国土交通省が進める地域交通DXプロジェクト「COMmmmONS(コモンズ)」の一環として実施された、「地域施設送迎のリソースシェア推進プロジェクト」。前編では、公共交通だけでは支えきれなくなりつつある地域の移動課題と、本プロジェクトが着目した「施設送迎」という未活用リソースの可能性を紹介しました。

 後編となる本記事では、プロジェクトに参画した一般社団法人ソーシャルアクション機構の取り組みを軸に、設計・開発プロセス、福祉・教育・観光の3分野で行われた実証の結果、そして全国展開を見据えた今後の展望を振り返ります。

地域の送迎は「各施設ごと」から変えられるか。福祉・教育・観光を横断した、施設送迎の共同活用実証記事のメインビジュアル

背景と狙い

公共交通の外側にあった「送迎」という資源

 国内では、過疎化やドライバー不足を背景に、バス路線の廃止やタクシー台数の減少が続いています。一方で、高齢者の免許返納は年々増え、子どもは学童や習い事などで細分化された移動ニーズを抱えています。

 こうした状況に対し、本プロジェクトが着目したのが、福祉・教育・観光分野に既に存在している「施設送迎」の車両と人材です。全体統括を担ったEXA INNOVATION STUDIO株式会社 IT Directorの松田直樹さんは、問題意識をこう語ります。

 「公共交通の枠組みだけで考えると、どうしても“足りない”という結論になりがちです。しかし視点を変えると、地域には毎日動いている送迎車両や空き時間を持つドライバーが数多く存在しています。それらを“地域の資源”として再定義できないか、と考えました」

 本実証の狙いは、各施設が個別に行ってきた送迎を、地域全体で支え合う仕組みへと転換すること。新たな車両や人材を増やすのではなく、既存リソースを可視化・共有することで、持続可能な移動モデルを構築する点にあります。

要件定義と設計プロセス

「実証で終わらせない」ための現場起点設計

 本実証の要件定義と設計では、システムとして何ができるか以上に、「日常業務の中で無理なく使われるか」が重視されました。送迎という業務は、現場の限られた人員と時間の中で回っています。その前提を崩さずに、どこまでデジタル化できるかがポイントでした。

 要件定義と設計において、松田さんが特に重視したのが、「現場負担を増やさないこと」「ITリテラシーに依存しないこと」「既存業務を大きく変えないこと」です。

 「送迎業務は、紙やホワイトボード、口頭連絡といったやり方が長年定着しています。それを否定せず、延長線上でのシステム化を意識しました。機能を盛り込みすぎると使われなくなるし、簡素すぎると実務に耐えない。そのバランスには一番苦労しました」(松田さん)

 特に議論になったのが、「誰が、どのタイミングで、どの情報を見るのか」という点です。自治体、施設職員、調整役では、必要とする情報の粒度や関心が異なります。すべての情報を一律に提示するのではなく、調整が必要な箇所や全体の状況が直感的に把握できる構成を優先しました。

 また、実運用を見据え、事前に長時間の操作説明を行わなくても使い始められることも重要な要件でした。これまで現場で定着してきた業務の流れを大きく変えず、日常業務の延長線上で使えることを前提に、試行錯誤を重ねながら設計が行われています。

技術的特徴と開発内容

「誰でも使える」ことを技術の中心に

 本プロジェクトでは、ITに不慣れな関係者でも直感的に使えることを前提に、UI/UX設計を技術の中核に据えました。従来のプロ向け配車システムに見られる複雑なパラメータ入力は避け、クリック中心の操作と入力項目の最小化を徹底しています。

配車の管理画面を簡単な入力とクリック中心の操作に設計

 実証期間中も、「ここが使いにくい」といった現場からの声を受け止めながら、表示方法や操作導線の調整を繰り返しました。合わせて、現場での理解や運用を妨げかねない技術用語をそのまま使わないことも重視しています。「最適化」「アルゴリズム」「アサイン」といった言葉は画面上には出さず、現場の感覚や日常的な会話に近い表現へと一度置き換えた上で、機能設計に落とし込みました。

フィールド実証・テスト

福祉・教育・観光の3分野で段階的に検証

 実証は、福祉・教育・観光の3分野を対象に、実際の業務オペレーションの中で段階的に実施されました。

  • 観光分野(12〜1月):繁忙期を避けた時期での宿泊施設の送迎業務を対象に、需要変動や気候が現場負荷に与える影響を検証
  • 教育分野(12〜1月): 習い事の送迎を想定し、保護者の負担軽減の可能性を検証
  • 福祉分野(1〜3月):デイサービスの定常送迎を対象に、システムの操作感や職員の受け止め方を重点的に検証

 分野ごとに条件が大きく異なる中で、同一の仕組みが機能するかが試されました。

実証結果と評価

「動いたか」ではなく、「使われ続けるか」を問う評価

 本実証では、システムが仕様通りに動作したかどうか以上に、「実際の現場業務の中で無理なく回ったか」「関係者の受け止めがどう変わったか」を重視しました。

 事業者側からまず挙がったのが、「各施設ごとにバラバラだった送迎の状況が可視化されたことで、全体像を把握できるようになった」という声です。これまで個別最適で回してきた送迎業務を、地域全体の動きとして俯瞰で見られるため、運用面での見通しが立てやすくなったという声が聞かれました。

