平成12年度「手づくり郷土賞」講評

○選定委員長 小坂 忠
 今回の応募物件の全体的な特徴としては、「地域住民の参加・利用」、「歴史、文化など地域資源の活用」、「景観との調和」、「自然とのふれあい」が、多く見られたことです。
 「地域住民の参加・利用」については、地域住民を中心に多様な主体が計画、設計、管理など施設整備の様々な段階で、積極的に参加している事例がいくつもみられ、住民と行政が一体となって地域に根ざした施設整備を行っていこうという動きが広まっていると感じられました。地域住民が地域・まちづくりに主体的に参画することにより、地域コミュニティの活性化、住民間のコミニュケーションや公共施設への愛護意識の向上等が図られた事例も散見されました。今後とも、地域住民の参加は重要な観点であり、地域として様々なノウハウを蓄積し、地域全体の活性化に役立ていくことが期待されます。
 「歴史、文化など地域資源の活用」については、歴史、文化資源を地域全体で受け止め、統一したコンセプトの元で、地域の活性化や伝統文化の継承に取り組んでいる事例がありました。住民が地域の伝統文化や歴史をしっかり見据えながら、郷土を演出、創出していくという方向が定着し、地域として次世代に託し、伝えていきたいものを選択し、整備するという流れが様々な地域で具体化していくことが望まれます。
 「景観との調和」については、指導要綱や景観に関する計画に基づき整備を行った事例や自然景観、水辺景観、都市景観、歴史的景観等に配慮した事例が多数みられ、施設の整備を行っていく上で、景観やデザインを意識しつつ整備を行う方向にシフトしているように見受けられます。しかし、デザインの質、手法については、徐々にレベルアップしているものの、改善の余地も多く、今後ともさらに良質なものにしていく必要があります。
 「自然とのふれあい」は、地域の自然に対する関心の高まりの反映と考えられ、水とのふれあいに着目した事例が多数みられました。特に防災を意識しつつ整備を行っている事例があり、こうした工夫は今後各地に広がってほしいものです。このような施設は、整備後いかに地域に密着していくかが大切であり、今後の管理、利用面での住民の活躍が期待されます。

○酒井 孝 委員
 今回は、建物・橋・モニュメントの様に、施設や構造物を中心とした応募が比較的多く見受けられたが、手づくり・郷土を表現するには、そのコンセプトと表現の手法にもう一工夫あって良かったのではないかと感じた。
 その中で既存の施設、まちなみを地域の人たちの創意・工夫によって、リニューアルしていかに活性化させていくか。また、地域の歴史、伝統文化を上手に取り上げて、郷土を創出していくなど、いくつかの試みを見ることができた。
 まちなみ、水、緑に着目しながら歴史、伝統、文化をしっかり見据えて、地域の活性化、コミュニティの形成を図っていこうとする試みに応援を送りたい。
 15回を迎え、「手づくり郷土賞」が思いつきでなく、そこに住む人達の声をすい上げ、親しみを持って利用される空間として定着して行ってくれることを願っている。

○高橋 潤二郎 委員
 本年度の応募物件について、@整備に当たっての創意・工夫点からGその他までの評価ポイントを全体として眺めてみると、やはり地域資源を活用して整備に工夫を凝らし、その効果的な推進のために地域の人々が参加・協力し、日常的に利用され、身近な社会資本として着実で効果的な整備がなされているものと評価できる。また、今回は町村からの応募が全体の40%にあたる23件と大幅に増加した。その意味で、「手づくり郷土賞」の主旨がよく理解され、広く浸透しつつあるとともに、各地で美しい地域づくりが積極的に行われている意気込みが感じられた。
 今回の評価では、前述したように多くの注目すべき点が見られた。例えば、地域資源の活用では、自然資源に留まらず地域の歴史や文化を再考し、その探求に研究グループが結成されるなど、その保存や再生を推進しているもの。また、整備に当たっての創意・工夫では、景観との調和、バリアフリー化、体験や学習フィールドの構築を推進しているもの。さらに、地域の方々の参加状況では、計画段階から住民と一体となって検討がなされたものなど住民主導・行政支援のスキームが定着しつつあり、このことが維持管理においても住民の主体的な運営等へと連動しているのであろう。他方、環境への配慮では、応募物件から雨水の再利用、生物の生育環境の再生、風車による発電利用等いくつかの注目すべきものがあったが、全体としては評価しえるものが少なかった。
 こうした評価は、申請書類の内容に左右される。極力、本賞の主旨に沿うように比較し、行間にその意図を読みとるよう努力したが、訴求ポイントを簡潔にまとめられるようお願いしたい。
 時代は、未だ激動期にあり、地域づくりの中心的役割を担う地方自治体においても昨今の「分権一括法」の制度など自主的な地域運営が期待されているが、財政状況など地方自治体を取り巻く環境は極めて厳しい。しかし、今回の応募物件においても住民と行政の適切な役割分担のもとに身近な社会資本が整備されており、住民主導・行政提案のスキームを地域特性に反映する地域づくりへビルトインすることが重要である。
 住民、行政、関連主体等の努力によって構築された身近な社会資本が「美しい私の郷土」を形作ることになろう。こうして構築された案件が多く応募されることを期待したい。

