新技術等を活用した駅ホームにおける視覚障害者の安全対策検討会(第6回) 令和3年3月12日(金)14:00~16:30 中央合同庁舎2 号館地下1 階 国土交通省第2 会議室A・B (※ウェブ会議) 議 事 次 第 1.開 会 2.報告事項 (1)「視覚障害者の鉄道利用に関する安全教室(介助要請アプリ の実証実験を含む)」について (2)視覚障害者への介助・支援等に関する動画・ポスターについて 等 3.議 事 (1)「ホームドアに依らない転落防止対策の考え方」について 成蹊大学 大倉元宏 名誉教授 (2)とりまとめに向けた意見交換 (3)その他 4.閉 会 新技術等を活用した駅ホームにおける視覚障害者の安全対策検討会(第6回) 【障害者団体・支援団体】 日本視覚障害者団体連合 情報部長 三宅 隆 日本弱視者ネットワーク(筑波大学附属視覚特別支援学校 教諭) 宇野 和博 東京都盲人福祉協会 常任理事 市原 寛一 埼玉県網膜色素変性症協会 会長 田村彰之助 日本歩行訓練士会 事務局長 堀内 恭子 日本盲導犬協会 顧問 吉川 明(欠席) 【学識経験者】 成蹊大学 名誉教授 大倉 元宏 慶應義塾大学 経済学部 教授 中野 泰志 鉄道総合技術研究所 人間科学研究部 主任研究員 大野 央人 【鉄道事業者】 JR東日本 執行役員 安全企画部長 松橋 賢一 JR西日本 鉄道本部 駅業務部長 佐伯 祥一 東京メトロ 経営企画本部 企業価値創造部長 川上 幸一 小田急電鉄 常務取締役 交通サービス事業本部長 五十嵐 秀 近畿日本鉄道 取締役常務執行役員 企画統括部 副統括部長 湖東 幸弘 阪急阪神ホールディングス グループ開発室 部長 山本 隆弘 (代理出席:阪神電気鉄道 都市交通計画部(安全担当)部長 増味 康彰) 【国土交通省】 大臣官房 技術審議官(鉄道) 江口 秀二 総合政策局 安心生活政策課長 真鍋 英樹 (代理出席:総合政策局 安心生活政策課 交通バリアフリー政策室長 平野 洋喜) 鉄道局 総務課 鉄道サービス政策室長 森髙 龍平 鉄道局 都市鉄道政策課長 金指 和彦 (代理出席:鉄道局 都市鉄道政策課 駅機能高度化推進室 専門官 福本 義光) 鉄道局 技術企画課長 岸谷 克己 鉄道局 安全監理官 森 信哉 【厚生労働省(オブザーバー)】 社会・援護局 障害保健福祉部 企画課 自立支援振興室長 金原 辰夫(欠席) (事務局 鉄道局技術企画課) 報告資料1 介助要請アプリの実証実験・安全教室について (1)概要 視覚障害者が駅ホームや車両について理解し、安全に利用することを目的とした教室を開催し、その一環としてスマートフォンを用いた介助要請アプリの実証実験を行う。 (2)日時・場所 日時: 3月4日(木)、3月5日(金) 場所: 阪神電車大阪梅田駅、武庫川駅 参加人数:1回あたり視覚障害者3名 (3)安全教室の流れ ①介助要請アプリを利用した移動 ・大阪梅田駅と武庫川駅間の移動に際し、アプリを用いて介助要請 ②車両・レール等を触る体験(武庫川駅) ③歩行訓練・乗降訓練(大阪梅田駅) ・歩行訓練士の指導のもと、ホーム上での歩行訓練及び回送列車を使用した乗降訓練 2.視覚障害者の鉄道利用に関する安全教室 (1)概要 日常的に鉄道を利用している視覚障害者を対象に、スマートフォンを用い介助要請アプリを利用していただくことで実証実験を行う。 (2)日時・場所 日時: 3月6日(土)~3月15日(月) 場所: 阪神電車大阪梅田駅~武庫川駅、 桜川駅~大物駅の区間 参加人数: 視覚障害者5名 (3)実証実験の流れ ①事前準備(アプリダウンロード等) ②アプリを用いて駅員に介助要請 1.日常の鉄道利用における実証実験(継続中) (日常の鉄道利用)介助要請(日常の鉄道利用)要請内容の確認 (安全教室)レールを触る体験(安全教室)回送列車を使用した乗降訓練介助要請アプリ利用者の感想 ・多くの会社に広がっていくと良い。・メッセージは意外と便利だった。 ・もっと少ない手数で連絡したい。・音声通話時も位置情報が送られると良い。 報告資料2 視覚障害者の支援等に関するポスター掲出に係るアンケート結果 1.