 特に観光分野では、送迎先や時間帯の重複が整理され、送迎回数が約3分の1に減少しました。人件費の削減など、運用効率の向上が数字として確認できた点は、わかりやすい成果の一つです。

地域全体の送迎の状況をダッシュボードで一覧できる

 一方で、実運用を通じて課題も明らかになりました。繁忙時間帯に操作負荷が集中することや、施設間で送迎の負担が偏ることへの懸念、特定のスタッフに操作が依存する属人化のリスクなど、継続運用を前提とした際の論点が共有されています。これらは、日常業務に組み込んだからこそ見えてきた課題です。

 運用面では、観光・教育・福祉という条件の異なる3分野で、大きな事故やシステムトラブルなく実証を完遂できた点も評価されています。

 なかでも印象的だったのが、関係者の意識の変化です。実証前には、「他施設の送迎まで担うのは負担が大きいのではないか」という声も少なくありませんでした。

 この点について、松田直樹さんは、次のように振り返ります。

 「最初は、『自分たちの施設の送迎だけでも手一杯なのに、他の施設まで支える余裕はない』という反応が正直なところでした。ただ、実際に運用していく中で、『自分たちの送迎リソースが、地域全体の困りごとを支えている』と実感してもらえる場面が少しずつ増えていきました。送迎を“自分たちの業務”としてではなく、“地域の中で役割を持った資源”として捉え直す変化が生まれたことは、一つの手ごたえでした」

 施設送迎を内向きの業務から、地域で共有する資源として再定義する動きが生まれた点は、本実証を象徴する成果と言えるでしょう。

課題と学び

継続に向けた「公平性」と「ビジネスモデル」

 本実証を通じて、施設送迎のリソースを地域で共有する仕組みが、現場の業務として一定程度回ることは確認できました。一方で、継続的な運用を前提にすると、あらかじめ整理しておくべき課題も明確になっています。

 まず挙げられた課題は、送迎負担の偏りです。実証期間中、特定の施設やドライバーに調整業務や送迎が集中する場面が見られ、「協力している施設ほど負担が大きくなるのではないか」という懸念が共有されました。地域で支え合う仕組みである以上、誰かの善意や献身に依存しない形で、役割や負担をどう分散させるかが重要になります。

 次に、事業としての持続性です。今回の実証は、無償協力を前提とした形で進められましたが、この状態を恒常的に続けることには限界があります。受益者負担をどこまで求めるのか、自治体や施設間で費用をどう分担するのかなど、運用を続けるための経済的なルール設計が次の段階で求められます。

 運用面では、業務が集中する時間帯におけるオペレーション負荷や、システムを扱える人が限られてしまう属人化のリスクも指摘されました。直感的な操作を目指した設計ではあるものの、日常業務に完全に溶け込ませるには、さらに負担を下げる工夫が必要です。

 これらの課題は、制度やシステムを整えれば自動的に解決するものではありません。送迎という業務が、誰のどの作業として回っているのかを丁寧に分解し、現場の動きに合わせて設計を調整していく必要があります。

 実証を通じて得られた最大の学びは、仕組みそのものよりも、「現場を”どう回し続けるか”にこそ調整が求められる」という点でした。地域で送迎を共有するという考え方を定着させるには、運用と人の関わり方を含めた設計が欠かせないことが、改めて浮き彫りになりました。

今後の展望

定着を前提にした次のステップへ

 今回開発したツールは、「施設送迎共同管理システム」として、OSS(オープンソースソフトウェア)として公開され、全国の自治体や事業者が利用可能な標準基盤として提供していきます。

 本実証で得られた仕組みや知見は、今後、他地域への展開も視野に入れつつ整理していく予定です。ただし、今回の実証を踏まえると、いきなり全国展開を進めるよりも、地域ごとの事情に応じた進め方が重要であることが見えてきました。

 松田さんは、今後を考えるうえでのポイントについて、次のように語ります。

 「今回の実証で見えてきたのは、仕組みそのものよりも、実運用の中で“どこで判断が止まるのか”という点でした。自治体、施設、現地の取りまとめ役の間で調整や判断を誰が担うのかが整理されていないと、日々の運用が滞る場面が出てくる。そこが、実際に業務を回してみて初めて具体的に見えてきた論点でした」

 今後の展開では、地域特性を前提とした運用設計が欠かせません。過疎地なのか、観光需要が中心なのか、あるいは住宅地なのかによって、関係者の構成や優先順位は大きく異なります。考え方は共通でも、やり方まで一律にそろえるのではなく、地域ごとに調整する余地を残すことが重要になります。

 また、実証で浮かび上がった負担の偏りや費用分担の問題についても、次のフェーズで整理を進めていく必要があります。無償協力を前提とした形から一歩進み、役割や貢献度を踏まえた運用ルールをどう設計するかが、継続性を左右します。

 施設送迎という、これまで各施設が個別に担ってきた業務を、地域全体でどう支え合うのか。本実証は、その現実的な進め方を考えるための出発点となりました。

 また、各プロジェクトでの調査結果や、実証で得られた知見を整理した技術検証レポートなどのドキュメントについても、年度末に本サイト内「Technical Reports」(3月公開予定)にて公開予定です。各種ドキュメントは、自治体や事業者、開発者など、誰でも使える形で共有され、今後の地域交通DXの取り組みに幅広く活かされていくことが期待されます。ぜひご覧ください。

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