(1)水循環系における地下水a)異常気象時の地下水位低下
通常年における地下水汲み上げを要因とする地盤沈下は沈静化の傾向にあるものの、渇水年には通常水源 からの取水不足に伴って地下水が多量に汲み上げられ、地盤沈下が大きくなります。また、地下水を消雪用水の水源としている地域では、降雪量の多い年にも地 盤沈下が深刻化します。このように、通常年における地盤沈下が沈静化する一方、異常気象時における地盤沈下問題がいっそう顕在化する状況になっています。b)地下水位の回復・上昇に伴う新たな問題
また、1960年代前半以降の地下水採取規制の結果、大都市部における地盤沈下は沈静化しつつありま すが、地下水採取量が減少したことにより、逆に地下水位が回復・上昇し、1990年代以降、鉄道駅等の冠水、地下構造物への漏水、および構造物自体が浮き 上がるといった新たな問題が発生しています。この要因としては、これらの施設が地下水位が低下していた頃の水位を基準として計画・設計、建設がされてお り、地下水位の回復・上昇を考慮していなかったことが一因として挙げられます。c)多様な汚染物質の顕在化
トリクロロエチレン及びテトラクロロエチレンといった新たな汚染物質の顕在化に対応し、これまで逐次 環境基準の項目が追加されてきました。とくに近年においては、家畜糞尿や農作物等が汚染源と推定される硝酸性窒素や亜硝酸性窒素等の問題も顕在化していま す。これらの物質は、従来の浄水施設では浄化できない物質であり、イオン交換方式による浄化施設が必要となっています。d)地下水汚染に対する意識の高まり
各地方自治体においては、地下水質保全に関する条例を制定あるいは改正するなど、地下水質に関する意 識が高まってきている。工業用地では土壌・地下水汚染が顕在化し、事業主が環境対策として莫大な資金を投入して浄化対策に取り組んでいる例があり、土壌・ 地下水汚染を要因として建設工事が中止される事例も見られます。また、現在国際環境規格「ISO14000シリーズ」の一部として、工場跡地等の評価額を 算定する際、土壌・地下水汚染の評価を含む提案もなされています。
このような課題を解決し今後の地下水政策を検討していく際には、水循環系を構成する一要素としての地下水の役割に着目する必要があります。こ うした中、水に関する5省庁(環境省、国土交通省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省)は、1998年8月31日に「健全な水循環系構築に関する関係省 庁連絡会議」の設置を申し合わせました。これは以下の基本的認識に基づくものであります。
(1)今世紀後半以降の急速な都市域の拡大等により、平常時の河川流量の減少 や水質汚濁、地下水位の低下等、水循環の健全性が損なわれてきており、21世紀の持続可能な発展のためには、健全な水循環系の構築が重要な課題である。注) 【 健全な水循環系構築に関するページはこちら 】
(2)一方、健全な水循環系の具体的イメージ、実現方策等については、必ずしも十分に共通の認識が 形成されているとは言えない状況にある。
(3)各省庁は、それぞれの政策目的に応じて、健全な水循環系に関する取組を行うが、全体としてよ り総合的な施策効果を発揮するためには、関係省庁連携した取組が必要である。
ある流域(地域)における水循環機構の解明や水資源の評価を行う場合、当該地域の水収支を把握することが必要です。地下水の場合には図5-1 -1に示すように、対象とする地下水流動系における涵養・流出量を把握しなければなりません。
地下水において水収支を検討する場合には、水収支が成立する領域をどうとらえるかが実際問題として重要な課題となります。これについては、地下水域にお いて地下水面から難透水性基盤までを地下水の動態を示す地下水流動系として、ひとつの単位とするのが主流です。
健全な水循環系とは、図-5.1にあるような水収支のバランスが保たれた状態と解することができます。
健全な水循環系を構築していくためには、地下水流動系の規模や水文土地利用の状況等の地域特性に応じた地下水計画を立案していくことが必要です。
図-5.1 地下水の収支
(2)地下水に関するデータ整備の必要性
a)地下水データについて
地下水に関する調査としては、@地下水位及び地盤変動に関する調査、A水質に関する調査、B揚水量に 関する調査、C地形・地質に関する調査等があるが、以上のような観測データは、その地域の地下水解析に欠くことのできないものであるため、精度の高い長期 的な観測の継続が必要です。現在、地下水データに関してはとくに農業用取水量の実態把握の制度が問題となっています。また、地下水域の調査においては、地 形のほかに地質も合わせて十分調査を行う必要があります。b)地下水の実態把握の困難性
地下水は気象、水文条件や地質条件の影響を受け、正しく実態を把握することは非常に困難です。地下で の挙動について、様々な観測の組合せや室内モデル実験、あるいは数値シミュレーションによって推定することは可能ですが、自然の地質条件は均一ではなく多 様複雑であり、そのような媒体の中を流れる地下水動態を再現させることはきわめて難しいことです。
また、地下水涵養量を把握する上では、降雨量や地表水の量のほか、その地域の地下水が不圧地下水とし て賦存するのか、被圧地下水として賦存するのかという点も重要です。常時地表水が浸透する不圧地下水に対し、被圧地下水の場合はその採取による水位の低下 に伴い上下の粘土層から絞り出される水あるいは不圧地下水からの漏水で水量が維持されます。c)地下水データの収集・管理主体の分散
現在、地下水に関するデータの収集は、各省庁の政策目的に応じて行われています。さらに実際に調査さ れたデータを基礎資料として二次調査を行うなど、項目によっては複数の省庁、地方公共団体で調査が行われています。
このように、調査主体によって測定項目が異なるなど、調査方法や項目は統一されておらず、その所在・ 管理も一元化されていません。このため、地下水に関する総合的なデータの把握は容易ではありません。
このように、地下水を水循環系の構成要素として捉え、健全な水循環系を構築していく必要性が高まる中で、わが国では水に関する省庁が5省庁に 及び、地下水に関するデータもそれぞれ個別に収集・把握されています。また、河川水等の地表水と異なり、地下水はその実態把握が非常に難しく、その流動機 構を解明し、適正な利用・保全を図っていくためには、現在収集されているデータでは必ずしも十分とは言えません。
こうしたことから、健全な水循環系の構築に向けて、総合的な地下水行政を展開していくためには、地下水に関するデータ収集体制を強化するとと もに、収集されたデータを一元的に管理できるデータベース等を構築し、各関係機関が共有化していくことが必要と考えられます。