事柄の性格に応じた検討ステップを進めることとする。(別添の通り)
・経営事項審査のグループ評価
・企業会計基準の国際化への対応
・建設工事原価計算基準の策定
・企業情報のデータベース化
・専門工事業者企業力指標の拡充
・特定建設業の許可基準の取扱いの見直し
・JV制度・運用のあり方の検討
・監督処分の基準の明確化

(地方建設業界、専門工事業界のあり方)
 今回は、大手総合建設会社に主たる焦点を当てたが、地方建設業界、専門工事業界等についても、バブル崩壊後の経営上の課題は異なる部分もあるものの、産業界を巡る環境の厳しさと変化の厳しさは同様である。したがって、今後、それぞれの産業のあり方について、改めて議論を深めることが必要である。

(建設産業再生への期待)
 建設産業再生のカギは、「選択と集中」とその結果生じる「多様な連携」を通じた「利益率向上の戦略」にあり、そのために求められる行政の役割は、「技術と経営に優れた企業」が自由に伸びられる「競争的な市場環境の整備」であるというのがプログラムの基本的な考え方である。
 建設産業は歴史も古く成熟した産業である。しかし、建設産業は、国民生活に関わりが深く、経済社会的なニーズは21世紀においても引き続き高い産業と位置づけられられ、また、産業内部に成長が期待される先導的・先端的な分野・技術を多く有している。建設産業の再生は、企業の生き残りのためだけでなく、このようなニーズに応え、戦略的な取り組みをすることにより、国民に「良いものをより安く」提供するという建設産業本来の役割に応え続けるための産業界の自らの課題である。決して容易な道ではないが、「再生」実現に向け、建設産業が確実に力強い足取りを進めていくことを期待したい。