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「国土と環境を考える委員会」提言

自然と共存しうる循環型国土の形成に向けて

5.建設省(国土交通省)に求められる新たな取組み
  〜環境負荷の小さい地域間交流や物流等のネットワークの実現
 建設省(国土交通省)においては、これまで述べた環境面から見て望ましい国土づくりの基本的な方向を踏まえ、以下のような新たな取組みが期待される。その際、他の施策との連携によって、より高い効果が発揮されることに留意すべきである。
(1) 積極的な自然環境の保全・回復

1 健全な自然環境や生態系は人類にとっても生存基盤であることから、自然環境も含めた環境を社会基盤として捉え、従来の事業の実施に伴う環境施策やそれに付随するミティゲーションの取組みに止まらず、地域や国土全体からみて望ましい自然環境の保全・回復に取り組むとともに、多元的な「エコロジカルネットワーク」、「エコ回廊」の形成のための具体的な事業や手法の検討を行うべきである。
 また、併せて、健全な生態系を回復させるための取組みにおいては、「順応的管理(アダプティブ・マネジメント)」手法の導入を検討すべきである。

2 都市内のオープンスペースや都市周辺において都市的土地利用の需要も農地としての需要も小さくなった土地などに積極的に自然環境の回復を図るべきである。

3 化学物質による環境汚染問題の重大さへの認識は急速に高まっており、水域における生態系への影響や食物連鎖、飲料水等による人の健康影響も懸念されているため、河川、下水道における環境ホルモン等の微量有害化学物質の挙動把握及び処理技術の向上を図り、水系のリスク管理を適切に行う必要がある。
(2) 大都市の大深度地下の有効利用
大都市の大深度地下の物流、静脈物流等への活用を図るべきである。
(3) リユース、リサイクルのための具体的システムづくり

1 直轄事業における最終処分量をゼロとするゼロエミッションの取組みなどを通じ、住宅・建築物及びその資材等の建設廃棄物のリユース・リサイクルに関する市場環境の一層の整備を図るべきである。

2 建設廃棄物に関する情報を公共団体等各機関で共有できるようなシステムの開発を推進すべきである。

3 他の産業の廃棄物についてもリサイクルできる技術の開発を推進し、利用可能な事業においてその活用を図るべきである。
(4)  環境負荷削減の観点からの住宅・社会資本や民間施設の整備・活用

1 自然と共存しうる循環型の地域、国土の形成に必要な住宅・社会資本については、これまで蓄積された住宅・社会資本(ストック)をより有効に活用し、新たな整備に伴う環境負荷を小さくしていくことが重要である。こうした観点から、特に、住宅については、既存ストックが有効に活用され、多様なニーズに応じた良質な中古住宅の市場が成立するよう、中古住宅の性能評価、表示技術の開発、リフォーム履歴情報の提供等の中古住宅市場の環境整備を図るべきである。
 また、補修・改築する際には、より環境負荷が小さくなるように配慮していくべきである。

2 住宅・社会資本や民間施設の新規の整備にあたっては、長期耐用型施設や省資源・省エネ型施設整備によるライフサイクルを通じての環境負荷軽減を進めるとともに、リデュース、リユース、リサイクルを促進するため、設計・施工段階における考慮や建設材料に関して最初から再利用可能なスペックを明示しておくことが必要である。
 民間施設の新規の整備に係る環境負荷軽減の方策として、民間に対する規制的措置の検討や市場機能の活用(例えば、住宅性能を表示し、それに基づいて住宅を評価していく「住宅品質確保法」を通して住宅の高い品質を確保し、生活環境の向上や環境負荷軽減を図っていくこと)等の取組みを推進すべきである。
 また、住宅の長期耐用化にあたっては、居住者のニーズに応じて内装等(インフィル)が改変可能なスケルトン住宅の供給を促進すべきである。

3 環境への負荷が小さく、環境改善効果が大きく、全体として環境に良い住宅・社会資本を整備していく場合には、そのためのコスト負担を認めることが必要である。
 このことについて国民の理解を得るため、環境に配慮した住宅・社会資本整備を行っていくためのコスト負担の考え方やあり方について、環境に配慮しない場合との比較が可能な形で情報を提供していくことが必要である。

4 住宅・社会資本の整備に当たっては、長寿命化などによるライフサイクルを通じての環境負荷軽減に努めるべきであるが、場合によっては、人口減少など長期的な社会経済情勢変化に伴い必要性や利用度の低くなる可能性も勘案の上、環境負荷の側面も含めて整備の必要性や態様を検討することも必要である。例えば、土地利用規制や場合によっては補償を行うことで社会資本整備は行わないということもひとつの選択肢として考えられる。

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