「日本版PFIのガイドライン」について

 厳しい財政状況と国際的な大競争時代の中で、「魅力ある国土づくり」をより効率的に推進するため、「民間の高い技術力、経営力と豊富な資金力を活用した社会資本等の新たな整備方策」について、学識経験者や、マスコミ、金融機関等の方々のご協力を得て、「民間投資を誘導する新しい社会資本整備検討委員会」を設けて検討を行い、平成10年5月19日に同委員会から中間報告として「日本版PFIのガイドライン」が取りまとめられました。
 


「日本版PFIのガイドライン」の検討について

1.ガイドラインの考え方

 本ガイドラインは、新しい社会資本整備方策の考え方として、その推進の視点や基本的な考え方を打ち出すとともに、新しい整備方策の適用が考えられる事業の分野やファイナンス上の課題や公的支援のあり方など、日本版PFI推進のための環境整備を明確にしています。また、事業の発意から施設の移管に至る事業の実施手続きについても、その例が示されています。 

2.委員会のメンバー

 検討委員会のメンバーは以下のとおりです。

 相田 康幸  日本開発銀行 企画部長
 有岡 正樹  (社)日本プロジェクト産業協議会 次世代民活事業研究会委員
 井上 繁   日本経済新聞社 論説委員
 小椋 進   横浜市助役
 金本 良嗣  東京大学教授
 菊島 勝丸  三井物産 プラントプロジェクト本部長
 錢高 一善  (社)全国建設業協会会長 PPP研究会委員
 武田 厚   新日本製鐵 建材営業部長
 竹中 平蔵  慶應義塾大学教授
○西野 文雄  埼玉大学大学院政策科学研究科長
 花形 道彦  (社)都市開発協会 専務理事
 葉山 莞児  (社)日本土木工業協会 公共事業委員会副委員長
 福田 守宏  (社)日本建設業団体連合会プロジェクトシステム研究会民間資金等活用WG部会長
 藤井 シュン  鞄本興業銀行 産業調査部長
 真殿 達   日本輸出入銀行 プロジェクトファイナンス部長
 宮本 和明  東北大学教授
 六波羅 昭  勤労者退職金共済機構 副理事長
                      (注:○は委員長、氏名五十音順 敬称略)

3.検討の経緯

  平成9年11月13日:第1回委員会開催

    10年2月27日第2回委員会開催

      3月27日第3回委員会開催

      4月24日:第4回委員会開催

  このほか、委員会の下に設置した3つのワーキンググループを20数回開催し、ケーススタディ、金融制度等についての検討を行った。


日本版PFIのガイドライン(概要)

T.新しい社会資本整備方策の考え方

○財政支出の有効活用による社会資本整備の充実
○官民の役割分担の見直し
○民間事業機会の創出
2.新しい整備方策の枠組み
(1) 基本的考え方
@ 日本版PFIは、民間の参加とこれによる市場原理等の導入により、社会資本の効率的整備と公共の財政支出の有効活用を図ることによって社会資本整備を促進することを目的とした整備手法
A 従来公的主体により行われてきた社会資本整備事業を対象とする
B 日本版PFIは、公共の適切な関与のもとで、民間の発意・創意工夫をいかしつつ、民間の主体的な経営判断により行われる
C官民の役割と責任の分担、リスク分担、公的支援の程度などは、基本的には民間事業者と管理者等との協定によって定める
(2) 協定における重要事項の考え方
@ 公共主体の役割は、政策目的を効果的かつ最小のコストで実現するため、可能な限り市場原理に任せ、民間事業者の参加を促進するための環境整備に重点を置く
A 事業に伴う種々のリスクは、最も適切に管理できる主体が分担
B 公共側の持つ社会資本整備の計画に整合が図られていることから公的支援が行われることは妥当であるが、通常の公共事業よりもサービス水準の向上も含めて実質的に公的負担が軽減されることが前提
U.新しい整備方策の適用が考えられる事業の分野
第 1 類 型(料金徴収型) 
料金収入又は関連事業収入を充当することにより民間事業者が整備費用を回収するもの。

