都市開発の推進と不動産の証券化

     ープロジェクト推進のための新たな

      ファイナンス・システムとその可能性

         都市開発における不動産の証券化に関する研究会中間報告

                   (平成元年11月27日)


      目  次

第一 都市開発プロジェクトの現状と課題

第二 不動産証券化の現状と展望

  1 不動産証券化の概要

  2 我が国における不動産証券化の現状と展望

第三 都市開発プロジェクトと不動産の証券化

  1 不動産証券化の意義

   2 都市開発プロジェクトと不動産の証券化

第四 不動産証券化推進の課題と対応方向

第五 不動産証券化を活用した新たなファイナンス・システムの構築に向けて



第一 都市開発プロジェクトの現状と課題

 我が国では、21世紀初頭には、国民の約7割が居住するなど本

格的な郁市の時代を迎えることが予想され、これに向けて積極的に

都市の整備を推進する必要がある。

 特に、経済のソフト化・サービス化、国際化、情報化等が進展す

るなかで、都市の有する諸機能が国民経済、地域経済の発展に果た

す役割は一層増大しており、産業構造の変化に対応しつつ、都市機

能の育成・強化を図ること、就中、多極分散型国土の形成に資する

見地から、機能分散の受け皿としての地方都市等の整備を強力に進

めることが必要である。また、高度化、多様化する生活ニーズに対

応して、住民のー人ひとりが快適でゆとりとうるおいのある生活を

送ることができるよう、都市の居住水準の向上、生活環境の整備を

進めることは、真に豊かな国民生活を実現する上で極めて重要な題

である。

 このような要請を受けて、近年、全国的に都市開発プロジェクト

促進の機運・弊講が高まっていろ。

 最近の都市開発プロジェクトの特徴としては、その内容が中枢的

業務機能の整備からリゾート地域の整備まで地域の特性に応じ極め

て多様化・高度化していること、地域的に従来の臨海部中心から全

国へと広範にプロジェクト促進の機運が高まっていることがあげら

れよう。

 しかしながら、その実施状況をみると、東京等大都市地域では着

実に実現が図られてきているものの、地方部においては全般的に低

調である。また、東京等大部市地域においては、膨大な資金余剰等

を背景に投機的土地取引が発生、逆に、地価の高騰から住宅・宅地

供給等プロジェクト自体の困難化を招来している。

 一方、マネーフローの状況をみると、我が国経済の成長と膨大な

経営収支の黒字を背景に恒常的な資金余剰が発生しているが、これ

らの資金は、土地や株式等の既存資産への投資や海外への投資に向

けられ、都市開発等国内の実物投資には十分向けられていないのが

現状である。

 現下の大幅な対外不均衡を是正し、国際経済の調和ある発展を図

るためには、内需の振興が急務であり、また、経済環境の変化に対

応した内需型産業構造の構築を図ること、地域の活性化を図り多極

分散型の国土を形成すること、経済の成長に見合った豊かさを共感

できる国民生活の実現を図ること等が強く求められている。

 都市開発プロジェクトの推進は、このような要請に応えるもので

あり、蓄積された豊富な資金を国内の実物投資、特に、地方部にお

ける都市開発プロジェクトに還流させるためのシステムを構築する

ことが必要である。


第二 不動産証券化の現状と展望


1 不動産証券化の概要

(1)欧米においては、金融の自由化、自己資本比率規制の強化等

を背景に、金融の証券化、いわゆるセキュリタイゼーションが急速

に進展している。特に、米国においては、従来からの企業信用に基

づく証券形態による資金調達方法に加え、近年、金融機関、リース

会社、事業会社等が貸付債権等の資産を証券化・流動化して、資本

市場から資金調達する新たな仕組みが発達している。

 このように貸付債権等の資産を企業から区分し、その資産価値を

基礎に資金調連する仕組みは、資産金融(アセット・バックト・フ

ァィナンス)と呼ばれ、企業全体の信用を基礎とする企業金融(コ

ーポレィト・ファイナンス)とは区別される。

 不動産の証券化とは、不動産を内容とする資産金融(不動産金融)

