S h i n i c h i  U e y a m a
上山 信一 氏
からのメッセージ
米国ジョージタウン大学政策大学院教授

略 歴            
昭32 大阪市生まれ
昭55 京都大学法学部 卒業
運輸省入省
外務省勤務等を経て運輸省退官
昭61 マッキンゼー入社
平5 同社共同経営者に就任
平12 退任
現在 米国ジョージタウン大学政策大学院教授

主な著書
「行政評価の時代」(NTT出版)「行政経営の時代」(NTT出版)、「実践・行政評価」(東京法令出版)、「変革のマネジメント」(共著、NTT出版)、「顧客の真の求めに応える」(NTT出版)など

 




行政が率先して「賛否両論」の喚起を



  どこの国でも、政府への信頼感が揺らいでいる。「行政バッシング」は日本だけの現象ではない。問題は、そんな中で、いかに国民の行政に対する関心を喚起するか、ということである。
  例えば、ハイウエーの騒音公害問題。対策自体はもちろん大事だが、議会や住民、運送業者などの本件に関する問題意識を高めることも、行政の仕事である。なぜなら、騒音問題はドライバー、運送業者、行政当局さらには沿線住民の熱心な監視体制などがすべてあいまってやっと解決される。現在の複雑な社会環境のもとでは、「行政当局に全てお任せ。予算をつけておしまい。」といったシンプルな問題はめったにない。
 このように関係者の「マインド・シェア」、つまり関心の度合いを高めることもこれからの行政の大きな仕事だ。とすると、広報、コミュニケーションの仕方もこれまでとは大きく違ってくる。実績や計画の単なる情報公開や事業評価の結果の公表だけでは不十分だ。なぜなら、これだけでは、興味を持つ人以外には、アピールできないからだ。無関心層--------若者や育児に追われるヤングママそして企業経営者など--------にいかにアピールするかが勝負のしどころだ。
 例えば、バイパス道の建設の必要性を訴えたいとする。公聴会や計画の事前開示はやって当たり前。さらに積極的な「マーケティング」が必要だろう。つまり、


@ そもそも「バイパス道」とは何か?
A 工事の前と後とを比べて渋滞はどのくらい減るのか?
B専門家の間でどのような賛否両論があるのか?


といった議論のための「基礎情報」をどんどん流す。できるだけわかりやすい情報を提供し、自由に議論をしてもらう。おそらく、賛否両論が湧き起こる。理想は、住民同士が賛否をめぐる議論を激しくたたかわせる状態だ。行政当局は、まずは一歩ひかえて議論を見守る。これからの時代、こうした議論の場づくり自体が行政の大切な仕事になる。素人の限界を心配することはない。米国の例(都市計画、施設建設など)をみると、十分な情報のもとで常識的な市民が議論すれば、結論はそう妙なものにならない。


 「対話型行政」は「お上がやさしく大衆に語って聞かせる」という上意下達のモデルであってはならない。これからは市民同士の議論を行政マンがプロの黒子としてお膳立てする。つまりプロデュースしていく。そこに生まれる信頼感が行政の質と住民の満足度を同時に高めていくはずだ。



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