国土交通省の「現場力」を発揮した業務・職員インタビュー

国土交通省の「現場力」を発揮した業務・職員インタビュー - 国土交通省
関東地方整備局 江戸川河川事務所

現場職員インタビュー

流域治水 ~防災ツーリズムの推進~

小池 聖彦のプロフィール写真

※所属・役職等は、取材時(2025年12月)のものです。

小池 聖彦

所長 / 関東地方整備局 江戸川河川事務所 1
  • 気候変動対策
  • 首都圏外郭放水路
  • 防災地下神殿

主な略歴

01 現在の業務概要と放水路の整備

洪水被害の軽減を目指して
現在の業務内容を教えて下さい。
 江戸川河川事務所は、江戸川の約60㎞、中川の約20㎞、綾瀬川の約10㎞を管理しており、地域を水害から守るため、河川の堤防整備や河道掘削などの治水対策を進め、日々の河川の維持管理を行っていますが、私は、その現場の事務所長として、事務所全体のマネジメントを担当しています。
首都圏外郭放水路 庄和排水機場
首都圏外郭放水路 庄和排水機場
江戸川河川事務所では、放水路の整備をしていると伺いました。具体的にはどのような整備を進められているのでしょうか。
 放水路とは、河川の氾濫を防ぐため、河川の途中に新しい川を分岐して掘り、海や他の河川などに放流する人工の水路のことです。中川や綾瀬川の流域は、江戸時代以前は、利根川や荒川が流れていた低平地で大雨が降ると溜まりやすく、流れにくいお盆のような地形で、戦後の高度経済成長期の市街化もあいまって浸水常襲地帯となっていました。
 このため、江戸川河川事務所では、三郷放水路2や綾瀬川放水路3、首都圏外郭放水路4を建設し、河川と河川をつなぐことで、洪水時には排水機場の排水ポンプを稼働し、綾瀬川や中川の洪水を江戸川へ排水し、洪水被害の軽減に努めています。また、平常時は、それら放水路が有事の際に適切に機能を発揮できるよう、排水機場の排水ポンプや水門などの点検整備を行っています。
中川・綾瀬川流域
中川・綾瀬川流域の断面
中川・綾瀬川の主な治水施設の整備状況
首都圏外郭放水路ができる前の写真(H12.8)
首都圏外郭放水路ができる前(H12.8)
外郭放水路ができた後の写真(H16.10)
首都圏外郭放水路ができた後(H16.10)

02 「流域治水」

流域全体で水害対策を講じ、被害の最小化を目指す
本日のテーマである「流域治水」について伺います。「流域治水」はどのような取り組みでしょうか。
 私たち河川管理者は、治水計画に基づき、堤防やダム・遊水地の整備など治水対策に取り組んでいます。ただ、近年は気候変動で、地球温暖化に伴い雨の降り方が変わり、災害が激甚化・頻発化しているため、日本全国で毎年のように大きな水害が生じています。今後も降雨量が増大し、更なる被害の発生が懸念されるため、堤防などのインフラ整備を加速化しつつも、流域の皆さん、例えば、流域にお住まいの方や企業活動をされている方も含めて、流域全体で水害対策を講じ、被害の最小化を目指していくのが流域治水の考えです。いわば「あらゆる関係者が共働して治水対策を行っていく」ものです。
流域治水
流域治水
具体的には、どのような対策を進めていますか。
流域治水の対策として、大きく3つあります。1つ目は、氾濫をできるだけ防ぐ、減らす対策。2つ目は、被害の対象を減少させるための対策。3つ目は、被害の軽減、早期復旧復興のための対策です。これらをハード・ソフト一体的に進めているところです。
具体的に申し上げると、1つ目の「氾濫をできるだけ防ぐ、減らす対策」は、先程も申し上げた堤防やダムなどを整備するハード対策です。2つ目の「被害対象を減少させるための対策」は、浸水が想定されるエリアに居住しないようにするなど住まい方の工夫です。例えば、リスクエリア外への移転を促す、浸水被害地域を指定することで新たな建物の建築を抑制する、頻繁に水が溜まるエリアは「貯留機能保全区域」として指定して開発を抑制する、などです。3つ目の「被害の軽減のための対策」は、事前にハザードマップや避難計画を作っておく、実際に被災した際のことを念頭に、事前に復旧・復興対策を検討しておくなどのソフト対策です。
これら3つの柱に基づく流域治水の取り組みを、現在、全国で進めています。
「流域治水」を推進することは、どのような意義がありますか。
 行政のみならず、住民、企業の皆さんにも、水害を「自分事(じぶんごと)」として考えていただくきっかけになると思います。例えば、企業が浸水想定区域で経済活動を営むときには、地域のリスクを事前に分析する、水害が発生した時の対策や業務継続計画を事前に立てる、といった取り組みを行うでしょう。また、住民の方々は、洪水ハザードマップで、水害時の避難路や避難場所を確認するなど、普段の生活の中で取り組める対策を、自ら考えて行動に移すでしょう。流域治水を推進することは、社会全体で、「水害被害を最小化する意識」を醸成していくことにつながると思います。