○田村 美幸 委員
 今回は事前から住民を巻き込んで意見を聴き、完成後には維持管理に住民が関わるという事例が多くなったように思うのは私だけだろうか。これは時代を反映している現象といえる。住民が欲しているものを造ることで、住民の関心を呼び、自分たちの物という意識が生まれて大切に思うようになるだろう。今までのように行政の判断でやたら立派な構造物を造ったは良いが、地域住民に利用されないという結果を避けるための知恵と言えよう。公共事業は、立派な外観の構造物を創り上げるのが目的ではなく、住民の活動を活発にするために、住民のしたいと思う活動ができるような空間づくり、舞台を用意するのが目的であって欲しい。住民がどういうものを欲しているか、事前の聴き取りに時間をかければ、住民はできあがったものをより有効に使うことを考えるであろう。
 社会が求めているものと言えば、例えば名古屋の「ランの館」は現代のガーデニングの流行に応えているものだし、また六日市町の「安蔵寺山麓ゴギの里」はアウトドアライフの流行に対応している。他にも大田区の「蒲田駅東口(区役所前本通り)」で、最初からゴミの集積場所を道路上にデザインするというのも、これからの道路整備の方向性を示していよう。また、工種が道路整備事業となっている事例の中に、公園と名がついていて公園の機能を持たせた緑道となっているものがいくつかある。これも都市の中では緑地としての公園の大きなスペースが確保できなくなり、グリーンベルトとしての緑だけでも繋げていこうとする努力で、日本の現実を反映していると言えよう。

○中村 良夫 委員
 単体事業ではなく、河川、道路、海岸等を中心とした総合事業に魅力ある作品が多かったと思う。公園事業等は単独であっても、造園、土木、建築等デザイン分野の統合を行うと、やはり質が高くなるようである。
 毎回のことながら、デザインの質については、まだ改善の余地があるといわざるを得ない。特に、子供の歓心を買うような幼稚な着想を早く卒業してほしい。
 以上の二点に注意しながら見ていると、やはり古い街並みや集落を主題としたものは、あっさりしたデザインでも見応えがあり、品も良く本格的な水準に達している。
 全体としてみると、デザインやプロデュースの責任者の名が個人として上がってこないのは、やはり不自然ではないだろうか。今後の課題であろう。
 全体として、ややゆきずまり感があり、推奨できるものが少なかった。この点を改良するには、デザインの質を保障するデザイナーやプロデューサーの関わり方と責任の取り方に工夫が必要ではないだろうか。

○西村 幸夫 委員
 全体的にシンプルで自然味にあふれ、適度な規模内におさまっているプロジェクトに好感を覚えました。また、そうした事業が着実に増えているという印象です。加えて、さりげなさを演出するデザインのセンスが急速に向上してきていることを実感します。
 また、参加型のデザインの手法も徐々にレベルアップしてきています。結果としてのデザインレベルも向上しています。自然らしくという目指すべき方向が共有されるようになってきたからでしょう。
 他方、大規模なハコモノは一層後退を余儀なくされているようです。

○藤原 まり子 委員
 今回は、歴史、文化資源を核にした整備の中に、地域の住民の意識の高まり、文化への誇りが強く感じ取られるものがあり、自分たちのふるさとへの思いが、社会資本を支える上で重要であることを改めて認識させられた。そこには、そこで今暮らしている人々の生活があり、その生活を大切にすることが、ふるさとを大切にすることと教えられた。
 水辺の空間を治水、親水の両面から考えた計画も、今後のよいモデルになるのではないだろうか。
 農業、田畑の修景事業にも期待する。もっと多くの地域で取り組んでほしい。

○藤吉 洋一郎 委員
 非常に完成度が高いというか、レベルの高いものが多かった。その分、予算も高額のものが多くなり、反面、いわゆる「手づくりの風味」が乏しくなっているのは否めない。
 とにかく、人がやって来るなら何でもやってみようという傾向が全般に見られるが、過疎地域の問題等は、ただ人が集まるだけでは解決しない。
 河川空間の利用についても、同じようにやたらとたくさんの人を集めようという向きがあるが、河川とか水辺とか自然環境をそれらしく維持する最良の方法は、できるだけ人が近づかないようにすることではないだろうか。群れて住む都会と、むしろ自然の中に人がしっくりとおさまって住む田舎とでは、それぞれの暮らし方には違いがあって当然ではないだろうか。
 手づくりの郷土は地域の特性を活かし、時代を超えて生き続ける社会資本に支えられるものであり、そのためには今後メンテナンスに人手と金のかからないものをめざすことも忘れてはならないと思う。

○風岡 典之 委員
 個性、魅力、活力ある自立的な地域づくりを推進していくためには、地域の方々が施設の整備のみならず、その施設の維持管理や利活用に積極的に参加され、地域の歴史、文化など地域資源を活用しつつ、魅力あふれる社会資本としていくことがその第一歩となると考えている。
 今回の応募事例のなかには、地域の方々が主体的に整備のみならず、維持管理、利活用に参加され、その取り組みを通じて、住民間のコミュニケーションの向上、地域コミュニティの活性化等が図られている事例がいくつもあり、今後自立的な地域づくりを推進していくうえでは、このような事例が全国に広がり、それぞれの地域の様々なノウハウを相互に役立てあえることが大切である。
 また、より多様な主体の参加と連携を進め、地域における様々な議論を通じ、個性と魅力にあふれ、地域の方々に親しまれる社会資本を整備するためには、今後とも行政が積極的にこれらの主体とパートナーシップを構築し、多様な主体による自立的な地域づくりを支援していくための様々な努力を続けていくことが必要である。


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