総合政策

平成26年度国土交通白書 有識者インタビュー[2]


 平成26年度国土交通白書では、『将来世代にわたる豊かな暮らしを実現するための国土・地域づくり~対流促進型国土の形成~』をテーマとして、「個性ある地方の創生」に焦点をあて、本格的な人口減少社会における国土・地域づくりについて「ヒト・モノ・カネ・情報の流れ」や「コンパクト+ネットワーク」といった視点から分析を行い、今後目指すべき国土交通行政の方向性について考察した。白書の分析を踏まえ、今後のあるべき国土交通行政の方向性とは何か。今回は、中山間地域政策に知見を持っておられる島根県中山間地域研究センターの藤山研究統括監にお話を伺った。









 平成26年度国土交通白書を読んだ率直な感想をお聞かせください。



 今回選定されたテーマは重要な視点だと思います。「違い」を「つなぐ」から価値が生まれる。これからは、地方自らが個性を主張することの重要性に気がつく必要があると思います。これまでは都市と地方の格差をどう是正するかについて考えられてきました。格差是正とはそれぞれの個性ということよりも、皆、同じレベルになりましょうということですよね。今だからこそ、「個性」に着目することは意味があると思います。現在は地方の均質化が過剰に進んでいて、いわゆる郊外ロードサイドの風景など、どこに行っても同じような印象です。国土のあり方からすると「個性ある地方」ではなくなっています。この点で、個性に着目した創造的な揺り戻しが必要だと考えています。



 今回の白書の中で、特に関心を持った視点は何でしょうか。



 皆さんに「コンパクト」と「ネットワーク」を正しく理解してもらう必要があると思います。「コンパクト」を実現するためには周辺部を切り捨てて良いんだ、という論理にならないようにしないといけません。「小さな拠点」も同様に、周辺集落の切り捨てではなく、周辺集落を守る「砦」をつくろうということです。

 コンパクトにすべきは地域の「結節機能」です。地方都市だけに居住を集中させようとすると、地方都市は大都市圏を中心とするグローバル経済の末端機能でしかなくなってしまいます。裾野に根を張ってこそ、地方の中心部が高い機能や価値を持ち得るのです。「裾野なくして高みなし」です。



 では、「コンパクト+ネットワーク」の考え方を地方において実現していく上での課題は何でしょうか。


 地方都市がどのように発展してきたかというと、周辺の裾野まで根を下ろして、周辺地域と交流したことにより、富や価値が生まれ、中心性・中枢性が生まれてきたのです。つまり、「コンパクト+ネットワーク」は重層的であることが重要なのです。重層性は地元レベルの「コンパクト+ネットワーク」から始まります。具体的には小さな拠点と、そこから各世帯に至るネットワークです。次に、小さな拠点とつながる二次的な拠点です。人口でいうと5万~10万人の地方都市でしょう。ここには総合病院や高校などもあり、基本的な生活が日々営まれている圏域です。次は、大学や高度な専門性を持つ病院、デパートなどがある、より高次な圏域である三次的な拠点です。

 このように、地元から始まり補完していくような、拠点とネットワークを重層的に積み上げていくための設計原理が必要だと考えています。これからは、この考え方をどう深化させていくかの具体論に入るべきと考えています。

 例えば、本来、地方で生活する喜びとは、少量多品種の産品があるという点です。ところが、現在では地場流通が全体として弱くなってきています。昔は地方の卸売市場が盛んで、産品の大半が地域内で流通していたのですが、市場が大きい東京や京阪神に出荷することが奨励されて、一部の産地は栄えたが全体としては地盤沈下してしまいました。海産物でも農産物でも、都市部に流通させるためには同一品種、同一サイズの産品が多量に必要となり、それ以外は廃棄されてしまいます。地方の豊かさとは自然の豊かさであり、自然の豊かさとはロングテール、つまり少量多品種生産です。その多種多様なものを少しずつ消費することで、資源が枯渇することのない持続可能な社会が構築可能なのです。これからの地方では、多種多様でサイズも様々な産品が暮らしの中に届く精緻な仕組みを再構築しなければならないですね。



