土地・不動産・建設業

第1 地価公示制度の概要

第1 地価公示制度の概要

 地価公示は、土地鑑定委員会が毎年1回標準地の正常な価格を公示し、一般の土地の取引価格に対して指標を与えるとともに、公共事業用地の取得価格算定の規準とされ、また、国土利用計画法に基づく土地取引の規制における土地価格算定の規準とされる等により、適正な地価の形成に寄与することを目的としている。
 
1. 対象区域

 地価公示は、都市計画法(昭和43年法律第100号)第4条第2項に規定する都市計画区域その他の土地取引が相当程度見込まれるものとして国土交通省令で定める区域(国土利用計画法(昭和49年法律第92号)第12条第1項の規定により指定された規制区域を除く。以下「公示区域」という。)において実施することとされている(地価公示法(昭和44年法律第49号。以下「法」という。)第2条第1項)。
 
2. 標準地の選定基準

 地価の公示は、相当数の標準地を選定(平成22年地価公示では27,804地点)し、その価格について行うこととされている。

 標準地は、法によれば「自然的及び社会的条件からみて類似の利用価値を有すると認められる地域において、土地の利用状況、環境等が通常と認められる一団の土地」でなければならない(法第3条)が、地価公示法施行規則(昭和44年建設省令第55号。以下「規則」という。)はこれをさらに説明して、「土地の用途が同質と認められるまとまりのある地域において、土地の利用状況、環境、地積、形状等が当該地域において通常であると認められる一団の土地」としている(規則第3条)。

 なお、ここで「一団の土地」とは、同一使用者によって同一使用目的に供されている連続した一区画の土地のことである。

 その際、標準地の公示価格が一般の土地の取引価格に対して指標を与えるとともに、公共事業用地の取得価格算定の際に規準とされ、また、国土利用計画法に基づく土地取引の規制において土地価格の審査の際に規準とされるものであるため、標準地は、特に次の点に留意して選定されている。
 
(1) 標準地の代表性
標準地は、市町村(都の特別区及び政令指定都市の区を含む。)の区域内において、適切に分布し、当該区域全体の地価水準をできる限り代表しうるものであること。
(2) 標準地の中庸性
標準地は、当該近隣地域において土地の利用状況、環境、地積、形状等が中庸のものであること。
(3) 標準地の安定性
標準地は、できる限り土地の利用状況が安定した近隣地域にあって、当該近隣地域の一般的用途に適合したものであること。
(4) 標準地の確定性
標準地は、土地登記簿、住居表示、建物、地形等によって明確に他の土地と区分され、かつ、容易に確認できるものであること。

 また、標準地は毎年点検を行っており(原則として、9月1日から翌年1月1日の間)、点検結果を踏まえて、当該標準地が上記の4つの点に合致しているか否かを検討したうえで、標準地としての適格性を判定しており、4つの点のうち1つでも欠けた標準地については、選定替を行っている。
 
3. 標準地の価格の判定

 公示されるのは、毎年1月1日における標準地の単位面積当たりの正常な価格である(法第2条第1項、規則第2条)。「正常な価格」とは、「土地について、自由な取引が行われるとした場合におけるその取引において通常成立すると認められる価格」(法第2条第2項)、すなわち、市場性を有する不動産について、現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる条件を満たす市場で形成されるであろう市場価値を表示する適正な価格、換言すれば、売手にも買手にもかたよらない客観的な価値を表したものである。正常な価格の判定は、標準地に建物がある場合や標準地に関して地上権その他当該土地の使用収益を制限する権利(以下「建物等」という。)が存する場合には、これらの建物や権利がないものとして(つまり更地として)行われる(法第2条第2項)。

 例えば、標準地に建っている現状の建物を前提に評価を行うと、建物の築年の違いや構造、階層、用途の違いといったその土地の属性と関係のない特徴が土地の価格に反映されることになる。したがって、土地の本来の価値を示すため、現存する建物等の形態にかかわらず、その土地の効用が最高度に発揮できる使用方法(最有効使用)を前提として、評価を行っている。

 正常な価格は、土地鑑定委員会が2人以上の不動産鑑定士の鑑定評価を求め、その結果を審査し、必要な調整を行って判定する(法第2条第1項)。

 また、土地鑑定委員会は、地価公示の円滑な実施のため、鑑定評価員に委嘱した不動産鑑定士を都道府県毎の区域または都道府県を2以上に区分した地域に設置した分科会に配し、標準地選定の原案の検討、土地鑑定委員会からの業務日程の連絡、経済動向や地価動向に関する意見交換・情報交換、価格形成要因の分析などの検討を行っている。平成22年地価公示の分科会数は全国で193である。

 不動産鑑定士が標準地の鑑定評価を行う際は、取引事例比較法、収益還元法及び原価法の3手法により求められる価格を勘案して鑑定評価を行うものとされている(法第4条)。これらの3手法の内容は、標準地の鑑定評価の基準に関する省令(昭和44年建設省令第56号)に定められているが、要約すれば次のとおりである。

 取引事例比較法とは、多数の取引事例を収集して適切な事例の選択を行い、これらに係る取引価格に必要に応じて事情補正及び時点修正を行い、かつ、地域要因の比較及び個別的要因の比較を行って求められた価格を比較考量し、対象不動産の試算価格を求める手法であり、これにより求められた試算価格を「比準価格」という。
 