03 「首都圏外郭放水路」の整備

日本唯一の「ハイブリッド型」放水路
調圧水槽
調圧水槽
小池さんは、以前にも江戸川河川事務所で、放水路整備に関わったご経験があると伺いました。当時は、具体的にどのような業務をされましたか。
 私は平成6年4月から2年3か月、江戸川河川事務所の放水路課で、首都圏外郭放水路建設事業を担当していました。首都圏外郭放水路の建設にあたり、5つある立杭5のうち第一立坑と第三立坑を、5つのトンネル6のうち第二工区(第2~第3立坑間)を、それぞれ担当しました。
 地下50mに内径10mのトンネルを構築するため、立坑は内径30m、深さ70m、壁厚2.5m、立坑構築に必要な地中連続壁(土留壁)は深さ140m(第3立坑)、壁厚2.1mと大深度かつ大規模な構造物となり、地下水対策やマスコンクリート対策、高水圧下での施工など、設計から施工まで大変勉強になりました。特に受注者である大手ゼネコンの技術者に設計や施工上の課題などを教えてもらいながら協議し、設計変更に反映するなど、“一緒に良い物を造るという姿勢”と“やりがい”は、わたしの貴重な財産となっています。
 また内水圧対応型セグメントのシールドトンネルを構築することから、トンネルの設計論や新技術を踏まえた発注仕様についても勉強することができ、放水路課での経験が自信にもつながり、今でもモノづくりに対する考えの柱となっています。
首都圏外郭放水路全体イメージ図
首都圏外郭放水路全体イメージ図
「首都圏外郭放水路」は、そもそもどのような背景で整備されたのでしょうか。
 中川や綾瀬川の流域は、戦後、急激な都市化が進み、人口・資産が集中する傾向にありました。しかし、この地域は、開発により遊水・保水機能を有する田んぼや畑が失われ、幾度となく浸水被害に悩まされてきたことから、河川対策と流域対策が一体となった総合治水対策を推進していたものの、流域の急激な都市化の進行に河川改修が間に合わず、早急な治水安全度の向上が求められていました。このような中、中川のような低平地で、抜本的・緊急的な浸水対策として、首都圏外郭放水路が計画されたのです。
 とはいえ、当時はまだ開発需要が旺盛な時期で、東京外環、常磐新線(つくばエクスプレス)、地下鉄7号線の延伸などが計画されていました。このため、平成3年4月に公布された「大都市地域における住宅及び住宅地の供給の促進に関する特別措置法(大都市法)」では、治水事業と住宅宅地の供給を一体的に実施していくことが重要であるとして、首都圏外郭放水路が主要プロジェクトに位置づけられ、事業の推進が図られました。
 大落古利根川、倉松川、中川等の洪水を地下放水路に取り込み貯留させ、さらに排水機場7(排水ポンプなど一連の排水施設)で江戸川に排水することで、これら河川の治水安全度を向上させ、沿川地域の浸水被害を軽減すること、これが首都圏外郭放水路の主な役割です。
当時、モデルになった施設はありましたか。
 同時期に進められていたものとして、東京の神田川の環状七号線下の地下調節地、大阪の寝屋川の地下調節池などがありますが、首都圏外郭放水路は地下放水路であり、水を溜めることも、ポンプで排水することもできる「ハイブリッド型」ですので、そうした機能を備えた施設は、現在、ここだけです。
屋外展示(第1工区シールドマシンの面盤:実物)
屋外展示(第1工区シールドマシンの面盤:実物)
第一立坑
第一立坑

