新技術等を活用した駅ホームにおける視覚障害者の安全対策検討会(第9回) 令和3年11月18日(木)15:00〜17:30 中央合同庁舎2 号館低層棟1 階共用会議室3A・3B (ウェブ会議併用) 議 事 次 第 1. 開 会 2. 議 事 (1) 視覚障害者の転落事故調査の進め方について (2) 長軸方向の安全な歩行経路を示す方法に関する検討の進め 方について (3) 歩行訓練の試行実施について(報告) (4) 東武鉄道における社内教育について(報告) (5) その他 3. 閉 会 新技術等を活用した駅ホームにおける視覚障害者の安全対策検討会(第9回) 【障害者団体・支援団体】 日本視覚障害者団体連合 組織部長 三宅 隆 日本弱視者ネットワーク 本部役員(筑波大学附属視覚特別支援学校 教諭) 宇野 和博 東京都盲人福祉協会 副会長 高橋 博行 (代理出席:副会長 佐々木宗雅) 埼玉県網膜色素変性症協会 会長 田村彰之助 日本歩行訓練士会 事務局長/日本ライトハウス 養成部 主幹 堀内 恭子 日本盲導犬協会 顧問 吉川 明 【学識経験者】 成蹊大学 名誉教授/大原記念労働科学研究所 特別研究員 大倉 元宏 慶應義塾大学 経済学部 教授 中野 泰志 鉄道総合技術研究所 人間科学研究部 主任研究員 大野 央人 【鉄道事業者】 JR東日本 執行役員 安全企画部長 大森 健史 JR西日本 鉄道本部 駅業務部長 水田 雅博 (代理出席:鉄道本部 駅業務部 企画課 担当課長 岡本 啓照) 東京メトロ 経営企画本部 企業価値創造部長 川上 幸一 小田急電鉄 常務取締役 交通サービス事業本部長 五十嵐 秀 (代理出席:安全・技術部長 野中 俊昭) 近畿日本鉄道 執行役員 鉄道本部 企画統括部 副統括部長 深井 滋雄 (代理出席:鉄道本部 企画統括部 安全推進部 課長 十楚 正彦) 阪急阪神ホールディングス グループ開発室 部長 山本 隆弘 【国土交通省】 大臣官房 技術審議官(鉄道) 江口 秀二 総合政策局 バリアフリー政策課長 真鍋 英樹 (代理出席:総合政策局 バリアフリー政策課 交通バリアフリー政策室長 平野 洋喜) 鉄道局 鉄道サービス政策室長 山口 博史 (代理出席:鉄道局 鉄道サービス政策室 課長補佐 靱 尚太) 鉄道局 都市鉄道政策課長 金指 和彦 鉄道局 技術企画課長 権藤 宗高 鉄道局 安全監理官 中谷 育夫 【厚生労働省(オブザーバー)】 社会・援護局 障害保健福祉部 企画課 自立支援振興室長 奥出 吉規 (代理出席:自立支援振興室 福祉用具専門官/障害福祉専門官 周藤 方史) (事務局 鉄道局技術企画課) ※)委員以外のJR・大手民鉄・公営地下鉄等事業者の傍聴を認めております。 資料1 2021年11月18日 新技術等を活用した駅ホームにおける視覚障害者の安全対策検討会資料 長軸方向の安全な移動に関する議論の進め方に関する提案 慶應義塾大学 中野泰志  本検討会においては、長軸方向の安全な移動を保障するための方法として、ホームドア等に代わる方法が議論されている。その際、「これまでホームドア等による事故対策が行われてきたにもかかわらず、転落死亡事故が起こっている」という事実をもって、これまでの事故対策が無効であり、代替案を検討しなければならないという暗黙の前提を元に議論が進行されている場面があることを感じてきた。しかし、ホームドア等の従来からの事故対策は、推進途上であり、転落死亡事故が起こっているから、代替案が必要と考えるのは、論理の飛躍である。従来からの事故対策は、整備や普及・啓発の途中のものが多いため、代替案を検討する前に、従来の事故対策を強化・推進する対策を検討することも重要だと考えられる。そこで、改めて、現時点で明確になっている事実を確認し、仮説・予測と分離した上で、現状の事故対策を強化・推進するという新たな視点での議論の必要性を提起したい。 1.事実 ・国土交通省や鉄道事業者等によってホームドア等の事故対策が行われてきたにもかかわらず、転落死亡事故が起こっている。 ・ホームから転落しないようにするための確実な方法として、現在、明白なエビデンスがあるのは、ホームドアと駅係員等の専門職による人的支援のみである。 ・ホームドアは、極めて効果的な転落防止対策であるが、現在、すべての駅・すべてのホームに設置されているわけではない。国土交通省や鉄道事業者等により、設置が推進されているが、不足している状態が続いている。 ・駅係員等の専門職による人的支援は、安全であるだけでなく、安心感もあるが、視覚障害のある人が、いつでも、どこでも気軽に使えるわけではない。 ・ホーム縁端警告ブロック、CPライン、歩行訓練、乗客同士の相互支援(声かけ)運動は、一定の効果が期待されているが、単独では、転落事故を完全に防止することは出来ない。 ・昨年度、本検討会で実施した視覚障害者を対象にしたアンケート調査は、貴重はデータではあるが、サンプリングが適切かどうかは検討の余地がある。なぜなら、ホーム上の歩行の方向(長軸方向・短軸方向)と原因で分類したヒアリング・データは、転落経験があると回答した109人の内、34人が経験した57件(1人で複数回の転落経験があるため、人数よりも件数が多い)の転落事例であり、白杖使用が56件、盲導犬使用が1件であり、重度のロービジョンで白杖を使用していなかったケースが含まれていない。そのため、このデータだけを根拠として議論を組み立てることには留意が必要である。 2.本委員会で提案された仮説・予測  これまで、本委員会で紹介・議論されてきた以下の案は、いずれも仮説・予測の段階にあり、確実に事故を防止できるという科学的根拠は収集できていないと考えられる。 ・新技術活用案 ・転落検知センサー等による列車の緊急停止案 ・ホーム中央誘導ブロック新設案 ・内方線内側領域活用・新設案 ・歩行訓練活用案 ・同行援護活用案 ・声かけ運動推進案 ・ホーム縁端警告ブロック・CPライン普及案 ・長軸方向の移動制限案 3.今後の議論の進め方に関する提案  国土交通省や鉄道事業者等が従来から転落防止策として実施してきている「ホームドア」「人的支援」「ホーム縁端警告ブロック・CPライン」「歩行訓練」「声かけ運動」等は、まだ、整備・普及が十分でないだけで、これらの転落防止策が無効だとは言い切れない。