土 地 白 書 
 
 
 
「平成11年度土地の動向に関する年次報
 
告」及び「平成12年度において土地に関
 
して講じようとする基本的な施策」概要
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
平 成 12 年 6 月
 
国  土  庁
 

 
  本報告は,土地基本法第10条の規定に基づき,「土地に関する動向及び政府が土地に関して講じた基本的な施策」及び「講じようとする基本的な施策」を国会に対して報告するものである。
 
 
<平成12年版土地白書の構成>
 
 ○ 平成11年度土地の動向に関する年次報告
 
 第1部 土地に関する動向
 
    T 我が国社会経済と土地問題
     第1章 土地をめぐる百年
     第2章 土地を取り巻く社会経済の変化と土地の有効利用のための課題
 
    U 土地の動向
     第3章 土地利用の動向
     第4章 土地所有・取引の動向
     第5章 地価の動向
 
    V 土地政策の推進
     第6章 土地の有効利用に向けた施策の推進
 
 第2部 土地に関して講じた基本的な施策
   〜平成11年度において政府として土地に関して講じた各種施策を紹介〜
 
 ○ 平成12年度において土地に関して講じようとする基本的な施策
  〜平成12年度において政府として土地に関して講じようとする各種施策を紹介〜
 

 
<我が国社会経済と土地問題>
 
 
1.土地をめぐる百年(第1章)
 
  本年は,20世紀最後の年に当たることから,この百年間の我が国の土地をめぐる状況について,社会経済の変化に伴う土地利用の変遷や地価の動向,土地に関する諸制度の進展等を振り返る。
 
(1)土地利用の変化と土地に関する計画制度の変遷
 
@ 土地利用面積の変化
 
  宅地の面積については,昭和初期からほぼ一貫して増加しており,特に高度経済成長期以後に急激な増加が見られた。田畑については,一時期を除き横ばいで推移したが,昭和30年代後半をピークにその後減少した。
 
図表1 宅地面積推移(全国), 図表2 田畑別耕地面積推移(全国)
 
A 都市的土地利用の変遷
 
  明治初期には旧城下町における武家地の官公庁等公共施設用地や軍用地への利用転換,開港や工場開設,鉄道駅開設等に伴う都市の形成が見られた。さらに,明治後期以降の工業化の進展によって都市の過密化と住工の混在が生じ,都市基盤整備等が進められた。また,関東大震災後,東京では急速に郊外の宅地化が進行した。
  第二次世界大戦後の復興を経て,高度経済成長期には,人口と産業の急速な三大都市圏への集中が起こり,都市部における都市基盤施設の整備や郊外における大規模ニュータウンの建設等が進められた。いわゆるバブル期の地価高騰時には,大都市中心部における低・未利用地の発生,大都市圏における住宅立地の遠隔化が問題となった。
  バブル崩壊後は,住宅立地の都心回帰の傾向など,市街地が郊外へ拡大を続けてきたこれまでの土地利用にも変化の兆しが見えているが,大都市の既成市街地の再編や地方都市の中心市街地活性化等が課題となっており,その解決が急務となっている。
 
図表3 明治維新以後の都市の市街地形成の概観
 
B 農林業的土地利用の変遷
 
  明治から昭和初期にかけては,国営の開墾事業等が行われ,全国の農地は増加した。戦後は,農地の緊急開拓等が行われた。
  高度経済成長期に入ると,農地の転用が進み,都市郊外の農村地域のスプロール化による農業生産条件や住環境の悪化が指摘された。また,昭和50年代半ば頃から特に中山間地域において耕作放棄地の増大が見られ,国土保全の観点からも課題とされている。このためには,農村における土地の農業上の利用と他の利用との適切な調整を図ることや条件不利地域における耕作放棄防止対策等による農地の確保が必要とされている。
 
C 都市的土地利用に関する計画制度の進展
 
  東京市区改正条例の制定(明治21年),都市計画法等の制定(大正8年)と適用地域の全国への拡大(昭和8年)により,都市計画制度が整備された。
  戦後には,都市基盤整備,宅地造成に関して,土地区画整理法(昭和29年)等が制定された。昭和40年代に入ると,都市的土地利用の拡大と農業的土地利用との競合,郊外におけるスプロール化の進行が目立つようになり,計画的な土地利用と開発に対する規制の必要性が高まったため,都市計画法の全面改正(昭和43年)等が行われた。
 
