国土交通省が進める地域交通DXプロジェクト「COMmmmONS(コモンズ)」の一環として実施された、「GTFS-Flex及びGTFS-Ondemandの技術実証プロジェクト」。前編では、定時定路線交通とオンデマンド交通を横断して検索・予約できる仕組みの狙いを紹介しました。
後編となる本記事では、本実証に参画した TIS株式会社、株式会社駅探、株式会社未来シェアの3社が取り組んだ設計・開発プロセスを振り返りながら、実証結果から見えてきた成果と課題、そして今後の展望をお届けします。
背景と狙い
「オンデマンドバスはあるのに、使われない」問題をどう解くか
路線バス業界では、運転手不足の深刻化により、定時定路線の維持が難しくなっています。オンデマンドバスはその解決策の一つとして注目されていますが、現状では地域専用アプリやコールセンター経由での利用が前提となっており、地域外からの利用や偶発的な利用が生まれにくいという課題がありました。
TIS ソーシャルイノベーション事業部 デジタル社会サービス企画部 エキスパートの松井暢之さんは、その問題意識について次のように語ります。
「オンデマンドバスは、地域の課題解決に有効な手段ですが、『どうやって使うのかわからない』『そもそも存在に気づかない』という状態では、利用は広がりません。UI/UXの部分に、まだ大きな壁があると感じていました」
国土交通省では、こうした課題を解決するため、普及しているさまざまな乗換検索アプリ上で、定時定路線交通とオンデマンド交通を横断的に扱うことを目標に掲げました。
要件定義と設計プロセス
マルチモーダル検索を成立させるための役割分担
要件定義から基本設計・外部設計にかけては、本実証に参画した3社がそれぞれの強みを持ち寄りながら、役割分担のもとで設計を進めました。
TISは、全体アーキテクチャの設計やデータ連携を中心に、マルチモーダル乗換検索とオンデマンドバスのリアルタイム配車予約をどのように結びつけるかを検討。
駅探は、乗換検索サービスの知見を活かし、定時定路線交通とオンデマンド交通を同列に扱う検索・表示の考え方を整理しました。
未来シェアは、オンデマンド配車システム(SAVS)の運用実績を踏まえ、実際の運行条件や配車ロジックが無理なく反映されるよう設計面から支えています。
3社がそれぞれの専門性を持ち寄りながら、「利用者にとって自然な体験とは何か」「現場運用として成立するか」という視点で議論を重ね、設計を詰めていきました。
「単純にシステム同士をつなげばよいわけではありません。利用者にとって“自然な体験”になるよう、土地勘のある人にとっても自然な乗換ルートが素早く得られ、かつどのような情報を伝えればシームレスにオンデマンドバスの予約までつながるか。その境界を丁寧に設計する必要がありました」(松井さん)
技術的特徴と開発内容
国際標準GTFSを“使える形”で実装する
本実証の技術的な柱となったのが、GTFS-FlexおよびGTFS-Ondemandという国際標準仕様です。
「GTFSは非常に汎用性の高い仕様ですが、オンデマンドバスをはじめとするデマンド交通を発見しやすくするために標準化されたGTFS-Flexは、まだまだ日本国内では普及していません。今回は、GTFS-Flexを拡張したGTFS-Ondemandも含め、日本の現場で“実際に使える形”になるよう、どこをどう活用するかを慎重に見極めました」
特徴的なのは、オンデマンドバスを「特別な存在」として扱うのではなく、電車や路線バスと同じ文脈で経路検索結果に並べた点です。また、検索結果画面からそのままオンデマンドバスの予約まで完了できる設計とすることで、移動の意思決定と操作の分断を最小限に抑えています。
フィールド実証・テスト
実際の街で検証する。札幌・創成イーストでの取り組み
本実証では、実際の街を舞台にしたフィールド実証が行われました。対象となったのは、札幌市中心部に近い創成イーストエリアです。観光客の往来と地域住民の日常利用が混在するエリアで、定時定路線交通とオンデマンド交通を組み合わせた移動体験が検証されました。
実証は、運行形態の異なる2つのパターンで段階的に実施されています。
