(左から)富士通株式会社 クロスインダストリー事業本部 青沼健夫さん、シニアマネージャー 石川勇樹さん、富士通研究所 シニアリサーチマネージャー 原田麗子さん、クロスインダストリー事業本部 陶 拓也さん

新しい交通を導入したら、何が変わる?

 バスやデマンド交通の本数を変えたら、人の動きはどう変わるか。新しい交通手段を導入したら、移動は便利になるのか。

 そんな仮説をデジタル空間で再現し、地域に合った交通施策を検証できるツールの実現に向けて、富士通株式会社が実証を進めています。

 本取り組みは、「地域交通の総合シミュレーションシステムの技術実証プロジェクト」として、2025年度は前橋市を舞台に、さまざまな関係機関と連携しながらシミュレーションの実効性や活用方法を検証しています。

地域に合った交通シナリオを手軽に試せるシミュレーションシステム

 地域の公共交通計画を立てる際、自治体では交通実態の調査、施策案の検討、効果の見込みなどを地道に積み上げていく必要があります。しかし、こうした作業はアナログな手法が中心で、時間やコストの負担が大きいという課題がありました。

 プロジェクトを率いる富士通 クロスインダストリー事業本部 シニアマネージャーの石川勇樹さんは、「移動需要を把握するにはデータが必要ですが、その取得自体が困難な地域も多いのが実態です。また、施策の効果を事前に数値で検証する手法が自治体ごとに異なるため、計画の客観性にもばらつきがあります」と説明します。

 こうした背景を受けて富士通が開発しているのが、まちの人の移動や交通の動きをデジタル空間に再現し、施策による変化を評価できる「地域交通総合シミュレーションシステム」です。

AIと統計から「その地域らしい移動」を再現

 このシステムでは、国勢調査や交通特性調査といった公開統計に加えて、必要に応じてMaaSアプリの実績データも活用。過去の行動履歴を学習したAIによる「行動選択モデル」によって、単なる最短経路ではなく、実際の人々の選択に近いふるまいを再現します。

 「例えば、“距離は短いけれど乗り換えの回数や待ち時間が多いルートを避ける”といった、現実の行動に近い判断も再現できます。施策のパターンごとに人の動きがどう変化するかが見られるので、自治体の方々がより納得感をもって計画を立てられるはずです」(石川さん)

 さらに、AIモデルにより選択された移動経路や交通手段に基づき、車両や利用者の動きを再現するマルチエージェント・シミュレーションも実装。利便性や経済性を自動で算出し、効果を定量的に把握できる点も大きな特徴です。

複数パターンのシミュレーションを利便性や経済性などの視点で比較検討できる

「交通」は移動手段。その先にある「幸せな暮らし」を見据えて

 このシステムは、富士通がこれまで研究開発してきた、人・社会の複雑なふるまいを再現するさまざまな技術や、約10年にわたり全国の自治体にオンデマンド交通サービスを提供してきた経験、交通事業者やコンサルティング企業との対話を通じて得た知見をもとに設計されています。

 「交通は、移動の手段に過ぎません。その先にある暮らしや幸せのためにあるべきものだと考えています。今回のシステムも、富士通だけで完成するものではありません。地域交通の現場に関わる多くの方々と協力しながら、使いやすく、なくてはならない仕組みに育てていきたいと思っています」(石川さん)

全国・グローバル展開も視野に

 今回の実証では、システムの有効性だけでなく、自治体職員による実際の操作性や現場での使い勝手もあわせて検証されます。最終的には、全国の自治体が日常業務のなかで無理なく使える支援ツールとしての普及を目指しています。

 石川さんは、「この実証を通じて、全国・全世界に通用するプロダクトへと進化させていきたいと思っています。移動のシミュレーションを、ただの技術ではなく“誰かの暮らしを支える道具”にしていけるよう、チーム一丸となって取り組んでいきます」と話します。

 地域の交通を、より暮らしに沿った形へと進化させるために。データと現場の知見を掛け合わせた新たなアプローチが動き出しています。

Updated:

写真: 中川容邦(Yoshikuni Nakagawa)

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