建設産業・不動産業

イノベーション戦略(骨子)

・建設産業は外注比率が7割まで上がり、専門工事業者が建設生産のプロセスの中でいわば中核的ともいえる役割。
・新規の建設投資について弱含みの将来予測、コストダウンの要請の強まりなどにより、現状のままで全ての業者が生き残ることは不可能。
・「建設産業再生プログラム」(平成11年7月1日策定)による優勝劣敗・淘汰の時代認識、自助努力による「選択と集中」のための企業戦略の推進等の問題提起は、専門工事業にもあてはまるもの。
・一部の専門工事業者には、経営革新、新分野進出、さらには連携等を通じた競争力強化の動き。
・依存体質から脱却して自立した企業を目指す自己改革の努力により、これからの厳しい市場環境に耐え得る専門工事業者が必要。なお、最近顕著となっている品質の確保や労働条件に支障となるような安値受注は建設産業全体の疲弊につながるものであることを認識すべき。
業種や規模に関わらず経営革新や経営力・施工力強化の意欲を有するすべての企業にとって経営革新等の戦略構築の際の道しるべ、指針となるものを目指して,「専門工事業イノベーション戦略」を提示。
 
 

1多様な建設生産・管理システムの形成

 
・これまで、公共工事の一部を除き、一括請負契約が主。
・発注者を取り巻く経済環境が激変し、コスト意識が高まる中で専門工事業者の技術力の上昇もあり、分離発注やCM方式などへのニーズも発生。
・多様な建設生産・管理システムの形成*1は、努力し、伸びようとする技術と経営に優れた専門工事業者にとっては、活躍の場を増やし、大きなビジネスチャンス。
・ただし、元請になるということは、それだけ大きな責任、リスクを負う覚悟も必要
 
分離発注*2について
 ・ひろく分離発注が発注者に選択されるためには、コスト縮減の効果、施工管理の効率性を明確にすることなどにより、発注者がより選択しやすい環境を作っていくことが必要。
 
異業種JV*3について
 ・一括請負(発注)方式に比べてコストの透明化、専門工事業からのVE提案の促進などの発注者からみたメリットあり。
 ・考えられる対象工事、対象業種、責任関係、契約のあり方等について検討が必要。
 
CM方式*4について
 ・コスト構成の透明化等による元請下請関係の合理化、専門工事業者の技術提案能力がより生かされるなどのメリット。
 ・CM方式が建設生産・管理システムの変革と生産効率の向上に与える影響は大。早急に検討が開始されるべき。
 
*1多様な建設生産・管理システムの形成:従来の一括請負方式以外に、例えば下請であった専門工事業者が何らかの形で元請として受注できる方式など、受・発注の新たな仕組みを作っていくこと。
*2分離発注:一件の建設工事を一括請負方式ではなく、工種ごとに分離して直接専門工事業者を元請として発注する方式。
*3異業種JV:総合工事業者と専門工事業者、あるいは異なる業種の専門工事業同士のJVなどが想定される。
*4CM方式(Construction Management):発注者の代理人あるいは補助者として、発注者の利益を確保する立場から、①品質管理、②工程管理、③費用管理を行う方式。
 
 

2経営力・施工力の強化

 
・下請業者の世界では、元請・下請の協力会社的な依存関係が強く、経営力・施工力の向上や、生産性向上のための「経営革新」のような取り組み、差別化への取り組みの経験が、概して希薄。
 
(1)競争力の強化~コストダウン及び差別化・高付加価値化の推進
 
①コスト管理能力の強化
 ・総合的なコスト管理能力の育成が必要。
 
②差別化・高付加価値化の推進
 ・新工法の開発、品質の向上、提案力の強化などの差別化、高付加価値化による競争力の強化が必要。
 ・連携による技術、工法等の研究開発も積極的に行うべき。
 ・中小企業経営革新支援法*1等の中小企業向けの各種の支援施策の有効活用を。
 