であり、特定の不動産或いは不動産に係る貸付債券を責任財産とし、

ここから生ずる収益(キャツシュフロー)を唯一の債務償還或い利

益配当の財源として、証券の形態を用いることによって、広く投資

家から資金を調達する資金調達方式である。

(2)不動産の証券化は、当該証券が化体する権利の内容によって、

デット(債券)の証券化とエクイティ(所有権、株主・組合員たる

地位等)の証券化に大別される。また、持分転換権付債券、利益参

加権付債券等、法的性格はデットであるが、将来エクィティに転換

する可能性のある権利或いは経済的にエクィティに類似した権利も

証券化されており、これらは、ハイブリッド(エクィティ付きデッ

ト)の証券化と呼ばれている。

 その具体的形態を整理すれば、以下のとおりである。

@ デット形態

A 金融機関による不動産に関わる貸付債権の証券化

金融機関が、不動産に関わる貸付債権(住宅ローン債権、商業用不

動産ローン債券等)を証券化し、資金調達するものである。

 米国においては、償還期間等の類似したモーゲージ・ローン債権

(抵当権付ローン債権)を信託等にプールし、その信託受益権等を

証券形態で発行することによって、実質的な債権譲渡が行われるパ

ススルー証券、モーゲージ・プールを担保に発行者のー般債務とし

て証券が発行されるモーゲージ担保債券、発行者のー般債務として

証券が発行される点ではモーゲージ担保債券と同様であるが、モー

ゲージ・プールのキャッシュ・フローがそのまま債券保有者に支払

われるペイ・スルー証券等がある。

 このうち、住宅モーゲージ・ローン債権の証券化は、債務者の住

宅取得を目的に貸付けが行われ、当該住宅に抵当権が設定されるも

のの、その償還は債務者のー般的な収入によって賄われる債権の証

券化である。これに対し、商業用不動産モーゲージ・ローン債権の

証券化は、ローン自体が不動産金融の方式によって貸し付けられた

債券の証券化である。

B 不動産事業者による不動産を基礎とする債券の発行

 不動産事業者が、保有する不動産を基礎に債券を発行し、資金調

達するものである。具体的には、不動産を証券発行のために特別に

設立した会社(特別目的会社)に譲渡し、当該会社がその不動産を

担保とし、ここから生ずるキャッシュ・フローを償還財源として債

券(社債)を発行する。

 金融機関による商業用不動産モーゲージ・ローン債権の証券化と

類似するが、不動産事業者自ら保有する相当規模の商業用不動産を

基礎に証券を発行し、資金調達するものである。

A エクィティ形態

C 不動産業者による不動産を基礎とする株式等の発行

 不動産業者が、保有する不動産を特別目的会社に譲渡し、又は信

託して、その会社の株式又は信託受益権の発行により資金調達する

ものである。

 このような資金調達については、投資家への配当が会社等の利益

処分に該当するため、いわゆる二重課税の有無が課題となるが、米

国においては、信託、会社、社団の組織形態を問わず、課税所得の

95%以上を投資家に配分するなどー定の要件を満たす限り、当該

会社等自体には課税が行われない不動産投資信託(REIT)の制

度が導入されている。

 また、組合についても特別目的会社等と同様の活用が考えられ、

これに相当するものとして、米国においては、マスター・リミテツ

ド・パートナーシツプ(MLP)の受益証券がある。リミテッド・

パートナーシップは、業務執行の権利義務を有し、無限責任を負う

ゼネラル・パートナーと有限責任のリミテッド・パートナーからな

るー種の組合であり、組合員の共同事業組織に過ぎないことから、

組合員レベルでのみ課税が行われる。マスター・リミテッド・パー

トナーシップの受益証券は、このようなリミテッド・パートナーの

経済的利益を証券化したものである。

 なお、不動産投資信託(REIT)等は、不動産事業者によって

自己の保有する不動産を証券化するための仕組みとして活用される

ほか、広く投資家から資金を調達し、不動産への投資或いは貸付け

を行う独立の組織・事業体の仕組みとして活用されている。

D 不動産事業者による不動産(所有権)の証券化

 不動産事業者が、保有する不動産を細分化、小口化して販売し、

資金調達するものである。不動産の共有持分権の譲渡であり、多数