     市場では供給が困難であるという公共施設本来の性格から、このタイプの事業の発掘には様々な課題があると考えられるが、事例ごとに成立の可能性を探る必要がある。また、地下公共通路等については、関連事業収益を整備費に充当することが考えられ、民間事業者からの発意を尊重しつつ、その推進を図る必要。
第 2 類 型(一体整備型)
公共施設と民間施設とを一体的に整備することにより、公共施設整備を単独で実施するよりも効率が向上する(公共負担が軽減される)もの

     民間の参画により、公共施設等の効率的整備が図られるほか、利用者の利便性の向上等も期待できる。また、都市開発事業、各種複合施設整備などの可能性が考えられ、官民連携施策の一環として積極的に推進していく必要。
第 3 類 型(公共サービス購入型)
公共主体に代わって民間事業者が施設を整備・管理することが相当合理的であり、当該公共主体から対価を受け取るもの
民間事業者が建設・管理する施設から提供されるサービスに対し、公共主体が対価を支払うことにより、効率が向上する事業。例えば、
・運営面を含めて民間に高度なノウハウがあり、これを活用して効率的、合理的な計画・建設・運営が期待できるもの
・耐用年数が短い又は陳腐化が早い施設を必要とするサービス
・ニーズの変動の大きい、又は将来小さくなることが見込まれる公共サービス
民間が施設建設を行い、単純に公共に貸与、分割譲渡するものについては、英国においてもPFIとして扱われていないことに留意する必要。
 
V.推進のための環境整備
 
1.ファイナンス上の課題
○プロジェクト・ファイナンス導入の基本的考え方
○具体的検討事項(介入権の確保、第三者仲裁機関の設置等、キャッシュフローに対する担保権の設定等、融資の確約、商法上の配当制限の緩和)
 
2.公的支援
○補助金(従来の公共の負担額に比べその額が軽減されることが原則として必要)
○税の特例、
○融資制度(一定の税の軽減、低利、無利子融資を検討する必要)
○債務保証、
○出資(国による直接の債務保証、出資については民間の自主性が損なわれないよう運用に当たっての配慮が必要)
○その他の公的支援<計画調整、用地取得、関連公共施設整備等の負担等>
(個々の事業案件により必要とされる内容が異なることから事業毎に協議により決定)
3.その他法制上の課題
○事業者の法的な立場に係る課題
○長期債務負担行為に関する課題
○公共が所有する土地等を有効に活用するための課題
○事業者選定や政府調達手続き上の課題
4.推進のための情報公開等
○整備プログラムの情報公開
○官民連携組織の設置
○推進のための周知措置
 
W.事業の実施手続きの例
 
1.事業の発意
○民間からの発意が望ましい
○特に導入当初は民間からの発意を待たずに公募することも必要
2.事業者の募集
○公告、○参加意向の申し出、○事業者の募集、○事前資格審査、○提案書の提出
3.事業者の選定
○提案書の評価(評価の視点:公的支出額の大小、移転されるリスク、サービス内容等)
優先交渉権者の選定、条件交渉、
○事業者の決定
4.事業に係る協定の締結
○事業会社の設立、
○協定の締結
5.資金の調達
○民間事業者は自らの責任において最適と考える手法により資金を調達
6.事業破綻時の対応
○極力民間による事業修復を実施
○事業会社の帰責事由による事業破綻時、市場価格で代替事業者に承継、不可能な場合、管理者が引き受ける
7.施設の移管
○管理者への移管は、無償、あらかじめ定めた価格、その時点での市場価格等によるが、その方法は協定において明記

日本版PFIのガイドライン(本文)

