国土交通省が進める地域交通DXプロジェクト「COMmmmONS(コモンズ)」の一環として実施された「リアルタイム相乗りタクシーマッチングシステム開発プロジェクト」。前編では、都市部で深刻化する深夜のタクシー不足という課題に対し、相乗りという仕組みで供給力を高める狙いを紹介しました。
後編となる本記事では、株式会社NearMeが担った設計・開発のプロセスと、三鷹駅・渋谷駅での実証結果を振り返ります。リアルタイム最適化は実運用に耐えうるのか。利用者や運行事業者はどのように受け止めたのか。成果と課題、そして今後の展望を整理します。
背景と狙い
「需要増」×「供給減」の構造をどう崩すか
都市部では、特に深夜帯においてタクシー不足が顕在化しています。ハイヤー・タクシー事業の運転者数は、2004年度の約38万人をピークに減少し、2022年度には約21万人となりました。およそ4割の減少です。
一方で、インバウンドの回復や観光需要の高まりを背景に、夜間や繁華街を中心に移動需要は増加傾向にあります。利用したい人はいるのに、車両とドライバーが足りていない。この需給ギャップが、長い待ち時間や機会損失を生んでいます。
本実証では、車両やドライバーを増やすのではなく、「既存資源をどう有効活用するか」という視点に立ちました。リアルタイム相乗りマッチングにより、限られたタクシーをより効率的に配分できるか。技術的成立性と利用者受容性の両面から、その可能性を検証しました。
事業開発 ディレクターの小倉和久さんは、今回の取り組みについて次のように話します。
「ドライバー不足は一時的な問題ではなく、構造的な課題です。車両を増やすことが難しいのであれば、限られた資源の使い方を変える必要があります。相乗りを“特別な仕組み”ではなく、自然な選択肢にできるかどうかが今回の実証のポイントでした」
要件定義と設計プロセス
効率と利用者体験の両立
要件定義から基本設計・外部設計にかけては、NearMeが全体設計を担い、事業目的と技術設計が整合するよう整理しました。初期段階では、検証すべきKPIを明確化したうえで、機能要件・非機能要件を定義し、既存システムの拡張範囲を決定しています。
相乗りは効率性を高められる一方で、迂回や出発時刻のずれが大きければ利用者の受容性は低下します。そのため「最大迂回時間」や「希望時刻からの許容ずれ」といった基準をあらかじめ設定し、効率と不利益の抑制を両立させる設計としました。
プロダクトマネージャーの森川尚士さんは、設計上の難しさをこう振り返ります。
「アルゴリズム上は最適な解が出ても、それが利用者にとって“納得できる体験”になっているかは別問題です。効率だけを追えば不満が生じますし、快適さだけを優先すれば供給力は上がりません。そのバランスをどこに置くかが最大の設計論点でした」
また、理論上の最適解にこだわるのではなく、リアルタイムで応答できる処理速度を確保することを重視。注文タイミングや交通状況の変化を前提とし、現実の運行条件に適合する制約設計を行っています。
UI面でも、料金や到着見込み時刻などの必要情報は提示しつつ、操作はできる限り簡素化しました。相乗りに不慣れな利用者でも直感的に利用できることを意識した設計です。
技術的特徴と開発内容
複雑な最適化を、実用速度で解く
本プロジェクトの技術的中核は、複数の乗客を時間制約の中で効率よくまとめる経路最適化アルゴリズムです。車両定員、到着希望時刻、道路状況など複数の条件を同時に考慮しながら、最適な運行ルートを導き出します。
この種の問題は、条件が増えるほど計算量が急激に増える難しい問題として知られています。本実証では、複数の探索手法を組み合わせることで、広域探索と高速収束を両立させました。
特に、事前予約においては、組み合わせの再配置を定期的に実行し、刻々と新規注文が入る状況下でも最適解を維持できる仕組みを構築しました。
その結果、事前予約では理論上の最適解と概ね同水準の結果が得られました。また、直前予約のように再配置が難しい状況においても、理論上の最適解には及ばないものの、単独配車と比較して効率性が向上することを確認しました。
いずれのケースにおいても、最適化処理は予約注文時に実行され、ユーザーが許容可能な10秒以内の応答性能を確保しています。