の投資象による共有関係が生ずるため、不動産の管理・運営の十全

を期するとともに、権利の流動性を確保するため、投資家は、その

持分権を信託し、又は組合等に出資することによって、信託受益権、

組合持分権或いは株式を取得する。

 結果的には、Cの不動産事業者による株式等の発行と同様の形態

であり、その本質は両者ともに不動産そのものの証券化と理解でき

よう。

B ハイブリッド形態

 デットとエクィティの中間的な形態であり、不動産事業者がBの

債券発行による資金調達を、債券保有者の請求によって不動産の共

有持分権、特別目的会社の株式等に転換できる債券(コンバーティ

ブル・モーゲージ債権、転換社債等)或いは不動産から生み出され

るキャッシュ・フローに即して金利の変動する債権(利益参加権付

債券等)によって行うものである。

 Aの金融機関による貸付債権の証券化についても、不動産ローン

自体がこのような形態で貸し付けられた場合には、同様の関係とな

る。

2 我が国における不動産証券化の現状と展望

 我が国においても、金融の証券化は着実に進展しており、資産金

融の分野でも、住宅抵当証書、住宅ローン債権信託、抵当証券によ

る貸付債権の流動化が図られている。また、リゾートマンション、

ゴルフ場等の会員権力式による資金調達が普及・定着するー方、最

近では、オフィスビル、マンション、ホテル等の商業用不動産を対

象としたいわゆる不動産小口化商品も登場している。さらに、不動

産の証券化とは異なるが、等価交換、土地信託、新借地、事業受託

等土地所有者参加型の土地の有効利用、都市開発手法が普及し、証

券化の新たな契機を提供することも予想される。

 これを不動産証券化の形態に当てはめれば、住宅抵当証書、住宅

ローン債権信託及び抵当証券は、Aの金融機関による貸付債権の証

券化のうち債務者のー般的な収入によって償還される住宅モーゲー

ソ・ローン債権等の証券化に、不動産小口化商品は、Dの不動産事

業者による不動産(所有権)の証券化に該当するものである。また、

不動産を会員が共有する共有性の会員権も、不動産小口化商品と同

様の形態と理解されるが、施設の利用者を対象に優先的・特典的な

利用権を与えるもので、純粋に経済的な利益をべースとするー般の

資金調達方式とは性格を異にする。

 このように我が国でも、デット、エクイティの両面から不動産の

証券化は進みつつあるが、証券化の形態、証券の流動性、資金調達

の規模、資金調達手法としてのー般性等において、未だその端緒に

着いた段階にあるとも言えよう。

 その理由としては、我が国では金融機関を通ずる資金の供給が有

効な資金調達手法として広く定着していること、不動産に係る資金

についても企業金融の方式により信用供与され、資産金融或いは不

動産金融が未発達であること、資産を基礎に証券を発行し、流通さ

せていく仕組み・制度が十分には整備されていないこと、そして、

膨大な余剰資金の発生と物価の安定等を背景に、金利が低位に安定

していることから、不動産証券化のインセンティブが働きにくかっ

たこと等があげられよう。

 しかし、金融の自由化の進展とともに、資金の調達者の側におい

ては、金融機関の調達と運用期間のミス・マッチに伴う金利変動リ

スクの回避、自己資本比率規制への対応、不動産事業者の財務管理

・財務運営の高度化の要請等から、保有資産流動化のニーズが高ま

るとともに、多様な資金調達手段の中から自己の資金需要等に即し

た最も適切な資金調達を行おうとする傾向が強まっている。一方、

資金の供給者の側においては、金融資産の蓄積が進み、これに伴い、

投資家のリスク負担能力が増大するー方、効率的な資金運用を志向

して資金運用ニーズがー層多様化している。

 このように資金の調達者、供給者いずれの側においても、不動産

の証券化に関するニーズは高まりつつあり、このような要請を踏ま

えつつ、証券化の仕組み・制度の充実を図り、不動産証券化を都市

開発プロジェクト推進のための手法として、普及・活用していくこ

とが必要である。


第三 都市開発プロジェクトと不動産の証券化


1 不動産証券化の意義

 不動産の証券化の意義を整理すれば、以下のとおりである。

@ 資産金融であること。

イ 資金調達者の企業全体の信用力でなく、証券化の対象とする不

 動産の信用力(不動産事業の収益性、不動産の担保価値等によっ