T.新しい社会資本整備方策の考え方

1.新しい社会資本整備方策推進の視点
 
社会資本整備における民間活力の活用については、英国におけるPFI(Private Finance Initiative)をはじめ諸外国において新たな試みが行われつつある。我が国においても、従来より積極的に民間活力の活用に取り組んできたが、さらに、以下の視点から、公共性が保たれることに留意しつつ市場原理を機能させることにより、より効率的な社会資本整備が可能となるよう、国際的にも力をつけてきた我が国の企業をはじめとする民間の高い技術力・豊富な資金力・経営能力を活用する新しい社会資本整備方策、いわば日本版PFIの導入を図っていくべきである。
(1)財政支出の有効活用による社会資本整備の充実
民間の技術力、資金力、経営能力の導入を促進して、国、地方自治体の財政支出を有効に活用し、これにより社会資本整備をさらに充実する。

(2)官民の役割分担の見直し
平成8年末の行政改革委員会において、行政関与のあり方を見直す3つの原則、すなわち@「民間でできるものは民間に委ねる」、A「国民本位の効率的な行政」、B国民に対する「説明責任(アカウンタビリティ)」が提唱された。社会資本整備においても、この行政改革委員会の意見を踏まえ、官民の役割分担についての見直しを行っていく必要がある。

(3)民間事業機会の創出
社会資本整備という新たな民間投資分野の創出に加え、新しい社会資本整備事業では、事業の実施を通じて資金調達、施設の計画、建設、管理、運営といった総合的能力を持った企業が誕生し、また、事業の実施に伴う多様なビジネスチャンスが創出されるなど、我が国の経済構造の改革にも資することになると考えられる。

 
2.新しい整備方策の枠組み

 
(1) 基本的考え方

 
  @ 日本版PFIは、民間の参加とこれによる市場原理等の導入により、社会資本の効率的整備と国・地方公共団体の現在及び将来の財政支出の有効活用を図り、もって、社会資本整備を促進することを目的とした業手法である。
  A 本ガイドラインでは、従来、国・地方公共団体等の公的主体によって行われてきた社会資本整備(公共施設・公用施設の整備)事業を対象とする。
  B 日本版PFIは、公共の適切な関与のもとで、民間の発意・創意工夫を生かしつつ、民間の主体的な経営判断により行われるものである。
  C 官民の役割と責任の分担、リスク分担、公的支援の程度などは個別事業によって異なるが、これらは基本的には民間事業者と管理者等との合理的な判断に基づく協定等によって定めるべきものである。

 
(2) 協定における重要事項の考え方

 
  @ 役割分担の考え方
ア)公共主体の役割
公共主体は、協定の対象として取り上げられる事業について、施設の本来管理者等としての役割(サービス水準の維持等)に加え、政策目的を効果的かつ最小のコストで実現するため、可能な限り市場原理に任せ民間事業者の参加を促進し競争が有効に機能するための環境整備に重点を置き、以下の役割を担うものとする。
(a) 法的なルール・枠組みの設定、政策目的との整合性や効果の判断等の役割を果たす。また具体的・客観的な評価手法や基準づくり等を行うとともに必要な支援を行う。
(b) 国民に対する説明責任(アカウンタビリティ)を果たす。
イ)民間事業者の役割
従来、施設の管理者として公共主体が負ってきたリスクを分担し、市場原理と自己責任原則のもとにプロジェクトを実施する。

 
  A リスク分担の考え方
事業に伴う種々のリスクは、これをもっとも適切に管理できる主体が分担することを基本とする。
リスク分担の具体的あり方は、個別案件によって異なるものであるため、個別案件の抽出、事業者募集の段階でリスク分担の方針を明らかにするとともに、事業に係る協定において公共側と民間事業者の間で詳細に定めることが必要である。
  B 公的支援の考え方

 
事業は公共側の持つ社会資本整備の計画に整合がとられているものであることから公的支援が行われることは妥当であるが、通常の公共事業よりもサービス水準の向上も含めて実質的に公的負担が軽減されることが前提となる。

