総合政策

平成24年度国土交通白書 有識者インタビュー[2]

 平成24年度国土交通白書では、『若者の暮らしと国土交通行政』をテーマとして、若者の意識や暮らしと、それを踏まえた今後の国土交通行政のあり方について考察した。白書の分析を踏まえ、今後のあるべき国土交通行政の方向性とは何か。今回は、若者の雇用等に知見を持っておられる横浜国立大学の近藤絢子准教授にお話を伺った。

 まずは、平成24年度白書をお読みになった率直なご意見をお聞かせください。

 住まい方や居住地の変化、交通手段の変化、外出や旅行の傾向の変化など、労働経済の分析の中ではあまり触れられることのない国土交通分野のデータや視点が特に新鮮で面白いと感じました。

 他方で、雇用や少子化については、他省庁の白書ですでに十分扱われてきた内容でもあるため、もう少し短くてもよかったという印象を受けました。雇用に関しては国土交通省に関連する産業(建設業・運輸業など)にフォーカスした分析の割合を多くすると独自色が出せたのではないかと思いました。また、家族構成の変化についても、住宅事情により密接に関連付けたら良かったかもしれません。

 白書では建設業や運輸業では、高齢化率が他の産業より高いことなどは紹介していますが、ほかにはどのような分析が考えられるでしょうか。

 他の省庁が出されている白書でも産業別に雇用の分析をしたりしていますが、やはり製造業とかサービス業などの分析が中心なんですよね。建設業や運輸業などについて、そのような分析ができれば、国土交通白書オリジナルな内容になると思います。あと、昨今ブラック企業などが話題になっていますので、国土交通関連の産業における長時間労働や深夜労働などの実態も分析してみるのも興味深いと思います。

 住宅に関しては、若者の都心居住傾向について分析していますが、この点についてはどのようにお考えですか。

 都心に若者が入ってきたのは、都心の住宅コストが以前よりも安くなってきたことが原因だと思います。ある程度金銭的に余裕があれば、都心に住むことが可能ですが、「ある程度」のレベルが最近では下がってきているのではないでしょうか。

 むしろ最近気になるのは、多摩ニュータウンなど、子供が独り立ちした時に高齢の親が家に残り、住民全体として高齢化が進んでいる地域です。このような地域では団地やコミュニティが維持できなくなる可能性があると思います。

 近藤先生は、学校を卒業し労働市場へ出るタイミングで不況を経験した世代は、就業率や年収が他の世代より低くなる傾向があるという「世代効果」と呼ばれる現象を研究されておられますが、今の若者世代の世代効果は今後どのように現れるのでしょうか。

 正規雇用者の所得が年齢とともに上昇していくのに対し、非正規雇用者の所得は年を重ねても横ばいであるため、今の30代で正規雇用者になれなかった人は、正規雇用者との間で、格差がますます拡大することになるでしょう。このため、経済が好況だった時に就職期を迎えた世代と、そうでなかった世代とでは格差が生じてきてしまいます。

 ただし、今の20代、30代の人達では、今後どうなるかは一概には言えない部分もあります。最近では雇用の流動性は高まっており、フルタイムのような非正規雇用など、正規雇用者とアルバイトとの両者の中間のような雇用形態が出てきたことも事実です。このような層にいる人々は、正規雇用に移る可能性がある程度あるため、単純に正規・非正規雇用の格差が広がっているとも言い切れず世代効果が薄れる可能性があります。ただし、ある程度の期間を非正規雇用として働いてきた人達が、正規雇用になって、それまでのギャップをすぐに埋められるかというと、簡単ではないことも事実です。

 住宅政策との関連では、親が亡くなって保証人がいなくなった場合、賃貸住宅に住めないような人が増えてくることが問題だと思います。このような背景からネットカフェや脱法ハウスに居住する者が増えてきているのかもしれません。

 図表14は各世代が若年期に経験した経済成長率を示しておりますが、このような経験が、今の若者の意識とどのような関係がありますでしょうか。

 若い頃に経験した成長率が人々の価値観に影響を与えているのは確かです。今の20代は生まれた時からずっと不況の中で育っており、物価は下がるものだと思っています。だから今すぐ持ち家や自動車を持たなくてもいいと思っているのでしょう。