③専門工事業者の評価システムの確立
 ・元請や消費者に対して専門工事業者の技術力、品質等を適正に提案できるシステムの確立が必要。
 ・ステップアップ指標(専門工事業者企業力指標)*2について、元請や消費者が専門工事業者を的確に評価するために真に欲する情報を提供できるものを目指し、見直しが必要。
 
④経営者の意識改革への取り組み
 ・経営者の長期的展望や原価意識の徹底、企業発展のための創造性、意欲が不可欠。
 
⑤専門工事業における国際化・海外の建設市場への進出や、海外からの資機材の調達によるコストダウンを。
 ・外国人研修・技能実習制度についての総合工事業者の理解が必要。
 
⑥適正な競争の確保
 ・過度な地域要件の設定等の是正やペーパーカンパニーなど不良・不適格業者の排除が必要。
 
⑦安全確保への取り組み
 ・安全教育の推進等の取り組みが必要。
 
*1中小企業経営革新支援法:中小企業が単独又は共同で行う新商品の開発、生産、新たな生産の方式の導入等の経営革新等に対し、各種支援策を講じる中小企業立法。
*2ステップアップ指標:専門工事業者の施工力、経営力等の企業力を客観的に指標化し、専門工事業者自らの企業力向上に役立てるとともに、元請や発注者の評価に活用しようとするもの。
 
(2)競争力強化のための新たな組織のあり方
 
①多様な連携・取引先(営業エリア)を拡大するための連携、工事分野等において相互の特性を活かすための連携、技術開発を行うための連携など「異業種連携」も含めて多様な目的の連携の模索が必要。
 
②総合化と重点化・従来の業種区分を超えて、周辺業種も取り込むことによって、広範な業種を一括受注できるようにしていく総合化の道の検討。
 ・逆に得意分野に重点化を図り、ナンバーワン、オンリーワンを目指す選択肢の検討も。
 
(3)新分野進出
 
①様々な新分野進出機会の拡大
 ・今後の弱含みの市場において大きく成長するためには、積極的に新分野・業際分野への進出を検討することが必要。
 ・環境、福祉、リフォーム、メンテナンス、リサイクル分野等に専門工事業者にとっても様々なビジネスチャンスの可能性。
 ・施工計画・工事管理などに進出する可能性も。
 
②特にリフォーム・メインテナンス市場への進出
 ・リフォーム市場は、その将来性から、様々な産業の参入が見込まれる。
 ・リフォームの「戦国時代」を専門工事業者が生き残れるか否かは、市場の中で消費者の信頼を得られるかどうかにかかっているもの。
 ・消費者のアクセスしやすいリフォーム市場の構築(「入口」の改善方策)、消費者が安心できる施工の確保(「責任施工」の確立)、施工後も安心できる体制づくり(「アフターサービス」の確保)が課題。
 ・専門工事業界のリフォームへの取り組みは緒についたばかりであり、今後、具体的な取り組みが必要。
 
(4)専門工事業における情報技術(IT)の活用
 ・情報技術の導入、活用のための取り組みが積極的になされてきたとはいえない状況
 ・今後、専門工事業界においても、技術と経営に優れた企業を目指すにあたり、情報技術の活用を進めることは不可欠。
 ・社内での情報の電子化、顧客情報等のデータベース化、見積もり・図面等の電子情報化、リフォーム市場等での消費者への情報提供等、様々な可能性。あらゆる企業に情報技術の活用の可能性はあるもの。
 ・企業自ら情報技術の活用に早急に取り組むとともに、人材育成が必要。
 
(5)業界団体の新たな役割
 ・業界団体は、努力し、伸びようとする会員を助ける役割に重点を。
 ・業界団体リーダーの企画力、先見性が極めて重要。業界団体が主導的役割を。
 ・今後は業界団体の情報発信機能が重要。
 ・業界団体の連携、事務所の共同化、さらには統合など業界団体組織の効率化も必要
 ・横断的な団体たる建設産業専門団体協議会*のさらなる積極的な事業展開を。
 