D 農地・森林の利用に関する法制度の進展
 
  農地の権利移動や転用を許可制とする農地法(昭和27年)が制定された。農業振興地域の整備に関する法律(昭和44年)により,農業振興施策を農用地区域に集中させるとともに農地転用を規制する仕組みが整備された。食料・農業・農村基本法(平成11年)においては,農地の確保及び有効利用のための国の責務が定められたところである。
  森林に関しては,保安林制度などを柱とする森林法(明治30(1897)年)及び国有林野法(明治32(1899)年)が制定された。戦後に入り,戦中の乱伐と戦後の大量伐採によって荒廃した森林の保全を図るため,森林法(昭和26年)等が制定された。
 
E 国土利用計画法及び土地基本法の制定  
 
  我が国における土地問題の重要性にかんがみ,土地利用計画体系の総合性の確保等のための国土利用計画法(昭和49年),土地についての基本理念及び土地政策の基本等を定めた土地基本法(平成元年)が制定された。
 
(2)地価の動向
 
  この百年間の地価の動向について見ると,地価が特徴的な動きを示したことは戦前に1度あり,戦後の経済復興が一段落ついた昭和30年代以降については,昭和30年代半ば,昭和40年代後半,いわゆるバブル期の3回の地価高騰が認められる。
 
(大正8(1919)年頃を中心とする地価の動き)
第1次世界大戦後の復興需要への期待,貿易収支黒字による外貨流入と低金利などが地価上昇の要因として挙げられる。
 
(昭和30年代半ばの地価高騰)
工業用地や住宅用地需要の増大が地価高騰の背景として挙げられる。
 
(昭和40年代後半の地価高騰)
事業用地や住宅用地需要の増大に,ニクソンショック後の過剰流動性の増大と投機的な需要が加わった。
 
(いわゆるバブル期の地価高騰)
都心部の業務地の地価上昇を契機に,過剰流動性,住宅の買換え需要と投機的需要が原因となり高騰した。
 
(バブル崩壊後の地価の動向)
仮需要の減少により地価は下落に転じ,ここ数年,厳しい景気動向を反映して,地価の下落が見られた。
 
図表4 地価の変動率(他の経済指標の変動率との比較)
 
(3)土地の所有と利用をめぐる法制度の変遷
 
  我が国の近代的土地制度は,明治政府が近代的な私的所有権を認め,土地の自由な取引を認めたことから始まる。その後,借地法及び借家法(大正10(1921)年)が制定され,昭和16年には,正当事由制度が導入された。また,マンション供給の増加をうけて,建物の区分所有権に関する法律(昭和37年)が制定された。
  バブル崩壊後,土地の有効利用の実現が課題となっている中で,平成3年に定期借地権制度,平成11年に定期借家制度が創設され,その活用が期待されている。
 
(4)土地をめぐる諸制度の沿革
 
  そのほか,土地をめぐる制度として,不動産鑑定評価制度,土地税制,不動産金融制度,地籍に関する情報整備について制度の沿革を記述する。
 
 
2.土地を取り巻く社会経済の変化と土地の有効利用のための課題(第2章)
 
  近年の土地市場の構造的変化が社会経済に与えた影響を把握するとともに,土地の有効利用に向けた土地市場の条件整備や土地利用の課題を記述する。
 
(1)国民の土地に関する意識の動向
 
  国土庁の意識調査によると,国民の間では,土地を有利な資産とする意識は薄れているが,国民の土地・建物を所有しておきたいという意識は依然として強い。土地を所有したいとする理由については,生活の安定と利便性を重視する方向が見られる。
 
図表5 土地は預貯金や株式などに比べて有利な資産か, 図表6 持ち家志向か借家志向か, 図表7 持ち家志向の理由(複数回答)
 
(2)企業の土地に関する意識と所有・利用の動向
 
  企業においても,従来のように土地を有利な資産と考える意識は低下してきており,資産価値の増加を期待するのではなく,利用を前提とした資源としての側面を重視する方向が見られる。
 
図表8 今後の土地所有の有利性についての意識, 図表9 今後、所有が有利となる理由(複数回答)
 
