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「現場力」を発揮した業務・職員インタビュー
海上保安庁 海洋情報部
現場職員インタビュー
海洋情報の整備
※所属・役職等は、取材時(2025年12月)のものです。
小林 伸乃介
首席観測士 / 海上保安庁海洋情報部
海洋権益
航海の安全
海図
測量
主な略歴
1996(H8).4
海上保安庁 入庁
2011(H23).4
海上保安庁 海洋情報部測量船「拓洋」 主任観測士
2018(H30).4
海上保安庁 海洋情報部海洋調査課 計画第一係長
2019(H31).4
海上保安庁 海洋情報部測量船「明洋」 観測長
2022(R4).4
第二管区海上保安本部 海洋情報部海洋調査課 主任海洋調査官
2025(R7).4
現職
01
現在の職務概要
「測量船」で行う様々な調査業務に従事
小林さんは、現在、どのような業務に取り組まれているでしょうか。
測量船「拓洋」の首席観測士として実際に現場に出て、日本の海の航海の安全、海洋権益の確保
1
、防災や海洋環境の保全などに資する調査を全般的に実施しています。
脚注
国連海洋法条約では、原則として領海の基線から200海里(約370km)までを「排他的経済水域」として、沿岸国が海域並びに海底及び海底下を探査し、天然資源を開発する主権的権利を有している。加えて、海底の地形や地質が一定の条件を満たす場合には、200海里を超えて海底及び海底下に主権的権利を有する「大陸棚」を、延長することが認められている。そのためには、海底の地形や地質に関する科学的調査データに基づき、国連に申請を行い、審査を受ける必要がある。
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乗船されている測量船「拓洋」とは、どのような船ですか。
1983年(昭和58年)、我が国初となるマルチビーム音響測深機
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を搭載して建造されました。大陸棚調査をはじめ、離島の海の基本図調査、西太平洋海域共同調査など、主に遠方海域における調査に従事し、まさに日本の「海洋」を最前線で「拓き」続けてきた測量船です。自律型潜水調査機器
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(AUV:Autonomous Underwater Vehicle)を搭載しており、これまで取得困難であった深海の精密海底地形を得ることが可能です。
測量船「拓洋」主要目
総トン数 2,400トン
全長 96.0m
型幅 14.2m
航海速力 17ノット以上
船内案内
脚注
船底に装備した送受波器から海底に向け音波を扇状に発射し、反射した音波を捉えることで広範囲に海底地形を把握する。水深の約5倍の幅で水深を測定することが可能。 https://www1.kaiho.mlit.go.jp/info/vessels/ippankokai/HL11/Equipment_list/Multi_Beem.html
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プログラムされた経路を自動で潜航して調査を行う機器。海底近傍まで潜航して調査を行うことで、詳細な海底のデータを収集することができる。 https://www1.kaiho.mlit.go.jp/info/vessels/ippankokai/HL11/Equipment_list/AUV.html
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航海の安全に関する調査は、具体的にどのような内容ですか。
海難事故が発生しないよう水深を調査し、「海図」として船舶に提供しています。また、実際に事故が発生した際は、我々の調査機器を使って、沈没船の位置特定を行い、原因究明に協力することもあります。
海図
マルチビーム音響測深機でとらえた沈没船
海洋権益の確保に関する調査は、具体的にどのような内容ですか。
四方を海に囲まれた我が国にとって、領海や排他的経済水域等の海洋権益を確保することは大変重要であり、その基礎となる海洋情報の整備が不可欠です。このため、日本周辺海域において海底地形調査、地殻構造調査や底質調査等を行っています。
海洋権益確保のための海洋調査の例
防災に関する調査は、具体的にどのような内容ですか。