*建設産業専門団体協議会:専門工事業団体、建設関連業団体等の業種横断的組織として、元下関係の適正化、経営力・施工力の強化、人材育成等の共通テーマについて情報交換、意見具申、共同の調査・研究などの活動を通じて建設産業全体の発展を図り、業界の近代化に貢献している。現在42団体が加盟。
 
 

3元請下請関係の適正化

 
・総合工事業者と専門工事業者の関係は、一つの仕事を分担して作り上げるパートナーであるにもかかわらず、現状では必ずしも対等な関係にない。
・元請、下請を問わず、建設業者は大変厳しい受注環境。下請業者への一方的なしわ寄せは、結局元請が自らの首を絞めるもの。
・施工力・経営力を強化し、自発的な判断、行動をし、新たな元請下請関係を築いていく気概を持つべき。
・取引相手の信用、支払い能力等は、当事者が自らの責任とリスクで判断すべきもの
・元請がコストを無視した価格で受注し、元請から下請がまたコストを無視した価格で受注するということを繰り返せば、いずれ建設生産・管理システムそのものが破綻
・できない仕事は受注を拒否するという選択肢の考慮を。
・行政においても、元請・下請間の適正な契約の締結等についての指導の徹底や、施工体制台帳の確認の徹底を図るための施工体制確認マニュアルの策定等の具体的方策に取り組むべき。
・協力会における過度な従属意識から脱却し、新たな関係の構築や市場の開拓に積極的に取り組むことが必要。
 
 

4人材の確保・育成

 
・長期的には、少子・高齢社会における労働人口の減少などに伴い、場合によっては技能労働力の逼迫が生じ、円滑な技術・技能の継承が困難になる可能性。
・人材の育成には多大な時間・費用を要する、優れた技能者等を抱える下請業者に対する社会的・制度的な評価が十分でない、技術・技能の継承の方法がいわゆる徒弟制的なものが多いなど、様々な課題。
 
①企業経営における戦略的人材育成の推進
 ・人材の確保・育成に関しては、長期的な経営方針に基づき、一つのマネジメントとして戦略的に取り組んでいくことが必要。
 ・各企業による組織的・体系的な人材育成マネジメントのあり方等について検討の必要。
 
②基幹技能者や多能工の確保・育成・活用
 ・基幹技能者や多能工に対する企業経営上の位置付けや処遇のあり方、社会的な評価体制のあり方などを検討する必要。
 
③技術・技能のデータベース化や必要に応じたマニュアル化等
 ・優れた技術・技能の円滑な継承を図るため、技術・技能を解析したうえで得られた情報のデータベース化、マニュアル化等が必要。
 
④教育機関との連携、マスメディアを通じたPR等による優秀な人材の確保
 ・インターンシップ事業*1の積極的推進や、マスメディアを通じたPR等の推進を。
 
⑤技能労働者の人材派遣、情報提供等
 ・建設労働者に係る適正な情報提供システムのあり方等について検討を。
 
⑥新規分野における人材の育成と効果的な教育・訓練の充実等
 ・リフォーム等新規分野に対応できる技能労働者の育成を。
 ・業種横断的拠点的教育・訓練施設である富士教育訓練センター*2等の一層の活用や、優れた技能・技術を有する建設マスター*3等の十分な活用を。
 
⑦情報技術を活用しうる人材の育成
 ・情報技術を有効に活用しうる人材の育成を。
 
*1インターンシップ事業:学生が就職前に1週間程度企業で体験的に就労するもの。
*2富士教育訓練センター:建設産業団体自らが職業能力開発促進法に基づく認定訓練等を実施するため、職業訓練法人の認可を受けて、平成9年3月に我が国初の全国的・業種横断的な教育訓練を行う施設として静岡県富士宮市に開校されたもの。
*3建設マスター:優秀施工者建設大臣顕彰(建設マスター)制度は建設産業の第一線で「ものづくり」に直接従事している建設技能者(いわゆる職人)の中でも特に優秀な技能、技術を持ち、後進の指導・育成に多大な貢献をしている方を対象として、平成4年度より実施している大臣顕彰である。現在、建設マスターの総数は2414名。
 
 

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