従来の方法を代替する新たな方法を検討・検証するためには、時間もかかるし、ホームドア等の従来の事故対策を遅延させる原因にもなりかねないため、まずは、従来の方法を補強・普及・促進したり、組み合わせたりするための方法を積極的に検討すべきではないかと考えられる。特に、「ホームドア」と「人的支援」は、かなり効果的な方法であることがわかっている。そのため、「新技術」と「ホームドア」・「人的支援」を組み合わせることで効果を上げるための方法を検討することを提案する。例えば、利用したい駅の「ホームドア」の設置状況等がすぐに確認出来るWEBページやアプリ等の開発等(従来の技術等の組み合わせ利用を含む)、「人的支援」の待ち時間を短縮するための仕組みや技術等の開発等(従来の技術等の組み合わせ利用を含む)を検討すること等が考えられる。 以上 資料2 第1回・第6回検討会で報告された検証実験に関する質問 及び,今後の実証実験の留意事項について 2021年11月18日 鉄道総研 大野央人   第1回検討会および第6回検討会において,「ホーム長軸中央部への触覚マーカーの設置」に関する検証実験が紹介された。この検証実験は,ホーム中央部に触覚マーカー(30cm幅の線状ブロック)を設けた場合と設けない場合における視覚障害者の歩行軌跡を比較したものであり,検討会では「途中経過」としながらも,触覚マーカーが視覚障害者の安定した歩行に有効と考えられる旨が述べられた。しかしながら,この検証実験には,実施方法等に関していくつかの疑問がある。ここではその一端についてご質問させて頂きたい。また,この問題を題材にして,今後想定される実証実験で留意すべき事項についても述べたい。 質問1.触覚マーカーの素材について ・当該実験では触覚マーカーとしてシート型の線状タイルが用いられたのか? ・シート型タイルは,5mm高の突起に加え,シート自体に2mm程度の厚みがあるため,埋め込み型ブロック場合より白杖や靴底で見つけやすい。 ・したがって,当該実験の結果をそのままコンクリートブロックに当てはめることは難しいと考えるが,この点についてご見解をお聞かせ頂きたい。 質問2.参加者への教示方法について ・実験前に,参加者に対して触地図を用いて実験場の配置状況を教示し,練習歩行を行ったと理解しているが,それで正しいか? ・当該実験は,使い慣れた駅を想定されたものと理解してよろしいか? 質問3.「長距離移動シナリオ」の実施方法について ・実験風景の写真を拝見する限り,模擬ホーム両側の縁端部には点状ブロックが敷設されていたと見受けられる。 ・「長距離移動シナリオ」の検討で得られた歩行軌跡の図から,視覚障害者が模擬売店の脇を迂回する際,この点状ブロックの敷設領域に踏み込んでいたと思われるが,この点状ブロックの利用状況はいかがか? 質問4.「混雑シナリオ」の実施方法について ・「混雑シナリオ」で旅客の代用として置かれた空気風船の数や配置の根拠を教えて頂きたい。 質問5.参加者の属性および募集方法について ・参加者の属性および募集方法について教えて頂きたい。 今後,実証実験の実施が想定されているが,科学的エビデンスを得るためには,実験環境の整備や実験の実施方法に十分な配慮が必要である。また,参加者の募集や選定にも十分な配慮が必要である。 (スライド資料) P1 新技術等を活用した駅ホームにおける視覚障害者の安全対策検討会(第9回) 2021年11月18日 第1回・第6回検討会で報告された検証実験に関する質問及び今後の実証実験で留意すべき事項について 鉄道総研 大野央人 P2 はじめに ○第1回検討会・第6回検討会で「ホーム長軸中央部への触覚マーカーの設置」に関する検証実験が紹介された。  →・ホーム中央部の触覚マーカーが「あり」vs「無し」・視覚障害者の歩行軌跡を比較 ○「予備実験」「途中経過」としながらも,触覚マーカーが視覚障害者の安定した歩行に有効と考えられる旨が述べられた。 ○この検証実験の実施方法等に関していくつか疑問があるので,この場を借りて,ご質問させて頂きたい。 ○また,今後想定される実証実験で留意すべき事項についても述べたい。 P3 検証実験の概要(確認) ○実験場 ・屋外の模擬ホーム(島式) ・売店(撤去可) ・階段口 ・点字ブロック(常設) ・触覚マーカー(あり・無し) ・空気人形 P4 検証実験の概要(確認) ○参加者 ・10名(男5名,女5名;25〜65歳) ・歩行訓練経験あり ・イヤーマフラー装着←周囲音対策? ○2つの歩行条件 ・長軸歩行シナリオ ・混雑シナリオ※売店は撤去 →高性能GPSで歩行軌跡を計測 P5 【質問1】触覚マーカーの素材について ○シート型のタイルを使用 ○シート型タイル⇒ 5mm突起高+ 2mmシート厚 ○この研究で見られたほどの効果は,実環境では期待できないのでは? P6 【質問2】参加者への教示方法等について ○実験前の説明手順 ・触知図を用いた説明+ 歩行練習 ○実施した検討の種類 @ 触覚マーカー(?軸移動シナリオ) A 触覚マーカー(混雑シナリオ) B ホーム縁端部の警告の強調 ○各検討の歩行回数は? →使い慣れた駅を想定した実験? P7 【質問3】「長軸移動シナリオ」の実施方法について 触覚マーカーがある場合の方が、売店を迂回する際の膨らみが大きい 触覚マーカーがあるにも拘わらず、大きく外れた例も見られる P8 【質問4】「混雑シナリオ」の実施方法について ○空気風船(10体)の数と配置の根拠は? 触覚マーカーが無い場合も、ホーム中央で長軸方向に右左折できている P9 【質問5】参加者の属性および募集方法について 参加者 ・10名(男5名,女5名;25〜65歳) ・歩行訓練経験あり ・イヤーマフラー装着 ○参加者の募集方法・資格条件・選別方法は? P10 今後想定される実証実験で留意すべき事項について ○科学的エビデンスが求められている ○的確なデザインと正しい手続きに沿って行わなければ、科学的エビデンスは得られない 実験デザイン ・どういう場面を想定すべきか? ・それを実験でどうシミュレートするのか? ・必要な場面を網羅できているか? 