 次に、地域内経済循環による地域活性化と地域間の対流を実現する上で、今後検討・解決してくべき課題についてご教示下さい。


 そもそも、域外からの調達が多すぎます。例えば、島根県全体でみると、住民所得と等しいくらいの額が県外に流出しているのです。実はこれを補填してきたのが、補助金、交付税、年金等なのです。持続可能な方法ではなく、国にとっても、地方にとっても健全な状態ではないのです。

 健全な状態に近づけるためには、域外への流出を取り戻すことが必要です。地元でできること、地方都市圏でできることをうまく組み合わせ重層的に取組めば良いのです。

 かつての中山間地域では食料や燃料などはほとんど自給していたのですが、実際にどうなっているのか、島根県の中山間地域にある約1,600名の村で調査してみました。すると、ベーシックな食料と燃料だけで4億円近くの需要があったのですが、これらの地元調達率は1割を切っていました。約3.6億円の「カネ」が域外に流出している計算です。このうちの半分を地元からの供給にすることで、約1.8億円を取り戻すことが可能になります。先に述べたような、少量多品種のものを無駄にせずに、まずは域内で流通させること。さらにはそれらを束ねて地方都市でも流通させること。中山間地域はそこまでできるポテンシャルを持っているのですが、島根の田舎の田舎でも9割を域外から購入しているというすさまじい状況なのです。

 イタリアの山村ではこの点、しっかり対応しています。例えばチーズやワイン、建具など、個性だらけ、一点ものだらけです。住民たちは地元の産品を食べる、その産品が個性になる、観光客が個性を求めてお金を使いに来る、そのお金は域外に出ていかず地域内で循環する、という良いサイクルになっているのです。内部循環性が高いことと、域外の人がオンリーワンの個性を求めて村にやってくることで対流が生まれているのです。ここまでもっていけたらとてもすばらしいと思います。

 イタリアの山村では人口500~1,000人程度の小さな基礎自治体(コムーネ)があるのですが、条例の制定権をもち、財政についても決定権を持っています。自らの地域の決定権を自らが持っており、戦略的に地域の個性を守る努力をすることで、自らの地域を守っているのです。



 「個性ある地方の創生」のために必要なことは何でしょうか。


 イタリアの例のように、個性ある地方の創生には、地域自らの意思決定が重要です。「コンパクト+ネットワーク」を含めた地域づくりは、個性の出発点ですので、自らが地域をデザインしていくことが重要です。このためには、地域全体をみて、分野横断的に地域住民をサポートする、いわば「地域マネージャー」のような人材が必要だと考えています。これは、これからの地方公務員に求められる新たな資質です。そのためには、地方ブロックごとに人材を育成する仕組みの構築が必要だと考えます。地方ブロックごとに大学院や大学校などを設置して、アジアやアフリカの次世代のやる気がある人たちも迎え入れて、新しい社会システムの構築を目指しても良いでしょう。そして、その仕組みをパッケージにして、新しい社会システムとして輸出できるようになればおもしろいですね。

 また、小さな拠点から各世帯へのつながり方も革新的になって良いと思います。拠点とのネットワークを次世代対応型にするのです。例えば、一昔前の里道(さとみち)を進化させたようなものを作ってみたらどうでしょうか。のどかに見えるけれど、実は最先端な里道を地域の末端からつくり出す。エネルギー供給網や情報インフラ網も里道の中に埋め込んでしまって、これらを活用して安全な無人運転を実現させる。新聞や野菜も無人運転で複合輸送したり、さらには自動で草刈などもできたらおもしろいですよね。夢みたいな話になってしまいましたが、ハイブリット型で戦略型の新しいネットワーク技術で、地域のみならず、地球全体を持続可能にする絵を描きたいですね。




 本日は、地域の個性や対流について、地域に根ざした視点からご示唆頂きました。貴重なご意見ありがとうございました。




《プロフィール》


藤山 浩

1982年 一橋大学経済学部卒業、2008年広島大学大学院社会科学研究科博士課程後期修了。(株)中国・地域づくりセンターなどを経て、1998年より島根県中山間地域研究センター勤務。2013年より島根県立大学連携大学院教授・島根県中山間地域研究センター研究統括監。博士(マネジメント)。『地域再生のフロンティア―中国山地から始まる この国の新しいかたち(共編著)』、『田園回帰1%戦略 地元に人と仕事を取り戻す』等著書多数。




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