国土交通省が進める地域交通DXプロジェクト「COMmmmONS(コモンズ)」の一環として実施された、「公共交通オープンデータチャレンジ2025 -powered by Project LINKS-」。前編では、日本の公共交通分野におけるオープンデータの取り組みと、交通事業者や自治体が連携してデータ公開を進めてきた背景を紹介しました。

 後編となる本記事では、コンテストで生まれた受賞作品の概要と、その成果を振り返ります。国土交通省が進める地域交通DXの取り組みの中で、オープンデータをどのように社会実装へとつなげていくのか。その可能性と課題を見ていきます。

公共交通オープンデータが広げる移動サービス。開発者たちが挑んだアプリコンテストの成果記事のメインビジュアル

背景と狙い

公共交通オープンデータを社会課題解決につなげる

 2010年代以降、公共性の高いデータをインターネット上で公開し、社会課題の解決や新たなサービス創出に活用する「オープンデータ」の取り組みが世界的に広がっています。公共交通分野でも、GTFSなどの標準フォーマットを用いたデータ公開が進み、経路検索サービスやアプリ開発の基盤として活用されています。

 一方、日本の公共交通は鉄道・バスなど多数の民間事業者によって支えられており、行政だけではデータ公開を進めにくいという構造的な課題があります。こうした状況を踏まえ、公共交通オープンデータ協議会は、交通事業者と連携しながらデータの標準化と流通を進め、オープンなエコシステムの形成を目指して活動してきました。

 その取り組みの一環として、公共交通オープンデータ協議会が国土交通省と共同で開催しているコンテスト、それが「公共交通オープンデータチャレンジ2025 -powered by Project LINKS-」です。今回は、国土交通省の地域交通DXプロジェクト「COMmmmONS(コモンズ)」と連携し、特に「交通空白」の解消につながるデータ活用のアイデア創出を狙いました。地域交通DXを進める国土交通省にとっても、公共交通データを活用した新しいサービスや分析手法の可能性を広く探る取り組みとして位置づけられています。

 少子高齢化が進む日本では、公共交通サービスが十分に行き届かない地域が増えつつあります。こうした課題に対し、従来の交通データだけでなく、デマンド交通データや歩行空間ネットワークデータなど、多様なオープンデータを組み合わせることで、新たな解決策が生まれる可能性があります。

 また、今回のコンテストでは、デマンド交通のデータ形式であるGTFS-Flexによるデータ公開を日本で初めて実現しました。さらに歩行空間ネットワークなど複数分野のデータも提供し、従来の枠組みにとらわれない発想から、交通課題の解決につながるアイデアが生まれる環境を整えました。

コンテスト受賞作品

オープンデータから生まれた多様な移動サービスのアイデア

 本コンテストには国内外から約600人の開発者がエントリーしました。一次審査を経て13作品がファイナリストに選ばれ、最終審査会ではプレゼンテーションによる審査が行われました。

 公共交通データに加え、交通規制データや歩行空間ネットワークデータなど、さまざまなデータを組み合わせることで、移動体験をより安全で便利にするサービスや、地域の回遊性を高めるアプリなど、多様なアイデアが生まれました。

 審査では、「社会課題解決への寄与」、「オープンデータ活用のインパクト」、「技術的完成度」、「UI/UXの完成度」といった観点から評価が行われ、最優秀賞1作品、優秀賞4作品、審査員特別賞5作品などの入賞作品が決定しました。

 ここでは、最優秀賞と優秀賞の計5作品を紹介します。

最優秀賞「Safe Pedal」
交通規制データを活用し、自転車の“安全なルート”を提示

距離優先ルート(左)と安全優先ルート(右)の検索結果画面。交通規制データなどを活用し、自転車利用者がより安全に走行できるルートを提示する

 最優秀賞に選ばれたのは、自転車利用者の安全な移動を支援するアプリ「Safe Pedal」です。このアプリでは、交通規制データなどを活用し、自転車利用者が安全に走行できるルートを提示します。

 多くのナビゲーションアプリが「最短距離」や「所要時間」を重視するのに対し、安全性という観点から経路を評価する点が特徴です。シェアサイクルの利用状況データ(GBFS)とも連携し、観光客にも地元住民にも、都市の移動環境をより安全にする新しいナビゲーションの可能性を示しました。

優秀賞「Waaalk – 歩いて、乗って、冒険へ。」
徒歩と公共交通を組み合わせた新しい移動体験

徒歩と公共交通を組み合わせ、街歩きも楽しめる移動ルートを提示する

 「Waaalk」は、徒歩と公共交通を組み合わせた移動体験を提案するアプリです。国土交通省が整備する歩行空間ネットワークデータと公共交通オープンデータを活用し、出発地から遠くまで歩き、帰りはバスや電車で最寄りまで戻るという散策ルートを提案します。ベビーカーや車椅子でも安心して利用でき、街歩きの楽しさを取り入れた経路提案を行うのが特徴で、観光や回遊促進につながる可能性が評価されました。