04 「首都圏外郭放水路」25年の歩み

浸水被害の軽減、“インフラツーリズム”から“防災ツーリズム”へ
「首都圏外郭放水路」はこれまで地域とどのような発展の歴史を歩んできたでしょうか。
 首都圏外郭放水路は、国土交通省設置の1年後となる平成14年(2002年)に部分通水し、国土交通省同様、約25年の年月を地域とともに歩んできました。その間、平成18年(2006年)の全区間通水を経て、現在まで、中川流域の洪水を150回地下放水路に取り込み、そのうち81回排水機場を稼働させ江戸川へ排水し、沿川地域の浸水被害の軽減を図ってきました。浸水被害を軽減し、安心・安全なまちづくりを実現したことで、住宅開発や企業誘致が進み、地域の活性化にも寄与したものと考えています。
 また、首都圏外郭放水路は、“地下放水路”として洪水を地下に取り込み、“排水機場”により江戸川に排水するため、機能上、“調圧水槽”という施設を設置しています。この“調圧水槽”がシンボリックで珍しい施設であることから、いつしか“地下神殿”とも呼ばれるようになり、施設見学に来られる方が大勢いらっしゃいました。こうしたなか、平成28年に「明日の日本を支える観光ビジョン」の施策のひとつとして、「魅力ある公的施設・インフラの大胆な公開・開放」が挙げられ、首都圏外郭放水路も、一般公開に向け、「首都圏外国放水路利活用協議会」(春日部市、春日部市観光協会、春日部市商工会議所、庄和商工会、江戸川河川事務所で構成)を設立し、平成30年度から有料にて一般開放することとしました。
 この“インフラツーリズム”の推進により、令和6年度は、約6万8千人もの方々にお越しいただきました。令和7年3月には「災害の自分事化」10万人を目指し、“防災ツーリズム”と銘打って、楽しく防災を学んでいただくことを目的に、8つのパワーアップ計画を発表し、コンテンツを充実させながら、本施設の役割、治水対策や防災への備えの重要性などを説明しています。ひいては、流域治水の普及にもつながっていくものと考えています。
外郭放水路の整備効果
首都圏外郭放水路の稼働状況
首都圏外郭放水路 浸水被害軽減効果(グラフ)
調圧水槽見学会(ライトアップ)
調圧水槽見学会(ライトアップ)
一般開放することでどのような効果があったとお考えでしょうか。
 施設の実物を見ていただくことで、首都圏外郭放水路の役割を認識いただけるほか、堤防・ポンプ場など治水対策全般の重要性をご認識いただける大変良い機会と捉えています。
 こうした機会を通じて、中川・綾瀬川流域にお住いの皆さんはじめ、全国の皆さんに、災害を「自分事化」し、防災に対する日頃からの備えを考えていただくきっかけとなれば、嬉しく思います。

