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平成12年3月

「下水道におけるクリプトスポリジウム検討委員会」
最終報告(全文)

(社)日本下水道協会
■下水道におけるクリプトスポリジウム検討委員会 委員名簿

委 員 長 摂南大学工学部教授 金子 光美
委 員 大阪市立大学医学部助教授 井関 基弘
 ” 東北大学大学院工学研究科教授 大村 達夫
 ” 麻布大学環境保健学部教授 平田 強
 ” 建設省土木研究所下水道部長 佐藤 和明
 ” 日本下水道事業団技術開発部長 中村 栄一
 ” 東京都下水道局森ヶ崎水処理センター所長 地田 修一
 ” 横浜市下水道局管理部工場排水指導課長 千野 雅男
 ” 京都市下水道局水質試験所長 山内 啓二
特別委員 建設省下水道部下水道企画課下水道事業調整官 栗原 秀人
旧委員 建設省土木研究所下水道部長 京才 俊則
 ” 横浜市下水道局管理部次長兼水質管理課長 亀山 建一
旧特別委員 建設省下水道部下水道企画課下水道事業調整官  曽小川 久貴
 ” 建設省下水道部下水道企画課下水道事業調整官 谷戸 善彦
作業部会メンバー 建設省下水道部下水道企画課課長補佐 増田 隆司
 ” 建設省土木研究所新下水処理研究官 酒井 憲司
 ” 建設省土木研究所三次処理研究室室長 鈴木 穣
 ” 建設省土木研究所汚泥研究室室長 森田 弘昭
 ” 建設省土木研究所三次処理研究室主任研究員 小越 眞佐司
 ” 建設省土木研究所三次処理研究室研究員 諏訪 守
 ” (社)日本下水道協会技術部参事 阿部 勝男
 ” (社)日本下水道協会技術部係長 後藤 正信
旧作業部会メンバー  建設省下水道部下水道企画課課長補佐 塩道 勝久
 ” 建設省下水道部下水道企画課課長補佐 森岡 泰裕
 ” 建設省土木研究所汚泥研究室室長 尾崎 正明
 ” (社)日本下水道協会技術部参事 金子 宣治
ま え が き
 平成8年の夏に埼玉県越生町において、水道水を介したクリプトスポリジウム症の集団感染が発生し、 8,000人以上にも及ぶ大規模な集団下痢・腹痛等の被害を引き起こした。 水道原水中に含まれていたクリプトスポリジウムが、 浄水処理においても除去・消毒されることなく各家庭等に配水されたことが、この集団感染の直接的な原因である。
 しかし、水道取水源の上流に排水処理施設が位置していたことも、 このような大規模な感染を引き起こした原因の一つであると指摘されている。 即ち、排水処理施設から河川を通って水道ヘと至り、また排水処理施設に戻る水のループが形成され、 そのループ内でクリプトスポリジウムが増殖したとされている。
 クリプトスポリジウム症に関しては、我が国の下水道においてはこれまで考慮の対象となっていなかった。 しかしクリプトスポリジウムが、感染した人間や哺乳動物の糞便に混じって環境中に排出されるため、 水道水源の保全や環境水の安全性確保の観点から、 下水道においてもクリプトスポリジウムについての検討が必要であると考えられる。
 本委員会では、平成9年2月より3年間にわたり、国内外の文献調査や土木研究所における調査結果をもとに、 下水道におけるクリプトスポリジウム問題について、以下の項目に関する検討を行ってきた。
  • 問題の所在とその特徴
  • 下水試料測定における留意事項
  • 下水道におけるクリプトスポリジウム濃度の現状
  • 下水・汚泥処理プロセスにおけるクリプトスポリジウム除去効果
さらに、下水道におけるクリプトスポリジウムヘの対応に関する検討事項についても、 その考え方を整理してきた。
 本報告書は、以上の検討結果を取りまとめたものである。 今後、下水道管理者がクリプトスポリジウム対策について検討する際に、 また、不幸にして集団感染が発生した場合には対策手法を立案するに際に、本報告書が役に立てば幸いである。

