国土交通省が進める地域交通DXプロジェクト「COMmmmONS(コモンズ)」の一環として実施された、「カーシェアリングによる地域の法人車両活用実証プロジェクト」。前編では、人口減少と公共交通の縮小が進む中で、地域法人や自治体が保有する車両という“未活用資源”に着目した背景を紹介しました。

 後編となる本記事では、株式会社TRILL.の取り組みを軸に、共同使用スキームの設計プロセス、長野県内5つのエリアでの実証結果、そして地域交通インフラとしての可能性と課題を振り返ります。

地域が違ってもつながるサービスへ。デマンドバスの標準APIが動き始めた記事のメインビジュアル

背景と狙い

公共交通の縮小後、支え合う仕組みを

 人口減少が進む地域では、バスや鉄道といった既存の公共交通の維持が難しくなりつつあります。利用者が減れば、民間事業としての採算が取れず、撤退や縮小が現実味を帯びます。その結果、「交通空白」が拡大し、住民の生活利便性そのものが揺らぎかねません。

 本プロジェクトが着目したのは、すでに地域に存在している「法人車両」や「公用車」です。

 株式会社TRILL.代表取締役の藤森研伍さんは、問題意識をこう語ります。

 「『交通空白』が生じているエリアでは、新たに路線バスや一般的な民間カーシェア事業をそのまま展開しても、利用者数の観点から経済性を成立させるのが難しいのが現実です。一方で、地域の法人や自治体が保有する車両は、時間帯によっては使われていないことも多い。そこを“共同使用”という形で再設計できないかと考えました」

 狙いは、新たな車両を増やすことではなく、既存の社用車・公用車を活用し、「交通空白」を補完する仕組みを構築すること。その前段として、法人車両を共同で使うカーシェアの仕組みが、実際に地域で機能するのかを検証しました。

TRILL.のミーティングの様子。個人が車をシェアし合うカーシェアサービス「OURCAR」を基盤に、法人・自治体車両の共同使用モデルへと拡張した

要件定義と設計プロセス

料金・責任の線引きをどう整理するか

 本実証でTRILL.が担ったのは、「共同使用」を前提とした要件定義です。ここでいう「車の共同使用」とは、複数の利用者が1台の車両を共有し、維持費や管理負担を分け合いながら使う仕組みです。

 特に議論となったのが、料金設定や利用制限、責任範囲の整理でした。共同使用では、車両提供者と利用者の双方が安心できるルールを設計する必要があります。利用時間の区分や料金の考え方、万が一の事故時の対応など、あらかじめ線引きを明確にすることが必要でした。

 また、現場での理解を得るため、地域に足を運び、自治体担当職員への対面での説明を重ねました。

技術的特徴と開発内容

共同使用スキームを支えるアルゴリズム

 本プロジェクトの技術的な中核は、「共同使用スキームに沿ったアルゴリズム」の創出です。

 「共同使用契約がどのような場合に成立するのか、過去の法令適用事前確認手続を参照しながら、国土交通省と議論を重ねて整理しました。日本特有のルール設計が必要な部分でした」(藤森さん)

 ルールを整理したうえで、それを実際に回る仕組みに落とし込む必要があります。そのため、共同使用スキームに沿ったアルゴリズムを新たに設計し、利用条件や料金の考え方をシステム上で整理しました。

 また、UI/UX設計にも配慮しています。車両提供者にとって、登録や管理が煩雑であれば、参加は広がりません。使用者にとっても、利用手続きが複雑であれば、日常の移動には使いづらくなります。

 具体的には、以下のような条件を踏まえ、予約や利用可否を自動で判定する仕組みを構築しました。

  • 法人、自治体車両の利用可能時間帯
  • 利用制限(業務優先、休日利用など)
  • 料金体系

 一般的なカーシェアは、専用車両を常時貸し出す前提ですが、今回のモデルは「本来は社用車・公用車」であることが特徴です。業務利用との両立を図るべく、利用可能時間や条件を柔軟に管理できるロジックを組み込みました。

フィールド実証・テスト

長野県内4エリアでの運用検証

 実証は、長野県内の主に4エリア(長野市・松本市・上田市・原村など)で、11月10日から3月19日まで実施されました。

 共同使用スキームを通じて、社有車・公用車あわせて約100台を確保。無人で24時間シェアが可能な体制を整え、実際の運用環境下で検証を行いました。

実証結果と評価

「外出が生まれた」という手応え

 本実証で得られた大きな成果は、法人車両・公用車による共同使用モデルが、一定規模で運用可能であることを示した点です。100台規模の車両を無人・24時間でシェアできる体制を構築できたことは、「交通空白」地区における新たな選択肢としての現実性を示しました。

 利用者からは、「このサービスがなければ外出しなかった」という声が寄せられました。移動手段の確保が、外出を後押しする可能性があることが示唆されました。

 事業者からは、「運用してみると業務負担はほぼない」との評価がある一方で、「事故・トラブル時の不安はある」との指摘もありました。技術的な成立だけでなく、安心して利用できる環境整備の重要性も示されました。

成果と課題

密度・時間・制度の整理

 今回の実証では、法人車両のみでは物理的な車両密度を十分に確保できないという制約も明らかになりました。社用車や公用車はもともとの業務拠点に偏って配置されているため、利用者の居住エリア全体をカバーするには限界があります。また、業務利用が前提である以上、シェア可能な時間の総量にも限界があります。

 制度面では、公用車提供にあたっての内規整理や、既存公共交通との役割分担の明確化も必要です。さらに、リース車両が多い企業では参画が難しいという課題も確認されました。

 量的成果と同時に、密度・時間・制度という構造的な論点が整理されたことは、本実証の重要な学びといえます。

今後の展望

交通インフラとして機能させるために

 今後は、リース車両や個人車両を含めた提供者層の拡大を視野に入れています。車両登録や管理にかかる負担を軽減するため、UI/UXのさらなる改善も進める方針です。

 全国展開にあたっては、既存公共交通との役割分担を明確にし、法人側が維持費削減などの具体的メリットを実感できる仕組みを設計することが鍵となります。

 藤森さんは、次のように呼びかけます。

 「本事業で目指しているのは、地域の交通インフラをつくることです。車両提供が増えれば増えるほど、地域交通の補完や公共交通への回帰につながる可能性があります。自治体や企業の皆さまには、ぜひ保有車両の活用を一緒に考えていただきたいです」

 法人車両を“自社資産”から“地域資源”へ。本実証は、その転換点を示す一歩となりました。

なお、各プロジェクトでの調査結果や、実証で得られた知見を整理した技術検証レポートなどのドキュメントについては、本サイト内「共同使用契約に基づくカーシェアリングシステム 技術検証レポート」にて公開しています。各種ドキュメントは、自治体や事業者、開発者など、誰でも使える形で共有され、今後の地域交通DXの取り組みに幅広く活かされていくことが期待されます。ぜひご覧ください。

Updated:

写真: 高橋智(Takahashi Satoshi)

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