 
U.新しい整備方策の適用が考えられる事業の分野

 効率的社会資本整備を推進するに当たり、日本版PFIの適用が考えられる事業の分野については、整備される社会資本の特徴、内容等に応じて以下の3つの類型に分類した。なお、実際の事業は、これらの類型のうち複数の性格を併せ持つ事業となるケースも考えられる。

第1類型:料金徴収型
  料金収入又は関連事業収入を充当することにより民間事業者が整備費用を回収するもの
徴収する料金や関連事業収入を公共施設整備費用にあてることにより原則として成立する事業。
市場では供給が困難であるという公共施設本来の性格から、このタイプの事業の発掘には様々な課題があると考えられるが、事例ごとに事業成立可能性を探ることが必要である。
また、地下街と一体となる地下公共通路等については、関連事業収益を整備費に充当することが考えられ、民間事業者からの発意を尊重しつつ、その推進を図る必要がある。
第2類型:一体整備型
  公共施設と民間施設とを一体的に整備することにより、公共施設整備を単独で実施するよりも効率が向上する(公共負担が軽減される)もの
公共側と民間側の事業ニーズが合致し、公共施設整備を公共が単独で実施するよりも官民連携による相乗効果などにより効率が向上する、一体的施設整備事業。
民間の参画により公共施設等の効率的整備が図られるほか、利用者の利便性の向上等のメリットが期待できる場合もある。また都市開発事業や、各種複合施設の整備など、種々の事業について可能性が考えられることから、官民連携施策の一環として積極的に推進していく必要があると考えられる。
第3類型:公共サービス購入型
  公共主体に代わって民間事業者が施設を整備・管理することが相当合理的であり、当該公共主体から対価を受け取るもの
民間事業者が建設・管理する施設から提供されるサービスに対し、公共主体が対価を支払うことにより、効率が向上する事業。
その適用が期待できるサービスの内容は例えば以下のようなものが考えられる。
・運営面を含めて民間に高度なノウハウがあり、このノウハウを活用しての効率的、合理的な計画・建設・運営が期待できるもの。
・施設の全部又は一部の耐用年数が短い又は技術革新が激しく施設の陳腐化が早い施設を必要とするサービス。
・ニーズの変動が大きい、又は将来ニーズが小さくなることが見込まれる公共サービス。
公営の美術館やスポーツ施設など、民間の運営ノウハウが期待できる分野については、適切なリスク分担の下に、管理・運営についてまで民間に委ねることにより、効率化のインセンティブが適切に働く方法を検討する必要がある。
なお、民間が施設建設を行い、それを単純に公共に貸与又は分割譲渡するようなものについては、単なる「ファイナンスリース」であって、民間による管理・運営に関する効率化のインセンティブが働かない上、後年度負担の肥大を招くなどの問題点を有しており、英国でもPFIとして扱われていないことに留意する必要がある。
V.推進のための環境整備
1.ファイナンス上の課題
(1)プロジェクト・ファイナンス導入の基本的考え方
日本版PFIにより社会資本整備が行われる場合、民間事業者は単独ではその多様なリスクを取りきれないと考えられる一方、企業の情報開示に対する投資家の要請が強まる中で自社の貸借対照表に巨額の資産と借入金を計上することに対する抵抗が強まっている。このような状況下、ファイナンス手法については、従来型のコーポレート・ファイナンス等に加え、プロジェクトの各関係者がノウハウを提供し、かつ、各自が負うリスクを限定しつつ、事業を最適化し、もって全体のリスクをコントロールするファイナンス手法であるプロジェクト・ファイナンスの導入も必要であると考えられる。

