第1回 新技術等を活用した駅ホームにおける視覚障害者の安全対策検討会 議 事 要 旨 日時:令和2年10月9日(金)15:10〜17:20 場所:中央合同庁舎2号館 講堂 開会挨拶(江口技術審議官) ・阿佐ヶ谷駅で発生した視覚障害者の転落事故など痛ましい事故や転落事象は、何としても防がねばならない。 ・転落を防ぐにはホームドアの整備が最も効果的であるが、時間や費用などの課題もある。中長期的な労働力不足・働き手の確保が困難になる中で、鉄道や駅の安全をどう守るかが課題。 ・このため、係員不足にも対応するIT やAI 等の新技術の活用や、一般の鉄道利用者のサポートを可能にするものも検討したい。 ・視覚障害者の皆さん、関係機関の皆さん、有識者の皆さん、鉄道事業者と一緒に考え、実行可能なものは直ちに進めたい。 ・今年度内にはとりまとめを行いたいと考えている。ご協力をお願いしたい。 議事1 検討会の趣旨、検討事項等について ・事務局より、資料1、資料2、参考資料1、参考資料2について説明 議事2 講演 (成蹊大学 大倉名誉教授) ・2016年8月の青山一丁目駅転落事故を契機とした「駅ホームにおける安全性向上のための検討会(事務局:鉄道局)」において、同年12月、「中間とりまとめ」としてハード、ソフト両面から複数の対策が示されたが、転落事故数は高止まりしており追加策の検討が必要である。 ・転落の主原因として「ホーム端の未確認」が挙げられるが、そこに至るまでの誘発要因として「いつもと異なる事態」「白杖の不適切操作」など、8種類が考えられる。誘発要因を回避することが転落の未然防止に繋がる。 ・誘発要因は当事者の意識付けで回避できるものとハードウェア・周囲の支援で回避できるものに区分される。ハードウェア・周囲の支援で回避できるものについては鉄道事業者等の協力が必要。 ・実験の結果、白杖の常時接地やホーム中央部の触覚マーカー設置の有効性が確認されている。 ・第三者機関による事故調査を実施し、それを対策に活かすことが重要である。 議事3 意見交換 (事務局) ・本日は第1回目ということもあり、この検討会で重点的に検討すべき事項等について全ての委員からご意見をいただきたい。 (障害者団体) ・資料1の設置趣旨について、ホームドアの設置を引き続き推進しながら、新技術も活用するといった表現に変更をお願いしたい(指摘を受けて資料を修正)。 ・日視連内でも駅ホームでの安全に関する検討を行っているが、大きくは「1.ハード面の対策」、「2.ソフト面の対策」、「3.転落事故の原因究明」、「4.障害者自身も正しい歩き方をする」、といった4点を検討している。 ・2つ目の「ソフト面の対策」として、駅係員をサポートする新技術の活用といったことも考えられるが、当初から視覚障害者の意見を交えて開発してほしい。視覚障害者自身が、どのようなシステムが導入・設置されているかを知らなくては活用されないのではないか。 ・3つ目の転落事故の原因究明については、障害者の歩行についての見識のある専門家、視覚障害者の目の見え方をわかっている専門家を交えた原因究明が大事なのではないか。 (障害者団体) ・「ハインリッヒの法則」では1件の重大な事故の前に29件の軽微な事故があり、さらにその前には300件のヒヤリハットがあると言われるが、ホームからの転落事故も、300件のヒヤリハットをいかに減らせるかが重要と考えている。 ・ガイドラインでは、ホームへ続く階段等から最寄りのドア位置に誘導ブロックを敷設することになっているが、各駅で構造が異なるので、乗降する両方の駅で同じ位置に誘導ブロックがあることは少ない。そのため、視覚障害者は警告ブロックを頼りに(レール方向に)歩かざるを得なくなる。さらに、警告ブロックの内側に人が並んでいたり、警告ブロックと柱が近接していたりする場合は線路側に避けざるを得なくなる。 そこで、ホームの中央付近に誘導ブロックを敷設することで、視覚障害者がホームの中央付近を安全に歩けるようになると考えている。線路近くではなく、ホーム中央を歩くことで、ヒヤリハットを減らせるのではないか。 ・また、歩行訓練士と鉄道事業者が協力し、駅の歩行訓練を行いやすくするといった取り組みも行えれば良いのではないか。 ・視覚障害者自身も、安全な白杖の使い方をすることが重要。 (障害者団体) ・先天性の視覚障害者は、そもそも鉄道がどのようなものかを知らない人もいる。また、転落した際にどのように対処して良いかわからない視覚障害者もいる。そのため、JR東日本に協力してもらい、実際の駅や車両を用いて、そもそも鉄道はどのようなものかといったことや、ホームに転落しても車両限界の外に出れば車両と接触することはないといったことを学ぶため、10月22日、23日に安全教室を開催する。 ・幹線駅で事故が多く、地方駅での接触事故が少ない要因の一つに、ホームへの進入速度もあるのではないかと考えている。難しいとは思うが、鉄道事業者に運転曲線の見直しを、国交省に進入速度に関する基準等の整備について検討していただき、列車のホームへの進入速度を遅くし、止まりやすい速度にすることで防げる事故もあるのではないか。 (障害者団体) ・自身も5度ホーム転落の経験があり、うち3回は横浜駅である。自助、公助、共助の考え方が大切で、視覚障害者も歩行訓練を受け、白杖を正しく扱うことが大切だと実感している。また、障害者が内方線をどの程度認識しているかも課題。 (支援団体) ・(資料6により事故事例や事故原因を説明) ・物理的環境整備、人的環境整備とともに当事者の取り組みの視点も重要。 ・極端な話、白杖をついて、地面があることを確認したうえで足を踏み出せば転落することはない。しかし、視覚障害者にその技術を十分お伝えできていない、歩行訓練を受けていても現実的には様々な要因によりその技術を駆使できない実態がある。 ・歩行訓練の中には援助依頼の訓練もある。歩行訓練の目的は「行きたい時に行きたい所に行くこと」なので、他人に援助を依頼することもその手段の一つ。 ・視覚障害者は白杖からの情報や音による情報などを頼りに移動しているが、新しい支援機器の開発にあたっては、振動等の新たな情報が視覚障害者に伝わることで、却って危険につながる場合がある。注意の分散についての検討が必要ではないか。 ・支援機器は、設置したり渡したりしても、障害者側がすぐに使えるようになるとは考えないでほしい。 ・ホームの端が判ることは有効。ホームと下り階段を勘違いし確信を持ってホームから転落するケースもある。周囲から見ると自死と誤解される例もある。 (支援団体) ・盲導犬について、誤解をされている点がある。1つ目は、点字ブロックを発見する訓練をしていないので、盲導犬は点字ブロックを認識していないこと。 ・2つ目、盲導犬は壁かホーム端に沿って歩くように訓練されており、ホーム端に沿って盲導犬が歩き、その少し内側を視覚障害者が歩く。この場合は安全である。もし視覚障害者がホーム端に寄った場合は、盲導犬自身もホームから落ちたくないので、内側に誘導することになる。これらを認識してほしい。 ・ホームからの転落を確実に防げる手段は、ホームドアと訓練を受けた人による介助・誘導である。誘導や介助者としてボランティア等の活用を積極的に考えたらどうか。その際は事故が起きた際の責任論についても議論が必要である。。 ・自分がどこにいるかの根拠を2つ以上持つよう視覚障害者に指導している。誘導のアプリやホーム端への近接を知らせるシステム等はその根拠を増やすことになる。事故は錯誤・勘違いから起こることが多く、根拠や注意喚起となるので良いのではないか。 ・警告ブロックの内側に乗車を待っている人がいるため、線路側を歩かざるを得ない事象については、内方線からさらにホームの内側50センチ程度のところに「待機線」のようなもの引いて、安全に歩けるスペースの確保ができれば良いのではないか。 (学識経験者) ・ホームドアや内方線の設置によって防ぐことができている事故も多いと思うので、一定の効果はあがっていると考える。着実に整備を進めている鉄道事業者には感謝している。引き続きハード面の整備をお願いしたい。 ・それでも事故が発生している現状に対して、対策の重点化が必要で、「転落事故を死亡事故にしないためにどのような工夫ができるか」が、この検討会で検討すべき事項ではないか。 ・転落検知マットは、感度を上げると誤検知が多く発生するとの声を聞くが、人命にかかわることなので、そのバランスの検討が必要ではないか。 ・転落事故はどのような駅で起こりやすいのかを分析することで、それらの駅に重点的に人員配置するなどの対策が取れるのではないか。 ・海外では転落事故が大きな問題になっているとの話題を聞かない。