総合政策

平成27年度国土交通白書インタビュー

 平成27年度国土交通白書では、「我が国の経済成長を支える国土交通行政の展開 ~生産性革命をもたらす戦略的なインフラマネジメント~」をテーマとし、我が国の経済成長を支える様々なインフラ整備とその効果(ストック効果)に焦点を当て、今後目指すべき国土交通行政の方向性について検討している。今回は、本白書に掲載の事業者アンケートを作成する際にアドバイスをいただいた、(株)三井住友トラスト基礎研究所の主席研究員福島氏より、専門とされる官民連携事業等の話を中心に、白書に関するご意見をいただいた。






 

 平成27年度国土交通白書をお読みになられた率直な感想をお聞かせ下さい。

 「インフラマネジメント」という言葉が国土交通白書のテーマとなったこと自体に、日本のインフラに対するパラダイムシフトを期待させます。インフラが「作る対象」から「(賢く)使う対象」へと変化する期待です。
 さらに、「戦略的」という言葉が付いていて、「インフラマネジメント」を単に考え方だけでなく、1つの産業にまで昇華させていこうという意図が感じられ、非常に興味深いです。
 建設業界などは、こうした動向にもっと敏感になっていいと思います。インフラを作る(土木・建設)だけでなくマネジメントしたり、使い方の提案を行ったりと、ビジネスモデルを広げるチャンスがあるためです。ビジネスモデルが広がれば、業界全体の活性化や担い手不足の解決にもつながるかもしれません。


 白書で紹介している、各地の効果的なインフラ整備の事例について、特に関心をお持ちになった事例・視点等をお聞かせ下さい。

 インフラ整備における対照的なソリューションという意味で、品川シーズンテラスと京都丹後鉄道の二つの事例を挙げたいと思います。典型的な都市型のソリューションと地方型のソリューションと感じたからです。ビジネスの効率性を求めるとソリューションもパターン化されがちですが、インフラ整備のソリューションは個別性が強く、実際にはパターン化しづらいはずです。効果的なインフラ整備のためには、むしろそれぞれの特性を意識することが重要になると思います。
 品川シーズンテラスの事例は、環境への配慮や公共側の費用負担がないことなどの特徴もありますが、ソリューション上の大きなポイントは「土地空間の有効活用」です。これは、土地の価値の高い都市部でないとなかなかできません。逆に東京などは、こうしたソリューションをインフラ整備にもっと活用していくべきと思います。



 

 一方の京都丹後鉄道の事例は、地方におけるインフラ再構築の典型的なソリューションを示しています。鉄道の不採算路線の問題は、今も多くの地方に存在しますので、参考にできる部分も多いかと思います。ここで使われている上下分離方式は、鉄道事業の再構築に有力な手法の1つですが、手法の導入だけでは十分と言えません。まちづくりとの連携や、外国人など観光客を強く意識して地域一体となった取組を行った点がポイントと言えます。
 このように、効果的なインフラ整備には、いかにそれぞれの特性を取り入れ、アイデアを創出し、そして実現させるかが鍵となります。ソフト面のアイデアとハード面のアイデアを融合させ、全体をリードできる人材の育成も重要になるでしょう。

 

 民間事業者に行った、インフラ整備に関するアンケートについて、関心を持たれた視点やご意見をお聞かせ下さい。

 第3次産業に焦点を当て、生産性向上とインフラの関係を分析したものが面白いと思いました。第3次産業は、事業として直接的にインフラと関わることは少ないですが、間接的な、また独自の効果をインフラに見出し、利用しようとしているように見えます。インフラによる「賑わい空間の創出」という回答に、それが表れていると思いました。
 これは、空港で言えば、本源的な航空系事業ではなく、商業施設としてのターミナルビル運営や空港周辺でのまちづくり。道路でも、サービスエリアや周辺での開発事業。さらには、プロジェクションマッピングを活用して、ダムやゴミ処理施設を集客施設にする試みなど、いずれもそのインフラ本来の効果ではなく、付随する間接的な効果を活用したものと言えます。フロー効果でもストック効果でもないインフラの第3の効果と言えるのかもしれません。
 ただ、この論点は、インフラマネジメントにおいても非常に重要です。本来“稼げないインフラ”が“稼げるインフラ”になると、インフラ整備、インフラマネジメントが、1つの産業として成り立つ可能性が高まるためです。例えば、建設業と第3次産業が融合して新しい付加価値を創出できれば、革新的な産業が生み出せるかもしれません。



 

 一方、東日本大震災から5年が経過しても、防災・災害対策への意識が高いままという結果には、少し安心しました。特に日本においては、防災・災害対策とインフラは密接にリンクするため、強靱化は常に無視できないテーマとなります。今回追部として記載されている熊本地震でも、避難場所としての公共インフラ(庁舎、体育館等)のストック効果が、改めて認識されました。庁舎などは、これまで“整備リストの最後”という考え方が強かったかと思いますが、これを境に見方が変わるかもしれません。