 
(2)具体的検討事項
  @ 介入権(step-in right)の確保
金融機関など関係当事者にとっては、リスクに見合ったリターンを得る上で、キャッシュフローの徹底した管理が不可欠である。したがって、金融機関に、債権保全の観点から自らが事業に介入し、事業者の交代などにより事業の建て直しを図る権利(介入権)を公共側が明示的に認めることが必要である。なお、介入権の前提として、事業を行う法的立場が移転され得ることを公共側が協定の中で承認する必要がある。
  A 第三者仲裁機関の設置等
ファイナンス契約等に関連して、当事者間で紛争が生じた場合に備え、第三者仲裁機関の設置、民事訴訟手続を利用しやすくする措置等の検討も必要となる。
  B 民間事業者間の契約関係について
PFI事業をプロジェクト・ファイナンスで行う場合には、民間事業者(金融機関と民間事業主体)間においても、今までにない契約関係が発生すると考えられる。その中の主なものを挙げると以下の通りである。
ア)担保
担保に関する課題は、当事者間の契約によりある程度解決することは可能であるが、プロジェクト・ファイナンスの円滑な普及のためには、以下について現行法制度の下での実現可能性を含めて検討が必要である。
(a) キャッシュフローに対する担保権の設定等
エスクロー(信託)口座に元利返済準備金を積み立てること等を事業者に対して義務づけることや、当該口座に対する実効性ある担保権設定を可能とする。
(b) その他の担保の拡充及び実効性確保
事業主体の将来保有予定資産に対する抵当権の設定、事業主体が有する売掛債権等の譲渡や担保化、株式に対する担保権の設定などを認めるとともに、その実効性を確保する。
イ)融資の確約
事業に係る協定締結後に予定された資金調達が支障を来たすリスクを軽減するため、当事者間の合意のみにより金銭消費貸借契約が成立するための検討や、金融機関が民間事業者から徴する約定手数料等各種手数料によって、結果的に臨時金利調整法等に抵触することのないよう検討が必要である。
ウ)商法上の配当制限の緩和
商法では会社の利益の一部を積み立てることとなっているが、PFI事業会社は有期事業であることから、利益のすべてを配当することができるよう考え方を整理する必要がある。
2.公的支援

(1)公的支援の基本的な考え方

  @ 公的支援の趣旨

PFI事業によって提供される施設は公共的なものであり、また、公共側の持つ社会資本整備のための計画と整合がとられているものであることから、PFI事業に対し一定の公的支援が行われることは妥当であるが、通常の公共事業の整備方式よりも公的負担が軽減されることが前提となる。
また、これらの事業がPFI事業へ移行されたことによって、例えば料金が高騰するなど、最終受益者が直接あるいは間接に不利益を被らないよう出来る限り配慮する必要がある。
このため、PFI事業者に対して、公的支援の具体的あり方について検討を行う必要がある。その際には、PFI事業者が状況に応じて最適な条件あるいは手段の組み合わせを選択できる、柔軟性の高い支援措置が提供されることが望ましく、そのルールについては協定で明確にする必要がある。
なお、公共施設により受益する地域は主として当該施設が立地する地域であるため、地方公共団体においてもPFI事業への助成を検討する必要がある。
  A 公的支援の項目別の基本的考え方
ア)補助
PFI事業の推進の目的から見て、従来型の公共事業よりも、財政負担が軽減されることが必要であるため、個々の事業ごとにみれば従来の国と地方の負担額に比べてその額が軽減されることが原則として必要である。
イ)税制
PFI事業において建設及び管理される施設は公共、公益的施設であることから、一定の軽減等を検討する必要がある。
ウ)融資
PFI事業者に対しては、現在でも政府系金融機関をはじめとする一定の低利、又は無利子融資等の利用が可能であるが、必要に応じ、当該制度の拡充や新たな融資制度についても検討する。
エ)債務保証、出資
公的機関による債務保証及び出資を検討する必要があるが、国による直接の債務保証及び出資については民間事業者の経営の自主性が損なわれないよう運用に当たっての配慮を要する。
この他、狭義の公的支援ではないが事業者の採算上重要な支援施策として以下のものがある。
オ)その他の公的支援
(a) 計画調整
PFI事業は、公共的な施設を整備するものであり、公共側の持つ社会資本の整備計画と整合をとって進められるものであるため、PFI事業の公的な整備計画への位置づけやその際に必要な調査や環境アセスメント等については公共側が行うことが適切であると考えられる。
(b) 用地取得
用地については、民間側が取得する場合、公共側が提供(有償・無償)する場合の双方が想定されるが、実際の用地取得事務については、ノウハウの蓄積等から見て、公共側が行うことが適切である場合が多いと考えられる。
これら以外にも、関連公共施設整備等の負担等が考えられるが、個々の事業案件により必要とされる支援の内容が異なる場合が多いことから、基本的にそれぞれの事業ごとに公共側と事業者間の協議によって決定していくべきものである
3.その他法制上の課題
(1)PFI事業者が公共事業の実施に参画するに当たっての法的な立場に係る課題
PFI事業を実施するためには、現行の公物管理法上の権限も整理した上で、私法人であるPFI事業者の法的な立場について事業の種類等に応じた検討が必要である。