優秀賞「コミバスをつくろう!」
コミュニティバスの導入効果を直感的にシミュレーション

バス停を選択するだけでコミュニティバスの経路を作成し、到達圏をシミュレーションできる

 「コミバスをつくろう!」は、コミュニティバスの経路作成と導入効果の検証をブラウザ上で行えるシミュレーションサービスです。バス停を置く場所を地図上で指定しながら路線ルートを試作し、既存の公共交通と組み合わせた到達圏の計算やスコア化が可能です。コミュニティバス導入によって「交通空白」地区がどれだけ減少するかを可視化できる点が特徴で、自治体担当者などがより効果的な運行計画を検討するためのツールとしての活用が期待されます。

優秀賞「ノッタヨ」
「乗った」「降りた」を自動判定しメールでお知らせ

スマートフォンの位置情報と公共交通データを組み合わせ、乗車・降車を自動判定してメールで通知する

 「ノッタヨ」は、スマートフォンの位置情報と公共交通データを組み合わせ、公共交通機関への乗車・降車を自動判定し通知するアプリです。GTFSデータの位置情報や時刻表などを複合的に解析する独自ロジックにより、どこで乗車し、どこで降車したかを特定します。端末内で処理を行うオンデバイス方式のため、通信環境が不安定な場所でも動作を継続できます。既存インフラの改修を必要としない汎用性の高い仕組みで、地域交通DXの実現に貢献する可能性が評価されました。

優秀賞「Mobiviz -デマンド交通分析システム-」
データでデマンド交通の運行を可視化し、意思決定を支援

GTFSデータなどを基にデマンド交通の運行状況を可視化する

 「Mobiviz」は、オンデマンドバスなどのデマンド交通の運行効率化を支援する分析ツールです。GTFSデータや乗車記録などを基に、交通状況をWebブラウザ上で可視化し、インタラクティブな地図分析と統計分析を組み合わせて運行実態を把握できます。分析結果から具体的な運行改善提案を行う機能も備えており、自治体や交通事業者によるデータに基づいた意思決定を支援する点が評価されました。

 「公共交通オープンデータチャレンジ2025 - powered by Project LINKS -」にて、全受賞作品の結果発表が公開されています。こちらもぜひご覧ください。

成果と課題

過去最大規模のデータ環境で見えてきた公共交通データ活用の広がり

 今回のコンテストは、多くの交通事業者や地方自治体をはじめとする関係各位のご理解とご協力を得て、公共交通オープンデータの活用という観点で、過去最大規模となるデータ提供体制のもと開催されました。鉄道24社局、路線バス104社局、コミュニティバス330組織、フェリー28組織、航空・空港関係4社、シェアサイクル2社、さらにデマンド交通3事業者・9自治体からデータ提供を受け、多様な公共交通データを活用できる環境が整えられました。

 こうしたデータ環境の中で、公共交通データと他分野のデータを組み合わせ、新しい価値を生み出す作品が数多く生まれました。例えば、最優秀賞の「Safe Pedal」では交通規制データ、優秀賞の「Waaalk – 歩いて、乗って、冒険へ。」では歩行空間ネットワークデータが活用されています。公共交通データを他分野のデータと組み合わせることで、社会課題の解決につながる新しいサービスの可能性が広がることが示されました。

 また今回初めて提供されたデマンド交通データを活用した作品が複数登場し、新たなデータ公開がサービスやアイデアの創出につながることも確認されました。こうした取り組みは、公共交通オープンデータが移動サービスの高度化だけでなく、地域交通政策の検討や交通空白の把握などにも活用できる可能性を示しています。

 一方で、公共交通オープンデータの活用をさらに広げていくためには、継続的なデータ提供の拡大が不可欠です。コンテストの開催を重ねるごとにデータ公開に参加する事業者は増えているものの、全国的な普及にはまだ課題があります。GTFSデータの作成など、交通事業者側の負担も踏まえながら、データ公開の価値を共有していくことが重要になります。

今後の展望

データの掛け合わせで広がる公共交通の可能性

 今回のコンテストでは、デマンド交通データや歩行空間ネットワークデータなど、新しいデータの提供がサービスアイデアの創出につながることが確認されました。

 国土交通省と公共交通オープンデータ協議会では、今後もこうしたデータの掛け合わせを広げることで、「交通空白」の解消や地域の回遊性向上につながる取り組みを後押しします。また、コンテストで生まれたアイデアが自治体や交通事業者の取り組みと連携し、実際のサービスへと発展していくことも期待されています。

 日常の移動で感じた課題やデータへの理解は、より価値のあるサービスを生み出す鍵となります。今後もコンテストを通じて多様な開発者の参加が促され、データとアイデアから公共交通の新しい可能性が広がっていくでしょう。

 なお、COMmmmONSの各プロジェクトでの調査結果や、実証で得られた知見を整理した技術検証レポートなどのドキュメントについては、本サイト「Technical Reports」にて公開中です。各種ドキュメントは、自治体や事業者、開発者など、誰でも使える形で共有され、今後の地域交通DXの取り組みに幅広く活かされていくことが期待されます。ぜひご覧ください。

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