国土交通省が進める地域交通DXプロジェクト「COMmmmONS(コモンズ)」の一環として実施された「ヘルスケアMaaS社会実装プロジェクト」。前編では、通院を取り巻く移動課題と、地域交通と医療をデータでつなぐ狙いを紹介しました。
後編となる本記事では、本実証に参画した富士通株式会社の取り組みに焦点を当て、設計・開発プロセス、実証で得られた成果と課題、そして今後の展望を振り返ります。
背景と狙い
「病院の帰り」が一番難しい移動だった
デマンドバスは各地で導入が進んでいるものの、十分に活用されていないケースも少なくありません。背景には、予約や利用方法がわかりにくいことに加え、利用者にとって「いつ使えばよいのか」「帰りの足が確保できるのか」などの見通しにくいという課題があります。特に通院のように所要時間が読みづらい外出では、復路の移動手段が不安定になりやすく、結果としてデマンド交通が選択肢に入りにくい状況が続いていました。
その中で同社が着目したのが、地域住民にとって利用頻度の高い「病院への移動」でした。
富士通株式会社モビリティ事業本部・マネージャーの勝浜孝太さんは、「従来のデマンドバスシステムは、病院の診察オペレーションと連携しておらず、利用者はデマンドバスと診察をそれぞれ別に予約する必要がありました。特に帰りは診察終了時刻が読めず、予約しにくい。結果として、復路の移動手段が担保されていないケースが多かったのです」と語ります。
帰りの足が不安定なことで、デマンドバスの利便性は十分に発揮されず、外出機会そのものが失われている——。こうした問題意識を背景に、本プロジェクトは始まりました。
本プロジェクトが目指したのは、地域交通と目的地・施設がデータでつながることで、人々の移動障壁を下げ、新たな外出機会を生み出すことです。交通利用者、交通事業者、施設運営者のいずれにとっても価値のある、「三方よし」の実現がビジョンとして掲げられました。
要件定義と設計プロセス
「要求に応える」ではなく、「一緒につくる」プロジェクトへ
本実証における設計・推進の過程で最も重視したのは、COMmmmONS(コモンズ)のプロジェクト方針を多様なステークホルダーと共有し、同じ方向を向いてもらうことでした。
「従来型のシステム開発のように、決められた要求に応えるだけでは、ベストプラクティスの創出や標準化にはつながりません。常に『より良くするために何ができるか』を問い続けました」
実証関係者との間で意見が食い違う場面もありましたが、丁寧な対話を重ねながら、一つひとつ課題を解いていったといいます。
技術的特徴と開発内容
電子カルテから「帰れる時間」を予測する
本プロジェクトの技術的な核となったのが、病院からの離院時間を予測するモデルです。病院の帰りにデマンドバスを適切なタイミングで配車するためには、「いつ診察が終わるのか」をある程度見通す必要があります。
そこで富士通は、電子カルテシステムに蓄積された診察・検査・会計などの実績データを活用し、ルールベースで離院時刻を予測するモデルを構築しました。
「診療科ごと、地域ごとに患者さんの行動特性は異なります。病院の実データを使わせていただきながら、UIや実証シナリオにも現場の声を反映しました」(勝浜さん)
日本特有の医療・交通事情に合わせた調整を重ねた点も、本実証の重要なポイントです。
フィールド実証・テスト
徳島県立中央病院で約2か月間の実証
本実証は、徳島県立中央病院をフィールドに実施されました。同院で稼働する富士通製電子カルテシステムと、富士通製デマンドバス配車システムを連携させるインターフェースを構築し、2025年11月4日から12月26日までの約2か月間、実証運行を行いました。
実証結果と評価
予測精度70%以上。利用者の声から解像度も高まった
定量評価では、離院予測モデルの精度を検証しました。その結果、全体の70%以上で予実差30分未満という目標を達成。病院の帰りの車両を、一定の精度で手配できることが確認されました。
定性評価として、実証に参加した利用者からは、離院時間を予測する機能について、全員から「便利だ」との声が寄せられました。診察終了時刻が見通せることで、病院の帰りの移動手段を事前に意識できるようになった点は、通院時の心理的な負担を軽減する効果もあったといえます。
また、今回の実証では多くの利用者による乗合を想定し、バン型の車両を中心に運行しましたが、その中で、利用者の身体状況や体調によっては、車両タイプが移動体験に影響することも示されました。足腰が弱い方からは、セダン型車両を希望する声もあり、今後のサービス設計においては、利用者属性に応じた車両選択という視点も重要であることが浮かび上がってきました。
さらに、普段は自家用車で来院している利用者からは、「駐車場を探し回らなくて済み、楽だった」という声も出ました。これは、デマンド交通が高齢者や免許返納者だけでなく、マイカー利用者にとっても有効な選択肢になり得ることを示す結果といえます。
こうした利用者の反応を通じて、病院と交通が連携することで、移動の利便性だけでなく、通院全体の体験そのものを改善できる可能性が確認されました。
課題と学び
技術の先にある「持続可能性」
一方で、社会実装に向けては課題も残ります。最大の論点は、サービスを持続可能にするビジネスモデルをどう描くかです。医療機関、交通事業者、自治体それぞれの役割や負担のあり方を含め、実運用を見据えた整理が今後の検討課題として残されています。
また、手探りでの実証となったことで、試行錯誤を重ねる場面が多かった点についても、率直な認識が示されました。
「計画的に、余裕を持って進められた部分もあったと思います。ただ、その試行錯誤を通じて、離院時間予測の精度向上に必要なデータの粒度や、利用者の身体状況に応じた車両手配といった、実運用を見据えた具体的な検討ポイントが明確になりました」と振り返ります。
今後の展望
他地域・他社とつながる「標準モデル」へ
徳島での実証により、基本的な仮説検証はできたと富士通は捉えています。今後は、他地域でも同様のモデルが成立するのかを検証していく方針です。また、今回は富士通製の電子カルテとデマンドバス配車システムで実現しましたが、将来的には他社サービスとも積極的に接続し、標準モデルとして展開していく考えです。
「地域の関係者の皆さんと一緒につくっていくサービスだと思っています。同じ課題意識を持つ方がいれば、ぜひ議論をご一緒したいです」(勝浜さん)
医療と交通がデータでつながることで、「通院」という日常の行動は、どこまで変わるのか。徳島での実証は、その可能性を具体的に示した一歩といえるでしょう。
なお、各プロジェクトでの調査結果や、実証で得られた知見を整理した技術検証レポートなどのドキュメントについては、年度末(2026年3月末予定)に本サイトAssetページにて公開予定です。各種ドキュメントは、自治体や事業者、開発者など、誰でも使える形で共有され、今後の地域交通DXの取り組みに幅広く活かされていくことが期待されます。ぜひご覧ください。
Updated:
写真: 小林 慎也(Kobayashi Shinya)
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