05 仕事のやりがいと今後の目標

現場と中央の「つなぎ役」を目指して
小池所長と第1立坑
第1立坑
仕事を通じて、どのようなときにやりがいを感じますか。
 自分が携わった工事により施設が完成したことへの満足感、そして、その施設が地域の中で有効に機能している様子を見ると、やってきて良かったと思います。 現在は、事務所長として業務全体のマネジメントを担当する立場ですので、課題に直面した時には所員とともに対応策を考え、それを実行してうまく対処できた時などにはやりがいを感じます。また、事務所総出で対応するイベントも多くあります。共通のゴールを目指し、事務所全体で一体感をもって業務に取り組めており、充実した日々を送っています。
小池さんご自身の今後の目標をお聞かせください。
 流域治水は、国だけで進めるものではありません。各自治体の皆様にも協力いただき、連携して対策を進めていく必要があります。自治体の悩み・相談事によく耳を傾け、地方整備局や本省に共有することで、うまく課題解決につなげていきたいと考えています。私は、現場と中央の「つなぎ役」を担えればと思っています。
操作室
操作室
河川に関わる仕事には、どのような魅力がありますか。
 実は私は、元々、河川の仕事に興味を持っていたわけではありませんでした。役所に入って、たまたま、河川の仕事に従事することになり、多くの方々にお世話になりながら、これまで長く続けてきました。この仕事は、川が現場です。自然があり、殺伐としていない雰囲気が自分の性格に合っていると思います。自然という脅威を相手にしつつ、自然と共存を図っていくこの仕事は、非常に面白いと感じています。
 役所に入ってすぐは、道路と比較すると、川の仕事は地味だと思っていました。道路は開通するとニュースで取り上げられ、その効果が目に見えて分かりますが、川の仕事は、例えば、堤防を整備しても、それがどのように役立っているかは分かりづらいですよね。目立つのは決まって水害が発生し報道された時という印象でした。ただ、現在は、気候変動で水害がさらに激甚化・頻発化し、毎年全国どこかで水害が発生しています。そのたびに報道でも洪水ハザードマップが取り上げられ、避難の重要性が伝えられるなど、認知度も年々上がってきました。治水対策は時間がかかりますが、「治水対策は重要だからしっかりやってほしい」という期待の声を年々強く感じています。関係者の皆さんに水害を「自分事」として捉えていただけることは、とても心強いですし、やりがいのある仕事だと感じています。

06 伝えたいこと

川を普段から利活用し、川に親しんで
今後、地域に根ざした「流域治水」を、どのように実現させていきたいですか。
 普段の生活の中で川を利活用し、川の存在を意識してもらうことが何より重要だと考えています。昭和初期までは、物資を運ぶ上で川が重要な役割を果たしていましたが、道路や鉄道など交通網の発達により舟運が衰退。さらに、高度経済長期には、水質汚濁などにより人々の生活から川が遠い存在となりました。また、洪水対策として高い堤防を整備したことも、川に近づきにくい心理的な要因になったと思います。現在は、河川の水質も改善され、貴重なオープンスペースとして河川空間が見直されていますので、ぜひ、川を普段から利活用し、川に親しんでいただきたいと思います。サイクリング、散歩、野球やサッカー、ランタン灯してのコーヒーブレイクなど、みなさん思い思いの方法で。
 私たちも、川の大切さ、治水対策の大切さ、防災の重要性を周知・啓発していくために、河川の清掃活動や環境教育、防災教育や防災ツーリズムまで、川を基軸として幅広く取り組んでいきたいと思います。川を利活用していただくことで防災意識につながり、“自分で知る”、“自分で考える”“自分で行動に移す”につながり、ひいては、将来にわたって水害に対して安全なまちづくりを進める“流域治水”への一歩だと思っています。
展示室
展示室
国民の皆様へのメッセージをお願いします。
 まずは、ご自身の住まわれている地域の地形や歴史、どこにどういう川が流れているのかなど関心を持っていただけると良いですね。関心を持っていただくことで、自分の住んでいる地域が浸水地域か否か、過去の水害履歴の有無などを知ることにつながると思います。洪水ハザードマップの内容などを確認し、例えば、避難路、避難場所の位置などを普段から家族で話し合うなど、日頃からの水害への備えについて考えて頂き、水害から自分の命を守る、自分で出来ることから始めることが大切だと思います。自分から家族、家族から近所、近所から地域へ広げていくことこそ、地域における被害の最小化につながると考えています。

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