実験の実施 ・ノイズ要因の除去(環境要因,意図しない手掛かり…etc.) ・繰り返しと学習効果 参加者の募集と選定 ・検証すべき内容に関して先入観のない人 ・属性が偏らないよう配慮 P11 ご清聴ありがとうございました 資料3 第9回 新技術等を活用した駅ホームにおける視覚障害者の安全対策検討会資料 今後の議論の進め方のご提案 日本歩行訓練士会・日本ライトハウス養成部 堀内恭子 1.ホーム中央の誘導ブロック敷設に関する有効性について  第1回、第6回検討会において、大倉委員が検証実験の結果を報告している。 検証実験では、ホーム長軸中央部へ触覚マーカ(30p幅の線状ブロック)を設けた場合と、設けない場合における視覚障害者の歩行軌跡を比較している。触覚マーカーがあると歩行軌跡の安定がみられたとの結果を述べている。 しかし、歩行軌跡からは、触覚マーカー(線状ブロック)から大きく逸脱している例が見受けられる。第6回検討会において、宇野委員は、「警告ブロックと誘導ブロックを誤認して転落した事例」について、「点字ブロックがないエリアを歩き、偶然見つけた点字ブロックを誤認したのではなかろうか。もしそうなら、誘導ブロックを敷設し、点字ブロックによる動線を確保すれば、このような事例を減らせるとも言える」と述べているが、たとえ誘導ブロックが敷設されたとしても、逸脱し、有効に機能しない事例が考えられる。              図1 第1回検討会実験結果 左触覚マーカー有 右 触覚マーカー無し       図2 第6回検討会 実験結果 左 触覚マーカー有 右 触覚マーカー無                                     また、第6回検討会では、検証実験において、模擬売店回避後,特に触覚マーカーがあると歩行軌跡の安定が顕著であったとの結果が報告されている。しかし、模擬売店回避後においても触覚マーカーから大きく逸脱している例が見受けられる。これは、触覚マーカーがあっても「コ」の字の迂回で迷う状態が生じる可能性を示唆している。 以上のことから、触覚マーカーを敷設することが様々な視覚障害者にとっての万全な安全対策であるとは考えにくい。 2.今後の議論の進め方 宇野委員は、第6回検討会の「ホーム中央の誘導ブロック敷設に関する懸念に対する解決策」として、次のように述べている。 「もし「コ」の字の迂回で迷う状態であれば、駅係員の誘導を依頼した方が安全だと考えられる。本会議で考えるべきなのは、ある程度歩行能力がある人でも、警告ブロック沿いを歩いていて転落したり、何も道しるべがないエリアで方向定位を失って転落している実態をどうなくしていくかということである」 さらに、警告ブロックと誘導ブロックの誤認について、宇野委員は、 「認識できない人の場合、ホーム上のみならず、道路上の歩行でもかなり危険と言えるため、誘導案内か、援助依頼を勧めたい」とも述べている。 様々な見え方や白杖の使用方法、様々な歩行能力を持つすべての視覚障害者が、安心して駅ホームを歩行できる対策として、宇野委員が述べているように人的支援が有効であると考えられる。 ホームドア設置の加速化に加え、人的支援の有効なありかたの検討が必要であると考える。 資料4 P1 長軸方向の安全な歩行経路を示す方法に関する議論のポイント 検討の背景 【長軸方向移動の是非】 ・視覚障害者はホームでの長軸方向(線路と平行の方向)の移動は極力行わないことが望ましいとされているが、乗車駅・降車駅の改札口の配置の違い等により、現実的には長軸方向の移動が必要。 【現状】 ・視覚障害者が長軸方向を歩行する際、実際の利用場面では、警告目的で敷設された内方線付き点状ブロックの内方線部分又は点状ブロック(ホーム端から80p〜100pの位置に敷設されている)をホームの長軸方向に移動する際の手がかりとして使用している状況が見受けられる。 検討会において提案された方法 検討会では、以下の案などが示されたほか、その他にも様々な方策を検討すべきとの意見が出された。 ホーム中央線状ブロック敷設案 ○ホーム中央付近に視覚障害者誘導用の線状ブロックを敷設することで、長軸歩行する際の手がかりとする。エレベーターや売店に支障する箇所では線状ブロックは途切れ、それら(エレベーターや売店の壁等)を伝って迂回して歩行する。 内方線内側活用案 ○内方線付き点状ブロックの内側に視覚障害者歩行エリアを表示するとともに、乗車待ち列を1m程度後退させて乗車待ち列が支障しないようにすることで、内方線を長軸歩行する際の手がかりとする。柱に支障する箇所では内方線は途切れ、柱を伝って迂回して歩行する。 P2 長軸方向の安全な歩行経路を示す方法に関する議論のポイント ○「ホーム中央線状ブロック敷設案」について 【導入に前向きな主な意見】 <検討会での鉄道事業者以外の委員からの意見> ・ホーム中央を歩行することにより安全性が向上。 ・売店・ベンチ等の迂回について、反対側に回り込むだけでそれ程問題にならない。 ・点状・線状ブロックの誤認について、形が違うので踏み分け可能。 ・設置駅・未設置駅、設置エリア・未設置エリアの混在について、アナウンス等があればよい。 <鉄道事業者アンケートでの意見> ・幅員が十分広いホームでは安全性が高まると考える。 【導入を懸念する主な意見】 <検討会での鉄道事業者以外の委員からの意見> ・売店・ベンチ等の迂回について、迂回時に定位を失う恐れがある。 ・点状・線状ブロックの誤認について、誤認するリスクが増加する恐れ。 ・設置駅・未設置駅、設置エリア・未設置エリアの混在について、混乱・負担増の可能性。 <鉄道事業者アンケートでの意見> ・利用者の錯誤を誘発するなどの懸念が指摘されており、慎重な検討が必要。 ・幅員が狭いホームでは安全性が低下する可能性があると考える。 ・ホームドア整備を加速化していく中、より低廉な方策が求められる。 【議論のポイント】 ・定位喪失、誤認、混乱のリスク等を懸念する声もある中、これらを解消する方法はないか。例えば、新技術で補える方法はないか。 P3 長軸方向の安全な歩行経路を示す方法に関する議論のポイント ○「内方線内側活用案」について 【導入に前向きな主な意見】 <検討会での鉄道事業者以外の委員からの意見> ・柱の迂回について、反対側に回り込むだけでそれ程問題にならない。 <鉄道事業者アンケートでの意見> ・階段脇等の狭隘箇所を考慮すると、内方線の内側を活用する方法の検討は必要。 【導入を懸念する主な意見】 <検討会での鉄道事業者以外の委員からの意見> ・ホーム端に近い箇所を長軸歩行することがリスクとなる恐れがある。 ・柱のある箇所について、柱と衝突する恐れがある。 ・乗車待ち列を1m程度後退させる、あるいは視覚障害者歩行時に動線を譲るといった鉄道利用者の協力が必要(ポスターやアナウンスによる啓発が必要)。ホーム幅員の狭い駅では、ホーム中央が混雑する懸念。 <鉄道事業者アンケートでの意見> ・ホーム幅員の狭い駅については、待機列への支障により、接触による転落やトラブルが危惧される。 ・連続性が保たれることから動線を外す可能性は低いと考えるが、人や障害物との接触やブロックから外れた場合の軌道転落の可能性は否めない。十分なホーム幅員で支障物がない箇所であれば実現性はある。 ・ホームドア整備を加速化していく中、より低廉な方策が求められる。 【議論のポイント】 ・ホーム端側を歩行するリスク、定位喪失のリスク、鉄道利用者への影響等を懸念する声もある中、これらを解消する方法はないか。例えば、新技術で補える方法はないか。 ・鉄道利用者の乗車待ち列を後退させることが可能か。具体的にどのような手法が考えられるか。 ・ホーム幅員が狭い駅において、ホーム中央が混雑した際に、内方線内側の歩行経路を確保できるか。 P4 長軸方向の安全な歩行経路を示す方法に関する議論のポイント ○その他の案について ・現在、スマホを用いて視覚障害者が自分のいる位置を把握する技術、カメラによる白杖検知を活用してホーム端に近づいている視覚障害者に注意喚起する技術(令和3年冬頃から実証実験予定)等の開発が進められている。 ・これまでの検討会では、新たなデバイスを持つことの金銭的・物理的負担や、勘違い・誤った案内のリスク等が懸案として挙げられている。 【議論のポイント】 ・特に有効と考えられる技術はあるか。 資料5 視覚障害者に対する歩行訓練の実施について近畿運輸局鉄道部 概要 【日時】令和3年10月18日(月)12:00〜15:30 【場所】阪神電気鉄道大阪梅田駅及び武庫川駅 【参加者】視覚障害者3名、歩行訓練士3名、近畿運輸局6名、他鉄道事業者4名他 訓練内容 〇ホームを使用した歩行訓練 〇回送列車を使用した乗降訓練 〇休止線における鉄道施設体験 〇意見交換会 訓練状況 歩行訓練@歩行訓練A乗降訓練@乗降訓練@鉄道施設体験@鉄道施設体験A 訓練参加者の声 〇久しぶりに歩行訓練を受けたが勉強になることばかりだった。(受講者) 〇職員の方と話が出来たことも素晴らしい体験であった。(受講者) 〇歩行訓練というものを知ってもらえる良い機会となった。(講師) ○ 視覚障碍者の方とコミュニケーションをとる貴重な機会であった。(事業者) 今後の予定 〇11月に南海電気鉄道において開催予定 〇今年度中に阪急電鉄において実施を検討中 〇次年度以降、公営交通を含め本格実施を想定 資料6 2021年11月18日 東武鉄道株式会社 東武鉄道における社内教育について(報告) 視覚障害者への理解を深め、より円滑な介助を行うことと「声かけ・サポート」の重要性について 再周知を図ることを目的に視覚障害者および歩行訓練士を迎えた社内教育(講演会)を開催いたし ましたので、下記のとおりご報告いたします。 記 1 開催日 2021 年11 月 8日(月)、10 日(水)、16 日(火)、17 日(水)、22 日(月) 各90 分 2 講演者 (1) 視覚障害者団体 (2) 歩行訓練士 (3) 視覚障害者団体 3 対象者・参加人員 本社車両部、安全推進部の他、駅、乗務員、軌道、電気、施設管理、車両保守など鉄道事業に 関わる職能の現業長、助役、主任を含む管理職 合計250 名 4 講演内容 以下の内容で講演をいただきました。 (1) 視覚障害者団体からの講演 ・2011 年に発生したご家族のホーム転落事故発生経緯とその後の状況 ・今後、鉄道会社に希望すること (2) 歩行訓練士からの講演 ・視覚障害者の見え方や行動の特徴 ・ご案内や列車乗降の際の基本と注意点など (3) 視覚障害者団体からの講演 ・鉄道利用での困りごとやご自身の経験談と対応方について 【受講者の感想】 ・悲惨な事故を発生させないよう「声かけ見守り」の重要性を再認識した。 ・歩行中「声をかけて欲しくないとき」もあることや、見守りが大切であること。 ・乗車券の内容を説明する際やお渡しする際のちょっとした気配りが必要なこと。 ○会場の様子(11 月10 日) 5 今後の社内展開について 講演内容を基に作成する教育用映像教材を使用し2021 年度末までに所属員に教育を実施します。 なお、2022 年度以降の教育については引き続き検討を進めて参ります。 以 上 参考資料1 長軸方向の安全な歩行経路を示す方法に関するアンケート(結果) 調査目的:長軸方向の安全な歩行経路を示す方法についての、鉄道事業者の意見収集 調査対象:検討会委員の鉄道事業者6社(回答における事業者名は非公表) 調査方法:アンケート票の配付・回収による調査(令和3年10月配付、同年11月回収) 調査結果 【問1】 「ホーム中央線状ブロック案」について、中間報告P9に示されている観点である、 「安全性」、「有効性」、「実現性」、「その他」に関するご意見をお聞かせください。 →(回答) <A 社> ホーム中央ブロックは、ホーム毎に物理的条件が異なるため統一した整備が出来ませ ん。ホームによって中央ブロックがあったり無かったりすることからは、利用者の錯誤 を誘発するなどの懸念が指摘されており、慎重な検討が必要と考えます。 <B 社> [問1、2、6 まとめて回答申し上げます] これまでの検討会での議論を通して、視覚障害者の長軸方向移動についての安全上の 配慮が必要であることが認識できました。 一方で、いくつかの今後整理すべき課題があり、それらの課題整理がなされた後に対 応を検討してきたいと考えております。 