海外の方が歩行訓練を受けている割合も多いとのことなので、諸外国の分析もやってみてはどうか。 ・機械には誤作動がつきものなので、過信せず、ICT と人的な対応、2重、3重の対応が必要。 (学識経験者) ・約20年前、ホーム端の警告ブロックからどちら側に行けば安全かを知らせる方法(現在の内方線)を検討する際に、内方線以外にも様々な方法を検討した。警告ブロックの隣に(通常の)誘導ブロックを敷設する方法や、音声による案内、システム活用も検討したが、最終的に現在の内方線となった。 ・システム活用に関しては、20年経って当時とは技術も全く違うと思うので、今回の検討会での議論に期待したい。 ・大倉名誉教授の講演であった、ホーム中央への誘導マーカーの設置については課題もあるのではないか。ホーム幅が狭い場合には警告ブロックと誘導マーカーが近づきすぎてヒューマンエラーにつながることを懸念している。また、2018年のバリアフリー整備ガイドライン改定を受けて、今後、エスカレーターに向けての線状ブロックが敷設されるようになると予想されるが、その上にさらに接触誘導マーカーを設置するとしたら、ホーム上の限られた空間内に点字ブロックが増えすぎることにならないだろうか。 (鉄道事業者) ・今年度中に1日の利用者3,000人以上の全駅に内方線付き点状ブロックを設置予定であり、2032年度末頃までに東京圏在来線の主要路線全駅にホームドアを設置することを目標としている。 ・鉄道事業者だけではわからないことも多くあるので、この検討会が、視覚障害者団体、支援団体や学識経験者との意見交換の場、他社との情報共有の場になればよい。 (鉄道事業者) ・転落事故の多いところから優先順位をつけてホームドアを設置しており、車両の違い等により昇降式等の様々なタイプのホームドアも活用し、順次導入を進めている。 ・ソフト対策としては、非常時には停止ボタンを押すことの啓蒙活動を行っている。その結果、約1割程度ボタンが押される回数が増えている。 ・都盲協から発言のあった安全教室について、同様の趣旨のものを3年前から行っており、視覚障害者の方に線路に降りてもらう体験も行っている。 ・今後の労働環境を踏まえ従来より経営環境が厳しい中、コロナ禍でさらに鉄道事業者は危機的な状況にあり、事業者単独の努力には限界があるので、引続き三位一体の基本精神で国、事業者双方で取組んでいきたい。 (鉄道事業者) ・ハード面では、現在は9路線中6路線で全駅ホームドア設置を設置済みであり、ソフト対策としては「お声がけ研修会」を社内で開催するなどの取り組みを行っている。 ・また、盲学校の生徒向けに、ホーム下への転落後の対処方法等を教える取り組みを行っている。 (鉄道事業者) ・先ほど紹介のあった転落検知通報システムを本年4月より一部の駅で導入している。 ・カメラによる白杖検知の実験を3年ほど前に行ったが、誤検知が多く導入できる状況ではなかった。画像や映像の処理技術やAIによる判定技術はまだ発展途上であるが今後のカギとなることは間違いないため、この検討会ではこうした技術開発にも期待している。 ・小田急ファミリー鉄道展を開催しており、その中では、非常停止ボタンを押す体験ブースを設けている。非常停止ボタンがどのようなものなのかを理解し、正しく扱ってもらうよう来場者に啓発している。 ・一般の利用者への啓発活動としては、車内ビジョンや中吊り広告等を活用することも一案ではないか。 (鉄道事業者) ・内方線付ブロックは乗降客数3千人以上の駅で今年度に完了予定。 ・ホーム柵の設置は究極的な対策だが、扉位置や車両長が異なる列車が走っていることが設置の障壁になっている。 ・大和西大寺駅では、改札口にカメラを設置してAIが視覚障害者を自動認識し駅員に通知するシステムの実証実験を行っている。 ・コロナ禍で経営状況も厳しい状況であることもあり、費用対効果の高い施策を進めることが求められる。本検討会を活用していきたい。 (鉄道事業者) ・当社は阪急電鉄、阪神電鉄をはじめとした大手鉄道会社や能勢電鉄などの中小鉄道会6社が集約されたホールディングスである。 ・クラウドを活用した対策などは、ホールディングス内の鉄道会社が一体となって推進することが可能。 ・乗客による介助も重要である。 (事務局) ・委員の皆様から貴重なご意見を頂いた。今後の検討に活用していきたい。 以上