調査目的・調査方法等 (1)調査目的: 駅ホームにおける視覚障害者への介助方法や留意事項等について記載した任意団体作成のポスターについて、駅構内等での掲出に関する鉄道事業者の考え方の確認 (2)調査対象: 調査対象:鉄道事業者31事業者(JR6事業者・大手民鉄16事業者・地下鉄9事業者) (3)調査方法: アンケート票の配付・回収による調査(令和3年1月配付、同年2月回収) (参考として、次ページの「ホーム転落をなくす会」作成のポスターをサンプルとして同封) (4)集計項目: ① 任意団体作成のポスター(営利目的ではなく、公共性の高いもの)に関する駅構内等への掲出依頼にあたっての基本的な対応方針          ② 国土交通省や、国土交通省の主催する検討会(例えば、「新技術等を活用した駅ホームにおける視覚障害者の安全対策検討会(国土交通省鉄道局主催)」など)を明記することによる掲示可能性 2.調査結果 「検討会」の名称を明記することで掲出可能(10事業者)  国土交通省の名義が必要(14事業者)  その他(主な意見)(7事業者)  営利目的ではなく、公共性の高い目的のためであるかなど内容を精査する必要がある。  有料掲出を原則、或いは、優先とする。無償であれば一律対応しない。  同じ内容のポスターばかりが一時に掲出されないように調整することがある。  掲出できるスペースに限りがあるため、掲出できないことがある。 資料1 P1 ホームドアに依らない転落防止対策の考え方(大倉) 移動方向 長軸/短軸 乗車/降車 乗車/降車 転落件数 - 対策 ホーム上は単独移動しない 具体的な対応策 ・駅員や乗客による介助・【新技術】改札口のカメラ映像による識別・介助(実証実験中)・【新技術】スマホによる介助要請(実証実験予定) 移動方法 長軸 乗車/降車 乗車降車 転落件数 大倉9/19 国交省 47/74 対策 ホーム端を歩かない ・ホーム長軸中央部への触覚マーカ の設置(検証実験中)。相対式ホームでは一端の壁で代用できる場合がある ホーム端に寄った場合の注意喚起・ホーム縁端部の触覚的な警告の強調(検証実験中)・【新技術】ホームの監視映像を活用した注意喚起(実証実験予定)。ただし,メッセージの内容を吟味 移動方法 短軸 乗車/降車 乗車 転落件数 大倉 7/19 国交省 24/74 対策 車両が存在しない場合の注意喚起 ・駅員や乗客による介助 ・安全な乗車手順の励行(歩行訓練) ・車両側から存在信号の提示 ・【新技術】ホームの監視映像を活用した注意喚起 (実証実験予定) 。ただし,メッセージの内容を吟味 移動方法 短軸 乗車/降車 降車 転落件数 大倉 3/19 国交省 3/74 対策 ホームの長軸中央部を知らせる ・上記「ホーム端を歩かない」における具体的対応策と同じ 島式ホームにおいて反対側の端に寄った場合の注意喚起 上記「ホーム端に寄った場合の注意喚起」における具体的対応策と同じ 註)単独移動では白杖の常時接地操作励行(歩行訓練) P2 ホーム長軸中央部への触覚マーカの設置(検証実験中) 【目的】 端を歩くと転落の可能性が高まる。そこで,ホーム長軸中央部へ触覚マーカ(30 ㎝幅の線状ブロック)を設置した場合の効果検証を行った。 屋外に模擬島式プラットホーム(全長15m×幅6m×高さ10㎝)を設営し,2つのシナリオを用意した。 高精度のGPSシステムで歩行軌跡を計測し,評価指標とした。 【方法・長距離移動シナリオ】 10名の視覚障がい者が参加した。男女5名ずつで,年齢は25~65 歳,平均43.2歳であった。 ホーム中程に模擬売店を設置し,模擬乗客(空気人形)を5体(●印)配した。 ホームの一端から出発し,指示にしたがって模擬売店を右もしくは左に回避して他端に設定した目標点まで移動することを求めた。 各参加者は触覚マーカの有/無で4回ずつ試行した。 【方法・混雑シナリオ】 5名の視覚障がい者が参加した。男3・女2名で,年齢は31~56歳,平均45.6歳であった。 両番線においてホーム中程に降車後,目標まで向かうことを求めた。 その間に触覚マーカを基準に線対称位置に模擬乗客7体を配した。 経路外にもノイズとして3体配した。 各参加者は触覚マーカの有/無で,両番線から2回ずつ試行した。 【結果】 両シナリオとも触覚マーカがあると歩行軌跡の安定がみられた。 