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長崎県 馬場副知事


※所属・役職等は、取材時(2025年3月)のものです。
 
プロフィール・近況等
(主な略歴)
 2001(H13).4 国土交通省入省Ⅰ種事務(法律)/都市・地域整備局都市計画課
 2017(H29).7 経済産業省貿易経済協力局通商金融課資金協力室長
 2019(R元).7 鉄道局都市鉄道政策課駅機能高度化推進企画官
 2022(R4).6  内閣官房国土強靱化推進室参事官
 2023(R5).7  現職

 令和5年の7月から長崎県副知事として勤務しており、文化、観光、国際、交通、離島振興、移住、土木、環境、女性活躍、人権、動物愛護、食育、企業誘致、産業振興、スポーツ振興、デジタルなど様々な分野を担当しています。また、知事の代理として、様々な式典に出席し、挨拶することや表敬訪問を受けたりすることも多いです。本省で勤務していた頃はフラメンコを習っていたのですが、こちらでは休日は仕事が入ることも多く、気分転換は今は専らインドアです。ただ、先日県庁秘書課の有志でピックルボール(コートにおいて、プラスチック製で中空のボールに多数の穴があいたものを、木製などの固いパドル(ラケット)で打ち合う卓球・テニス・バドミントンを基に考えられた競技)の体験練習会に参加してきました。米国で爆発的に流行していて、県でもこうした老若男女楽しめるニュースポーツを推進しようとしているため、気軽に参加しましたが、思いのほか運動量があり、久しぶりに2日間筋肉痛に襲われました。忙しいですが充実した日々を送っています。
 

1. 2001年に発足した「国土交通省」に抱いたイメージについて

 実は学生の時は取っつきにくく、堅いイメージを持っていました。当時、大学で、様々な省庁が業務説明会を行っていたのですが、その内容を聞き、おもしろい先輩と出会えたことでイメージが大きく変わりました。このため、国土交通省へ官庁訪問することを決めたのですが、官庁訪問中も分野の幅広さと人の多様さが好印象で、入省を決めました。ただ、堅いイメージは払拭出来ましたが、同じ職種の同期の女性は自分を含め4名しかおらず、また、配属先でも女性職員数は少なかったため、男性社会のイメージが強かったと記憶しています。
 

2. 印象に残っている国土交通省における出来事について

(1) 自分が一年目に都市局に配属された時、都市の国際競争力強化を目的とした都市再生特別措置法制定と、それに伴う関係法令の改正検討が大きなトピックでした。当時は係員で、政策論議に関わったわけではありませんが、その後、六本木ヒルズを始めとした大規模再開発により、都市の姿が大きく変わったことがとても印象的です。今更ながら、都市のあり方に大きな影響を与える組織に入ったことを強く実感しました。
(2) また、一つに絞ることは難しいですが、様々な事件、痛ましい事故も、安全をつかさどる行政としての責任の重さ、役割を思い知らされるものでした。例えば、初めて係長になったのは自動車局総務課でしたが、当時は、局全体としては三菱のトラック・バス部門のリコール隠し問題への対応が重要課題でした。この件ではリコールを行わなかったことが実際の死亡事故につながっており、企業自体のコンプライアンスが問われていることもさりながら、リコール制度自体がきちんと機能するように国土交通省としてどのように実効的な再発防止策を打ち出すのかが求められており、安全行政の重みを再認識した機会でもありました。その後も、当時担当部局にいたわけではありませんが、JR福知山線脱線事故や軽井沢スキーツアーバス事故など痛ましい事故の発生が記憶に残っており、国の役割も指導・監督だけではなく、未然に防ぐための安全マネジメントという方向性が導入されたことも大きなトピックだと思います。
 

3.印象に残っている自身が関わった業務について

 出向経験を含めると、国際業務、特にODAを活用して日本のインフラ技術を海外へ展開する分野に携わった期間が長かったため、印象に残っています。 例えば、鉄道局の国際課では、車両や信号システム、電機品等の鉄道分野における海外展開支援を行っていました。ODAの活用のみならず、英国等の先進国に対しても、ハイレベルの運輸当局間の二国間対話の枠組みを活用して働きかけを行うなども重要な政策ツールの一つでした。また、新規案件獲得だけではなく、既存プロジェクトにおけるトラブル発生時の側面支援も重要な仕事でした。その過程で関係省庁と連携して対応することもありましたし、様々な関係者と調整しながら進めていたように思います。ちなみに、コロナウィルス禍に着任したため、海外出張は全くなく、相手国とのミーティングも全てオンラインだったのは残念でしたね。
 また、同じ鉄道局の業務ですと、9ヶ月と短い期間ではありましたが、都市鉄道政策課での業務も印象に残っています。バリアフリー法に基づく基本方針における鉄道駅での次期目標設定、とりわけホームドアの整備目標の設定が大きなトピックでした。ホームドアを設置するためには、一般にホーム改良工事も必要になるため、初期費用として多額の事業費を要するほか、その後の維持管理費用も課題になっていました。さらに、同じホームを使用する車両の扉位置が異なるといった物理的な制約がある場合もあり、鉄道事業者ごとにホームドア設置に対する方針は様々でした。もちろん、駅ホームにおける安全性向上については、各事業者も声かけや案内の充実などソフト対策にも積極的に取り組まれていましたが、視覚障碍者の方のホーム転落死亡事故がなくなることはなく、更なる設置促進が望まれる中、どのように実効性のある整備目標にしていくのか多くの関係者と真摯な議論をしたことが思い出されます。また、現在では鉄道駅バリアフリー料金制度の創設など、ホームドアをはじめとしたバリアフリー設備の整備促進に資する環境が整ってきたことは良いことだと思います。
 