 また、都心部の若者の車離れは感覚的にもわかる気がします。特に都心部では公共交通機関が整備されているので、車を持たなくても移動という目的は果たせます。一方で地方の女性の自動車利用率が高まっているのは興味深く感じました(図表162)。

 若者が旅行に行かなくなってきているという現象も若者の行動の変化を示す興味深い事例だと思います。大学でも学生と話していると、かならずしもお金がないから旅行に行かないという訳でもない気がします。アルバイトをしてお金を稼いでも、明確な使いみちがないという学生が多いからです。白書の中で「同行者が減っていることが一因ではないか」という分析がありましたが、そういう要因もあるのかと思いました(図表185)。

 中央大学の山田先生は、非正規雇用の人が増えて、将来への不安が高まっていることが、晩婚化や未婚化につながっているとおっしゃっておられましたが、実際、生涯未婚率が高まってきています(図表74)。その原因についてどのようにお考えでしょうか。また、男女間で生涯未婚率に差が出てきているのは何故でしょうか。

 そうした影響も十分考えられるのですが、実は、時系列トレンドをコントロールした後では、失業率などの景気動向を示す指標と出生率との間には明確な相関がないのです。一度その点を検証して論文でも書いています1

 男女で生涯未婚率に差が出てきているのは、2回以上結婚する男性が多いからだと思います。子供がいる夫婦が離婚した場合、女性側が子供を引き取ることが多いので、男性と比べ再婚がしにくいと考えられます。

 また、2005年から2010年にかけての生涯未婚率の上昇が目立ちますが、生涯未婚率は50歳時点で一度も結婚したことのない人の割合なので、今の若者の未婚率ではなく、バブルの頃若者だった人の未婚率が上がっていることを意味しています。これは男女平等が進み、女性でも専業主婦以外の選択肢が出てきたことも一因ではないでしょうか。

1 Y Hashimoto and A Kondo (2012)"Long-term effects of labor market conditions on family formation for Japanese youth". Journal of The Japanese and International Economies 26 (1) p1-21及び「不況時に人々は結婚・出産を控えるのか?」経済セミナー2011 23月号 特集『不況と結婚・子育て』参考。

 今後若者が、豊かな暮らしを送れるよう特に力を入れていくべき課題や、国土交通行政に望むことがあれば、ご教示ください。

 国土交通省に限らず、行政全般に対して望むことですが、最近では少子化には実は歯止めがかかってきています。おそらく、これまでに打たれてきたたくさんの対策の成果もあると思うので、どういった政策が効果的であったのかを見極めて継続・拡大していってほしいと思います。

 また、国土交通行政に望むこととしまして、都市部においては、今後も自動車の保有率が下がり公共交通以前が高まっていくことを踏まえ、妊婦や乳幼児連れでも使いやすい公共交通機関の整備をすれば、間接的にではありますが、少子化にも歯止めがかかるのではないでしょうか。その観点から、駅に保育所を併設する取組みはとても有効だと思います。

 また、さすがに朝の通勤時にベビーカーを押して乗り込む人は少ないですが、夕方のラッシュ時にベビーカーを持って電車に乗る人は割といて、一般の通勤客も不便ですし、ベビーカーを持ったお母さんたちも安心できません。たとえば、特定の車両をベビーカー優先車両とするなどの明示的なルール作りをして、ベビーカーを連れている乗客もその他の乗客も気持ち良く利用できるようにしたらどうかと思います。

 地方部においては、車が主な交通手段ですが、自力で運転できない高齢者が動きやすい(外出しやすい)まちづくりが必要だと思います。そうすることで、身内の高齢者のケアにとられる時間が減る分若い世代も活発に出かけるようになりますし、高齢者も1人で外出できるようになり、自立した生活を送ることができるでしょう。

 本日は貴重なお話を頂きありがとうございました。女性専用車両だけではなくてベビーカー優先車両も、というのは面白いアイディアかもしれませんね。

《プロフィール》

近藤 絢子
2001年東京大学卒業、2003年東京大学大学院経済学研究科修士課程修了、2009年コロンビア大学大学院経済学博士課程修了、2009年大阪大学社会経済研究所講師、2011年法政大学経済学部国際経済学科准教授、2013年より横浜国立大学国際社会科学研究院准教授。

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