海底地殻変動観測によって、日本海溝と南海トラフ沿いにおける海底の動きをセンチメートル精度で測定しています。観測の結果は、(1)プレート間の固着具合を推定し、想定される海溝型地震の予測等に役立てる、(2)地震に伴う地殻変動を観測し、地震メカニズムの解明に役立てることに用いられます。巨大地震の発生につながり得る固着による地殻変動は、時間や場所によって変わりますので、長期にわたり定期的に観測しています。
また、南方諸島や南西諸島の火山島や海底火山周辺で海底地形の調査等も行っており、航海安全や政府の火山調査研究推進本部が行っている火山に関する総合的な評価に貢献しています。
船橋での打ち合わせ
02
海洋調査の取り組み
「拓洋」ではAUVも活用して詳細な海底データを収集
海洋情報の整備に向けた海上保安庁の取り組み、小林さんの役割について教えてください。
海上保安庁では、現在、大型測量船を7隻、小型測量船8隻を有しており、基本的にはその15隻で日本の水域内の各所で調査を実施しています。
「拓洋」は、海洋権益の確保や防災のための海底地形調査に従事することが多いです。「拓洋」には、AUV(自律型潜水調査機器)を搭載しており、これを活用した調査も実施しています。私の仕事は、これら観測機器を活用して海洋調査にあたるとともに、日々のメンテナンスにも取り組み、良好な観測データを取得できるよう努めています。
AUVの海中投入作業
世の中の潮流として、DXやAIなどの積極的な導入が進められていますが、人間が直接対応すべき部分もありますか。
AIについては、現在、測量データのノイズ(偽データ)除去AIが開発中であり、様々な生データをAI処理したものと、人間の手で処理されたデータを比較しながら、処理を学習していると聞いています。機械的にノイズ除去されたものに、人間の「ここに少し違和感があるな」といったこれまでの経験や技能・直感から、実際にデータに異常が確認されるケースがあり、これも今後のAIの学習に反映されることから、そうした感覚を磨き続けられるよう意識するとともに、最終的にはAI処理されたデータを人間の目で正否判断することから、部下にもそうした感覚・意識をできる限り具体的に伝えていきたいと思います。
03
勤務体系
データ解析は非常に緻密な作業 乗船時は2~3週間家族と会えないことも
海底地形調査業務
小林さんご自身は、普段、どのような働き方をされていますか。
乗船時と陸上勤務時で異なります。測量船「拓洋」では、基本的に2~3週間ほどの調査に出かけ、日々の海洋調査に従事するほか、観測機器のメンテナンスもしています。海上に出ると、機器メーカーを頼ることができないため、多少の不具合であれば、自分達で対処できるようにしています。また、観測機器も船と一緒に24時間動いていますので、その間は3交替で船の運航に携わっています。
陸上の方では、皆さんと同じように陸上事務所で働いています。
乗船と陸上勤務の両方がある中で、気を付けていることや、苦労されていることはありますか。
データ解析は非常に精密な作業です。例えば、海底地形データの解析ですと、膨大なデータの中に混ざっているノイズを目で見て判別し、手動で削除するという作業をしており、ノイズを見逃さない集中力と良好なデータまで誤って削除しないようにする精密さが求められます。このため、ストレスを溜めないよう気を付けています。調査では様々な地域に出向きますので、例えば、その土地の名産品を食べるなど息抜きをするよう心掛けています。
また、乗船時には、特に健康管理に気を付けています。私が所属する拓洋の観測科は4名体制ですので、3交替で回そうとすると、1人でも欠けると調査に支障がでてしまうため、自己管理を徹底しています。
乗船時の苦労としては、海上では携帯の電波が通じない、家族に連絡できないうえに2~3週間会えない、といった点が挙げられます(現在、通信環境は大幅に改善されています)。
04
仕事のやりがい
経済活動を支える「縁の下の力持ち」として
仕事を通じて、どのようなときにやりがいを感じますか。
我々が得たデータにより、国家の海洋権益の確保、ひいては国家国益につながっていく点を意義深く感じています。また、海図の整備を通じて航海の安全確保を実現できる点、地殻変動観測など防災・減災に有益な情報を提供できる点など、自分の手でデータを積み上げることで日本の国益につながることに、何よりやりがいを感じています。
海上保安庁は、どちらかというと、巡視船での海上警備、潜水士による海難救助などが注目を浴びますが、我々が実施している海洋調査も、我が国の経済活動を支える根幹部分を担っています。いわば、「縁の下の力持ち」としての位置づけと捉えて、日々、ひたむきに頑張っています。