(3)土地市場の変化と経済活動への影響
 
  我が国の土地市場は,バブル崩壊後の地価の下落などにより,土地の利便性や収益力が重視されるようになっている。
 
@ 収益力重視の傾向
 
  土地市場における収益力重視の傾向について,高度商業地(東京都千代田区,中央区)における地価の形成要因を分析すると,「実効容積率」との相関が最も高く,「最寄り駅からの距離」の相関が低下する一方,「地積」,「前面道路幅員」の相関が高くなっており,その土地の本来の収益力の差が地価に反映される傾向が強くなってきている。
 
図表10 高度商業地における地価と地価形成要因との関係
 
A 住宅選択の傾向
 
  土地市場が変化する中で,国民の住宅に対する意識にも,資産としての価値よりも利便性を重視して住宅を選択する動きが出てきており,東京圏の新規マンション立地は郊外から都心部への回帰傾向が見られる。
 
図表11 都心までの時間圏(東京駅〜自宅)別新規マンション供給戸数の推移
 
図表12 都市中心部マンション居住者の現住居選択理由(年代別・複数回答)
 
B 土地市場の変化と企業経営の動向
 
(企業経営の動向)
  情報化の進展や新会計制度の導入などの社会経済システムの変化が,これまでの含み益に依存した企業経営からの脱却の流れを加速し,企業は,収益重視の観点から土地の有効利用,保有資産の効率化を図る必要性に迫られていると考えられる。
 
図表13 企業が経営方針で重視する点(これまでと今後の比較)
 
図表14 企業の不動産に対する考え方の変化
 
(収益性を重視した企業の動向)
  外資系企業については,所有より賃借が有利と考える傾向が強く,都心区に集中している。
  情報関連産業については,東京都渋谷区を中心とした,インターネット関連サービス業,ソフトウェア業などのベンチャー企業の集積地が「ビットバレー」と呼ばれ,新規産業の創出・成長が新たなオフィス需要の発生・拡大を招いた事例として注目される。
 
図表15 渋谷駅周辺のインターネット関連サービス業及びソフトウェア業の集積状況
 
(4)土地市場の条件整備
 
  市場の構造的変化(利便性・収益性を重視した実需中心の市場構造)に対応して,土地市場の条件整備を行う必要がある。  
 
@ 収益性を重視した不動産の鑑定評価
 
  (社)日本不動産鑑定協会は国土庁と協力して,平成10年に不良債権担保不動産の鑑定評価に当たって留意すべき事項を,平成11年にSPC法に係る不動産鑑定評価上の留意事項を取りまとめている。
  今後,収益還元法について,その評価手法の精緻化と的確に適用するための条件整備を図る。
 
A 土地情報の整備・提供
 
  収益を重視した土地取引の前提として取引価格や賃料などの収益性に関する情報の整備・提供が重要となっている。国土庁では平成12年度から三大都市圏を対象に賃料インデックス調査などを実施することとしており,民間でも不動産投資インデックスの作成が進められているが,土地市場の条件整備の一環としてさらに検討を進めていく必要がある。
 
B 不動産証券化に向けた環境整備
 
  不動産の証券化は,土地の有効利用に向けた事業を実現するための手法として大きな意味を持つものと位置づけられる。
  その取組に向けては,収益力を重視した不動産鑑定評価,対象不動産の収益情報に関する情報の開示・提供,不動産投資インデックスの整備・提供などの条件整備が求められる。また,資金運用型スキームによる不動産の証券化に向けた制度化がなされたところであり,今後,こうした証券化商品の多様化の動きを通じて,不動産関連投資が促進されるものと思われる。
 
図表16 不動産証券化の仕組み
 
C 定期借地権制度・定期借家制度の活用
 
  「土地の所有から利用へ」という土地政策の理念に即し,土地の有効利用に資するものであり,一層の活用と普及が重要になっている。
 
(5)大都市圏及び地方圏における土地の適正利用に向けて
 
  国民のゆとりある生活空間の実現のため,大都市圏では都市再構築に向けた既成市街地の再編,低・未利用地の活用,地方圏では中心市街地の活性化や地域独自の土地利用調整など,土地の適正利用に向けての取組が重要な課題となっている。
 