今後の課題 ○安全性の検証 ・長軸方向の歩行動線は検討会委員から安全の観点から否定的なご意見がある ・鉄道事業者としては設置に慎重にならざるを得ない ・安全性について十分な検証が必要 ○他の安全対策との最適な組み合わせという視点からの検証 ・安全は最優先の課題であるが投入可能なリソースにも制約がある ・これまで実施してきた複数の安全対策がありその効果の最大化を考えるべき ・各安全対策の個別の是非でなく複数の対策の「組み合わせ」の視点も重要 ・特に以下の点への配慮が必要 実施をスピードアップすべきもの:ホームドア 実施の効果向上を図りたいもの:内方線付点字ブロック(歩行訓練による認知度向上) ○ホーム中央に線状ブロック設置する案を採用する場合 ・他施策との整合性の確保と優先順位付けが必要 ホーム柵、内方線付点状ブロック、CPライン、ベンチ設置・方向転換、等 ・仕様の決定 設置位置 動線幅 内方線との離隔 障害物の迂回方法 細切れ防止 ホーム端警告ブロック等との錯誤防止(材質、色) 等について 視覚障害者のご意見、研究機関等の技術的検証結果等を反映すべき ・視覚障害者への周知、及び教育訓練の拡充 視覚障害者への周知、教育機会の拡充 歩行訓練の内容に中央動線を追加、等 ・駅ご利用者の「心のバリアフリー」の更なる普及 動線の細切れ防止のためホーム上の案内掲示やベンチの撤去をすると駅の利便性 が低下してしまうためご利用者の皆さまのご理解が必要 ・整備費負担スキームづくり 補助金制度の対象設備化、バリアフリー整備利用者負担制度の対象設備化、等 <C 社> 特に島式ホームは中央付近に支障物(階段、エレベーター、売店等)が多く、連続性 が確保出来ない(迂回箇所が増える)とともに、ホーム幅員の狭い駅においては内方線 と当該線状ブロックの距離が近くなるため、駅構造によって有効性・安全性の検証が必 要と思われます。また、実現性においては予算の確保が課題となります。 <D 社> ホームの構造や設備、利用客数等によって異なるため総じて意見することは難しいで すが、一般論として、視覚障害者の方にとって、幅員が十分に広いホームであれば中央 線状ブロックがある方が安全性は高まり(ただし健常者には躓きやすくなるデメリット も)、幅員が狭いホームやエレベータや待合スペース等が多いホームではかえって安全性 が低下する可能性があると考えます。また、これまでの検討会での各団体の方々のご意 見から、どんな形で中央線状ブロックを設置しようとも視覚障害者の方によってその受 け止め方は異なるだろうと感じています。 <E 社> 「安全性」:ホーム中央線状ブロック案では、階段やEV、売店や待合室等で、線状ブロ ックが途切れ、定位を失う恐れがあると考えます。また狭隘なホームでは、内方線付き 点字ブロックと近接し、定位を失う恐れがあると考えます。 「その他」:新たにブロックの敷設工事には、新たな投資が必要となるため、十分な検証 を行う必要があると考えます。 <F 社> (安全性)軌道転落の可能性のみを考えれば、軌道より離れているホーム中央設置案の 安全性が高いと思われますが、人や障害物等との接触による転倒、線状・点状ブロック から外れた後の行動など様々な要件を勘案する必要があり、現時点において評価は難し いです。 (有効性)人や障害物等により線状・点状ブロックから外れる可能性はホーム中央、端 部ともに差異はないことから、ホーム中央部への新たな線状・点状ブロックの設置の有 効性は高いとは言えないと考えます。 (実現性)当社ホームは、島式、相対式ともに中央部に昇降施設、待合所、上屋柱等の 支障なく線状・点状ブロックを設置できないため、実現性は高いとは言えないと考えま す。 (その他)線状・点状ブロックの種類が増えると、視覚障害者の方々の誤認や混乱する リスクが増加すると思われます。また、それらを理解、把握頂くための教育訓練が必要 となり、視覚障害者の方々の負担が増大する可能性があると思われます。 【問2】 「内方線内側活用案」について、中間報告P9に示されている観点である、「安全性」、 「有効性」、「実現性」、「その他」に関するご意見をお聞かせください。 →(回答) <A 社> 階段脇等の狭隘箇所を考慮すると、内方線の内側を活用する方法の検討を深めておく ことは必要と考えます。また、内方線の存在について、一般利用者を含めて広く認知し てもらうことが重要と考えます。 <C 社> 特にホーム幅員の狭い駅については待機列への支障が想定されることから、接触によ る転落やトラブルが危惧されます。また、実現性においては予算の確保が課題となりま す。 <D 社> リスクや影響等に対してはいずれも異論はありません。なお、検討会の中で内方線自体 をご存知ない視覚障害者の方がいらっしゃるとの話もあったので、視覚障害者の方々への 告知や訓練も必要ではないかと感じています。 <E 社> 「安全性」:ホーム端に近い箇所を長軸方向にすることで、転落等のリスクが高まると考え ます。また、列車到着時に降車のお客様と接触し、転倒する恐れがあると考えます。 「実現性」:乗車待ち列をホームから離して後退させるためには一般のお客様の理解と協力 が必要であると考えます。 <F 社> (安全性)ホーム中央設置案よりも連続性は保たれることから、動線を外す可能性は低い と考えます。しかしながら、ホーム端部に近いため、人や障害物等との接触による転 倒、線状・点状ブロックから外れた場合に軌道転落の可能性は否めないと考えます。 (有効性)内方線による案内機能は有効と考えます。その内側に設置する歩行エリアにつ いては、ホーム幅員や支障物(昇降施設、上屋柱等)によりどの程度連続的に設置でき るかが課題と思います。 (実現性)十分なホーム幅員や支障物(昇降施設、上屋柱等)がなければ実現性はあると 考えます。運用面では、旅客への啓発(ホーム上での整列等)が重要と考えます。 (その他)視覚障害者の方々へ教育訓練が必要となり、負担が増大する可能性があると思 われます。 【問3】 中間報告では、「ホーム中央ブロック案」「内方線内側活用案」が例として記載されてお りますが、これに限らず様々な対策が考えられると思っています。