- Zone型(2025年10月10日~10月22日)
サービスエリア内の任意地点から乗車し、あらかじめ定められた停車位置のいずれかで降車(またはその逆)する運行形態。 - Checkpoint型(2025年11月6日~11月19日)
時刻表や固定ルートを持たず、設定された複数の停車位置の間を需要に応じて運行する形態。
利用者は、一般的な乗換検索アプリ上で経路を検索し、定時定路線とオンデマンドバスを含む経路提案を確認します。そのままアプリ上でオンデマンドバスの予約までを行い、実際に車両へ乗車する一連の流れを体験しました。
実証にあたっては、オンデマンド交通と定時定路線交通をつなぐ乗換スポットの選定も重要な検証項目となりました。札幌市内の建設コンサルタントと連携し、土地勘のある視点を取り入れながら、現実的に使いやすい結節点を設定しています。
「机上で考えた経路が、そのまま現地で“納得できる移動”になるとは限りません。特にオンデマンド交通は、乗換場所や待ち時間の感じ方が体験の満足度に直結します」
こうしたフィールド実証を通じて、検索アルゴリズムの挙動、配車予測の精度、乗換所要時間の妥当性などが検証され、後述する実証結果と評価につながる定量・定性的なデータが蓄積されました。
実証結果と評価
「見つけやすい」「使いやすい」への手応え
実証の結果、オンデマンドバスの見つけやすさ・利用しやすさについては、9割以上の被験者が「非常にそう思う」「そう思う」と回答しました。特に、一般的な乗換検索アプリの中にオンデマンドバスが自然に組み込まれている点が評価されています。
実際にテストに参加した利用者からは、「オンデマンドバスを手配する方法がわからなかったが、乗換検索の流れの中で利用方法が統合されていて良かった」、「札幌は積雪時に歩くのが大変なので、オンデマンドバスを含めた経路提案は非常に便利だと感じた」といった声が寄せられました。
オンデマンドバスの存在を“探さなくても出会える”体験が、利便性向上につながったことがうかがえます。
また、社会実装に対する期待も高く、「定時定路線交通とオンデマンドバスを意識せずに使えるようになれば、生活圏で自然に利用できるサービスになる」、「雪の多い地域や高齢者が多いエリアでは、特に価値があると思う」といった前向きな意見も多く聞かれました。
こうした結果について、松井さんは、次のように振り返ります。
「一般的な乗換検索アプリの中でオンデマンドバスが自然に表示され、そのまま予約できるUI/UXは、想像以上に効果があると感じました。社会実装への期待が高いことを確認できたのは、大きな成果です」
一方で、課題も明確になりました。Checkpoint型の実証では、「徒歩のほうが近いと感じる経路が提示されることがあった」、「乗換時間がギリギリで、心理的に不安を感じた」といった声もあり、経路提案の納得感や乗換所要時間の精度については、実際の現場での声を取り入れながら改善を重ねる必要があることが確認されています。
課題と学び
“動く仕組み”から“納得できる仕組み”へ
最大の成果は、一般的な乗換検索アプリ上で、オンデマンドバスを含む経路検索と予約が成立するUI/UXが、実際に有効であることを示せた点です。
一方、社会実装に向けては、
- 地域住民の土地勘に即した経路提案
- 実際の移動感覚を踏まえた乗換所要時間の調整
- 初期段階からの、地域の交通事情や移動実態に詳しい人材(地域住民や関係事業者など)の巻き込み
といった運用・設計両面での改善余地も見えてきました。
技術的には成立していても、「その地域で自然に使われる」ためには、もう一段踏み込んだチューニングが求められます。
今後の展望
国際標準へのフィードバックと、国内での広がりに向けて
本実証の成果は、GTFSの国際標準化団体であるMobilityDataへフィードバックされる予定です。
GTFS-Flex/Ondemandを実際に活用し、マルチモーダル検索とリアルタイム配車予約を両立させた実例として、今後の標準仕様の発展にも寄与することが期待されます。
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