@ 大都市の既成市街地における基盤整備の必要性と効果
 
  東京都区部の容積率の充足状況について,地理情報システム(GIS)を活用して分析すると,指定容積率が十分に利用されていない地区が広く分布している。
  次に,道路整備の効果を見るため,すべての道路を指定容積率を満たすのに必要な道路幅員にした場合を試算したところ,利用可能となる延床面積が大幅に増加する結果となったことから,道路整備は土地の有効利用に与える効果が高いことがうかがえる。
  また,道路拡幅に併せて敷地統合を行うことが,土地の有効利用の観点から,より効果的であると考えられる。
 
図表17 指定容積率が十分に利用されていない調査地区, 図表18 道路整備を行った場合の整備効果(東京都区部)
 
A 低・未利用地における定期借地権の活用
 
  保有する低・未利用地の有効利用のため地方公共団体が定期借地権制度を活用している事例について紹介する。
 
B 中心市街地の活性化
 
  地方都市では,中心市街地の活性化が課題となっている。平成10年に中心市街地活性化法が制定され,市街地の整備改善施策を充実するとともに商業等の活性化施策を講じており,平成12年4月15日現在で,215市町村,218地区において基本計画が策定されている。
 
C 地域の実状に応じた土地利用調整の取組
 
  地方圏においては,土地利用に関連する行政について地域の総合的な行政主体である市町村の役割が大きくなっている。身近な自然や景観の保全など地域ごとの土地利用調整の課題に地域の実状に詳しい自治体が多様な取組を行っている事例を紹介する。
 
図表19 穂高町土地利用調整基本計画図(一部)
 
 
 
<土地の動向>
 
 
1.土地利用の動向(第3章)
 
  我が国の国土面積3,779万haのうち,66%を占める森林(2,511万ha)及び13%を占める農用地(499万ha)は,いずれも微減の状況が続いており,5%を占める宅地と3%を占める道路は,逐年増加傾向にある。
 
図表20 我が国の国土利用の推移と現況
 
2.土地所有・取引の動向(第4章)
 
  土地取引件数は,平成9年,平成10年と減少したが,平成11年は,全体としては微増となっている。
  圏域別には,東京圏など大都市圏で増加している。
 
図表21 売買による土地取引件数の推移
 
3.地価の動向(第5章)
 
  平成12年地価公示により昨年1年間の地価の動向を概観すると,
  大都市圏においては,住宅地は前回公示とほぼ同じ下落幅であり,商業地は下落幅にやや縮小傾向が見られ,1割未満の下落となった。
  地方圏においては,住宅地は横ばい,商業地は前回公示とほぼ同じ下落幅であった。
  この結果,全国平均では,住宅地は△4.1%,商業地は△8.0%であった。
 
図表22 地域別対前年変動率
 
  また,大都市圏を27の地域に分けて,地価の動向を分析すると,
・ 住宅地では下落幅が拡大した地域と縮小した地域がほぼ半数ずつ
  (前回はすべての地域で下落幅が拡大)
・ 商業地では下落幅が縮小した地域は半数以上
  (前回は,ほとんどの地域で下落幅が拡大)
となり,大都市圏の地価は下落幅が縮小する動きが見られる。
 
図表23 大都市圏の地価動向の比較
 
 
 
<土地政策の推進>
 
 
4.土地の有効利用に向けた施策の推進(第6章)
 
(1)土地政策の目標を「地価抑制」から「土地の有効利用」へと転換した「新総合土地政策推進要綱」等土地政策の基本方向について記述するとともに,これらに基づく土地の有効利用・取引の活性化に向けた諸施策などを紹介する。
 
(2)今後,政府としては,国民のニーズの高いゆとりある生活空間の実現等を目指して,土地の有効利用・取引の活性化に向けた諸施策を一層推進していくことが必要であることを記述する。
 
(3)さらに,これを踏まえ実施された土地税制の見直し等について記述するとともに,土地利用計画の整備・充実,低・未利用地の有効利用の促進,土地に関する情報の整備・提供,国土調査の推進などの国土庁が取り組んでいる各種施策の推進状況について説明する。
 
 

 
 
問い合せ先:国土庁土地局土地情報課調査班
          TEL:03-3593-3311(内線7473,7476)
 
 

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