1.調査の目的
本調査は,環境リスクの低減等,健全な水環境を維持・向上するうえで必要不可欠な社会基盤施設である下水道に関して,
内分泌攪乱化学物質の下水処理場内における挙動を把握し、今後の対策検討に資することを目的としています。
本調査の目的は,次の通りです。
1)下水の特性を考慮した分析手法の開発・検討
2)下水処理場における内分泌攪乱化学物質の流入・放流実態把握
3)下水処理場内の処理工程(流入〜放流)における挙動把握
4)今後の対策手法の検討
2.分析手法の開発
内分泌攪乱化学物質に関する調査は,非常に低濃度を測定するという困難さに加え,特有の課題として, 下水は河川水等に比べ夾雑物や有機物等の物質濃度が高く,内分泌攪乱化学物質測定の妨害となり,
正確な分析を困難にしています。
本調査では,平成10年10月に環境庁より提示された 「外因性内分泌攪乱化学物質調査暫定マニュアル」による方法等を基本とし, 下水のこのような特性について検討を,下水試料に適用性のある分析手法を提案し,
「下水道における内分泌攪乱化学物質水質調査マニュアル(案)(1999年6月)」としてとりまとめました。
3.下水処理場における流入下水・放流水等の実態
関東および近畿地方の都市を中心に,27処理場における実態調査を行い,以下の知見が得られました。
(1)流入下水および放流水における実態
- 調査を行った内分泌攪乱化学物質(25物質)のうち,流入下水では15物質,
放流水では6物質が定量下限値以上で確認されています。
- この他,関連物質として調査したノニルフェノールエトキシレートおよび17βエストラジオールについては,
流入下水,放流水とも定量下限値以上で確認されています。
- 内分泌攪乱化学物質の処理場における減少率は,殆どの物質で90%以上の減少が確認され,
下水処理場は流入下水中の内分泌攪乱化学物質に対して低減を行っていると考えられます。
表−1 内分泌攪乱化学物質が定量下限値以上で確認された割合
(定量下限値以上の検体数/調査検体数)
物 質 名 |
流 入 下 水 |
放 流 水 |
備 考 |
定量下限値
(μg/L) |
割合 |
定量下限値
(μg/L) |
割合 |
内
分
泌
攪
乱
化
学
物
質 |
4-t-ブチルフェノール |
0.3 |
1/8 |
0.3 |
0/10 |
|
4-n-ペンチルフェノール |
0.3 |
0/8 |
0.3 |
0/10 |
|
4-n-ヘキシルフェノール |
0.3 |
0/8 |
0.3 |
0/10 |
|
4-n-ヘプチルフェノール |
0.3 |
0/8 |
0.3 |
0/10 |
|
4-n-オクチルフェノール |
0.3 |
8/35 |
0.3 |
0/48 |
|
4-t-オクチルフェノール |
0.3 |
17/35 |
0.3 |
0/48 |
|
ノニルフェノール |
-(0.3) |
34/34 |
-(0.3) |
33/48 |
注1) |
ビスフェノールA |
0.1(0.03) |
32/35 |
0.03 |
30/47 |
注2) |
2,4-ジクロロフェノール |
0.12(0.03) |
6/26 |
0.05(0.03) |
5/28 |
注2) |
フタル酸ジエチル(DEP) |
0.6 |
26/26 |
0.6 |
0/28 |
|
フタル酸ジプロピル(DprP) |
0.6 |
0/8 |
0.6 |
0/10 |
|
フタル酸ジ-n-ブチル(DBP) |
0.6 |
32/35 |
0.6 |
0/48 |
|
フタル酸ジペンチル(DPP) |
0.6 |
0/8 |
0.6 |
0/10 |
|
フタル酸ジヘキシル(DHP) |
0.6 |
0/8 |
0.6 |
0/10 |
|
フタル酸ジ-2-エチルヘキシル(DEHP) |
0.6 |
35/35 |
0.6 |
27/48 |
|
フタル酸ジシクロヘキシル(DCHP) |
0.6 |
0/8 |
0.6 |
0/10 |
|
フタル酸ブチルベンジル(BBP) |
0.6 |
5/35 |
0.6 |
0/48 |
|
ベンゾ(a)ピレン |
0.03 |
8/26 |
0.03 |
0/27 |
|
アジピン酸ジ-2-エチルヘキシル |
0.05(0.03) |
30/35 |
0.03 |
17/48 |
注2) |
4-ニトロトルエン |
0.03 |
0/8 |
0.03 |
0/10 |
|
ベンゾフェノン |
0.07(0.03) |
23/26 |
0.04(0.03) |
22/28 |
注2) |
スチレンの2及び3量体 |
0.03 |
3/24 |
0.03 |
0/36 |
2,4,6-TPH |
n-ブチルベンゼン |
0.3 |
5/26 |
0.3 |
0/28 |
|
ポリ臭化ビフェニル類 |
0.09 |
0/8 |
0.09 |
0/10 |
|
オクタクロロスチレン |
0.09 |
0/8 |
0.09 |
0/10 |
|
ノニルフェノールエトキシレート(n=1〜4) |
-(0.3) |
26/26 |
-(0.3) |
22/28 |
注1) |
ノニルフェノールエトキシレート(n≧5) |
-(0.6) |
25/25 |
-(0.6) |
22/28 |
注1) |
17βエストラジオール |
-(0.0006) |
35/35 |
-(0.0006) |
43/47 |
注1) |
注1)実試料において、()で示した目標となる定量下限値の設定が困難であり、"-"で記述している。
注2)実試料において、()で示した目標となる定量下限値が達成できないため、
確認された定量下限値を示した。
網掛・太字:定量下限値以上の存在が、1検体以上から確認されたもの。 但し、注1)の物質は()の数値で集計。
スチレンの2及び3量体は、他4形態で測定しているが、2,4,6-THP以外は、n.d.