 て資金が供給されること。

口 資金調達者は、証券化する不動産の選択・仕組み方如何によっ

 て、容易に証券の信用力を変えることができ、これによって、必

 変な資金を適切な条件で調達することができること。

A 広く投資家から資金調達するものであること。

イ 良質なプロジェクトには良質な資金が供給されるという市場原

 理が機能し、資源の適性配分が図られること。

口 資金調達者はそれぞれ自己の資金需要に最適な形態の資金調達

 を望むー方、投資家も様々な資金連用ニーズを有している。この

 ような両者が直接結び付くことによって、それぞれにとって最適

 な形態のファイナンスが可能となること。

ハ 資金調達者は、巨大な資金供給力を持つ資本市場にアクセスす

 ることによって、一時に多額の資金調達が可能となること。

ニ 投資対象を小口化する証券化が進展することによって、投資家

 は分散投資が可能となり、不動産投資のりスク分散が図られるこ

 と。これによって、調達者にとっても資金調達の円滑化が図られ

 ること。

ホ 資金調達のチャンネルが多様化し、市場のー体化が進むことに

 よって、供給者間の競争原理が働き、低コストの資金調達が図ら

 れること。

B 対象が不動産であること。

 不動産は、一般に、個別性・地域性が高いこと、その投資や管理

には多額の資金と専門的な知識・経験が必要なこと等の特性を持ち、

流動性が極めて低い性格を持っている。

 不動産の証券化は、このような不動産を小口化し、流動性を付与

するものであり、これによって、不動産事業者の資金調達、資金回

収の弾力化が図られるとともに、一般の投資家にも不動産投資への

途を聞き、国良大衆の資産形成に資するものであること。



2 都市開発プロジェクトと不動産の証券化

 不動産の証券化は、以上のような意義を持つが、これを都市開発

プロジェクトの促進という観点から整理すれば、以下のとおりであ

る。

@ 事業の長期性への対応

 都市開発プロジェクトは、事業着手から完成、資金回収にいたる

まで長期間を要し、初期投資に要する費用も多額にのぼることから、

資金の回収期間が20年から30年といった極めて長い特性を持っ

ている。

 しかし、資金供給の主要な手段である現在の貸付方式は、基本的

には、その原資を比較的短期の資金におっていることから、自ずと

貸付期間は限定され、金利も変動型に傾かざるを得ない。その結果、

長期的な資金の計画が見極めにくく、また、十分な利回りを確保で

きる事業であっても、キャッシュフローが期待できない初期の段階

での金利負担から、事業自体の実施が困難となる場合も多い。

 不動産の証券化は、このような都市開発プロジェクトに、その

特性に適合した長期・固定金利の資金(デット型)或いはキャッシ

ュ・フローに即した調達コストの支払いを可能とするエクイティ型

又はハイブリッド型の資金を供給する途を開くものである。

A 大規模事業の円滑な資金確保

 大規模な都市開発プロジェクトの実施には当然多額の資金を要す

るが、このような資金を1社或いは数社の金融機関が貸し付けるこ

とは、資金供給力、リスク負担等から困難な場合も多く、また、資

金供給者が限定されることによって調達コストが割高となる可能性

もあろう。

 不動産の証券化は、不動産を小口化するとともに、資本市場から

直接資金を調達することによって、多額の資金を円滑に調達しよう

とするものである。

B プロジェクトの良否による資金調達

 都市開発プロジェクトは、単一・独自の事業であり、その採算性、

リスク等は事業ごとに異なる。

 しかし、我が国では、企業金融の方式により、調達者の信用力に

依存して資金供給がなされる結果、企業としての信用力が必ずしも

十分でない場合には、たとえプロジェクト自体が良質なものであっ

ても、十分な資金が確保されにくい傾向がある。

 不動産の証券化は、プロジェクトに着目した資金調達手法であり、

また、事業者は、証券化する不動産の選択・仕組み方如何によって、

必要な資金を適切な条件で調達することができる。

C 事業リスクへの対応

 都市開発プロジェクトのうち、公共施設等の既存集積が不十分な

地域で実施されるプロジェクトや先端産業等ベンチャー的な事業に

関連して実施されるプロジェクトについては、ハイリスクな性格を

