第4回 新技術等を活用した駅ホームにおける視覚障害者の安全対策検討会 議 事 要 旨 日時:令和3年2月12日(金)14:00〜17:00 場所:中央合同庁舎2号館地下1階 国土交通省第2会議室A(※ウェブ会議) 【開会挨拶(江口技術審議官)】 ・本日の議題として、転落事故のアンケートやヒアリングの結果についての議論があるが、アンケート項目やアンケート方法、集計方法等について、委員の皆様にご指導いただいたことを御礼申し上げる。アンケート結果も踏まえて有効な転落防止対策を検討してまいりたい。 ・ホーム上の歩行のあり方やこれまでの検討会で取り上げた新技術の改善点なども今回の検討会で意見を頂きたい。本日も熱心な議論をお願いしたい。 【報告事項 東京メトロにおける視覚障害者ナビゲーションシステム「shikAI」のサービス開始等について】 (東京メトロ 大原課長) ・東陽町駅のホームドアの供用開始について、前回の検討会で1月末(当初計画は2月下旬)より供用開始とご案内していたが、予定通り1月30日より供用開始した。これで、東京メトロ全線におけるホームドア整備率が80%になったことを併せて報告する。 ・shikAI について、1月27日よりアプリが公開になった。こちらはリンクス株式会社が提供するシステムで、東京メトロは一事業者として駅情報をアプリ内に掲載している。現時点では東京メトロ一社のみが掲載されているが、他の鉄道事業者や自治体等、点字ブロックを敷設している施設の管理者であれば利用できるものとなっている。 ・講習会は既に1回行われており、今後、月内にあと5回講習が予定されている。アプリ運営事務局への要望としては、現在平日の昼に行われている講習を夜や週末に受けたいというものがある。いくつかの自治体からも問い合わせを受けており、見学の対応や、導入に際しての課題を東京メトロから共有している。 (障害者団体) ・講習は1回につき2時間程度であり、歩行訓練士の確保や場所の確保、休日や夜間の講習への要望が多く、困っている。 ・視覚障害者にとってアプリをダウンロードすることが難しいということが実際に開始してみてわかった。 (支援団体) ・東京メトロのプレスリリースでは、「アプリ登録後歩行指導員から電話にて案内がある」旨の記載があるが、これは事実と異なるため、訂正の要望をリンクス株式会社に出していると聞いている。 (障害者団体) ・東陽町駅を利用している人から、「ホームドア工事中のアナウンスの音の質が良くなかった」との意見があった。改善の余地があるのではないか。 ・団体では、スマホを使用するときは安全な状態で使うように言っているが、駅に掲示されているshikAI のポスターでは歩きスマホをしているように見えてしまう。歩きスマホをしているという誤解を与えないよう、丁寧な周知をお願いしたい。 (東京メトロ 大原課長) ・(支援団体からの意見について)今後、情報発信をしていくうえで、正しく発信する様に気を付けたい。 ・(障害者団体からの意見について)スピーカーの音に質については、ご意見を社に持ち帰って検討したい。shikAI のポスターについては、1 枚のポスターで記載できる情報は限りがあるが、別のデザインのポスターも用意して複数枚で案内するなど、歩きスマホと思われないよう、検討していきたい。 (国土交通省) ・障害者団体から指摘のあった歩きスマホと混同される可能性について、新技術を導入する中で、スマホの利用も増えていくと思われる。そのような中で、スマホを活用して転落防止を図っているということを世間の皆様に周知していくこともこの検討会の一つの重要なテーマではないか。 (学識経験者) ・shikAI はホームドアのついているところのみで使うということで良いか。 (東京メトロ 大原課長) ・東京メトロとしては転落防止対策ではなく、視覚障害者により多くの情報をお伝えするツールとの認識。東京メトロではホームドア設置済みの駅でのみshikAI を導入するとの社内方針。 (国土交通省) ・開発メーカーとしてリンクス社の果たす役割も大きいが、導入初期の段階で、アプリ利用者の歩行指導を担っている都盲協とリンクス社での意思疎通も課題と聞いている。今後他社に普及していく予定もあるとのことなので、鉄道局としてもリンクス社と鉄道事業者、支援団体等と調整しながら、スムーズに展開できるよう取り組んでいきたい。 (支援団体) ・国交省として、検討会として、shikAI を転落防止技術として推奨していくということで良いか。 (国土交通省) ・先ほど東京メトロからホームドア設置駅でのみshikAI アプリを使うとの話があったが、他の事業者にも確認したところ、誤認等により危険になることもあると聞いている。