(2)下水処理場内における挙動
下水処理場内の水処理工程における内分泌攪乱化学物質等の挙動の概要について,
これらの濃度が各処理工程においてどのように減少しているかを,流入下水を100として示したものが表−2です。
物質によって濃度減少の傾向は異なっていますが,特に,生物反応槽〜最終沈殿池において,
内分泌攪乱化学物質等の低減効果が認められています。
表−2 水処理工程における水質の挙動(中央値)
物 質 名 |
流域下水 |
初沈流入水 |
初沈流出水 |
終沈流出水 |
放流水 |
内
分
泌
攪
乱
化
学
物
質 |
ノニルフェノール |
100 |
114 |
63 |
5 |
5 |
ビスフェノールA |
100 |
100 |
45 |
6 |
4 |
2,4-ジクロロフェノール |
(-) |
(-) |
(-) |
(-) |
(-) |
フタル酸ジエチル |
100 |
42 |
69 |
(〜0) |
(〜0) |
フタル酸ジ-n-ブチル |
100 |
67 |
56 |
(〜0) |
(〜0) |
フタル酸ジ-2-エチルヘキシル |
100 |
112 |
52 |
(〜0) |
(〜0) |
アジピン酸ジ-2-エチルヘキシル |
100 |
124 |
22 |
(〜0) |
(〜0) |
ベンゾフエノン |
100 |
103 |
92 |
32 |
32 |
ノニルフェノールエトキシレート(n=1〜4) |
100 |
94 |
55 |
6 |
8 |
ノニルフェノールエトキシレート(n≧5) |
100 |
100 |
59 |
2 |
2 |
17βエストラジオール |
100 |
116 |
130 |
44 |
42 |
・処理工程調査を実施した秋期及び冬期調査結果16検体における中央値で算出したもの。
・流入下水を100としたときの各工程の水質。
・(〜0)は当該工程水の中央値が、定量下限値未満であるもの。
・(-)は、流入下水が定量下限値未満であるため、流入下水を100とした数値を算出せず。
4.今後の課題
平成11年度に検討を行う調査項目は下記のとおりです。
1)分析手法の精度向上
分析手法について,更に検討を進め,精度の向上を図る。
2)下水処理場内における挙動の把握
平成10年度に引き続き,下水処理場内における内分泌攪乱化学物質の流入・放流実態および処理工程内の挙動について実態調査を継続する。
3)処理方式による低減効果等の相違
水処理方式の違いによる内分泌攪乱化学物質の低減効果の相違を把握し,運転方法の変更や高度処理による効果について検討を行う。水処理方式の違いによる内分泌攪乱化学物質の低減効果の相違を把握し,運転方法の変更や高度処理による効果について検討を行う。
4)対策手法の検討
実態調査結果を踏まえ,今後必要に応じて,処理施設の運転方法の改善点や導入すべき高度処理手法の選定方法,将来開発すべき処理技術についても検討を開始する。
なお,環境中あるいは下水処理場からの内分泌攪乱化学物質濃度が,水生生物等にどのような影響を与えるかについては,
現段階では明らかにし得る知見が十分でないことが実状です。このため,本調査により得られた結果が,
これらの研究の基礎資料として活用されることが期待されます。
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