上記2案以外に、長軸 方向の歩行経路を示す方法についての案がございましたら、ご意見をお聞かせください。 →(回答) <A 社> 降車後の位置認識(ホームの線路側と内側)の方法について、議論を深める余地はある と思います。ここで、ほとんどのホームには内方線が設置されていますので、その活用方 を整理することは有意義と思います。 <B 社、C 社、E 社、F 社> 特にございません。 <D 社> 良案は持ち合わせていないが、引き続き、慎重な検討が必要と考えます。 【問4】 中間報告においては、「視覚障害者が参加する実証実験の実施も含めた検討が必要であ る。」と記載しております。実証実験の実施について、実験内容(方法、場所等)に関す るアイデアがあればお聞かせください。 →(回答) <A 社> 仮に実証実験を計画するとした場合は、実際のホームの様々な物理的条件をどのように 試験環境に落とし込むかについて十分な検討が必要と思います。 <B 社、C 社> 特にございません。 <D 社> 特にアイデアは持ち合わせておりません。いずれにしても実証実験の実施については、 営業中の駅以外での実施などを含め、安全管理面や実施者の負担軽減策などの検討が必要 であると考えます。 <E 社> 内方線内側活用案について、一部の駅に検証目的のため視覚障がい者歩行エリアを設 け、一般のお客さまの動向を調査し課題や有用性の確認を行うのが良いかと考えます。 <F 社> アイデアではありませんが、線状・点状ブロックが途切れている場合、迂回のためブロ ックの方向が変化する場合、その上に人や支障物がある場合等、視覚障害者の方々がどの ような行動をとられ、どのように困られるかを把握できればと思います。 【問5】 昨年度の検討会では、長軸方向の歩行動線を導入することになれば、現在進めているホ ームドア・可動式ホーム柵の整備に遅れが生じる可能性があることが指摘されました。こ の点について、ご意見をお聞かせください。 →(回答) <A 社> ホームドアの設置工事とホームへのブロック設置工事は、どちらもホーム面での工事で す。物理的競合の他、鉄道施設の工事従事者として一定の資格・要件を有する人材にも限 りがありますため、双方の工事を並行して進めることは難しいと考えています。 <B 社> 現在、整備を進めている安全のための設備に加えて長軸方向の歩行動線を設置すること になれば、視覚障害者のホームからの転落事故防止に最も有効であるホームドア・可動式 ホーム柵の整備に遅れが発生すると考えます。 <C 社> 当該誘導ブロック整備を優先することになった場合、ホームドア整備を一旦中断するこ とから遅れが生じます。 また、その場合は更なる整備費用が発生することから、ホームドア整備時期の再調整が 必要となる可能性があります。 既にホームドア整備計画のある駅・事業者においては、ホームドアの早期整備を優先さ せていただきたいと考えています。 <D 社> 定量的に示すことは難しいですが、どの鉄道事業者も限られた経営資源で鉄道事業を行 っているので、一般論としてホームドア・可動式ホーム柵の整備に遅れが生じる可能性は 高いと考えます。 <E 社> 弊社としては特にありません。 <F 社> 同時進行により、費用や設計・工事に関係する人材不足等に関する懸念であると理解し ています。限りある費用並びに人材にて対応できる範囲で進めるということかと考えます。 【問6】 その他、長軸方向の歩行動線に関して、ご意見がございましたらお聞かせください。 →(回答) <A 社> 白杖をご利用の方、盲導犬をご利用の方それぞれの歩行方法や、設備現状、ガイドライ ンを踏まえて検討することが必要と思います。 <C 社> 新たな長軸方向の歩行動線の確保がホームからの転落防止を目的としている事を踏まえ ますと、ホームドアの設置を進めることも視覚障がい者の安全性が担保されると考えてお ります。 <D 社> これまでの検討会から、視覚障害者の方々の間で長軸方向の歩行動線に対する意見の ばらつきが大きい印象を受けております。よって、鉄道事業者の意見を聞くことも大切 ですが、視覚障害者の方々の間でも意見のばらつきを小さくする努力をしていただきた いと思います。今のまま長軸方向の歩行動線の設置を進めると、一部の視覚障害者の方 の意見のみを反映した形で進んでしまい、有効性の低い施策になってしまう恐れがある と感じています。 <E 社> 弊社としては特にありません。 <F 社> できる限りホームでの長軸方向の歩行距離を減らすことの検討も必要かと思います。 参考資料2 P1 視覚障がいの歩行特性 ー安全な移動の確保に向けて ー大倉 元宏 成蹊大学 名誉教授 大原記念労働科学研究所 P2 視覚情報が得られないことに 伴う能力低下 ・文字の取り扱い ・単独歩行 P3 歩行における移動様式・手段 白杖使用 図割愛 盲導犬の利用 図割愛 誘導歩行 図割愛 P4 オリエンテーションとモビリティ(OM) ?オリエンテーション ある環境で保有感覚を用いて、自己の位置および自己と周囲の物体との空間的位置関係を確立する過程 ・モビリティ 現在地点から目的地点まで安全かつ効率的に移動する過程 P5 OM における情報処理の流れ フロー図 割愛 田中一郎、清水学、村上琢磨 ( Mobility の基本的成分とその評価.第 3 回感覚代行シンポジウム論文集、pp.97 100 P6 OM における3つの基本要素 境界線に沿って歩く 図割愛 物またはある点に向かって直進する 図割愛 障害物を回避し、元の進路を維持する 図割愛 P7 偏軌傾向 図割愛 P8 周囲音と直進歩行 図割愛 大倉元宏、三浦崇路、富永友樹、丸山雄大、池上敦子(2006).周囲音が視覚遮断直進歩行に及ぼす影響.