AUVのメンテナンス業務
AUVのメンテナンス業務(若手への指導)
初めて海底地形を調査した際には、どのようなことを感じましたか。
地方の小型測量船での測量が最初でした。海はただ青く、海底は海上から見ることはできませんが、音波を使って海底を立体的に調査できたときは、非常に衝撃を受けました。マルチビーム音響測深機を使って、面的に3Dで立体的に地形を測るという、当時の最新機器と技術を用いた調査でした。マルチビーム音響測深機は海外製が多く、英語のマニュアル等を読み解き、諸先輩らが試行錯誤しながら的確に調査を行っていく様子を目の当たりにしましたが、その技術力の高さに感服し、将来的には自分もそういう風になりたいと思ったことを鮮明に覚えています。
これまでに特に印象に残っている業務があれば教えてください。
東日本大震災への対応です。私は、現在、「拓洋」に乗船していますが、実は2回目で、前回は東日本大震災の際に乗船していました。発災当時、別海域の沖合にいましたが、そのまま東北に向かい、行方不明者の捜索活動や航路啓開などを行いました。「拓洋」で調査に従事した後、その翌年に第二管区海上保安部(宮城県)に配属となり、震災後の東北地方を調査する部署で測量業務を担当しました。津波の被害を受けて、地形が大きく変わり、また、家やモノが流されたことで、海図に載っている水深が大きく変動したため、全て測量し直しました。その過程では、徐々に地域が復旧・復興へ進んでいく様子を垣間見ることができました。岸壁工事が進み、インフラが復旧していく様子は非常に印象的で、海上保安庁として、海図を整備することの意義を改めて実感しました。
小林首席観測士の活動の原点!「筑前大島」の測量原図
ご自身で担当された調査が形になった際には、どのような感情を抱きましたか。
苦労が多い分、調査結果が形になったときは、毎回とても嬉しい思いです。特に、海図に載せる前の原稿図「測量原図」という素図を、自分で1から10まで最初に全て作り上げた経験は、とても思い出深いものでした。1つの漁港だったのですが、水深の測量だけでなく、防波堤や海岸線などの陸上部の測量や、海底の物質が砂か泥かを判別する作業、結果をまとめて測量原図という成果の作成、先輩の指導を受けつつ、1年がかりでその全ての作業を担当したことは、これまでの職業人生で一番の財産になりました。あの経験がなければ、その後、海洋調査業務に携わる形にはなっていなかったかもしれないと思えるほど、印象に残っている仕事です。
05
これからの目標
今後も現場第一で
小林さんご自身は、海上保安庁の中で、今後、どのような役割を担っていきたいとお考えでしょうか。
「拓洋」では、主に海底地形調査のデータ取得を担当していますが、今後も、地道に、着実に、調査を実施し、良質なデータを蓄積していけるよう努めます。
私自身がこれまで経験してきた技術・知識は、順次、若い世代に引き継いでいきますが、こうした技術は、徐々に革新されていくものです。ただ、「常に必要な調査を実施し、有益なデータを収集する」という根幹部分の姿勢は不変だと思いますので、そうした部分について、マインド・精神面も含め、うまく伝承していければと考えています。
海底地形調査業務(若手への指導)
ご自身のキャリアを振り返ってみて、海上保安庁で働く魅力は何ですか。
海上保安庁では、海のスペシャリストになれますので、海の仕事に就きたい場合には最適な就職先だと思います。国土交通省は、道路、港湾、空港などのインフラを整備する、測量するといった機能を有していますが、海洋情報部でも、例えば、海図を作っていますので、物を創造するという点で共通していると感じます。
小林さんご自身の今後の目標やビジョンをお聞かせください。
私個人としては、今後も現場業務に携わりたいと考えています。自分自身、やはり現場が大好きだなと日々実感しています。自分の手と足で動き回って、これからも現場第一でやっていきたいと思います。その中で、自分がこれまで培ってきた知識・経験を、若い世代に伝承していきたいと考えています。
測量船「拓洋」
国民の皆様へのメッセージをお願いします。
我々海上保安官の仲間たちは、日夜、尖閣諸島周辺をはじめとする領海警備に当たっているほか、ひとたび海難が発生すれば、潜水士や特救隊(特殊救難隊)が命懸けで人命救助にあたります。国民生活への貢献として、このように分かりやすい業務もありますが、我々が担当している海洋調査は、目立つ部分は少ないかもしれないものの、国民生活を陰ながら支えている一つの礎となっていますので、こうした部分にも、ぜひ注目していただけたら嬉しいです。