「病院に行くときは送迎サービスやAIオンデマンド交通を使っているけれど、帰りは使えない」
そんな声を耳にしたことはないでしょうか。
各地で通院支援の交通サービスは整ってきていますが、実際には「帰りの足」がなかなか使われていません。その理由のひとつが、診察がいつ終わるか予測しにくく、帰りの移動手段を予約しづらいということです。
この「あと一歩使いこなせない」もどかしさに向き合おうとしているのが、徳島県でスタートする「ヘルスケアMaaS実装プロジェクト」です。
プロジェクトに取り組むのは、富士通株式会社と富士通Japan株式会社のチーム。これまで全国各地でAIオンデマンド交通や電子カルテの導入を支援してきた富士通グループが、医療と交通をまたいだDXに挑戦します。電子カルテとAIオンデマンド交通のデータをつなげることで、通院の「行き」だけでなく「帰り」まで、安心して移動できる仕組みをつくろうとしています。
「通院」と「移動」がひとつにつながる仕組みづくり
今回の実証では、富士通の電子カルテシステムとAIオンデマンド交通を組み合わせたプロトタイプを開発します。診察予約と車両の配車手配を一体化し、診察終了見込み時間をデータから予測。その情報をもとに、帰りの交通手段を自動で手配したり、帰宅途中の立ち寄り先を案内したりする仕組みを検証します。
実証の舞台となるのは、富士通の電子カルテが導入されている徳島県立中央病院。徳島県、県内のタクシー協会、病院が連携機関として参加し、交通と医療の現場をつなぎながら、通院支援の新しいモデルづくりに取り組みます。
なぜ「帰りの移動」は使われないのか
富士通ではこれまで、全国30以上の地域でAIオンデマンド交通の導入をサポートしてきました。さまざまな実績を重ねる中で、ある共通の課題が見えてきました。
それが、先に触れた「通院の帰りには、交通サービスがあまり利用されていない」という実態です。
「帰りの時間が読めないので、予約がしづらい。そんな声が多くありました」と話すのは、富士通の作田駿介さん。「診察の終了時間を予測し、帰りの移動と自動でつなぐことができれば、この課題解決に一歩近づけるのではないかと考えました」と語ります。
医療と交通、それぞれの現場には情報や運用の壁がありました。今回の取り組みは、そのあいだに“橋を架ける”ような試みでもあります。
テクノロジーだけでは届かない現場がある
プロジェクトを進めるのは、交通と医療の分野から集まった混成チームです。
「電子カルテと移動データ、どちらも扱える立場にあるのは私たちの強みです。交通が使えず困っている方の助けになるような仕組みに育てたい」と話すのは、富士通Japanの流郷雅仁さん。
ただし、テクノロジーさえあれば現場に届くというわけでもありません。現場との“ギャップ”を埋める必要もあります。
「徳島で医療関係者の方と話す中で、高齢の患者さんの多くはスマホに不慣れで、連絡は今も電話が中心だと聞きました」と現場の実情を語るのは、板津早紀さん。「それでも、“使ってよかった”“これがあって助かった”という声を聞けるように、システムの設計から丁寧に向き合っていきたいと思っています」と続けます。
プレイヤーの一員として、地域とともに進めたい
このプロジェクトは、富士通だけで実現できるものではありません。医療機関、交通事業者、自治体、そして地域の暮らしに寄り添う多くのプレイヤーとの連携によって成り立っています。
「私たちは大企業として見られることが多いですが、今回のチームには“やってみよう”の精神を大切にしているメンバーがそろっています。同じような課題意識を持っている方、関心を持ってくださった方がいれば、ぜひ一緒に話をしてみたいです」と語るのは、勝浜孝太さん。
最終的な目標は、通院をためらう人が減り、帰り道にちょっと寄り道を楽しめるような、前向きな移動体験を生み出すこと。ヘルスケアMaaSは、交通弱者の支援だけでなく、地域の活性化や健康づくりにもつながる可能性を秘めています。
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写真: 中川容邦(Yoshikuni Nakagawa)
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