長距離シナリオにおいて,模擬売店回避後特に顕著であった。 また,参加者は触覚マーカ設置について全員賛意を示した。 P3 ホーム縁端部の触覚的な警告の強調(検証実験中) 【目的】 ホーム長軸中央部へ触覚マーカ(線状ブロック)を設置したとしても,それを逸脱することは十分あり得る。 そのため,縁端部における警告の強調が求められる。 ここでは,警告ブロック(点状ブロック)を端まで拡張敷設する場合の効果検証を行った。 なお,拡張敷設に対して従前の敷設法を一列敷設とよぶ。 【方法】 5名の視覚障がい者が参加した。男3・女2名で,年齢は31~56歳,平均45.6歳であった。 模擬プラットホームの四隅に内向きにスピーカを配した。 2カ所の出発点を両短辺の中央に設定した。 参加者は出発点に立つと前方左右どちらかのスピーカから音(ピヨ音,約55dBA))が出力されるので,それに向かって直進し警告ブロックを検知したら,速やかに停止することを求められた。 白杖は指示された方法(2点接地/シンボル/シンボル+暗算)で操作した。 シンボル+暗算では,歩行しながら,同時に暗算(1桁×2桁の掛算,答えは2桁,1.5 秒毎に出題)を求めた。 考え事をしている状況をシミュレートするねらいがあった。 各参加者は3つの白杖操作ごとに,一列敷設および拡張敷設に対してランダムな順で4回ずつ試行した。 ホーム端から近い方のつま先までの距離を評価指標とした。 また,同種の実験を行った5 名を加え,合計10名の参加者(長距離移動シナリオ参加者)に両敷設法について主観的な意見を求めた。 【結果 】 平均でみると拡張敷設のほうが端から離れて停止したが,差はわずかであった。 各白杖操作において端に近く停止したのは同一人で,歩行速度が高く,暗算も得意。 他の4人は暗算が加わると歩行速度を極端に落とした。 敷設法に関して主観的意見は割れた。 一列敷設を肯定する者は警告ブロックの先のフラットな面を検知することでホーム端に近づいたことが分かるとしているが,警告ブロックの検知できないと危険な状況に陥る可能性は残る。 ホーム端に近いことを示す手がかりは多数の者が求めており,CP ラインの特性を有する第3の路面パターンの必要性が示唆される。 資料2 2021年3月12日 新技術等を活用した駅ホームにおける視覚障害者の安全対策検討会資料 「ホーム中央の誘導ブロック敷設に関する懸念に対する解決策」 日本弱視者ネットワーク 筑波大学附属視覚特別支援学校 宇野和博 1.ホーム上での長軸移動の是非  「長軸移動は危険で、基本的には長軸方向の歩行をしないような前提とする必要がある。」ということだが、乗車駅と降車駅で階段の位置が異なる場合、どちらかの駅で移動せざるを得ない。もちろん、最寄りな階段を選び、ホーム上の移動距離を最短にすべきなのは言うまでもない。それぞれの駅の階段の位置が異なる限り、是非が議論できる内容ではない。 2.ホーム中央ブロックの敷設に伴う安全性について  「ホーム中央部に誘導ブロックが敷設されている状況の駅でも転落事故が発生している。」ということだが、現在はホーム中央部に誘導ブロックが敷設されている駅はほとんどない。いつどこで起きた事故なのか?ちなみに護国寺駅では大きな盲学校が近くにあるが、これまで転落事故は一度も起きていない。もちろん、このような駅でも電車がいると勘違いし、短軸方向にあるいていってしまった場合は事故が起きることはあり得る。あくまでも長軸方向の移動時に偶発的に起きる転落事故を防ぐのが目的である。現に国土交通省の調査では、転落事故の6割が長軸方向の移動時に起きており、その要因もホーム中央で方向定位を失ったり、警告ブロック上やその外側を歩いていて起こっている。このような事故を防ぐにはホーム中央に視覚障害者が安心して歩ける誘導ブロックの敷設が有効であると考えられる。 3.警告ブロックと誘導ブロックの誤認  「警告ブロックと誘導ブロックを誤認して転落した事例がある。」ということだが、この事例が護国寺駅や虎ノ門ヒルズ駅でないとすると、現行の点字ブロックの敷設方法に問題があることになる。事故の詳細を検証してみないと分からないが、点字ブロックがないエリアを歩き、偶然見つけた点字ブロックを誤認したのではなかろうか。