平成12年3月

下水道におけるクリプトスポリジウム検討委員会
     委員長  金子 光美

■目次
1.クリプトスポリジウム問題の特徴
2.クリプトスポリジウムの測定における留意事項
3.下水および下水処理水中のオーシスト濃度の実態
4.下水・汚泥処理プロセスのクリプトスポリジウム除去効果の評価
 4.1 下水処理プロセス
  1) 標準活性汚泥法
  2) オキシデーションディッチ法
  3) 砂ろ過
  4) 消毒方法
 4.2 汚泥処理プロセス
  1) 焼却
  2) コンポスト
  3) 嫌気性消化
  4) 生石灰の添加
5.下水道におけるクリプトスポリジウムヘの対応に関する検討事項
 5.1 下水処理水放流先の安全性確保
 (1) 平常時
   1) 処理目標水質
    a) 下水処理水再利用に関する検討例
    b) 公共用水域放流に関する検討例
   2) 連絡体制
   3) 測定機関の確認
   4) クリプトスポリジウムの除去方法およびその効果
 (2) 異常時
   1) 総合的対策
   2) 下水処理場における対応
 5.2 下水道従業者に対する安全性確保
1.クリプトスポリジウム問題の特徴
@ クリプトスポリジウム症の症状
 クリプトスポリジウム症は、1週間程度の激しい下痢と腹痛を示す。 健常者であれば免疫力で自然に治癒するが、有効な治療薬がまだないため、 免疫力が低下している人には致命的になることがある。

A クリプトスポリジウムの生態・塩素耐性

  • 人に感染して下痢の原因となるのは、Cryptosporidium parvumであり、 そのオーシスト(嚢胞体)は直径約5μmの類円形である。 厚いオーシスト壁に覆われているため、塩素などの化学薬剤に対する抵抗性がある。 C.parvumは、人や哺乳動物に感染する。
  • 外界ではオーシストを形成する。 腸内で説嚢してスポロゾイドが微絨毛から感染し、無性生殖と有性生殖を繰り返して増殖する。 有性生殖で形成されたオーシストは腸管内で成熟し、その多くが糞便とともに排出される。 下痢のピーク時には、1人から1日に10億個程度のオーシストが排出される。
  • 乾燥には弱い。
  • 水中では長期間生存する。 河川水中で90%不活化に要する期間は、水温15℃で40〜160日、水温5℃で100日との報告がある。
B 感染経路
 人や動物の糞便に混じって環境中に排出されたオーシストが、 食品、飲料水、手等を介して経口的に摂取されることにより、感染する。

C 感染力
 1〜数十個程度のオーシスト摂取でも感染し、発症する。

D 感染リスク
 感染のリスクは、摂取するオーシスト数により決まってくると考えられている。 このため、水を介した感染の場合、水中のオーシスト濃度、 水利用形態(上水利用、農業用水利用、レクレーション利用等)に伴う摂取・誤飲の水量、 および、水との接触頻度が、感染リスクに影響を与える因子となる。

E 集団感染発生時
 集団感染が発生した場合には、感染者1人当たり最大で10億個/日のオーシストを排出するため、 下水処理場に流入する下水中のクリプトスポリジウム濃度は大きく上昇することが考えられる。

2.クリプトスポリジウムの測定における留意事項

下水中のクリプトスポリジウムのオーシストを測定する場合、夾雑物や浮遊物が多いため、 オーシストの濃縮方法や夾雑物等との分離方法が重要なポイントとなる。 濃縮方法としては、フィルターによるろ過法や遠心分離法などがあり、 夾雑物とオーシストの分離方法としては、パーコール蔗糖液による密度勾配遠心処理法、 ふるいを用いる方法、免疫磁気ビーズ用いる方法がある。
 測定方法別の回収率試験結果および操作の容易性2)から、対象水ごとに、以下のような前処理、 濃縮および夾雑物との分離方法の組み合わせとすることが適当である。

表−1 クリプトスポリジウム測定に当たっての濃縮方法等
対象水 測定法 前処理(夾雑物除去) オーシストの濃縮 オーシストと夾雑物の分離
流入下水 @ ふるい フィルター 免疫磁気ビーズ
  A 遠心濃縮 免疫磁気ビーズ
下水処理水 B ふるい フィルター ふるい
3.下水および下水処理水中のクリプトスポリジウム濃度の実態
 全国67ヵ所の下水処理場(下水処理水を再利用している処理場)について、 平成8年9月より10月にかけて、流入下水および処理水中のクリプトスポリジウムの濃度測定を行った。 その結果、クリプトスポリジウムが検出された箇所は全体の1割程度であり、 その濃度範囲は流入下水で8〜50個/L、処理水で0.05〜1.6個/Lであった1) 。 なお、この検出率および濃度は、米国等で報告されている数値よりもかなり低い値であった。
4.下水・汚泥処理プロセスのクリプトスポリジウム除去効果の評価