4.国土交通省がこの25年で変わったこと/変わらないこと

(変わったこと)
 部局による差もあるかもしれませんが、女性職員が増えたと感じます。また、コロナ禍を契機として、リモートワークなども一般的になったと思います。
(変わらないこと)
 現在の職務においても、OB/OGを含め、国土交通省関係者と会う機会も多いのですが、直接的にお仕事を一緒にしたことがなくても、何となく仲間感があります。これだけ大きな組織なのに不思議ですが、外の組織にいるからこそ実感するのかもしれません。
 

5. これからの25年への抱負について

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 私が入省してからの25年を振り返ると、当初の15年と比べて、後半10年の社会変化が非常に大きいと実感しています。AIやドローン等のテクノロジーが進歩する一方で、地方部からの著しい人口流出に危機感を覚えています。離島のみならず、全域的に、あらゆる分野において人手不足が喫緊の課題になっています。かつては地方鉄道のあり方を検討する際、バス路線という選択肢がありましたが、鉄道輸送を振替えるほどの運転手が確保出来ないため、選択肢として実質的にとりえなくなりました。人口減少によるバス路線の統合、時間の短縮は身近なことであり、現在勤務する長崎県でも例えば懇親会は1次会のみが当たり前になるなど行動パターンや夜の賑わいにも影響しています。また、私が入省した時期は地方分権改革による国から地方へ、県から基礎自治体への権限移譲というのが大きな流れでしたが、コロナ禍や緊急時における迅速な対応をめぐっての権限の在り方の議論が起こるなど、国と地方の役割分担をめぐる状況も変わってきています。地方の自助努力だけでは厳しい状況にあるなか、持続可能な社会インフラの維持という観点で、国に期待される役割は大きいと改めて実感しています。1年先の予測も難しい時代ではありますが、この10年の変化の在りようを念頭に、なるべく先を見た仕事をしていきたいです。
 特に、人手不足は生活の身近な面でも実感せざるを得ない課題です。例えば、県庁付近でも終バスの繰り上げなどが起こっています。昨年4月からの労働時間の規制強化が大きな要因ではありますが、そもそも慢性的な人手不足が背景にあり、減便や最終便の繰り上げなどがありました。東京や大阪などでタクシーに乗ると比較的若いドライバーさんも多いように思うのですが、こちらのタクシードライバーの方はご高齢の方が多いです。また、離島では、観光需要が増えているにも関わらず、ドライバーが確保できないことが課題にもなっています。また交通とは別の話になりますが、県内の飲食店でバイトが大学卒業を機にやめるから大人数の予約を制限されたという話も聞きました。県でも、分野横断的に外国人材活用の庁内検討会を設けて様々な取り組みを行っているところですが、分野問わず人手が不足していることを日常的な場面で実感しています。その大きな要因として、若年層、特に女性の都市部への流出が顕著になっています。長崎県の場合、大学や専門学校進学を機に、福岡・東京・大阪に出る方が多いです。長崎県に限らず、各自治体が移住政策をはじめ色々な取組みを進めていますが、少ないパイを取り合っているというのが現実です。今後も人口推移の傾向は大きくは変わらないので、その状況でも持続可能な社会を作っていくことが求められており、人々の暮らしを支える社会インフラを幅広く所管する国土交通省の果たしていく役割は大きいと改めて実感しています。


 

6. これからの国土交通行政を担う世代へのメッセージ

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 興味・関心のある分野に特化することも強みを伸ばすという観点からは良いことだと思いますが、視野を広げるためにも、あえて色々な経験してみることも大切だと思います。思いもしなかった分野や立場であっても、新たな経験が得られる機会があれば、迷わずトライすべきだと思います。渦中にあるときは目の前のハードルに精一杯ですが、その経験が他でも生きることはよくあることです。私は現職が初めての地方自治体勤務経験になりましたが、相場観がなかったからこそフラットに意見を言えることもありますし、これまでの仕事でお世話になった方とのご縁が現職でも役に立ったりするなどあらゆることが繋がっていると感じることがあります。
 現職では、式典関係出席のみならず、なるべく県内色々なところに出張するようにしています。百聞は一見に如かずとはまさにその通りで、現地に行き、またその地で働く色々な方と直接意見交換することで体感することも多いです。また、ダイレクトに現状や意見を届けられるということ自体に対し、現場の方がいきいきとされていると感じます。一方で、プライベートでもなるべく県内に旅行していますが、こちらも純粋に楽しむだけではなく、交通アクセス面や多言語表記など観光客目線でシビアに見てしまったりします。

 

7.その他、HP をご覧の方へのメッセージ

 私が25年間働き続けられてきたのは、国土交通省が色々な人の個性を許容する組織であり、そうした人との出会いが面白かったからだと感じています。多様な人がいることで色々な見方が生まれ、時代に適応した良い組織になると思います。次の25年も、より多様性を重視した組織になれば良いと思いますし、自分もそうありたいと思っています。

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