「バスが減って、駅まで遠くなった」「高齢の親が病院に通えず、困っている」――。こんな声が全国各地で聞かれるようになりました。人口減少や高齢化の進行とともに、地域の公共交通は見直しの時期を迎えています。一方で、「今の路線をどう変えればいいのか」「もっと便利な方法はあるのか」といった問いに、すぐに答えを出すのは難しいのも現実です。
そうした課題に応えるため、パシフィックコンサルタンツ株式会社が取り組んでいるのが「公共交通計画策定支援ツール開発プロジェクト」です。GTFS(公共交通データの国際標準フォーマット)などのオープンデータを活用し、複雑な分析やシミュレーションを誰もが直感的に行えるウェブツールの実現を目指しています。
GTFSデータから到達圏・輸送量までを可視化
開発中の公共交通計画策定支援ツールは、地図やグラフ、表の形式で、交通の状況を一目で把握できることが特徴です。
「GTFSデータをもとに、1日の運行本数や到達圏などの交通サービスレベルを地図上に可視化します。さらに、OD輸送量(ある区間でどれだけの人が移動したかを示すデータ)を重ね合わせることで、エリアごとの移動需要や潜在需要を把握できるようになります」と説明するのは、デジタルサービス事業本部 情報事業部 空間情報室 技術課長の榎本真美さん。
停留所の配置変更や運行本数の調整といった複数のシナリオを、地図上で簡単に試せるインターフェースも搭載予定です。マウス操作でルートを変更したり、画面内のスライダーで運行本数を変えたりするだけで、新しい計画案を即座に作成できます。
専門性に頼らない、現場でできる交通計画
このツールの導入により期待されるのは、データ収集や資料作成にかかる時間の大幅な短縮です。さらに、コンサルなど外注に頼らずに、自治体職員や交通事業者が自らの手で、分析とシナリオ検討を進められるようになります。
「従来は“専門家に任せるしかない”と思われていた作業を、自治体の方々が自らこなせるようにしたいのです。データを“現場の武器”にして、より具体的な検討や議論に多くの時間を割けるようにしたい」と榎本さん。
データ活用を当たり前にしたい
人口減少や高齢化により、路線の維持が難しくなる地域が増える中で、今回のツールは、「維持か撤退か」の二択ではない、新たな選択肢を提示するものです。
社会イノベーション事業本部 都市マネジメント室 室長の和田裕行さんは、計画策定支援の意義について、「紙ベースや年次レポートだけでは、需要の変化や改善効果を把握しきれません。GTFSなどの整備が進む一方で、自治体や事業者がそれを活用できる環境がまだ整っていないのが現状です。今回のツールを通じて、データに基づいた議論や政策立案を“当たり前”にしたいと考えています」と説明します。
実証から全国展開へ
このプロジェクトは、富山県や高松市をはじめとする複数の自治体・交通事業者との連携のもと、実証が進められています。今後は、そこで得られたベストプラクティスやノウハウを、全国の自治体に展開していく方針です。
「ツールで得られた分析結果をもとに議論が進むようになれば、交通政策に対する市民の理解や参加も深まるはずです。最終的には、地域ごとの特性を尊重しながら、より良い交通のかたちを共につくっていける社会を目指したいですね」(和田さん)
複雑な計算や資料作成に時間をかけず、地域に合った交通のかたちを手軽にシミュレーションできる――そんな仕組みが、現場の意思決定を支えようとしています。
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撮影:高橋智(Takahashi Satoshi)
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