 以下に示す下水・汚泥処理プロセスについて、 実験および文献調査によりクリプトスポリジウムの除去効果を評価した。

4.1 下水処理プロセス

 以下に示す下水処理プロセスについて、実下水を用いた処理実験を行い2)、除去効果を把握した。 ただし、2)Aは類似の実験結果から除去効果を推測し、4)については文献よりその効果を取りまとめた。

 1)標準活性汚泥法

  @ 活性汚泥処理
  • 最初沈殿池流出水を、曝気槽と最終沈殿池からなる標準活性汚泥処理法で処理する。
  • MLSS濃度2,000mg/L程度、HRT8h、汚泥返送率50%で連続処理を行った場合、 流入クリプトスポリジウム濃度約40,000個/Lに対して、添加開始後2日後に約99%(2Log)の除去率で安定した。 この除去率は、回分除去実験をもとに計算した値とも、良く整合していた。
  • 既存の外国における研究結果と比べて、本実験の方が幾分高い除去率を示した。
  A 曝気槽への凝集剤添加
  • 標準活性汚泥法の曝気槽末端に凝集剤(PAC)を添加し、最終沈殿池で沈殿除去する。
  • 活性汚泥法の処理条件を@と同じくし、凝集剤添加濃度を10mgAl/Lとすると、全体での除去率は、 2日後で99.99%(4Log)、5日後以降で99.999%(5Log)となった。 このため、凝集剤添加により、活性汚泥法に比べて除去率は99.9% (3Log)が上積みされたことになる。
  B 流入下水の凝集沈殿処理
  • 流入下水に凝集剤(PAC)を添加し、沈砂池での撹拌の後に最初沈殿池で沈殿除去する。
  • クリプトスポリジウム濃度を約104〜106個/L、凝集剤添加濃度を5、12.5〜l5、20mgAl/Lとすると、 除去率はそれぞれ、90%(1Log)以上、99.9%(3Log)以上、99.99%(4Log)程度が得られた。
 2)オキシデーションディッチ法

  @ 活性汚泥処理

  • 流入下水を、オキシデーションディッチと最終沈殿池からなるオキシデーションディッチ法で処理する。
  • オキシデーションディッチ活性汚泥にクリプトスポリジウムを添加し、 回分で24h曝気と沈殿処理を行ったところ、標準活性汚泥法の汚泥とほぼ同じ除去率が得られた。 汚泥転換率を流入下水SS濃度に対して75%とすると、連続処理における除去率は、 流入クリプトスポリジウム濃度が10,000個/Lの場合に98.6%(1.85Log)となることが計算される。
  A オキシデーションディッチヘの凝集剤添加
  • オキシデーションディッチに凝集剤(PAC)を添加し、最終沈殿池で沈殿除去する。
  • 標準活性汚泥法の実験結果( 1),A)によると、 10mgAl/Lの凝集剤添加により除去率が99.9%(3Log)上積みされることから、 オキシデーションディッチに凝集剤を10mgAl/L添加することにより、 除去率は99.998%(4.7Log)となることが期待される。
 3)砂ろ過

  @ 活性汚泥処理水を直接砂ろ過

  • 標準活性汚泥法の活性汚泥処理水を直接砂ろ過する。
  • ろ過速度l00m/日および200m/日でろ過を行ったところ、流入クリプトスポリジウム濃度124個/Lに対して、 それぞれ73%(0.57Log)、71%(0.54Log)の除去率が得られた。
  A 活性汚泥処理水に凝集剤を添加して砂ろ過
  • 標準活性汚泥法の活性汚泥処理水に凝集剤(PAC)を添加、スタティックミキサーで混合後、砂ろ過を行う。
  • 凝集剤添加濃度3mgAl/L、ろ過速度100m/日および200m/日でろ過を行ったところ、 流入クリプトスポリジウム濃度199個/Lに対して、99.7%(2.5Log)の除去率が得られた。
 4)消毒方法