取引事例比較法のイメージ

 収益還元法とは、対象不動産が将来生み出すであろうと期待される純収益の現在価値の総和を求めることにより対象不動産の試算価格を求める手法であり、これにより求められた試算価格を「収益価格」という。なお、地価公示では標準地に最有効使用の建物を想定し、その想定された不動産から得られる総収益から総費用を控除して全体の不動産の純収益を試算し、さらに、当該不動産のうち建物に帰属する純収益を控除して土地に帰属する純収益を求め、当該土地に帰属する純収益を還元利回りで還元して試算価格を求める方式(土地残余法)を採用している。

 原価法とは、価格時点における対象不動産の再調達原価を求め、この再調達原価について減価修正を行って対象不動産の試算価格を求める手法であり、これにより求められた試算価格を「積算価格」という。
 
4. 標準地の価格等の公示、閲覧措置

 土地鑑定委員会は、標準地の単位面積当たりの正常な価格を判定したときは、すみやかに、次の諸事項を官報で公示するものとされている(法第6条、規則第5条)。
 
ア  標準地の所在及び地番
イ  標準地に関しなされている住居表示
ウ  標準地の単位面積当たりの価格及び価格判定の基準日
エ  標準地の地積及び形状
オ  標準地及びその周辺の土地の利用の現況
カ  標準地の前面道路の状況
キ  標準地についての水道、ガス供給施設及び下水道の整備の状況
ク  標準地の鉄道その他の主要な交通施設との接近の状況
ケ  標準地に係る都市計画法その他法令に基づく制限で主要なもの
コ  その他、標準地の鑑定評価において採用した資料及び標準地についての土地の客観的価値に作用する諸要因に関する事項で土地鑑定委員会が必要と認めるもの

 土地鑑定委員会は、公示後すみやかに関係市町村長(東京都23区及び政令指定都市については区長)に対し、公示事項のうち、当該市区町村が属する都道府県に存する標準地に係る部分を記載した書面及び当該標準地の所在を表示する図面を送付することとされており、関係市区町村長は、閲覧の場所及び閲覧に関する規程を定めてこれを告示し、送付を受けた日から3年間上記の書面及び図面を一般の閲覧に供することとされている(法第7条、地価公示法施行令(昭和44年政令第180号)第1条)。

 また、公示価格その他の公示された事項を記載した書面は、図面とともに、関係市町村(東京都23区及び政令指定都市においては区)の事務所(本所)に備えられるほか、三大都市圏の市区町村及び三大都市圏以外の人口5万以上の市の支所、出張所等にも備えられ、だれでも自由に閲覧することができることとなっている。
 
   
 
5. 地価公示の手順
 
地価公示の手順のイメージ
 
6. 公示価格の効力等

 標準地の価格等が公示されると、次のような効果が発生する。
 
(1) 不動産鑑定士は、公示区域内の土地について鑑定評価を行う場合において、当該土地の正常な価格を求めるときは、公示価格を規準としなければならない(法第8条)。公示価格を規準とするとは、対象土地の更地としての価格を求めるに際して、当該対象土地とこれに類似する利用価値を有すると認められる1又は2以上の標準地との位置、地積、環境等の土地の客観的価値に作用する諸要因についての比較を行い、その結果に基づき、当該標準地の公示価格と当該対象土地の価格との間に均衡を保たせることをいうとされている(法第11条)。この場合、対象土地の価格判定の基準日と標準地の価格判定の基準日(毎年1月1日)とは異なるのが通例と思われるが、その際には、二つの基準日の間の地価の変動を考慮して、必要に応じていわゆる時点修正を行わなければならない。
(2) 土地収用法その他の法律によって土地を収用することができる事業を行う者は、公示区域内の土地を当該事業の用に供するため取得する場合(当該土地に関して地上権その他当該土地の使用又は収益を制限する権利が存する場合においては、当該土地を取得し、かつ、当該権利を消滅させる場合)において、当該土地の取得価格(当該土地に関して地上権その他当該土地の使用又は収益を制限する権利が存する場合においては、当該権利を消滅させるための対価を含む。)を定めるときは、公示価格を規準としなければならない(法第9条)。
(3) 収用委員会は、収用に係る土地に対する補償金の額を算定する際には、事業の認定の告示の時における相当な価格に権利取得裁決の時までの物価の変動に応ずる修正率を乗じて算定することとなっているが、公示区域内の土地について、この相当な価格を算定するときは、公示価格を規準として算定した当該土地の価格を考慮しなければならない(法第10条)。
(4) 公示区域内において、土地の取引を行う者は、公示価格を指標として取引を行うように努めなければならない(法第1条の2)。
(5) 地方公共団体、土地開発公社等は、公有地の拡大の推進に関する法律(昭和47年法律第66号)の規定に基づいて、公示区域内の一定の土地を有償で譲渡しようとする土地の所有者等が都道府県知事に届出又は申出した土地を買取ろうとする場合は、公示価格を規準としなければならない(公有地の拡大の推進に関する法律第7条)。
(6) 都道府県知事は、公示区域内の土地について国土利用計画法の規定に基づいて基準価格(許可申請に係る土地の所有権の価額、不許可の場合の土地の所有権の買取り価額、届出に係る土地の所有権の価額及び遊休土地の買取り価額)を算定する場合は、公示価格を規準として算定しなければならない(国土利用計画法第16条第1項第1号、第19条第2項、第27条の5第1項第1号、第27条の8第1項第1号、第33条)。
(7) 土地基本法第16条の公的土地評価の適正化等の規定を踏まえ、土地の相続税評価及び固定資産税評価については、公示価格を基準等として、その一定割合程度を評価割合として評価が行われる。

問合せ先: 国土交通省土地・水資源局地価調査課 
(電話)03-5253-8379 (FAX)03-5253-1578

 

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