(2)長期債務負担行為に関する課題
PFIの実施については、公共側からPFI事業者への長期にわたる債務の負担が想定されるため、長期にわたる国庫債務負担行為を可能とすることが必要である。

(3)PFI事業者が公共が所有する土地等を有効に活用するための課題

  @ PFI事業者が事業を展開する上で、公共が所有する土地等をPFI事業に活用することが有効な場合がある。このため、国有財産法及び地方自治法をはじめ、土地等の使用を可能とするための措置が必要である。
 

  A 土地等の使用にかかる収入の会計上の帰属の規定について検討する必要がある。
  B 補助金が投入されている土地においてPFI事業を行う場合の考え方の整理が必要である。

 
(4)事業者選定や政府調達手続き上の課題
PFI事業を特許等の方式によらず、契約によって民間事業者に実施させる場合には、もっとも適切な応募者を総合評価により選定できるよう、会計法及び地方自治法の該当する規定について検討する必要がある。
また、民間事業者の選定について、政府調達手続との関係の整理が必要である。

4.推進のための情報公開等
 
(1)整備プログラムの情報公開
  @ 民間事業者が公共施設を対象にPFI事業を検討するためには、公共側により公共施設の整備プログラムの情報が公開されていることが必要である。
  A 民間事業者が個別の案件への参加の可能性を判断するためにも、他の案件に関する情報を含む整備プログラムが公開されていることが必要である。

 
  B PFI事業は、公共性の高いものであるため、地域住民に対しても整備プログラムや個別案件の情報公開を進め、手続きの透明性、客観性を高めることが必要である。
(2)官民連携組織の設置
PFI事業への参加者は、従来の公共事業関係者に加え、金融機関、保険会社、コンサルタント等と多岐にわたる。PFI事業を我が国における社会資本整備方策として確立していくためには、事業の発掘、相談等を行うための、PFI事業関係者が常時情報交換できる場として官民連携窓口の設置が必要である。
事業の促進及び総合調整機能を有する、英国のタスク・フォースのような機関も必要である。

(3)推進のための周知措置
PFI事業の推進に当たっては、公共主体、民間事業者や住民も含め参加者全体が情報を共有することが必要である。関係者の理解を深めるため、説明会等の開催など周知を十分行う。
 
 