有する事業も多い。

 このような事業の実現を図るためには、関連公共施設の整備等公

的支援措置の充実が基本的に必要であるが、これと併せて、リスク

に見合う収益が期待できる事業の資金調達手法として、不動産の証

券化を活用することによって、多様な資金運用ニーズを持つ投資家

に直接アクセスすることが有効である。

D 資金調達・資金回収の弾力化

 住宅・宅地供給等を目的とする都市開発プロジェクトは、最終需

要者に分譲が行われることによって事業が完結することとなるが、

賃貸型、特に商業系のプロジェクトでは、その建設・所有・管理が

同一の主体によって行われるのがー般的である。

 そのため、その実施には、不動産事業の経営能力とともに、多数

の事業用資産を継続的に建設・保有し、総合的な資産運用を行いう

る資金力が必要となるが、不動産の証券化は、不動産の流動性を高

め、弾力的な資金調達・資金回収を可能とすることによって、新た

な都市開発プロジェクト実施のための資金還流を促進するとともに、

不働産の所有と建設・管理の主体の分離を通じ、このような資金力

を持たない事業主体にも、その経営能力によって都市開発プロジェ

クトへの参画を促進するものである。

E 金融機関による資金供給の弾力化

 金融の自由化による金利変動リスクの増大、自己資本比率規制の

強化等は、金融機関に保有資産の流動化を要請する要因となってい

るが、逆に、これを契機として不動産の証券化が進展することは、

金融機関の質付けの弾力化を促し、都市開発プロジェクトの特性に

即した資金供給を可能とするものと考えられる。




第四 不動産証券化推進の課題と対応方向


 不動産の証券化は、都市開発都市捌発プロジェクトの特性に即し

た長期、安定的な資金を確保するための有効な手段を提供するもの

と考えられるが、その推進を図るためには、以下のような課題に応

え、その条件整備を進める必要がある。

@ 不動産から生ずるキャッシュフロー等の安定とその評価システ

 ムの整備

 不動産証券化の推進を図るためには、不動産から生ずるキャッシ

ュフロ−等の安定を図るとともに、これを適正に評価するシステム

を整備し、不動産金融の導入・普及を図っていくことが必要である。

 我が国では、不動産の建設・保有に係る資金についても企業金融

の方式によって供給されるため、デット型の不動産証券化の形態と

しては、金融機関による住宅ローン債権等の証券化に止まらざるを

得ず、またエクィティ型の証券化については、不動産そのものの処

分としての不動産小口化商品から証券化は進展している。しかし、

既に不動産金融となっている不動産小口化商品についても、対象不

動産がどのようなものかと同時に、これがどのように管理・運営さ

れるかは重要な要素である。

 このため、事業の計画的実施の確保、不動産の管理・運営の高度

化、必要な保証・保険制度の充災等を図るとともに、不動産(プロ

ジェクトの分折・評価、キャッシュ・フロ−、担側価値の予測等)

について、企業金融における企業の信用力等の評価と同等の評価を

行い得るシステムを確立していくことが必要である。

A 不動産証券化のためのシステムの整備

 不動産を証券化するためには、証券化の対象となる不動産を特定

し、資金調達者の他の資産と区分するとともに、これを共に証券を

発行し、資金調達するシステムを整備することが必要である。

 このような仕組みとしては、会社(特別目的会社)、信託、組合

等の活用が考えられ、資金調達者は特別目的会社等に不動産を譲渡

し、又は出資して、その社債、株式、信託受益権或いは組合持分権

の発行により資金調達する。特別目的会社等については、会社等の

目的が対象不動産の管理・運営に特化していること、資産が親会社

(資金調達者)と独立していること、十分な社債発行が可能である

こと、そして、不動産から生ずるキャッシュ・フローについて株式

等の形態をとった場合にも社債形態と同様いわゆるニ重課税が排除

されること等が必要である。

 不動産と投資家とを結ぶこのような仕組み・受皿は導管体と総称

され、我が国おいては、信託がその機能を果たし得るものである。

この場合、税法上、受益権者が信託財産を所有するのと同様に扱わ

れるか否かも重要な課題であり、その要件として、不動産(土地)