もしそうなら、誘導ブロックを敷設し、点字ブロックによる動線を確保すればこのような事例を減らせるとも言える。  「全ての視覚障害者がブロックの違いを認識して歩いているわけではない。」ということだが、まず、できないのか、できるけれどしていないのかということを分けて考察する必要がある。多くの視覚障害者は、点か線を認識することはできるが、ホーム上で歩いている時には認識しようとしていない。これは白杖でブロックの端を確認しながら歩くという歩行方法と一歩一歩足裏でブロックの形状を確認していたらすたすた歩けないということが理由である。本質的なポイントは、道しるべとなる何らかのマーカーの存在が重要ということである。もちろん、確認したい時に確認できるよう、マーカーといっても、中央には線状ブロック、端には点状ブロックを敷設するのがよいと考える。  認識できない人の場合、ホーム上のみならず、道路上の歩行でもかなり危険と言えるため、誘導案内か、援助依頼を勧めたい。 4.障害物の迂回  「連続して敷けないと、避けた時に方向が分からなくなり、迷う可能性が出てくる。」ということだが、そもそも視覚障害者の家から駅までの動線が一直線ということはあり得ない。「コ」の字のような道路もあれば、もっと複雑なルートもあり得る。路上駐車している車を迂回することもある。視覚障害者はこれらのルートを訓練し、頭の中に地図(メンタルマップ)を描き、点字ブロックや歩道の縁石等を頼りに歩いている。ホーム上の「コ」の字の迂回ができなければ、そもそも駅まで一人で来ることもできないと考えられる。駅の構内を見ても、改札からホームにたどり着くまでにも「コ」の字以上に複雑なルートはいくらでもある。例えば、豊島区役所から有楽町線「東池袋」駅のホームまでのルートを見ても、改札に入るために右に曲がり、改札を通過したら右に曲がり、階段に近づくために右に曲がり、下り階段に向かうためにまた右に曲がるといった具合である。もっとも、もし「コ」の字の迂回で迷う状態であれば、駅係員の誘導を依頼した方が安全だと考えられる。本会議で考えるべきなのは、ある程度歩行能力がある人でも、警告ブロック沿いを歩いていて転落したり、何も道しるべがないエリアで方向定位を失って転落している実態をどうなくしていくかということである。 5.人との接触 「売店で誰かが売り買いしている場合、敷設されているブロックが塞がり、誘導ブロック上を歩くのは難しいのではないか。」ということだが、売店を「コの字に」迂回する場合売店の縁端を利用できるため、そもそも誘導ブロックを敷設する必要なない。日常利用する駅であれば、どちらが表側化を認識し、売店の裏側を通るようにすることもできるのではないか。また、どうしても表側を通らなければならない場合は、人がいる可能性を予想できるため、少し声を出して配慮してもらうこともできる。警告ブロック沿いを歩いている時は、どこに人がいるかが予想できないため、声を出すこともできないし、転落のリスクと隣合わせになる。また、点字ブロックがない中央エリアを歩いている時に人とぶつかることもよくある。仮に誘導ブロックが敷設されれば、点字ブロックの上に立ち止まったり、荷物を置かないように啓発していけば、衝突を避けることもできる。  視覚障害者も売店やそば・うどん屋、待合室を利用したいこともある。 6.動線長  「島式ホームでは連続する動線の平均の長さが25m 程度であり、誘導ブロックがあるところとないところがある(途切れ途切れとなる)のは問題ではないか。」ということだが、前回の会議で話した通り、階段が多ければ目的の車両に近い階段を利用することができるため、ホーム上を歩く距離を短くすることができる。また、誘導ブロックがないところは階段や売店等の縁石をたどればよいのであって、道しるべが途切れるわけではない。階段脇での事故も起こっているが、ホーム中央に誘導ブロックを敷設し、視覚障害者が中央を歩くことを啓もうしていけば、階段脇でも階段沿いに歩くことを意識付けしていくこともできるのではないか。 7.狭隘箇所の敷設  「ホーム幅員が狭い箇所には誘導ブロックを敷設できない。」ということだが、ガイドラインに抵触するくらいの狭いところは視覚障害者のみならず、だれにとっても危険である。