建設産業・不動産業

定期借地権の解説

11.定期借地の最新の活用事例

(1) 東京都の定期借地権活用事例

 平成14年以降、東京都は都市基盤の整備、地域の課題解決などの整備を、民間プロジェクトにより実現する「先行まちづくりプロジェクト」をスタートさせ、都営住宅1,900haの敷地を活用したまちづくりを進めており、平成15年に定期借地権を活用した2つのプロジェクトが決定された。

[1] 南青山一丁目団地建て替えプロジェクト
 南青山一丁目プロジェクトは、「公営(都営)住宅のPFI的手法による整備開発」に位置づけられ、平成15年1月に民間都市再生事業計画として、国土交通大臣第1号認定を受けた。
 地区面積6,800m²に、46階建と14階建の2棟、延床面積72,000m²の計画。大手デベロッパー・商社・ゼネコン等が共同事業として組成した「特別目的会社SPC南青山アパートメント」が事業者となり、全国初の民間事業者による公営(都営)住宅と民間住宅の一体整備事例として、賃貸住宅380戸、港区立図書館、国際医療福祉大学大学院、商業施設、業務施設・都市活動支援施設の他、都営住宅150戸、港区立保育所、高齢者グループホームが建設された。
 SPCは東京都との間で73年の定期借地権を設定し複合施設を建設。施設完成後、東京都は都営住宅を、港区は保育園と図書館を、医療法人は高齢者グループホームを定期借地権付で買取り、各々運営。民間施設(賃貸集合住宅、商業・業務施設等(国際医療福祉大学大学院)、都市活動支援施設、駐車場等)については、SPCが所有し、賃貸事業用施設として維持管理・運営。建物共用部分の維持管理・修繕計画については、東京都、港区、医療法人、SPCの4者が管理組合を設立して運用。事業期間終了後、事業者、建物所有者は敷地を原状回復(更地)して、東京都に返還する事業スキームである。
 東京都は、土地を提供しているだけで公共公益的な施設運営を実現している。借地人のSPCは、定期借地上の収益不動産を所有経営して収益を上げ投下資本を回収する。南青山一丁目という都心一等地の経済的なポテンシャルが、このような民間資金によるPFI的事業を可能にした。

定期借地権の活用と不動産証券化について】

 不動産の証券化は、不動産所有者が、当該不動産を証券化のための器であるSPC等に譲渡(オフバランス:所有者の総資産の一部を分離独立させること)し、このSPC等が不動産が生み出すキャッシュフロー等を裏づけ(返済原資)として資金調達を行うことを言う。
 収益不動産のキャッシュフローの投下資本利回りが高いほど、証券化による配当なども高利回りが予定される。最近の一般定期借地権による活用事例として顕著となった、都市部での定期借地権賃貸住宅のような収益不動産は、定期借地権を活用することで初期投資額を圧縮し、高収益利回りを実現する不動産を組成して「不動産証券化」のスキームに組入れる動きもあると推測されている。


[2] 東村山市本町地区プロジェクト「むさしのアイタウン」
 東村山本町地区は平成15年に指定され、都営住宅の建替えにより生まれた10haの土地を定期借地により街づくりを行ったもの。
 計画のテーマとして、
 [1]多摩地域の郊外型居住モデルを提示するまちづくり。
 [2]建物価格が3割程度安い戸建住宅の実現を目指した実証実験を行う。
 を事業目標としていた。
 民間企業グループによる特別目的会社SPC「東京工務店」が70年の定期借地権を設定し、非常に稀な事業方式であるが、転貸方式による280戸の戸建て定期借地権分譲が実施された。
 このプロジェクトの事業内容を検証してみると、権利金と月額賃料は、一般的に行われている民間の戸建定期借地権の水準よりはるかに高かったが、販売は、第2期で平均倍率10.7倍と、募集28戸に対して300組の申し込みと好調であった。
 西武新宿線東村山駅から徒歩圏(7分~)で、食品スーパーも誘致し、市役所もすぐ近くにあり生活利便性が高いこと。280戸の街づくりで電線を地中化し、街路樹のあるゆったりとした街路計画などの住環境、借地期間が70年と長いこと、などが総合的に評価された結果だと分析されている。
 あらためて、定期借地権住宅への需要が高いことを証明した事例となった。

(2) 中心市街地活性化・都市再開発でも定期借地が活用されている

 商店街の活性化・都市再開発の分野で定期借地が注目されている。
 平成10年に制定された「中心市街地活性化法」以降、中心市街地の人口の空洞化やシャッター通り対策として、中心市街地の整備改善と商店街の活性化を一体的に推進するニーズが高まっているが、商店街での共同建替え事業は、地権者の強い土地保有意向等により権利調整が課題となっている。
 市街地共同化の手法として定期借地権を活用すれば、地権者は土地を建物(償却資産)に交換することなく土地資産の保有保全を図ることができる。期間中は地代収入を得られ、売却に反対の地権者にも参画しやすい事業形態になる。土地共有持分型や地上権設定型の事業方式に比較しても低額での事業化が可能で、事業全体に対するメリットも多い。
 経済産業省がこの事業方式を研究している。平成20年3月、同省中心市街地活性化室が「中心商店街再生研究会報告書」を公表。報告書は、[1]不動産の所有と利用の分離 [2]まちづくり会社の活動による中心商店街区域の再生 に焦点をあてており、再生の手法として、「まちづくり会社が、空き店舗等の不動産利用権を定期借地等で集約し、一体の資産として運用」が提案されている。
 全国初となる、定期借地権(62年)を活用した第1種市街地再開発事業「高松市丸亀町商店街再開発」の再開発ビルが平成18年12月に竣工し、大きな関心を集めている。
 再開発ビルが建設されたA街区は、470mのアーケード街の入口に位置するが、ヨーロッパの広場とガレリアによる公共空間をコンセプトとしたドームを設置し、アーケードを撤去した街路と一体的な演出を行い、楽しめる都市空間を演出した再開発となった。A街区の地区面積は4,365m²(地権者27他)、建物2棟の延床面積16,575m²、住宅(47戸) 、商業(19店舗)、コミュニティ施設1,130m²、駐車場541m²となっている。地権者を含めて組成されたまちづくり会社が、定期借地権を取得し再開発ビルを保有している。定期借地の一時金のない方式により、借地権取得に関わる事業費を圧縮し、地価を顕在化させないスキームとして事業の安定性を実現している。地代は、期待利回り7%をベースに売上連動方式としている。まちづくり会社がテナントマネジメントを行う方式で、所有と経営の分離も実現している。

※借地借家法の定期借地権にかかる法解釈などにつきましては、制度所管官庁の法務省までお問い合わせいただきますようお願いいたします(令和5年7月5日注記)。

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