の信託について、委託者を受益者とする信託であること、原側とし

て信託受益権が分割されないものであること等の要件が示されてい

るところであるが、都市開発推進の見地から、その望ましい在り方

について更に検討を進める必要がある。

 また、関係者のニーズに応じた多様な証券発行を可能とするため

には、特別目的会社、民法上の組合等他の方式についても導入、活

用を図る必要があり、このため、会計原則、社債発行限度、税制等

関連諸制度の整備について検討を進める必要がある。

B 証券の小口化、流動化の促進

 我が国では、住宅抵当証書、住宅ローン債権信託、抵当証券或い

は不動産小口化商品等の形態で不動産証券化は進展しつつあるが、

販売単位の大きさ、譲渡先の限定や譲渡禁止特約、税制上の取扱い

等から、いずれも証券の小口化、流動化の程度は低いものに止まっ

ているのが特徴である。

 しかし、不動産の証券化は、不動産或いはこれに関する権利を小

口化・定型化し、流動性を付与することによって、投資家から資金

調達するものであり、より長期、低利の資金を大量に調達するため

には、証券の小口化、流動化を促進することが重要な課題である。

 このため、情報の開示等投資家保護措置の充実、取引の公正確保

のためのルールと流通市場の整備、証券保有者の把握等事務処理シ

ステムの整備、証券(不動産に関する権利)の有価証券化とそのた

めの条件整備等について幅広く検討を進める必要がある。特に、証

券の小口化、流動化の促進に当たっては、投資家の保護について十

分留意する必要がある。

C 不動産に関する情報の開示等

イ 情報の開示

 広くー般に対し証券を発行し、資金調達する上で、当該証券が化

体する権利即ち当該証券の基礎となる不動産の内容について正確な

情報を開示することは、投資家の的確な投資判断に資するとともに、

白己責任の原則を基礎とする投資家保護を図るために必要不可欠で

ある。

 このような開示の規制としては、株式、社債等のー定の有価証券

について証券取引法にー般的な規定があるほか、同法の有価証券に

該当しないものについては、それぞれ個別の法律や通達により対応

されている。また、不動産そのものの売買等については、宅地建物

取引業法に取引の相手方に対する重要事項の説明等が規定されてい

る。しかし、いずれも、特定の取引についての規制であり、今後進

展が期待される不動産証券化に十分対応し得る制度は未整備の状況

にある。

 不動産の証券化は、いわゆる証券収引と不動産取引の中間的な性

格を持つものと考えられるが、証券の化体する権利の内容、証券の

発行・流通の形態に即して、開示させる情報の内容、開示の仕組み

・方法について具体的に検討し、開示制度の整備を進めていくこと

が必要である。

口 不動産情報サービス・システムの充実

 証券化の対象となる不動産は、その内容が多種多様であり、証券

化の仕組み自体も複雑であることから、一般の投資家にとって、資

金調達者による情報の開示のみでは、証券の安全性、収益性等を十

分比較検討することは困難である。

 このような事情を反映し、デット型の証券については、格付制度

が証券の安全性を評価する仕組みとして機能している。格付制度は、

証券についての専門的知識を有する格付機関が、証券のリスクの程

度を判定し、公表することによって、投資家の適切な投資判断に資

しようとするものであり、米国においては、このような格付制度が

広く市場関係者に浸透し、証券化の進展に大きな役割を果たしてい

る。我が国においても、徐々にではあるが格付制度は普及しつつあ

り、今後一層その充実・定着を図る必変がある。

 また、都市開発プロジェクト推進のための資金調達においては、

エクィティ型、ハイブリッド型の証券化に対するニーズも高いこと

