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平成12年6月30日

「下水道におけるクリプトスポリジウム検討委員会」
最終報告(要約版)

1.クリプトスポリジウム問題の特徴
 クリプトスポリジウム症は、1週間程度の激しい下痢と腹痛を示す。 健常者であれば免疫力で自然に治癒するが、免疫力が低下している人には致命的になることがある。
 クリプトスポリジウムは、食品、飲料水、手等を介して経口的に摂取されることにより、人や哺乳動物に感染する。 また、感染した人や動物の糞便に混じって、クリプトスポリジウムは環境中に排出される。 厚いオーシスト壁に覆われているため、塩素などの化学薬剤に対する抵抗性があり、 塩素消毒の効果は期待できない。
 感染のリスクは、摂取するオーシスト数により決まってくると考えられている。 このため、水を介した感染の場合、水中のオーシスト濃度、 水利用形態(上水利用、農業用水利用、レクレーション利用等)に伴う摂取・誤飲の水量、 および、水との接触頻度が、感染リスクに影響を与える因子となる。
 集団感染が発生した場合には、感染者1人当たり最大で10億個/日のオーシストを排出するため、 下水処理場に流入する下水中のクリプトスポリジウム濃度は大きく上昇することが考えられる。
2.クリプトスポリジウムの測定における留意事項
 下水中のクリプトスポリジウムのオーシストを測定する場合、 夾雑物や浮遊物が多いため、オーシストの濃縮方法や夾雑物との分離方法が重要である。 試料の性状に応じて、前処理および濃縮、夾雑物との分離方法を組み合わせる。
3.下水および下水処理水中のクリプトスポリジウム濃度の実態
 全国67ヵ所の下水処理場(下水処理水を再利用している処理場)について、 平成8年9月より10月にかけて、流入下水および処理水中のクリプトスポリジウムの濃度測定を行った。 その結果、クリプトスポリジウムが検出された箇所は全体の1割程度であり、 その濃度範囲は流入下水で8〜50個/L、処理水で0.05〜1.6個/Lであった。 なお、この検出率および濃度は、米国等で報告されている数値よりもかなり低い値であった。
4.下水・汚泥処理プロセスのクリプトスポリジウム除去効果の評価
 以下に示す下水・汚泥処理プロセスについて、 実験および文献調査によりクリプトスポリジウムの除去効果を評価した。

4.1 下水処理プロセス

 標準活性汚泥法およびオキシデーションディッチ法では、 クリプトスポリジウムを約99%除去することができる。 また、凝集剤(PAC)を10mgAl/L添加した場合には、さらに99.9%除去することができるため、 除去率は約99.999%に向上する。
 一方、流入下水に凝集剤(PAC)を20mgAl/L添加して最初沈殿池で沈殿除去させた場合、 除去率は99.99%程度が得られることが想定される。
 活性汚泥処理の後に処理水を直接砂ろ過した場合には、クリプトスポリジウムは約70%除去されるが、 凝集剤を3mgAl/L添加して砂ろ過を行った場合には、除去率は99.7%に向上する。
 消毒方法のうち、塩素消毒によるクリプトスポリジウムの不活化は困難である。 オゾン消毒では、オゾン反応槽中のオゾン濃度と接触時間の積が3.5〜l0mg・min/Lの場合、 90〜99%以上の不活化率が得られる。 紫外線消毒では、20mWs/cm2の照射で99.99%の不活化率が得られている事例がある。 また、各種消毒剤を組み合わせて使用することによりクリプトスポリジウムの不活化効果を高めることができる。

4.2 汚泥処理プロセス

 汚泥処理プロセスにおける除去効果を、温度と不活化率に関する実験結果をもとに評価した。
 焼却によりクリプトスポリジウムは死滅する。 十分に発酵を進行させたコンポストでは、クリプトスポリジウムの大半は死滅すると考えられ、 中温嫌気性消化では、80%以上の不活化率が得られるものと考えられる。 また、生石灰を加えて発熱させることにより、クリプトスポリジウムを不活化することが可能である。
5.下水道におけるクリプトスポリジウムヘの対応に関する検討事項

5.1 下水処理水放流先の安全性確保

 集団感染発生時には、高い濃度のクリプトスポリジウムが下水処理場に流入すると考えられる。 このため、対応方法については、平常時と感染症発生時を区別して、 考え方を整理することが適当である。