 各種消毒剤によるクリプトスポリジウムオーシストの不活化の効果を既往文献からまとめると、以下の通りである。 なお、以下の報告ではマウスヘの感染実験によりクリプトスポリジウムの不活化(感染力を失うこと)を評価している。

 @ 塩素消毒:

 CT値(消毒剤濃度×接触時間)3,600と7,200 mg・min/Lの塩素消毒実験では、 クリプトスポリジウムの不活化率はそれぞれ47%(0.28Log)と99%(2Log)以上であった。 また、別の研究では、塩素濃度を1、3、20、100mg/Lとした場合、90%の不活化に必要なCT値は、 それぞれ800、920、1,250、2,900mg・min/Lであり、消毒効果は塩素濃度に依存し、 塩素濃度が低いほど不活化CTは小さくなる傾向が得られている。
 なお、実際の下水処理場で適用されている塩素消毒のCT値は、高くても50mg・min/L程度であることから、 塩素によって下水処理水中のクリプトスポリジウムを不活化することは実際上困難である。

 A モノクロラミン消毒:

 CT値7,200 mg・min/Lの条件でモノクロラミンを接触させた実験では、 クリプトスポリジウムの不活化率は90%(1Log)であった。
 なお、本消毒法によるクリプトスポリジウムの不活化は、塩素消毒と同じ理由により、 実際上困難である。

 B 二酸化塩素消毒:

 CT値1.12および78 mg・min/Lの接触条件で、 それぞれ97%(1.5Log)および90%(1Log)のクリプトスポリジウム不活化率が得られた実験結果がある。

 C オゾン消毒:

 水温約20℃、CT値3.5〜10mg・min/Lの接触条件では、90〜99%(1〜2Log)以上の不活化率が得られる。 しかし、水温が低下するとオゾン消毒の効果が低下する。

 D 紫外線消毒:

 20mWs/cm2の照射で99.99%の不活化率が得られている。

 E 併用消毒の効果:

 各種消毒剤を組み合わせて使用することにより クリプトスポリジウムの不活化効果を高めることができる。
  オゾンと二酸化塩素:
pH6の条件におけるオゾン処理(0.9mg/L、4min)と二酸化塩素処理(1.3mg/L、120分)、 それぞれのオーシストの不活化率は97%(1.5Log)と87%(0.89Log)であったが、 オゾン処理と二酸化塩素処理を続けて行うことにより99.99%(4Log)まで不活化率を高めることができた。
  オゾンと紫外線:
CT値1.5mg・min/Lのオゾン処理後、5mW/cm2で15sec紫外線を照射すると、 不活化率はオゾン単独処理の場合の10倍(1Log)になった。

4.2 汚泥処理プロセス

 以下に示す汚泥処理プロセスにおける除去効果を、温度と不活化率に関する実験結果3)をもとに評価した。

 1)焼却
 焼却によりクリプトスポリジウムは死滅する。

 2)コンポスト
 実験において60℃15分の条件で95%の不活化率が得られたことから、 設計指針で規定されているコンポスト化施設の発酵条件65℃48時間以上を確保できれば、 クリプトスポリジウムの大半は死滅すると考えられる。

 3)嫌気性消化
 35℃の中温嫌気性消化では、20日の滞留時間で、80%以上の不活化率が得られるものと考えられる。

 4)生石灰の添加
 生石灰と汚泥中水分とを反応させて発熱させ、汚泥の温度上昇によりクリプトスポリジウムを不活化する。

5.下水道におけるクリプトスポリジウムヘの対応に関する検討事項

 下水道におけるクリプトスポリジウムヘの対応方法は、 下水処理水放流先の安全性に関するものと下水道従業者に対する安全性に関するものとに大別される。 以下に、それぞれの場合における検討事項を示す。

5.1 下水処理水放流先の安全性確保

 流入下水および下水処理水中のクリプトスポリジウム濃度は、現時点においては低いが、 集団感染発生時には、高い濃度のクリプトスポリジウムが下水処理場に流入すると考えられる。 このため、対応方法については、平常時と感染症発生時を区別して、考え方を整理することが適当である。
 なお、下水処理水放流先には、公共用水域と下水処理水再利用施設がある。 下水処理水を再利用する場合、下水道部局が事業実施主体であるため、主体的に対応策を講じる必要がある。