 また、国民(個人)対象のアンケート(モニターアンケート)で、住民参加によるインフラの維持管理への関心が高かったのも、興味深く思いました。日本全体として人材不足が顕著になる中で、全てのインフラの維持管理を自治体職員や受託企業が請け負うだけでは足りず、地域住民の力を借りることも必要になってくるでしょう。こうした場合に、長崎をはじめいくつかの地域で先行的に行われている橋守・道守のような制度は参考になるはずです。その場合、例えばインフラを規模別に分類し、大規模なものは民間事業者、中規模は自治体職員、小規模は地域住民などと、維持管理の担い手を振り分けていくようなことが考えられるかもしれません。こうした取組が、インフラマネジメント産業の健全な成長につながっていくのではないかと思います。


 官民連携の取組を更に進めていく上で、今後、検討・解決していくべき課題について教えて下さい。

 官民連携においても、民間が“インフラを作る”ことではなく、“インフラを運営する”方向で、もっとノウハウを提供しやすくするべきと思います。そのために、現在、空港や道路などで進められている(文字通り)“運営”権、つまりコンセッション方式の導入促進も重要かと思いますが、一方でその手法だけにこだわる必要もないかと思っています。
 日本のコンセッション方式は料金収入の存在が必要となりますので、例えば道路では、有料道路にしかコンセッション方式は導入できません。しかし、日本全体で見ると、有料道路より一般道路の方がはるかに多く、マネジメントに関してもより深刻な問題を抱えています。こうした料金収入のないインフラにも、民間運営のノウハウを提供しやすくなる仕組みが導入できれば、官民連携ももっと広がりが持てるのではないかと思います。
 例えば、民間運営の質をきちんと評価し、それに応じて対価を支払うような仕組み(アベイラビリティ・ペイメント、ユニタリー・ペイメントなど)をもっと導入できれば、民間側のインセンティブも高まり、効果的なインフラ運営ができるかもしれません。ただ、こうした場合、自治体など公共側の役割も、従来とは大きく変わっていくことを認識する必要があるでしょう。

 一方、さらに先のステージになるかもしれませんが、官民連携の案件にも、年金基金や保険会社などの金融投資家の投資資金が、もっと活用されるようになればと思います。海外ではこうした「インフラ投資」が盛んに行われていますが、日本にはまだほとんど存在しません。官民連携で作るSPCの株式の一部に金融投資家が出資したり、稼働後のSPCの株式(の一部)を流動化したりすることなどがこれに該当しますが、これは建設会社などにもメリットのある話です。金融投資家の資金を一部活用することで、自らは早期に資金回収でき、その資金を別の新たなプロジェクトに投資することができるためです。


 今後、インフラが担う役割、またその整備効果を最大化するために、国土交通行政に対して望むことがあればご意見をお願いします。

 「戦略的なインフラマネジメント」と言っても、実際に民間がインフラの運営者として関与できる案件はまだまだ少なく、そうした案件を創出していく努力が必要と思います。インフラは国よりも自治体が所有していることが多いので、国がそうした自治体に対して、案件創出のインセンティブを付与する仕組みができれば有効かもしれません。例えばオーストラリアには、州政府が既存の保有資産を売却し、その売却資金を新たなインフラ投資に充当する場合に、政府がその州政府に“ボーナス”を支給する「アセット・リサイクリング・イニシアティブ」という仕組みがあります。こうした事例は、参考になるのではないかと思います。

 また、従来のインフラの維持管理業務は収益性が小さく、民間にとって必ずしも魅力的とは言えなかったことから、今後は、事業の包括化や複数年化を進めることにより、魅力を高めていく工夫も必要になるでしょう。白書にも記載のある福島県の包括的民間委託の事例は、まさにそうした試みの1つと言えます。

 

 


 さらに、インフラ整備について先進的なアイデアやノウハウを持つ事業者が、より参加しやすく、また、より有利になるような入札制度を考えてみるのも一案かと思います。例えば、民間から本気の提案だけを集めたいなら、提案自体を有料にしてもいいかもしれません。その代わり、良い提案であれば、そのアイデアの守秘や何らかのインセンティブを付与するようなことが考えられるでしょう。

 そもそも「戦略的なインフラマネジメント」とは、自治体はもちろんのこと、民間事業者にとっても、また住民にとっても良い、いわば「三方よし」の理念に通じる施策だと思っています。行政には、そうした方向への“水先案内人”になっていただくことを期待しています。



 本日は、これからのインフラの整備のありかたについて、官民連携の視点からご示唆頂きました。貴重なご意見ありがとうございました。



《プロフィール》

福島 隆則

(株)三井住友トラスト基礎研究所主席研究員。早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了(MBA)。内外の投資銀行でデリバティブやリスクマネジメント業務に従事し、現職ではインフラ投資に係るコンサルティング、アドバイザリー、リサーチ業務。自治体向けの公的不動産(PRE)やPPPコンサルティング業務に従事。経済産業省「アジア・インフラファイナンス検討会」委員。国土交通省「不動産リスクマネジメント研究会」座長。国土交通省「インフラリート研究会」委員。国土交通省「不動産証券化手法等による公的不動産(PRE)の活用のあり方に関する検討会」委員など。早稲田大学国際不動産研究所招聘研究員。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)。著書に「よくわかるインフラ投資ビジネス」(日経BP 社・共著)、「投資の科学」(日経BP 社・共訳)など。


 


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