(1)平常時

1)処理目標水質
 平常時における下水処理水中のクリプトスポリジウムは、 存在するとしてもその濃度は低レベルであり、これをすべてゼロにして放流することは、 実際上かなり難しい。 また一方で、人が摂取する水のうち下水処理水の占める量は、放流先での処理水の希釈状況およ び水利用状況によって異なる。
 このため、合理的な処理目標水質の設定が求められるが、 現時点においては、クリプトスポリジウムに関する環境基準は定められておらず、 排水に関する基準も設定されていない。 また、感染リスクから処理目標水質を設定する方法についても、 目標リスクや暴露量の考え方がまだ確立していないため、 下水道部局が独自に下水処理水質の目標を設定することは困難な状況にある。
 処理目標水質の設定は、将来に向けての課題と考えられ、 将来、リスクアセスメントの考え方が確立した場合には、その手法を用いて、 感染リスクに基礎をおいた合理的な基準を検討することが望まれる。
 仮にリスクアセスメント手法適用による処理目標水質の検討手順を示すと、以下のようになる。

@ 水の利用形態ごとに、水との接触日数と処理水摂取量を設定する。
A 人が年間に感染する許容確率(年間許容リスク)を設定する。
B 年間許容リスクと接触日数から、1日当たりの許容リスクを求める。
C クリプトスポリジウム摂取量と感染確率の関係に関する科学的モデルを用いて、
  1日当たりの許容リスクから許容摂取量を求める。
D 許容摂取量を1日当たりの処理水摂取量で割り、許容濃度を算出する。

2)連絡体制
 集団感染に素早く対応するには、感染者に関する情報が下水道管理者に伝達される必要がある。 このため、平常時から関係機関が密接な連携のもと、 患者数など必要な情報を授受できるような連絡体制について検討を行っておく。
 処理水再利用の場合には、連絡体制を下水道部局と利用者の間で整備する。 また、送水を停止する状況を想定して、代替水源の確保、利用者との契約内容の確認等を行っておく。

3)測定機関の確認
 クリプトスポリジウムの測定が可能な機関について、予め調査しておくことが必要である。

4)日常的な監視
 再利用に関して下水道部局は事業実施主体であるので、 適宜クリプトスポリジウムの濃度を測定し、実態を把握しておくことが望ましい。

(2)異常時

 集団感染発生時や長期間継続的にクリプトスポリジウムの流入が見られる場合などの異常時には、 平常時と異なった対応が必要である。 特に集団感染発生時には、極めて高い濃度のクリプトスポリジウムが 下水処理場に流入することにより、下水処理水中の濃度も高まることが予想されることから、 処理水放流先の安全性確保のため、緊急的な追加処理を行うとともに、 感染リスクを低下させるために総合的対策を実施する必要がある。 また、流入水中のクリプトスポリジウムのかなりの部分が汚泥中に移行することから、 汚泥処理についても注意する必要がある。

1)総合的対策
 集団感染等の異常時に的確に対応するには、行政長が設置する対策本部のもとに 下水道、河川、水道、衛生、畜産等の関係行政部局が参画し、情報の密接な交換、および、 さらなる感染防止のために発生源対策も含めた総合的対策を実施する必要がある。
 処理水再利用の場合には、クリプトスポリジウム濃度によっては、 再利用水の供給の停止、利用の制限等の措置を取る。

2)下水処理場における対応
 下水処理水中のクリプトスポリジウム濃度を極力低下させるため、 「4.下水・汚泥処理プロセスのクリプトスポリジウム除去効果の評価」 に示す処理法を組み合わせて適用する。 なお、塩素消毒を強化しても、クリプトスポリジウムは不活化されないことに留意すること。 組み合わせ時においても各プロセスの除去効果が発揮されるとすると、 組み合わせ処理法の除去率は、最終沈殿池までで9Log、砂ろ過も含めると11.5Logが期待される。
 水処理プロセスにおいて除去されたクリプトスポリジウムは、 汚泥に含まれて汚泥処理プロセスに移行する。 このため、汚泥処理には十分な注意が必要であり、焼却や十分に発酵を進行させたコンポスト、 生石灰添加などの熱処理を基本とする。

5.2 下水道従業者に対する安全性確保

 クリプトスポリジウムは経口で感染する。 このため、従業者の口に入る経路を断ち切ることが基本であり、 下水および汚泥の飛沫を吸い込まないためのマスクの着用、 下水および汚泥を取り扱う場合の手袋の着装、作業後の手洗い等が対応策となる。
 現時点において、流入下水および下水処理水中のクリプトスポリジウム濃度は低いため、 感染リスクも小さいと考えられる。 しかし、集団感染発生時には、流入下水、下水処理水、 汚泥中の濃度が高まることが予想されるため、上記の対応策が取れるようにしておく。
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