国土交通省が進める地域交通DXプロジェクト「COMmmmONS(コモンズ)」の一環として実施された「GTFS-JPのアップデート 」プロジェクト。前編では、国際標準GTFSとのズレや、現場で生じている混乱を背景に、GTFS-JP見直しの狙いを紹介しました。

 後編では、本プロジェクトに参画したTIS株式会社と一般社団法人日本バス情報協会が担った仕様改訂の内容と成果、そして今後の普及に向けた課題を振り返ります。

シェアサイクルやデマンド交通も。進化したGTFS-JPが広げるデータの使い道記事のメインビジュアル
「第2回 GTFS-JPアップデート検討会」の様子

背景と狙い

GTFSは広がったが、質と整合性に課題

 2017年に国土交通省が策定した「GTFS-JP」は、日本の交通事業者や自治体の実情に合わせて整備されてきました。現在は、700以上の交通事業者・自治体がGTFSデータをオープンデータとして公開しています。

 一方、GTFS-JPはGTFSの国際標準仕様を国内向けのローカライズ仕様として策定されたものですが、2021年に第3版が策定されてから改訂は行われていません。その間に、国際標準のGTFS本体では拡張機能の追加や仕様更新が進み、日本版との間に徐々に差が生じていました。

 一般社団法人日本バス情報協会・専務理事の西澤明さんは、こう話します。

 「交通事業者や自治体が作成したGTFSデータの中には、経路検索サービス側の要件を満たせず、実際には活用されていないケースもあります」

 今回のアップデートでは、国際標準との整合を図るとともに、技術解説資料を充実させることで、より質の高いデータ作成の後押しを目指しました。GTFSは経路検索だけでなく、交通分析や計画立案にも活用されるデータ基盤であり、その前提となる仕様の整理と品質向上が求められています。

要件定義と設計プロセス

既存データを調査し、仕様を再構築

 本プロジェクトでは、まず国内のGTFSデータの実態を調査しました。GTFS Schedule(静的な駅・バス停、路線、時刻表、運賃等のデータ)のファイル構成や項目設定の状況を確認するとともに、GTFS Realtime(遅延情報や接近情報など)の内容も整理しました。合わせて、実際にどのようなフィールド値が使われているかを分析しています。

 その結果を踏まえ、GTFS Schedule仕様書とGTFS Realtime仕様書を改訂しました。さらに、「GTFSデータ作成手引き」、「GTFSデータ配信手引き」、「拡張仕様の解説書」などを整備し、実務で参照しやすい形にまとめています。

 今回の改訂では、第3版に比べて解説図や設定例を大幅に増やしました。それぞれのフィールドの定義を並べるだけでなく、「どのように記述すればよいか」が具体的に分かる構成にしています。

 「国際標準をそのまま示すのではなく、日本の交通事業の実態や、経路検索サービス側の受け入れ状況を踏まえて整理しました」(西澤さん)

TIS株式会社 ソーシャルイノベーション事業部デジタル社会サービス企画部 エキスパート 長井大典さん

技術的特徴・工夫

日本特有の事情をどう整理するか

 日本の交通事業には独自の乗客への案内や運賃体系があります。例えば、乗客への案内のためにバスに表示される「系統番号」やいわゆる整理券方式の運賃で使われる「区界運賃」をGTFSで表現することが必要になります。こうした仕組みをGTFSの仕様にどう当てはめるかは、データ作成者にとって判断が難しい部分でもあります。

 また、ルートの定義方法や標柱の扱いについては、解釈の違いから設定にばらつきが生じやすく、意図どおりに表示されないケースも見られました。今回の改訂では、こうした迷いやすいポイントについて具体例を示しながら整理し、設定方法を明確にしました。

 さらに、対象とする交通モードも拡張しました。従来のバスに加え、鉄道を正式に対象へ組み込み、「標準的なフェリー・旅客船航路情報フォーマット」を統合して旅客船にも対応しています。合わせて、シェアサイクルや電動キックボードの情報を扱うGBFS、デマンド型交通を記述するGTFS-Flexも対象に加えました。

 これにより、GTFS-JPはバス中心の仕様から、複数の交通手段を包含する基盤へと位置づけ直されました。

成果と課題

対象拡張と国際整合を同時に実現

 今回の最大の成果は、部分修正にとどまらず、国際標準やアプリケーション側の実装状況を踏まえた改訂を行い、対象モードを拡張できた点にあります。

 一方で、課題も残ります。

 「第3版と比べて文書量がかなり増えました。今後は、その内容をどのように分かりやすく伝えていくかが重要です」(西澤さん)

 仕様が充実するほど、理解や実装の負担は大きくなります。「必ず対応すべき点」と「必須ではない点」を明確に示していくことが、今後の普及に向けた鍵になります。

 新たに策定された「公共交通運行情報標準データ(GTFS-JP)第4版」は国土交通省ウェブサイトで公開されています。

今後の展望

公開率と品質をどう引き上げるか

 一般社団法人日本バス情報協会 理事の太田恒平さんは、今後の重点課題として2点を挙げます。

  • データ公開の促進
    現在、GTFSを公開しているのは国内のバス事業者・自治体の約4割にとどまり、リアルタイム情報はさらに限定的です。シェアサイクルや電動キックボードの運行情報を扱うGBFSについても、国内ではまだ数社にとどまっています。まずは公開主体を増やし、データ基盤を広げていく必要があります。
  • データ品質の向上
    仕様に沿っていないデータや、ダイヤ改正後の更新が遅れるケースも見られます。仕様の明確化に加え、データ作成ツールや品質検証ツールの改善、更新状況を確認しやすい公開サイトなどの整備を通じて、継続的に品質を高めていくことが求められます。

 「今後は、技術支援や行政の制度とも連携しながら、普及を進めていきたいと考えています。改訂した標準仕様がシステム選定や補助金の要件などと結びつけば、新たに整備されるデータの品質向上にもつながるはずです」(太田さん)

新しい仕様について説明する太田さん

 また、各プロジェクトでの調査結果や、実証で得られた知見を整理した技術検証レポートなどのドキュメントについても、年度末に本サイト内「Technical Reports」(3月公開予定)にて公開予定です。各種ドキュメントは、自治体や事業者、開発者など、誰でも使える形で共有され、今後の地域交通DXの取り組みに幅広く活かされていくことが期待されます。ぜひご覧ください。

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