さらに本プロジェクトでは、ユーザーの利用ハードルを下げるために、相乗りが成立した場合のみ乗車するオプション(シェアなら乗る)、成立時に通知のみを受け取るオプション(マッチ通知)を開発しました。ここでは、相乗りが成立すると、リアルタイムでプッシュ通知が送信される仕組みとなっています。特に「シェアなら乗る」オプションは、全体注文の約3割で利用されており、ユーザーが経済的価値を重視していることが確認されました。
フィールド実証・テスト
都市型と郊外型の2拠点で夜間需要を検証
三鷹駅では2025年10月31日から2026年1月31日までの金曜・土曜深夜に、渋谷駅では2025年11月1日から2026年2月7日までの23時以降に運行し、終電後や繁華街での需要集中を対象としました。
実証では、リアルタイム相乗りマッチング機能を備えたシステムを用い、配車成立率、応答時間、迂回時間および希望時刻からのずれといった指標を測定しました。また、実運行データをもとにアルゴリズムのパラメータ調整を行い、制約条件の妥当性を確認しました。
あわせて、利用者および運行事業者へのアンケートやヒアリングを実施し、サービスの受容性や運用面での課題についても検証を行いました。
成果と課題
供給量は20〜40%向上。課題は規模化
相乗りにより、1回の運行あたりの乗車人数が増加し、タクシー供給量は約20〜40%向上する傾向が確認されました。限られた車両数のもとでも効率的な配分が可能であることが示されています。
また、利用者アンケートでは、運賃負担の軽減といった経済的価値や、待ち時間の短縮といった時間的価値を「非常に感じた」、「やや感じた」と回答した割合が約90%に達しました。自由記述では「行列に並ばずに乗ることができた」、「通常より安く帰宅できた」、「帰りの交通手段を確保できて安心できた」といった声が寄せられ、経済的価値と時間的価値の双方に対する評価が確認されています。
一方で、「割引額や迂回時間がわかりにくい」といった改善要望もあり、情報提示の分かりやすさやUIのさらなる改善が課題として残りました。
タクシー運行事業者からは、相乗りにより運行単価が向上する可能性や、これまで利用を控えていた遠距離利用者の獲得につながる可能性が評価されました。
ただし、実証期間中の利用件数は限定的であり、事業全体の収益構造に大きな影響を与える規模には至っていません。事業者側からも「サービスの認知拡大と一定規模の利用確保が不可欠」との指摘がありました。
技術面では、迂回や時刻ずれを基準内に抑えながらリアルタイムマッチングが成立することが確認できましたが、利用件数は限定的です。持続可能なサービスとして展開するには、集客策の確立とエコノミクスの成立を両立させることが不可欠です。
今後の展望
規模化と公共交通との連携に向けて
本実証により、リアルタイム相乗りマッチングの技術的成立性と一定の利用者受容性は確認されました。今後は、社会実装を見据えた規模拡大の検討が重要なフェーズとなります。
具体的には、サービス認知の向上や集客施策の高度化により、一定規模の利用件数を確保できる環境を整えることが求められます。利用規模が拡大すれば、タクシー待ち時間のさらなる改善や、地域経済への波及効果もより明確になる可能性があります。
また、既存の公共交通機関が縮小傾向にある中で、鉄道やバスなどの公共交通との連携によってサステナブルな交通システムを構築していくこと、イベント開催時やインバウンドを含めた観光需要など、移動需要が集中する時間帯への応用など、展開可能なユースケースも広がっています。
小倉さんは、今後について次のように話します。
「今回の実証は、夜間移動の支援という文脈で行いましたが、本質は“限られた輸送資源をどう再配分するか”という課題にあります。相乗りはその一つの手段にすぎません。地域や時間帯に応じて、最適な形で活用できるサステナブルな交通システムとして発展させていきたいと考えています」
都市部と郊外では需要構造が異なります。画一的なモデルではなく、地域特性に応じた柔軟な設計を前提としながら、持続可能な地域交通の在り方について検討を進めていく方針です。
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