我が国の脆弱な国土条件と社会資本整備の現状を踏まえ、さらに迫り来る二十一世紀の本格的少子高齢社会の到来を展望すれば、早期に必要な社会資本整備を図っていくことが喫緊の課題である。
一方、公共事業については、工事の発注に関する批判から大規模プロジェクトの必要性を問う議論に至るまで、国民の厳しい視線が注がれてきた。
建設省では、これに対応するために、例えば公共事業の入札・契約手続きについては、透明性および競争性の向上を目的として、平成6年1月に閣議了解された「公共事業の入札・契約手続の改善に関する行動計画」に基づき、諸施策を実施している。
また、公共工事のコスト縮減については、平成9年4月に関係閣僚会議において、「公共工事コスト縮減対策に関する行動指針」を決定し、全省庁をあげて取り組んでいる。
さらに、公共事業の評価については、平成7年10月から「大規模公共事業に関する総合的な評価システム」を実施したのに加え、総理大臣の指示(平成9年12月5日)を受け、平成10年度から建設省所管公共事業について、「再評価システム」および費用対効果分析を含んだ総合評価による「新規採択時評価システム」を導入し、実施しているところである。
これらは、税金の使途を託された公共事業実施者の説明責任(アカウンタビリティ)の一環として、建設省が効率的かつ効果的な公共事業を透明性をもって進めていることを、国民に伝えるために、実施してきたものである。
このような努力は、一定の成果を上げつつあるが、公共事業に関して、国民の間にいまだ深刻な不信感が醸成されているのも事実である。
このことは、言い換えれば、ひとつは、建設省のこれまでの努力が十分ではなく、公共事業の実施方法等が国民から見て十分納得のいくものとなっていないこと、もうひとつは、建設省が事業の適正な執行に熱意を注いだ反面、何をしているかについて、「国民に説明する努力」が足りなかったこと、の2点が原因と考えられる。
すなわち、現在の公共事業に対する取り組みをこのまま続けるのでは、社会資本整備に関する現状と国民の認識の間に益々乖離が広がることが危惧される。
これに対応し、国民の理解を得ながら社会資本整備を進めていくには、@公共事業の各実施段階を、国民に対してさらに説明性の高いものへと改善を図ること、A同時に、幅広い情報を積極的に国民に提供し共有していくこと が必要であり、これが建設省に課せられた「説明責任(アカウンタビリティ)」であると考えられる。
このような認識を踏まえ、建設省では、平成10年9月に「公共事業のアカウンタビリティ向上委員会」を設置し、アンケ−トやヒアリング調査により、公共事業に関する国民からの意見を真摯かつ謙虚な姿勢で再確認し、これを踏まえ公共事業の政策企画から維持管理に至る全実施過程を総点検し、建設省全体が一貫性をもって取り組む「公共事業の説明責任(アカウンタビリティ)向上行動指針」としてとりまとめた。
建設省各部局および関係公団等は、平成11年度より本行動指針に基づき、一致協力して、総合的かつ具体的にこの課題に取り組んでいくこととする。
図−1.1 政策企画から維持管理に至る総点検のイメージ
(入札・契約、積算関係)
昭和57年6月 | 入札結果等の公表(閲覧)開始 | |
昭和58年4月 | 建設省積算基準公表 | |
平成6年1月 | 「公共事業の入札・契約手続の改善に関する行動計画」閣議了解 | |
平成6年4月 | 外部有識者で構成する入札監視委員会を各地方建設局で設置 | |
平成6年6月 | 一般競争入札制度、公募型指名競争入札制度を本格的に導入 | |
平成7年6月 | 年度予算成立後等における発注予定工事情報の公表を開始 | |
平成9年10月 | 入札結果等の公表(インターネット)開始 | |
平成10年4月 | 建設省直轄工事の予定価格の事後公表を開始 | |
平成10年10月 | 建設省直轄工事の予定価格の積算内訳の公表を開始 |
(コスト縮減関係)
平成6年12月 | 建設コスト縮減に関する行動計画策定、公表(建設省) | |
平成9年4月 | 関係閣僚会議において「公共工事コスト縮減対策に関する行動指針」決定、 公表(全省庁) |
(事業評価関係)
平成7年10月 | 大規模公共事業評価システムを導入 | |
平成10年3月 | 建設省所管公共事業再評価実施要領、新規採択時評価実施要領を策定 | |
→再評価システムを10年度より導入 | ||
→新規採択時事業評価は、10年度より原則として全ての事業で実施 | ||
平成10年6月 | 社会資本整備に係る費用対効果分析に関する統一的運用指針(案)を策定 | |
→各事業ごとのマニュアルを作成、改訂中 |
本行動指針は、広く国、地方公共団体等が行う公共事業全体を念頭においているが、直接的には、建設省および関係公団等を対象としている。
すなわち直轄事業および公団等事業については、政策企画から維持管理に至る公共事業の全実施過程を対象とするが、補助事業については、建設省が関与する部分(補助事業採択等)を対象とする。
公共事業は、他省庁および関係公団等でも実施されており、それらの組織において、今後、同様の取り組みが行われることを期待するものである。
また地方公共団体の実施する公共事業は、我が国の公共事業全体に占める割合が大きく、公共事業の説明責任(アカウンタビリティ)向上を図るためには、地方公共団体の積極的取り組みが不可欠と考えられる。
建設省は省内における取り組みが実績をあげ、具体的実施方法が明確になった時点において、各地方公共団体に対し、本行動指針を参考に同様の取り組みを行うことを推奨したいと考えている。その時点においては、建設省は各地方公共団体に対し、必要な支援を行うものとする。
建設省各部局および関係公団等は、本行動指針に基づき、公共事業の説明責任(アカウンタビリティ)向上のための諸施策を平成12年度末までに実施し、その効果が速やかに得られるよう努力することとする。