W.事業の実施手続きの例
 
日本版PFI事業を実施する際の主要な手続きの流れ、及び各段階における考え方については、PFI事業の類型やリスク分担の相違によって様々なパターンが考えられるが、本章では一つの例を示す。
また、第2類型のPFI事業では公共施設と民間施設との位置関係が重要であり、例えば公共施設と接している土地を有している民間事業者と公共主体の共同事業などが考えられる。このような場合には以下による手続きが必ずしも適切でない場合があるため、これに代わる透明かつ公正な手続を踏む必要がある。第3類型の事業についても同様な場合がある。
1.事業の発意
PFI事業は、民間事業者の創意工夫を発揮するものであることから、その実施については、民間側からの発意があることが望ましい。しかしながら、公共的な施設を建設するものであり、その発意の内容は、当然に公共側の持つ社会資本の整備計画と整合性をとる必要がある。このため、公共側は、民間事業者がPFI事業の検討を行えるよう、あらかじめ公共施設の整備プログラムを公開する必要がある。
また、特に導入当初においては、民間事業者の発意を待たず、公共側が、民間の参画による事業の実施が適当である、又は、その可能性があると判断し、事業の参加について民間事業者の公募を行うことも必要であると考えられる。
なお、公共側の整備計画等に掲げられていない事業について民間事業者の発意があった場合には、計画との整合性等を含めその事業の適否を検討するものとする。

 
2.事業者の募集
(1)公告の内容、方法
公共施設等の整備に民間の参画を求めようとする施設の管理者等(国、都道府県、市町村、公社・公団等)(以下、管理者という。)は事業の趣旨、事業の内容、参加者の資格等の公告を行う。

(2)参加意向の申し出
事業に参加する意向のある民間事業者は単独で又は共同で、管理者に対して以下の事項を申し出る。
・事業者又は事業者となろうとする者
・事業の概略提案書
・事業の資金調達の方法
管理者は、民間事業者からの参加意向の届出があった者に対して、事前資格審査を行うものとする。管理者は、その結果について選考、不選考の理由を明らかにして参加意向を届け出た者に通知する。
 

(3)事業者募集要綱
管理者は、事前資格審査通過者(以下、応募者という)に対し、募集要綱を配布する。募集要綱は、評価項目・基準、法律・条例等の規制内容、環境アセスメントや事業箇所についての技術的・経済的データ、事業化のために必要な諸条件等をより詳細に説明したものとする。

 
(4)提案書提出
応募者は、定められた提出期日までに管理者に対して募集要綱に定められた事項に則した内容の事業提案書(提案書)を提出することができる。

3.事業者の選定

 
(1)提案書の評価
提案書の評価は、次の視点で行う。
  @ 事業に係る協定期間内の公的支出必要額(割引現在価値)の大小(従来方式との比較も行う)
  A 管理者から民間側へ移転される事業リスクの内容とその度合い
  B 工期の短縮化等、事業者からの創意工夫、施設・サービスの内容
  C 事業実施計画の安定性・堅牢性
また、その評価基準は客観性・透明性が十分確保されたものとする必要がある。

 
(2)優先交渉権者の選定、条件交渉の方法・内容
管理者は、提案書の評価の結果、優先交渉権者及び次点者を決定し、その結果を当該応募者に通知する。
管理者は、決定した優先交渉権者と事業に係る協定の内容について協議を行い、内容を確定する。協議の結果、管理者と優先交渉権者との間で合意が得られない場合には、管理者は優先交渉権者の決定を取り消し、次点者と同様の協議を行うものとする。
(3)事業者の決定
管理者は、優先交渉権者との間で、契約内容について最終的な合意がなされた場合において、その優先交渉権者を当該事業における事業者として決定する。