から、格付制度に相当するような、不動産に係る市場動向、類似の

都市開発事業の事例、事業者の事業実績等、投資家の投資判断に資

する情報を広く収集、提供するサービス・システムを充実していく

ことが必要である。

D 地価の安定と都市開発プロジェクト推進のための適切な資金供

 給の確保

 近年の大都市における地価の上昇は、東京圏においては沈静化の

傾向にあるものの、地方都市等に波及する状況となっている。これ

は、多くの資金が土地購入に流れ、土地ストックの名目資産価値の

上昇を引き起こしたためであり、遅れている社会資本の整備、住宅

・宅地の供給、都市機能の高度化等、都市開発自体の困難化を招来

している。

 不動産の証券化は、単なる土地等の転売や投機的取引に資金供給

するものであってはならず、これによって調達した資金を都市開発

プロジェクトの推進に適切に誘導、活用していくことが必要である。

 具体的には、不動産証券化の活用は、大きくプロジェクトの建設

段階と保有段階に分けられるが、不動産が完成し、テナントの確定

した保有段階は、趣設段階に比し低リスクであり、不動産の証券化

は、基本的に、このような保有段階になじみやすい性格を持ってい

る。このため、一般に比牧的短期であるプロジェクトの建設段階は、

通常の金融機関からの倍入れによって資金調達し、事業が完成した

保有段階におL・て、不動産を証券化し、長期・安定的な資金に借

り換え又は資金回収する等の形態を41心に、不動産証券化の有効

かつ適切な活用を検討する必要がある。

 また、特に、長期かつ大規模な事業を実施するためには、建設段

階から証券化によって資金調達するのが有効であり、その実現に向

けて、事業の計画的実施の確保、必要な保証・保険制度の充実、取

引ルールの明確化と取扱事業者の健全な育成等を図る必要がある。

また、地方都市等における優良な郁市開発プロジェクトの推進を図

るためには、政策的な支援措置の充実も必要であり、各種の事業制

度、支援措置との連携を図りつつ、証券化の活用を検討していく必

要がある。


第五 不動産証券化を活用した新たなファイナンス・システムの構

   築に向けて


 不動産証券化の推進を図るためには、種々の課題に応え、その条

件整備を進める必要があるが、都市開発推進のための新たなファイ

ナンス・システムの構築に向け、当面、以下のような方向で施策の

具体化を検討していくことが必要である。

@ 不動産金融方式の導入

 不動産金融の導入は、不動産証券化の出発点となるものである。

また、不動産金融は、対象となる不動産の良否によって資金が供給

され、不動産の選択・仕組み方如何によって容易に信用力を変える

ことができるものであり、証券化推進の観点からばかりでなく、都

市開発推進のための一般的な資金調達方式として、積極的にその導

入を検討すべきである。

 また、その一環として、持分転換権付貸付、利益参加権付貸付等

の導入についても検討する必要がある。持分転換権付貸付は、一定

期間経過後、債権者の請求によって、事業によって建設された不動

産の共有持分権に転換できる貸付けであり、利益参加権付貸付は、

対象となる事業或いは不動産から生み出されるキャッシュ・フロー

に即して金利の変動する貸付けである。これらの貸付方式の導入に

よって、事業者は、低利資金の調達或いはキャッシュ・フローの見

込めない初期段階の金利負担の軽減を図ることが期待できる。

 また、抵当証券は、不動産抵当債権をその抵当権とともに証券化

した有価証券であり、抵当証券発行特約付融資に不動産金融の方式

を導入すること、対象不動産の担保価値とともに債務の償還能力に

関する情報を開示すること、抵当証券取扱会社の保証能力(信用力)

