(左から)株式会社電脳交通 営業部 営業企画 鶴見将史さん、取締役COO 北島昇さん、商品企画開発部 部長 松浦卓哉さん

タクシー配車アプリが多すぎる問題

 「アプリを使えばタクシーがすぐ呼べる」――そんな便利な時代になったはずなのに、地域や会社ごとに使えるアプリはバラバラ。「結局、どれを使えば一番早いのかわからない」なんて経験はありませんか?

 この“ちょっとした分断”をなくすための実証実験が、いま全国で始まろうとしています。2015年創業の徳島市発スタートアップ、株式会社電脳交通が取り組むのは、「タクシー配車業務・システムの共通化プロジェクト」。事業者間の壁を越えて、「どのアプリからでも、どのタクシー会社にもつながる」世界を目指します。

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「便利なのに連携できない」業界課題に挑む

 全国各地でタクシー配車アプリの導入が進む一方で、地域や事業者ごとにシステムが異なり、相互に連携できないという課題が残っています。こうした分断を解消し、より使いやすい環境を整えるために始まったのが本プロジェクトです。

 複数のタクシー会社が協力し、配車システムとアプリをつなぐ仕組みの標準化を目指すことで、利用者の利便性を高めるとともに、事業者の運行効率の両立を図ります。

 電脳交通 取締役COO 北島昇さんは、「いまのタクシー業界は、事業者ごとに使っているシステムや運用の仕方がバラバラ。これでは、せっかくデジタル化しても、利用者にも現場にも負担が残ってしまう。だからこそ、業界横断で“共通の土台”を作ることが重要なのです」と説明します。

 タクシーの利便性と経営効率の両立を目指すこの実証では、まず業務やシステムの基盤整備に着手。複数のタクシー会社が連携し、共同配車の新規立ち上げやシステム導入に向けて、標準業務モデルや事業者向けガイドの作成、配車アプリと配車システムをつなぐ標準インターフェース仕様(API連携仕様)の策定を進めています。

 この取り組みにより、異なる配車アプリからでも同じ配車システムにワンストップでアクセスできる環境を構築。複数地域で共同配車室の立ち上げやアプリ連携の導入を行い、合意形成コストの低減、運行効率の向上、そして利用者の利便性向上を検証しています。

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東京も、地方も。誰も取り残さないために

 このプロジェクトでは、都市部の大手事業者だけではなく、地方の小規模事業者も含めた“誰も取り残さない”設計を重視しています。

 「効率だけを考えれば、大手タクシー会社の仕組みに合わせた方が早い。でも、それでは地方の中小事業者が使いこなせない。私たちは、現場のリアルな課題に向き合いながら、誰にとっても無理なく使える設計を追求したいのです」(北島さん)

電脳交通 取締役COO 北島 昇さん

 創業当初から「地域交通のリアルな課題」に向き合ってきた電脳交通。その思想は今回のプロジェクトにも色濃く反映されています。自社技術にこだわらず、既存の仕組みや他社の力も柔軟に取り入れる姿勢は、社会実装の現場で厚い信頼を獲得してきました。

 さらに、自治体や交通事業者との連携を重ねる中で、バスや鉄道など他の交通モードとの接続も視野に入れた、現実的かつ実効性のある提案ができる点も大きな強みです。

共同配車モデルの標準化で「誰もが移動に困らない社会」へ

 この標準化プロジェクトは、単なる技術開発では終わりません。複数のタクシー事業者が連携する共同配車モデルの標準化を軸に、配車システムやアプリ間の連携仕様を整備し、全国で活用できる業界共通基盤の構築を進めています。さらに、実証から得られた成果を他地域への水平展開や政策提言につなげ、「持続可能な地域交通」の実現に向けた下地づくりを目指しています。

 「最終的な目標は、“どこに住んでいても、困らずに移動できる社会”をつくること。今はそのための基盤を整えるフェーズです。業界がバラバラのままでは、制度や技術が整っても活かしきれない。だからこそ、この共同配車の仕組みと連携基盤を築くことが欠かせないのです」

地域の課題から、持続可能な交通の形へ

 今回の実証は、タクシー業界のDXと業界標準の策定を進める「共通基盤構築」の試みです。共同配車モデルやAPI連携仕様の共通化を通じて、地域の交通資源を柔軟に結びつける仕組みを検証しています。地域ごとに異なる課題や実情に丁寧に向き合いながら、他システムとの連携や将来的な全国展開も見据え、現場で本当に使える標準モデルの確立を目指しています。

 「私たちの強みは、“オープンであること”。自社の技術や仕組みに固執せず、お互いの知見や技術を持ち寄りながら、自治体や交通事業者、地域の方々と新しい価値を一緒に創っていきたいと考えています。『うちの地域ではこんな課題がある』『こうすればできるかも』という現場の声こそが、実装の出発点になります」

 タクシーのDXにとどまらず、地域の暮らしとともに進化する持続可能な交通の仕組みへ──。制度や技術だけでなく、地域の知恵と実践を組み合わせて形づくるこの共創スタイルが、次の地域交通のスタンダードになるかもしれません。

Updated:

写真提供: 株式会社電脳交通

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