運輸経済月例報告 平成11年11月のトピックス



景気動向や都市構造変化が鉄道輸送に与える影響
−営団地下鉄を例にして−
  
  景気低迷下にあって、民鉄が減少している中で利便性等により横ばいを
  維持する輸送人員  
  駅別では鉄道アクセス向上や都市再開発の進む駅の乗降人員が増加  
         


 我が国経済は、ここのところ緩やかな改善が続いているが、個人消費は収入の低迷により足踏み状態を脱しておらず、雇用情勢も雇用者数は減少傾向、完全失業率は高水準で推移している(この月例報告中の「一般経済の動き」に示すデータ参照)。また、中長期的な傾向として少子・高齢化の進展や都市構造の変化もあるが、今回は、こうした社会経済情勢が鉄道輸送に与える影響について、東京都区部を中心に稠密な路線網を有する営団地下鉄を例にして、その輸送人員や駅別動向、及び関連する事項についてみる。

【輸送人員の推移】
 我が国の経済成長に伴い、東京圏の輸送需要は大きく増加し、これに対応するため地下鉄路線網も拡充された。東京の地下鉄は、昭和30年当時と比べると、総延長で12倍、輸送人員で17倍となり、平成8年度実績で東京都区部の公共交通機関の総輸送人員の25.3%を分担している(図表1)。
 図表2−12−2は、平成に入ってからの営団地下鉄、東京圏大手民鉄7社及び首都高速道路東京線の輸送動向(あるいは通行台数)をみたものである。いずれも平成3年、あるいは4年までは景気好調や新規開業の効果によって順調に伸びた。その後、景気が後退するとともに、同じように都区部に路線網を有する営団及び首都高速はやや減少したが、この時期に大手民鉄が概ね横ばいを維持しているのは、バブル経済期の地価高騰によって住宅や事務所等が都心部や都区部の中心地から周辺部へと移転し、これが大手民鉄の路線エリアと重なったためと考えられる(後述参考1で周辺県の増加)。
 7年頃からの最近の動きについては、逆に、景気後退による雇用者数減少や物流低迷の影響を端的に受けている民鉄及び首都高速に比して、営団は堅調に横ばいを維持している。これは、新規開通による効果(8年・9年南北線の延伸)のほかに、8年頃からの住宅等の都区部への回帰の傾向(参考2)、臨海部や副都心等の都区部内における都市再開発の動き、そして不況期ゆえに、都心部で利便性が高く運賃負担も安価な営団地下鉄の特性がタクシー等からの乗り換えを促進していることなどが要因と考えられる。

【混雑率の推移】
 大都市鉄道の利便性という点ではその混雑の緩和が長年の懸案となっており、営団地下鉄の場合も、列車増発等各種輸送力増強施策によってこれに取り組んでいるところである。図表3によって各路線の朝ラッシュ時の最混雑区間の混雑率の推移をみると、他の大都市鉄道路線同様概ね改善傾向にあるが、依然、千代田線及び東西線が200%を超える高い混雑率となっている。これは、両線が取手方面、千葉方面等東京圏のベッドタウンとして開発が進み、近年人口が増加している地域と相互乗り入れにより直通運転がされており、その利便性の高さも影響していると考えられる(参考1参照)。

【定期客のシェアの推移】
 平成に入ってからの営団地下鉄の輸送人員の構成をみると、その6割強、旅客収入にすると5割弱が定期客となっている。その割合は、傾向を敢えていえばやや減少で推移している図表4。この理由としては、1)週休2日制の普及と定着、2)少子化による学生数の減少や景気低迷期の雇用者数の減少、あるいは定期から定期外への移行、3)運賃改定の際の定期運賃の割引率の見直し(ただし、9年4月の運賃改定時には割引率を拡大した。)、4)プリペイドカード(8年3月から都営地下鉄との共用化)や回数券(7年9月から割引率の大きい「時差回数券」及び「土休日回数券」を発行)の普及等が考えられる。
 なお、9年度実績でみると、プリペイドカード及び回数券の利用客の輸送人員に占めるシェアは、それぞれ5%、6%となっている。また本年10月からは、東京圏の地下鉄を含む大手民鉄17社・局のカードの共通化が図られ、利用者利便の一層の向上が図られる。

【再開発の動き等を反映した特徴的な駅別乗降人員の推移】
 近年の東京の都市構造の変化をごく大まかに述べれば、従来都心部として経済、文化の一極的な中心地として商業・業務関係施設の集積が進んだ地域が、地価の高騰や景気低迷の影響によってその過密状態が緩和するとともに、副都心や臨海部が発展・開発され、また従来の都心周辺部における大規模な複合機能ビルや高層住宅等の整備集積等の新たな再開発の動きが出てきている。そしてこうした再開発は、鉄軌道新線の開通や乗り継ぎ、乗り換え利便性の向上と連動していることも多い。
 このような変化が営団地下鉄の駅別乗降人員に影響を与えている例を図表5によってみると、まず、従来の都心部の商業・業務集積地区にあって平成に入ってから乗降人員が減少傾向にある駅として日本橋、銀座、六本木、虎ノ門が挙げられる。こうした駅では、景気低迷の最近のみならず、平成初期の景気好調の時期においても減少している点に都市構造の変化がうかがえる。
 逆に増加傾向にある駅として、恵比寿、中野坂上、月島、新橋がある。それぞれ周辺部において再開発施設が整備されてきたこと、及び地下鉄以外も含めた鉄道アクセスの整備により新たなターミナル機能・ネットワーク効果が付加されたことがその要因として挙げられる。

【東京圏の都市構造の変化】
 最後に、東京圏全体の都市構造について概観すると、参考1〜3の表に示すとおり、地価高騰により住宅の外延化が進み、神奈川、埼玉、千葉等の周辺県で人口が増加する一方、都区部の人口が減少し、昼夜間人口の格差が増大した。また、事務所(オフィス)について床面積ベースでみると、東京都庁の新宿移転に代表されるように、都心3区のシェアが減少し、その他都区部のシェアが増加し、都心3区から周辺区部への事務所立地の分散・外延化の傾向が続いている。
 しかしながら、平成8年に至り都区部の人口は増加に転じ、また、丸の内、汐留等の都心の再開発プロジェクトが始動しており、これら新しい都心回帰の兆しが輸送に与える影響について引き続き注視していく必要がある。また、こうした状況を踏まえ、再開発による大型ビルと地下鉄駅との直結(例えば、溜池山王駅とアークヒルズとの直結コンコース化により利便性が向上)といった街づくりとも連携した利用しやすい鉄道整備が望まれる。



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