を高めるとともに広く保証制度の充実を図ること等によって、これ

を都市開発推進のための制度として活用する方策を幅広く検討すべ

きである。

A 不動産(所有権)証券化の推進

 一方、不動産の所有権そのものを細分化して販売する不動産小ロ

化商品は、我が国におけるエクィティの証券化の先駆けとなるもの

であり、これを適切に誘導・育成し、不動産の所有と経営を分離す

る新たな都市開発手法として定着させていくことが必要である。

 このため、契約書を標準化する等商品の定型化を進めるとともに、

不動産の属性に加え、その管理・運営方法、商品の仕組み等に関し

幅広く開示させ、取引のルールを明確にしていくことが必要である。

また、現在、証券の発行単位、流通性、発行形態が大きく制約され

ているが、投資家保護措置の充実を図りつつ、その小口化、流動化

の促進を図るととも、不動産をまず信託しその信託受益権を販売す

るといった発行形態の弾力化についても検討する必要がある。さら

に、信託方式のみならず組合方式についても、税制上の取扱いや組

合契約の明確化を図りつつ、その普及・活用を進める必要がある。

B 土地信託の活用

 土地信託は、土地所有者が土地を手放さずにその有効利用を図り

得る手法として、近年、大きな実績をあげている。また、国鉄清算

事業団資産処分審議会で検討されているように、地価を顕在化させ

ない資産処分の方法として活用が注目され、また、不動産小口化商

品にみられるように、多数者に共有される商業用不動産の管理・運

営の仕組みとして活用が進められている。

 このような土地信託の機能を十分に発揮させ、都市開発の推進に

資するため、信託受益権の小口化・流動化の促進、収益受益権確保

と元本受益権への分離等について検討すべきである。

 また、これとあわせ、その活用策についても検討する必要がある。

例えば、土地信託による事業資金の調達は、信託勘定の借入による

のがー般的であるが、土地をべースに相当規模の開発を行う場合に

は、借入額も多額となることから、初期の金利負担の軽減等に資す

るため、土地所有者と投資家がそれぞれ土地と資金とを共同して信

託する等の方式の活用を検討すべきである。この場合、資金調達の

円滑化を図るためには、信託受益権の流通性如何は大きな要素であ

り、また、信託期間終了後の権利関係の整序を図る上で、収益受益

権と元本受益権への分離を活用することも考えられよう。

C 都市開発推進のための新たな組合制度の導入

 我が国では、不動産小口化の仕組みとして、民法上の組合が活用

され始めているが、不動産の所有と経営の分離という投資家と事業

者との実体に即して、都市開発のための新たな組合制度(都市開発

事業組合制度)の導入を検討する必要がある。

 都市開発事業組合は、業務執行の権利義務を有する無限責任組合

員とこれを有しない有限責任組合員からなる組合で、有限責任組合

員の持分権(受益権)に譲渡性を認めようとするものである。これ

によって、投資家は、事業経営と無限責任の負担を負うことなく、

直接不動産に投資を行ったと同様の利益を享受し、事業者は、事業

の経営権を損なうことなく、広く出資を募ることができる。

 我が国では、都市開発を関係者が共同して実施する場合、第三セ

クター等の株式会社方式やジョイント・ベンチャー方式がとられる

のがー般的であるが、このような組合制度の導入は、不動産証券化

の仕組みとしてばかりでなく、例えば、地方におけるリゾート開発

などで開発事業者が中心となり、地元の関係機関が協力して事業を

実施する場合、土地所有者から土地の提供を受けて事業者が都市再

開発を実施する場合等においても有効な手法となることが予想され、

その活用形態に即しつつ、制度の具体化を検討していく必要がある。

D 特別目的会社方式等の導入

 一時に多額の資金を有利な条件で調達するためには、資本市場か

ら直接資金調達することが有効である。

 そのためには証券の高い流通性を確保することが前提となるが、

株式、社債については、証券の流通システム自体は確立しており、

このような資金調達を可能とするものとして、特別目的会社方式の

導入について積極的に検討すべきである。このため、社債発行限度

規制の緩和、導管機能の付与等を図るとともに、不動産証券化の特

性に即して、投資友の保護、流通市場の在り方等について検討を進

める必要がある。

 また、不動産業者が自ら保有する不動産を証券化し、資本市場か

ら直接資金を調達するためには、それに相応しい資金規模が必要で

あり、そのようなプロジェクトは自ずと限られたものとなろう。ま

た、多くのプロジェクトに分散投資をすることによって、不動産投

資のリスクは軽減することができる。

 このような観点から、不動産投資信託(REIT)をもとに、広

く投資家から資金調達し、複数のプロジェクト又は不動産に長期・

安定的な資金を供給する新たなファイナンス・システムの導入を検

討すべきである。この場合、単なる既存物件の転売等に資金供給を

促進し、地価の高騰を招くことのないよう措置することには特に留

意する必要がある。このため、投資対象を新規供給に係る不動産、

優良な都市開発プロジェクトに限定したり、公共的な機関としてフ

ァイナンス機関を設置する等の方策についてもあわせて検討する必

要がある。