人間工学、42(2)、119-125. P9 左右の耳のマスキング差と音源定位 マスキングなし 図割愛 イヤホン条件 図割愛 スピーカ条件 図割愛 大倉元宏,田内雅規:左右の耳のマスキング差が視覚制限下における方向判断に及ぼす影響,視覚リハビリテーション研究,5(2),pp.43-52, 2015. P10 障害物回避(矩形) 図割愛 P11 障害物回避(円形) 図割愛   P12 音源定位 図割愛 P13 エコー定位 図割愛 P14 音声言語情報に基づく意思決定音声言語情報に基づく意思決定 図割愛 P15 記憶依存性記憶依存性 図割愛 P16 高い心理的ストレス 図割愛 P17 オリエンテーションが難しいと余裕がなくなる 図割愛 大倉元宏:二次課題法による盲歩行者のメンタルワークロードに関する研究,人間工学,25巻, 4号, pp233-241, 1989 P18 視覚情報を得られない歩行と安全の確保 ・自身の移動方向と経路上の位置を常に保持(短期記憶と長期記憶) ?保有機能で環境認知 ?ひとりで歩いている視覚障害者はパワー全開で、余裕はほとんどない ?視覚障害者は情報不足であるが、やみくもに情報が与えられても、それを処理する能力が残っていない ?その困難の源は、 オリエンテーションの維持 ?安全移動 オリエンテーションの負荷を小さくする→境界線歩行を可能とする環境整備 P19 ご清聴ありがとうございました。 参考資料3 長軸方向の安全な歩行経路を示す方法について(素案)−これまでの検討会での議論において提案された方法− 【案1】ホーム中央 線状ブロック敷設案 【案2】内方線 内側活用案 概要 【案1】ホーム中央 線状ブロック敷設案 ○ホーム中央付近に視覚障害者誘導用の線状ブロックを敷設することで、長軸歩行する際の手がかりとする。エレベーターや売店に支障する箇所では線状ブロックは途切れ、それら(エレベーターや売店の壁等)を伝って迂回した後、改めて中央の線状ブロックを頼りに歩行する。 【案2】内方線 内側活用案 ○内方線付き点状ブロックの内側に視覚障害者歩行エリアを表示するとともに、乗車待ち列を1m程度後退させて乗車待ち列が支障しないようすることで、内方線を長軸歩行する際の手がかりとする。 歩行の安全性(転落原因ごとの分析) ケース(i)@【迂回等により定位を喪失するリスク】 【案1】ホーム中央 線状ブロック敷設案 ○線状ブロックが途切れる箇所で迂回する際、定位を失う恐れがある。 【案2】内方線 内側活用案 ○柱に支障する箇所で迂回する際、定位を失う恐れがある。 ※H14年度にエコモ財団が実施した内方線の検討についての実証実験において、点字ブロックを迂回敷設した場合、迂回時に定位を喪失する恐れがあることが指摘されている。線状ブロックを途切れさせるケースは過去に実験がなされていない。 ケース(i)A【点状ブロック通過リスク】 【案1】ホーム中央 線状ブロック敷設案 ○ホーム中央付近を長軸歩行することでリスクが軽減される。 ○線状ブロックが増えることで、線状ブロックと点状ブロックを誤認するリスクが増加する恐れがある(特に線状・点状が近接しているケース)。 【案2】内方線 内側活用案 ○ホーム端に近い箇所を長軸歩行することでリスクが増加する恐れがある。 ケース(ii)【点状ブロック沿いからそれるリスク】 【案1】ホーム中央 線状ブロック敷設案 ○ホーム中央付近を長軸歩行することでリスクが軽減される。 ○ホーム中央付近が混雑している場合は、点状ブロック沿いを長軸歩行する場合がある。 【案2】内方線 内側活用案 ○ホーム端に近い箇所を長軸歩行することや、乗車待ちの列が支障することにより、ルートからそれて転落するリスクが増加する恐れがある。 ケース(iii)【点状ブロック沿いでの接触リスク】 【案1】ホーム中央 線状ブロック敷設案 ○ホーム中央付近を長軸歩行することで、他人に接触されて転落するケースを防止できる。 【案2】内方線 内側活用案 ○ホーム端に近い箇所を長軸歩行することにより、接触して転落するリスクが高まる恐れがある(特に、乗車待ち列を1m程度後退させる、或いは、視覚障害者歩行時に動線を譲るといった協力がない場合)。 歩行動線の連続性 【案1】ホーム中央 線状ブロック敷設案 ○エレベーターや売店に支障する箇所では線状ブロックは途切れ、それら(エレベーターや売店の壁等)を伝って迂回した後、改めて中央の線状ブロックを頼りに歩行する。 【案2】内方線 内側活用案 ○内方線は連続的に敷設されている(柱に支障する箇所も連続敷設されている)。柱に支障する場合、歩行エリアは柱に沿ってホーム内側に迂回して表示する。 鉄道利用者への影響 【案1】ホーム中央 線状ブロック敷設案 ○ホーム中央は比較的混雑が少ないことから、鉄道利用者への影響は少ない。 【案2】内方線 内側活用案 ○乗車待ち列を1m程度後退させる、或いは(乗車待ち列はそのままで)視覚障害者歩行時に動線を譲る、といった協力が必要。 歩行経路整備に必要な作業 【案1】ホーム中央 線状ブロック敷設案 ○新たに線状ブロックの敷設工事が必要。 【案2】内方線 内側活用案 ○新たに歩行エリアの表示(カラーペイント等)が必要。 その他 【案1】ホーム中央 線状ブロック敷設案 ○設置駅と未設置駅が混在する、或いは、ホームの全長に渡って敷設できないことから、敷設されていない中央ブロックを探して定位喪失や点状ブロックとの誤認が起こる恐れがある。 【案2】内方線 内側活用案 ○内方線整備駅と未整備駅が混在する。乗車待ち列を後退させることにより、狭いホームでは、ホーム中央が混雑することになる。 【ヒアリングによって得られた転落の背景(状況) ※中間報告抜粋】 ・ケース(@)  @やむを得ず線状ブロックのない場所を歩行すること、人や支障物を繰り返し避けること等により、自分のいる位置や向いている方向が分からなくなる。  A床面を確認しづらい白杖の使い方等により、点状ブロックに気付かずに通過し、ホーム端にも気付かず転落                    (定位の喪失) ・ケース(A)  ホーム中央付近の混雑を避けるため等の理由で点状ブロック沿いを歩行中、点状ブロック付近の柱や列車待ちの人を避けること等により、ブロックからそれて転落した。 ・ケース(B)  ホーム中央付近の混雑を避けるため等の理由で点状ブロック沿いを歩行中、他人と接触して、または接触を反射的に避けようとして転落した。 ・今後、実証実験の実施に向けて検討 ・引き続き、新技術を活用した誘導等についても並行して検討 参考資料4 2021年9月2日 第8回新技術等を活用した駅ホームにおける視覚障害者の安全対策検討会資料 「ホーム中央誘導ブロック案と内方線内側領域活用案について」 日本弱視者ネットワーク 筑波大学附属視覚特別支援学校 宇野和博 1.