4.事業に係る協定の締結

 
(1)事業会社の設立
事業者は、事業実施に当たっては、自らが行うリスク管理手法を踏まえ、個別のケースに応じた最適の形態の独立事業会社を必要に応じて設立する。
また、事業の規模や内容、参加企業の財務的能力などによっては独立事業会社を設立しない場合もある。
(2)事業に係る協定の締結
事業の内容と責任分担を明確にするために、管理者と民間事業者の間で締結する協定には以下の事項の中から必要な項目を盛り込むものとする。協定内容は、事業者の決定時における合意内容と大きな差異があってはならない。
  @ 事業の内容(管理者と民間事業者の事業範囲の明確化)
  A 民間事業者の法的立場
  B 協定期間
  C 事業内容の変更(料金徴収を行う事業に当たっては料金改定を含む)
  D 事業の継続義務(事業者は公共施設として事業継続を最優先する)
  E 管理者と民間事業者の負担額、負担時期(財政的、金融的支援措置を含む。)
  F 不可抗力についての定め
  G 責任の分担(リスクの分担を含む)
  H 事業承継
  I 破綻時の対応
  J 協定義務の不履行の場合の対応
  K 協定期間満了時の処理
  L 係争処理 等
5.資金の調達
民間事業者は、コーポレート・ファイナンスやプロジェクト・ファイナンスなど多様な資金調達手段の中から、自らの責任において最適と考える手法により資金を調達する。
6.事業破綻時の対応

 
(1)民間側による事業修復の実施
何らかの事由により協定に係る義務違反が生じた、又は生じるおそれのある場合、公共側は、協定で定めたとおり、民間事業者に事業修復の機会を与えるとともに、株主、金融機関等の関係者に対しても事業修復の手法(介入権等)を与え、当該事業者や関係者は相応の期間中に事業修復を行う。
 
(2)事業破綻時の公共側の対応
PFI事業者及び関係者(金融機関、株主(スポンサー)など)が、事業修復期間中、事業修復の合理的努力をしたにもかかわらず、それが功を奏さず、事業者により施設が閉鎖又は放棄されるおそれがあると判断される場合、公共側は破綻の帰責事由により以下の方法による対応を行う。なお、これらの判断基準、対応方法は事業に係る協定の中にあらかじめ明記する。公共側の施設承継権の第三者対抗要件については、別途検討を要する。
@ 管理者の帰責事由による破綻
事業協定を終了し、管理者が借入金等の負債の返済並びにスポンサーの出資分及び一定のリターンを含む価格で全資産を事業者から買い取る。
A 不可抗力による破綻
プロジェクトの性格、所在地域、保険付保の有無等の要素を考慮して、不可抗力事由の内容及び不可抗力事由が発生した場合の対応方法を協定において定め、当該方法によって対応することが望ましい。なお、この対応方法の一つとして、下記B以降の方法による対応を行うことが考えられる(ただし、承継価格については別途の考慮をする必要がある場合もあると考えられる)。
B 事業者の帰責事由による破綻
管理者は事業を継続させるか否かを判断する。事業の継続が必要でない場合には、当該事業の清算手続きに移る。事業の継続の必要がある場合は、当該事業者との事業協定を終了することを前提に、以下の対応を行う。
ア)管理者は別の民間事業者を公募し、事業条件を調整した後に事業協定を締結し、当該民間事業者にPFI事業を行う法的立場を移転するとともに、合意された価格で事業を承継させる。すなわち、市場において事業の価格を決定する。
イ)上記の手続きによっても、民間の代替事業者を選定できない場合は、全施設を管理者が引き受ける。公物管理法に基づく施設の場合には、その承継価格は、上記ア)の手続きによっても価格がつかなかったことに鑑み、原則、無償とする。
7.施設の移管
施設によっては、民間による建設の後、管理者側に当該施設を移管する場合があるが、この場合、建設後直ちに行われるケース、協定期間終了時に行われるケースなど、事業ごとに様々なケースが想定される。

 
(1)譲渡価格
管理者への移管は、無償で行う場合、あらかじめ定めた価格で行う場合、その時点での市場価格で行う場合などが考えられる。いずれの方法で移管するかは、協定の中で明記する必要がある。

(2)事業資産の有効な残存価値(耐用年数)の確保
事業者からの事業資産移管時において、有効な残存価値(耐用年数)を確保するため、協定において設備維持管理に関して定めておく必要がある。