(1)平常時

1)処理目標水質
 平常時における下水処理水中のクリプトスポリジウムは、存在するとしてもその濃度は低レベルであり、 これをすべてゼロにして放流することは、実際上かなり難しいと言わざるを得ない。 また一方で、人が摂取する水のうち下水処理水の占める量は、 放流先での処理水の希釈状況および水利用状況によって異なる。
 このため、合理的な処理目標水質の設定が求められるが、現時点においては、 クリプトスポリジウムに関する環境基準は定められておらず、排水に関する基準も設定されていない。 また、感染リスクから処理目標水質を設定する方法についても、目標リスクや暴露量の考え方がまだ確立していないため、 下水道部局が独自に下水処理水質の目標を設定することは困難な状況にある。
 処理目標水質の設定は、将来に向けての課題と考えられるため、 将来、リスクアセスメントの考え方が確立した場合には、 その手法を用いて、感染リスクに基礎をおいた合理的な基準を検討することが望まれる。 仮に、種々の仮定をおいた上で、リスクアセスメント手法適用による処理目標水質の検討例を示すと、以下のようになる。

  a) 下水処理水再利用に関する検討例
 再利用形態ごとに表−2のような接触頻度と摂取量に関する仮定をおき、 また、式(1)のような摂取量と感染確率の関係(用量−反応モデル)を用いると、 仮に設定した許容リスク(年間にどれほどの確率で人が感染するかを許容するレベル)に対して、 以下の手順で表−3のように処理目標水質が計算される。

  @ 年間許容リスクと接触頻度から、接触1回当たりの許容リスク(P)を求める
  A 用量−反応モデルを用いて、一日当たり許容リスク(P)に対応する許容暴露量(N)を求める
  B 許容暴露量(N)を1日当たり処理水摂取量で割り、許容濃度を算出する

表−2 再利用形態ごとの下水処理水への接触頻度および摂取量
再利用形態 被暴露者 暴露形態 接触頻度(F) 摂取量(d)
親水用水(公園) 公園利用者 水遊び 100 日/年 10 mL/日
修景用水(公園) 公園利用者 魚釣り   2 日/週  1 mL/日
水洗用水(Office) 勤労者 飛沫による接触   5 日/週  0.1 mL/日
散水用水(公園) 公園利用者 芝生等での接触  60 日/年  1 mL/日

容量−反応モデル(指数モデル4))。
  P=1- exp(-N/k)    ・・・・ 式(1)
P:1回の暴露で感染する確率、N:1回当たり暴露量、k:238.6(パラメーター)


表−3 再利用形態および年間許容リスクごとの下水処理水中クリプトスポリジウム濃度
再利用形態 摂取量
(mL)
接触頻度
(1/年)
年間許容リスク
 10−4  10−3   10−2 
処理目標水質(個/L)
親水用水(公園)  10  100 0.024 0.24 2.4
修景用水(公園)   1  104 0.229 2.30 23.1
水洗用水(Office)   0.1 261 0.914 9.15 91.9
散水用水(公園)   1   60 0.398 3.98 40.0

  b) 公共用水域放流に関する検討例
 人が水を摂取する可能性のある水域を対象とし、放流先での水利用形態ごとに接触頻度および摂取量を表−4のように仮定する。 また仮に、下水処理水の河川での希釈率を10倍、水道浄水施設での除去率を99%(2Log)と設定すると、 「a)下水処理水再利用に関する検討例」と同様な手順により、表−5のように処理目標水質が計算される。
表−4 接触頻度および摂取量
接触形態 被暴露者 暴露形態 接触頻度(F) 接触量(d)
水浴 水浴者 水浴中の誤飲  40日/年 100mL/日
水道利用 水道利用者 水道水の引用利用 365日/年 2 L/日


表−5 接触形態および年間許容リスクごとの下水処理水中クリプトスポリジウム濃度
接触形態 摂取量
(mL)
接触頻度
(1/年)
年間許容リスク
 10−4   10−3   10−2 
処理目標水質(個/L)
水浴   100  40 0.060 0.60 6.0
水道利用  2000 365 0.033 0.33 3.3