よって、ホームドアを優先的に敷設するのがよいと考える。また、例えば警告ブロック間の距離が2m以下であれば、そその手前で誘導ブロックを止めるという手立ても考えられる。 8.駅による違い  「ホーム中央に誘導ブロックがある駅とない駅が混在すると、混乱・負担増の可能性がある。」ということだが、どんな設備もすべての駅に一夜で設置することはあり得ない。それを負担増と表現するなら、今後どんな設備も導入できなくなってしまう。1970年代にはじめて警告ブロックがホームに敷設された時も徐々に広がってきたのが事実であり、誘導ブロック、内方線、ホームドアも同様の経緯をたどっている。大事なことはできるだけ早く安全な歩行ルートを確保することと誘導ブロックが敷設された後はその駅を利用する視覚障害者に伝え、その人のメンタルマップに認識してもらうようにすることである。  参考までに1970年代にあった大原訴訟の最高裁判決には次のように書かれている。「昭和四六年三月当時、点字ブロツクは五六の、点字タイルは四一の各都市で既に採用されていたが、その後昭和四八年ころから急速に普及した。上告人は、本件事故の昭和四八年八月当時、大阪及び天王寺各鉄道管理局管内では、近くに盲学校のある阪和線我孫子町駅と紀伊駅、紀勢本線の和歌山駅の各ホームに点字ブロツク等を敷設しただけで、その他の駅のホームにはこれを敷設していなかつた。点字ブロツク等を敷設するためには、巨額の費用を要するものではなく、本件事故が発生した昭和四八年当時、三〇センチメートル四方の点字ブロツク一枚の価格は工事費を含めて四八〇円位、同様の大きさの点字タイルのそれは六〇〇円位であつたし、特に点字タイルは接着剤でホームに貼付すれば足りるから工事も簡単であり、一、二番線合わせて三六〇メートルの福島駅ホームに敷設するには一日もあれば足りる。」 9.視覚障害者同氏の衝突の危険性  「ホーム中央に誘導ブロックが1本だけだと、視覚障害者同士がぶつかるおそれがある。」ということだが、これはホームに限らず、道路上を含め、すべての誘導ブロック上で起こり得ることである。盲学校や点字図書館の近くの路上では互いに杖の音を認識し、それぞれが右によけあったりして衝突を回避している。一方、点字ブロック上での衝突事故は既にホームの警告ブロック上で起き、裁判になった例もある。ホーム中央で衝突したとしても転落の危険性はほとんどない。しかし、警告ブロック上で衝突を回避するにはどちらかが線路側に出なければならず、転落のヒヤリハット要因となる。 10.エスカレータ前の点字ブロック  第1回の打ち合わせで説明した通りだが、階段とエスカレータの分岐とホーム中央の誘導ブロックは敷設場所が異なる。また、転落を防止するための点字ブロックと利便性を向上させるためのエスカレータ前の点字ブロックはどちらを優先すべきだろうか。 11・誘導ブロックと警告ブロックの距離  「駅ごとに誘導ブロックと警告ブロックの距離が違うのは問題ではないか」という意見があったが、すべての駅でホームの幅は違う。これは現行の最寄りのドアへ誘導している誘導ブロックの長さがそれぞれ異なることが証明している。仮にホーム中央に誘導ブロックが設置されれば、乗りたい車両までの距離を歩数などを使って進む。その後、直角に向きを変え、左右の足を誘導ブロックと並行に置くことにより、短軸の垂直方向を確認する。電車が到着したら、白杖をスライドさせながら数歩前進し、警告ブロックを確認し、乗り込むことになる。この短軸移動の距離も訓練すればおよその距離感はメンタルマップに認識することができる。 12.コスト  鉄道事業者から、コストを心配する意見もあった。誘導ブロックを敷設したり、場合によってはベンチを移動してもらうにはそれなりのコストがかかるのも事実である。しかし、大原判決にもあるように、ホームドアのように何億円もかからないであろうし、いったん事故が起これば、鉄道事業者にとっても大きな損害が出るわけである。何より、視覚障害者の命を守ることが第一であり、鉄道事業法やバリアフリー法の目的にあるように「乗客の安全輸送」は鉄道事業者にとっても法的にも求められているところである。また、公共交通機関という役割も考えると国にも財政的な支援をお願いしたい。