転落防止技術として活用するには議論が必要との認識。 【議事1 ホームからの転落事故に関するアンケート及びヒアリング結果について】 (国土交通省) ・(資料1に基づき説明) (学識経験者) ・今回のヒアリングは電話とのことだが、実際の駅に行って当事者と一緒に検証することも必要かと思う。 ・資料10ページの定位に関する事項にある「ホーム上の施設への接触による定位喪失」「他人との接触に伴う転落」と、外的要因に関する事項にある「ホーム上の施設の回避に伴う転落」「他人との接触回避に伴う定位喪失」はそれぞれに似た項目が別の分類とされているが、何が違うのか。 ・「誘発事象」「状況事象」という言葉はより平易にした方が分かりやすいのではないか。 ※会議後に資料を修正した。 (国土交通省) ・接触したことにより方向が分からなくなり、歩いているうちに転落した事象を定位に関する事項とし、接触後すぐに転落している事象を外的要因に関する事項としている。 (学識経験者) ・重要な調査だと思うので、鉄道事業者にも協力してもらい、このようなデータを積み上げていってほしい。 (障害者団体) ・歩行訓練の経験の有無と事故件数またはヒヤリハット件数の関係について分かるか。 ・白杖をスライドさせている状態での事故はどのように起きたかわかるか。 (国土交通省) ・歩行訓練経験がある人のうち転落したことがあるのが39.7%、歩行訓練経験がない人のうち転落したことがあるのが33.6%となっており、歩行訓練経験がある人の方が転落の割合が高くなっている。要因は、訓練後時間が経っている・慣れ・焦っていた等があると思うが、集計上はこのようになっている。 ・白杖をスライドさせていて転落した方は、ホーム端を長軸方向へ移動している際、白杖をホーム側に振ったときに線路側の足を出してしまい、転落したケースが多い。 (障害者団体) ・方向定位を失ったことについてはその原因を突き止めることが大事。 ・外的要因での転落はそもそもホーム端を移動していたことが原因なので、対策が必要ではないか。 ・歩行訓練については、多くの人に訓練を受けてもらい、適切な白杖の使用法を認識すべき。ただし、視覚障害者の側でもどうすれば歩行訓練を受けられるかを知らない人もいる。鉄道事業者と歩行訓練士の連携強化も望まれる。 ・ホームの地面の材質も考える必要がある。タイルであれば白杖をスライドさせやすいが、コンクリートではざらざらしていてスライドしづらい場所もある。可能であれば、警告ブロックの内側はスライドしやすい材質、外側はスライドしにくい材質にすることで、安全なホームの内側を歩くことにつながらないかと考ええている。 (障害者団体) ・転落やヒヤリハットについて、地域や駅の規模、時間帯による差はあったのか。 (国土交通省) ・アンケートについては、三大都市圏での発生が全体の65%となっている。残りがそれ以外の地域。ヒアリングについては、転落57件中25件が三大都市圏。時間帯については集計できていない。 (障害者団体) ・ヒアリングの転落57件中、重複している駅があるのであれば、その駅で特に対策を強化しなければいけないのではないか。転落の多い駅に対して、国交省から対策を取るように進言できないのか。 (国土交通省) ・重複している駅は複数ある。国交省から伝えることで一つの判断材料になるかもしれないが、対策を行うかの最終的な判断は事業者がするものと考えている。 (学識経験者) ・資料6、7ページにあるように、歩行訓練を受け、正しく白杖を使うことが大事だと思う。今回のアンケートは視覚障害者団体に所属している人を対象としたアンケートだが、それでも歩行訓練について知らない人が多いこと、また、団体等に所属していない視覚障害者もいることから、歩行訓練の受講率向上に向けた課題があると考える。 (障害者団体) ・まず、回答数が少なかったことを視覚障害者団体として残念に思う。また、未確認・見落とし・焦り等、視覚障害者側の原因も多い。駅ホームを歩くことは危険を伴うという認識を視覚障害者側が持つことも大事。 ・歩行訓練の中で、駅ホームを歩くことは危険だという認識を強く持ってもらうように指導していただくことも必要かと考える。 ・歩行訓練による正しい白杖使用と、新技術を活用した転落防止対策を両輪として安全対策を推進していければ良い。 (支援団体) ・常時設置でスライドさせていても転落している例もあり、杖と足を交互に出す・ゆっくり歩く等、歩行訓練の内容の精査も必要と感じた。 ・歩行訓練を受けたいときに受けられる体制の整備、また、どうすれば歩行訓練を受けられるかとの情報発進も課題になっている。 (障害者団体) ・先ほど同様の意見もあったが、ヒアリングに加えて実際の駅での調査も出来るとよい。 (支援団体) ・長軸方向の移動、短軸方向の移動に分けて対策を取らないといけないのではないか。 ・短軸方向については反対の番線に列車がいると誤認して、自らの意思で移動した結果転落しているので、これを気付かせる方策が必要。列車のドアが開いていることを表す音を出すのも一案ではないか。 ・長軸方向については、歩行訓練を受けることが有効であることが証明されたと思うが、訓練を受けていても転落している点を考えると、人間は間違いを起こすものだということを前提に、間違いを起こしにくい環境を作ることが大切ではないか 【議事2 ホーム上における歩行動線について】 (国土交通省) ・(資料2−1に基づき説明) (日本弱視者ネットワーク 宇野氏) ・(資料2−2に基づき説明) (鉄道総合技術研究所 大野主任研究員) ・(資料2−2に基づき説明) (障害者団体) ・1月28日に東武東上線の下赤塚駅で視覚障害者の転落事故が起きている。警察発表は事件性がないとのことで、自殺か事故か特定できていないとのこと。(事故であれば)下赤塚駅は、ホーム中央に誘導ブロックがあり、そのような駅でも転落事故が起きているという現実がある。 (学識経験者) ・資料2−1の2ページ、「方向転換回数」について、長軸方向にホームの端から端まで行くことは現実的にはレアケースだと思うので、分割点や分割回数といった表現にしてはどうか。 ※会議後に資料を修正した。 (国土交通省) ・「階段の先で何度方向転換が必要か」と整理することも考えたが、利用者がどの階段を使うかどのエレベーターを使うかは事務局では判断しかねるため、恣意的な集計とならないようこのようなまとめ方とした。表現については、ご指摘を踏まえて資料を修正する。 (学識経験者) ・歩行動線調査は、必ずしもホーム中央でない箇所も含まれているようだが、ホーム端までの距離が左右で違うことで誤認の原因になりえるのではないか。また、歩行動線がこれまでの延長線上にない場合、歩行動線を探すうちにホーム端のブロックを誤認する場合も考えられる。歩行動線と支障物が離れている場合、迂回後の歩行動線を見失う可能性もある。 (障害者団体) ・迂回後、歩行動線が支障物につながっていればブロックを見つけられないことはないのではないか。 (学識経験者) ・歩行道線は支障物にぶつかるように設定するものだから、支障物と離れている場合は想定しなくてよい。 (学識経験者) ・資料2−1では、必ずしも支障物にぶつかっていないように見受けられる。 (国土交通省) ・調査にあたっては歩行動線を長く引けるように検討してもらっており、資料2−1の3ページB駅では、中央の22.7mの歩行動線は支障物の脇を通るように引いている。 (学識経験者) ・必ず支障物にぶつかるように歩行動線を引くとなると、今回の調査の数値は更に厳しいものになるだろう。 (支援団体) ・そもそも長軸方向への移動は、現実的には当事者が致し方なくしていることではないか。誘導ブロックを敷設することで、国交省や本検討会では視覚障害者の長軸方向の移動を認めるということになるのか。 ・ホーム端を歩かなくて済む方法としてホーム中央ブロックの敷設が有効なのであれば良いが、今回の調査結果によると島式ホームで方向転換が平均約5回、平均歩行動線の長さが約25mということ。それは、ホーム内に誘導ブロックがある場所・ない場所が生じるということであるが、誘導ブロックの有無についての誤認も現実的には起きている。 ・コの字型に迂回するということについて言うと、駅ホーム上には人や荷物があり、売店では人が物を買っている状況も考えられる。コの字型に伝い歩きして迂回できる状況が必ずあるわけではない。このようなことに鑑みると、敷設することのリスクもあると考えるが如何か。 (障害者団体) ・確かに売店に人が立っている場合は想定されるが、実際には現在でも、ホーム中央部の歩行動線が何もないところで歩いている場合に人にぶつかることはあり、謝りながら、方向がずれながらも進まざるを得ない。 ・仮にホーム中央部に誘導ブロックがあれば、一般の方も視覚障害者の歩行動線として認識してくれるのでは。ぶつかっても謝れば済むだろうし、ブロック上に立たない、物を置かない、等は啓蒙できていくのではないか。 ・それよりも、ホーム端の警告ブロックを歩かざるを得ない状況で、今回の調査だけでも91件(アンケートによる長軸方向を歩く視覚障害者の転落件数)もの事故が起きているという現状を放置するのはどうなのか。それであれば、「すいません」で済む方がヒヤリハットを減らせるのでは。たとえ歩行動線の長さが25mであっても、迂回するなどして進めるのであれば、ホーム端を歩いて起こる転落事故を減らせるので視覚障害者にとっても良いと考える。 ・青山一丁目駅や蕨駅の事故事例でも、通勤ルートで長軸方向の移動は2両程度。人によっては違うだろうが、2両程度であればせいぜい1、2回の迂回なので、頭の中に地図を認識し、歩行訓練をすれば十分に歩くことができると考える。 (国土交通省) ・様々な意見をいただいているが、論点を整理して次回以降お示しし、議論を深めていければと思う。 【議事3 新技術等を活用した転落防止対策等に関するフォローアップ等について】 (国土交通省) ・(資料3−1に基づき説明) (障害者団体) ・私が一番期待したいのはAI カメラ。長軸方向だけでなく、短軸方向の転落対策としても有効な策になると考える。短軸方向に歩いていく視覚障害者は電車の音を聞き間違い、見間違いが多く、仮にAI カメラがあれば電車が入っていない場合に警告を発することができる。短軸方向での勘違いリスクを避けられる。 ・また、転落時に列車制御と連動することも有効だと考える。転落検知マットも傘などの落下では検知しないなど、技術が向上していると聞いている。転落検知マットが普及すれば事足りるのかもしれないが、転落検知マットにしてもAI カメラにしても転落した瞬間に自動的に列車停止がなされるような対策が大切だと思う。 (鉄道事業者) ・AI を用いた画像認識については、誤検知や、AI 自体が場所に依存するため学習するプロセスに手間がかかるなどの問題が、低価格で多くの場所で利用されるシステムとなる上での障害となっている。AI が勝手に学習するようなものにして、標準化かつ安価なものとし、全てをクラウド側で行うようにすれば、全国の鉄道会社で幅広く利用されるようになるのではないか。 ・カメラの設置に当たっては、電源の配線などの障害もある。 【その他】 (学識経験者) ・模擬プラットホームを使い、模擬売店を通過してその先まで向かう実験について、被験者数を10人に増やして実験をしたので紹介する。 ・実験結果として、模擬売店を通過した後、歩行動線がない場合は歩行動線がある場合に比べて軌跡がばらつくこととなった。 ・また、今回新たな実験として、混雑をイメージした実験を行った。ホーム中間あたりで降車し、階段に向かうシナリオを設定し、そのルートの途中に乗客変わりの人形を7体ほど設置してみた。歩行動線がない場合は人形を避けた後、方向を見失い端に寄っていき、軌跡がばらつく結果となった。 (障害者団体) ・下赤塚駅での事故について、家族は自殺ではなく事故と言っているが、国交省の捉え方は。 (国土交通省) ・今のところ事故という報告は受けていない。現時点で事故と認識していない。 (障害者団体) ・鉄道事業者からの報告が上がっていないということか。警察側では、「事件性はなく、事故と自殺の併記」となっているようだ。 (国土交通省) ・鉄道事業者から事故との報告は上がっていない。 (障害者団体) ・鉄道事業者からの報告ということは、事故か自殺かが特定できていないのではないか。過去にも事故か自殺かわからないケースがあるのではないか。過去数年の視覚障害者の自殺案件を調査してもらいたい。 (国土交通省) ・手元に昨年度の例があるが、昨年度の自殺案件は577件あった。そのうち視覚障害者は0件と聞いている。 (障害者団体) ・了解した。本件については、警察も事故または自殺と併記していることから、きちんと鉄道事業者に状況を確認し、原因を特定してほしい。 (国土交通省) ・鉄道事業者から話を聞く。 (障害者団体) ・今回の議論とは関係ないかもしれないが、ある視覚障害者より、本来自分が降りる駅と勘違いして降車し、転落しそうになったという意見があった。原因として、自分がどの駅に着いたのかわからなかった、ということを挙げている。駅到着時のアナウンスがないということも見受けられるようなので、このような観点からも転落防止になるような対策があるのであれば、積極的に取り入れてほしい。 【おわりに】 (国土交通省) ・新しい技術について引き続き議論をしていくが、スマホも一つのアイデア。歩きスマホの観点から、視覚障害者の方がスマホを利用することに対して社会的認識をどのように得るかが重要。 ・また、視覚障害者の転落防止に関する問題は色々な角度で色々な人が議論することが重要。例えば、市原委員から以前紹介のあった白杖を挙げるSOS サインなどを、一般の人に周知していくことや、三宅委員から意見のあった駅のアナウンスのわかりづらさや車内の放送の不十分さの改善についても、転落を防ぐ策としてしっかりやっていかなければならない。 ・色々な事を組み合わせて、いかに転落事故を減らしていくかが重要。次回以降も議論をお願いしたい。 ※)便宜上、発言順を変更している箇所があります。