2)連絡体制
 集団感染に素早く対応するには、感染者に関する情報が下水道管理者に伝達される必要がある。 このため、平常時から関係機関が密接な連携のもと、 患者数など必要な情報を授受できるような連絡体制について検討を行っておく。
 処理水再利用の場合には、連絡体制を下水道部局と利用者の間で整備する。 また、送水を停止する状況を想定して、代替水源の確保、利用者との契約内容の確認等を行っておく。

3)測定機関の確認
 クリプトスポリジウムの測定が可能な機関について、予め調査しておくことが必要である。

4)クリプトスボリジウムの除去方法およびその効果
 クリプトスポリジウムの濃度を低下させる下水処理プロセスや汚泥処理プロセスは、 「4.下水・汚泥処理プロセスのクリプトスポリジウム除去効果の評価」に示すとおりである。

5)日常的な監視
 再利用に関して下水道部局は事業実施主体であるので、 適宜クリプトスポリジウムの濃度を測定し、実態を把握しておくことが望ましい。

(2)異常時

 集団感染発生時や長期間継続的にクリプトスポリジウムの流入が見られる場合などの異常時には、 平常時と異なった対応が必要である。 特に集団感染発生時には、極めて高い濃度のクリプトスポリジウムが 下水処理場に流入することにより、下水処理水中の濃度も高まることが予想されるため、 処理水放流先の安全性確保のため、緊急的な追加処理を行うとともに、 感染リスクを低下させるために総合的対策を実施する必要がある。 また、流入水中のクリプトスポリジウムのかなりの部分が汚泥中に移行することから、 汚泥処理についても注意する必要がある。

1)総合的対策
 集団感染等の異常時に的確に対応するには、行政長が設置する対策本部のもとに 下水道、河川、水道、衛生、畜産等の関係行政部局が参画し、情報の密接な交換、および、 さらなる感染防止のために発生源対策も含めた総合的対策を実施する必要がある。
 処理水再利用の場合には、クリプトスポリジウム濃度によっては、 再利用水の供給の停止、利用の制限等の措置を取る。

2)下水処理場における対応
 下水処理水中のクリプトスポリジウム濃度を極力低下させるため、 「4.下水・汚泥処理プロセスのクリプトスポリジウム除去効果の評価、 4.1 下水処理プロセス」に示す処理法を組み合わせて適用する。 なお、塩素消毒を強化しても、クリプトスポリジウムは不活化されないことに留意すること。
 最大の除去効果を得るための組み合わせは、消毒プロセスを除外すると、図−1のようになる。


 水処理プロセスにおいて除去されたクリプトスポリジウムは、汚泥に含まれて汚泥処理プロセスに移行する。 このため、汚泥処理には十分な注意が必要であり、焼却や十分に発酵を進行させたコンポスト、 生石灰添加などの熱処理を基本とする。


5.2 下水道従業者に対する安全性確保

 クリプトスポリジウムは経口で感染する。 このため、従業者の口に入る経路を断ち切ることが基本であり、 下水および汚泥の飛沫を吸い込まないためのマスクの着用、 下水および汚泥を取り扱う場合の手袋の着装、作業後の手洗い等が対応策となる。
 現時点において、流入下水および下水処理水中のクリプトスポリジウム濃度は低いため、 感染リスクも小さいと考えられる。 しかし、集団感染発生時には、流入下水、下水処理水、 汚泥中の濃度が高まることが予想されるため、上記の対応策が取れるようにしておく。

参考文献
1) 諏訪守、鈴木穣(1998) 下水処理場等におけるクリプトスポリジウムの検出方法の検討及び実態調査,土木研究所資料第3533号
2) 諏訪守、鈴木穣(2000) 下水処理過程におけるクリプトスポリジウムの除去効果等、土木研究所資料第3733号
3) 北村友一、森田弘昭(2000) 説嚢−フローサイトメトリー試験から観たCryptosporidium parvumオーシストの生存力に及ぼす水温の影響、 第37回環境工学論文集(投稿中)
4) C.H.Haas(1996) Assessing the risk posed by oocysts in drinking water,Journal AWWA,Sept.131‐136
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