エビデンスに基づく議論の重要性  内方線内側領域活用案についてはこれまであまり議論できていないが、ホーム中央誘導ブロック案については何度か議論を重ねてきた。その議論の中でも「・・・するのでは?」や「・・・かも知れない」といった推測や伝聞に基づく意見があった。もちろん、様々な懸念を払拭するための検討は必要だが、検討に値する心配かどうかはこれまでに行われたアンケートやヒアリング調査結果、根拠のある障害当事者の意見、今後行われる実証実験の結果などのエビデンスに基づいた検証過程こそが重要であると考える。 2.これまでの事故分析から見えてくる転落防止策(安全性、有効性)  昨年度のヒアリングによると、転落時の歩行方向はホーム上を線路と平行(長軸方向)が63.5%、垂直(短軸方向)が36.5%ということである。  長軸方向の事故は以下の3ケースに分類されている。 ケース@ 18件 ・ ホーム中央付近を長軸方向に歩行中、本人がホーム端に接近していることに気付かずに転落するケース。 ケースA 15件 ・ 点状ブロック沿いを長軸方向に歩行中、点状ブロックをそれていることに気付かずに転落するケース。 ケースB 2件 ・ 点状ブロック沿いを長軸方向に歩行中、他人との接触などにより転落するケース。  また、短軸方向の事故は以下の3ケースに分類されている。 ケースC 3件 ・ 列車に乗車するために短軸方向に点状ブロック付近まで歩行しようとしていた際に転落するケース。 ケースD 12件 ・ 列車がホームに停車していると勘違いして短軸方向に歩行して転落するケース。 ケースE 6件 ・ 列車から降車して島式ホームを短軸方向に歩行していた際に反対側のホーム端に接近していることに気付かずに転落するケース。  上記の2案がこれらの6ケースに対し、有効な防止策となり得るか、考えてみる。  ホーム中央誘導ブロック案は、長軸歩行移動時の触覚マーカーを島式ホーム上のもっとも安全な中央部に敷設するため、ケース@、ケースA、ケースBのすべてにおいて有効と考えられる。更にケースEに対しても、防止効果が高められると考えられる。ひょっとすると、ケースCにも効果的かも知れない。これらを合わせると、少なくとも56件中41件の事故が防げた可能性がある。  一方、内方線内側領域活用案では、色を塗っただけでは全盲者には分からないため、ケースA、ケースBが減らせるかどうかは疑問が残る。また、ケース@の18件もケースA、ケースBの件数を増やしてしまいかねないという恐れもある。短軸方向の転落防止策としてはどれも当てはまりそうにない。  相対式ホームでは壁、島式ホームではホーム中央部がホーム端から遠いため、もっとも安全といえる。ホーム中央誘導ブロック案はまさにそこに歩行動線を確保するため、理にかなっている。しかし、内方線内側領域活用案は、「危険ですから点字ブロックから離れてお歩きください。」というアナウンスが象徴しているように内方線間でもっとも危険度が高いホーム端に近いエリアを歩かせることになる。つまり、障害のない人がホーム中央部を歩き、視覚障害者が「止まれ」を意味する警告ブロックを頼りに歩く構図を固定化してしまうことになる。これまでの事故例を見ても人為的ミスは避けられない。とすると、もっともヒューマンエラーが起きにくく、ヒヤリハットが減らせ、転落のリスクを軽減できるような歩行環境を提供するのが合理的であり、本検討会の目的である安全対策とも合致する。 3.実現性 (1)コスト  内方線内側領域活用案は、ホーム中央誘導ブロック案より低コストと考えられる。但し、多少のコストの差より重視すべきは上記の転落防止効果である。どちらの案もホームドアや駅係員の増員よりも遥かに低コストといえる。 (2)ホーム幅との関係  島式ホームではホーム端から警告ブロックまでが80cm〜1m、警告ブロックが30cm+内方線幅、左右合わせて少なくとも2m20cmが危険領域となる。例えば、ホームの幅が4mとすると、内方線間の安全領域は1m80cmしか残らない。ホーム中央誘導ブロックは30cm1枚ですむが、内方線内側領域は塗装幅×2が必要になる。つまり、一般乗客が立てるエリアが極端に狭くなってしまう恐れがあり、結果的に塗装領域上には立たないという慣習が広がらない心配がある。また、塗装幅を視覚障害者にも分かるようにしておかないと柱があった時の歩行動線も分からないし、境界近くでの一般客との接触も懸念される。JR吉祥寺駅のように柱から外側に突起物が出ている駅もある。 (3)他の乗客との関係  点字ブロック上には、立ち止まったり、物を置かないようにするというマナーは世間に浸透しつつある。また、座席に座りたい客は警告ブロックから並ぶため、ホーム中央の誘導ブロックを頼りに歩こうとする視覚障害者とぶつかる危険性はそれほど高くないと考えられる。  一方、内方線内側領域活用案では、座席に座りたい一般客が塗装された領域より後ろに並んでくれればよいが、点字ブロックでもない塗装領域をあけるという慣習が根付くかどうかは極めて疑問である。仮に乗客が塗装領域上に立った場合、スマホを見ていたり、左右に関心を向けていないことも多いため、ケースA、ケースBのリスクが残る。JR蕨駅のような柱は撤去できないため、衝突のリスクもある。 4.今後の検討の進め方  2案の長所と短所を挙げつつ、ある程度議論する必要はある。しかし、「売店を迂回することにより方向定位を失うのでは?」とか、「線状ブロックと点状ブロックを誤認するのでは?」というような疑問については、最終的にそれらが本当に多くの視覚障害者に当てはまるのか、机上の議論ではなく、実証実験を行い、多くの視覚障害者を対象に実際に検証していく必要がある。それらの検証結果やアンケートなどの結果を基に議論していかないと机上の空論になってしまう恐れがある  警告ブロック近くの柱の有無やホーム幅が極端に狭い駅の実態については調査し、エビデンスを集める必要がある。  また、2案に対する意見を検討会議内で、委員以外の障害当事者から意見を聴取するのも一案である。