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下水道政策研究委員会中間報告
まえがき
 「今後、国民から期待される下水道の役割とは何か。 また、その役割を実現するための整備・管理はどのように行われることが適切か。」 について、整備が進捗し、そのストックの管理・活用を含めた対応が求められている下水道の現状を踏まえ、 21世紀を見据えた「人」、「水」、「地球」という3つの視点から審議を重ねた結果、 次のとおり中間報告を取りまとめたので報告する。
 なお、最終報告に向けて引き続き審議を行い、費用負担のあり方等についてより検討を深めていくものとする。

1.下水道事業の現状

 日本における近代下水道は、 雨水による浸水問題や停滞した汚水による伝染病の発生を防ぐことを目的として明治初期にスタートしており、 明治33年には「土地の清潔を保持する」ことを目的とした下水道法が制定され、 事業は市町村公営、新設には主務大臣の認可を要することとされた。 その後、昭和初期から戦後にかけては失業対策、戦災復興事業として整備が進められてきた。
 昭和33年には新下水道法が制定され、「都市環境の改善を図り、 もって都市の健全な発達と公衆衛生の向上に寄与する」ことを目的として 合流式下水道を中心とした都市内の浸水防除、 都市における汚水の排除による生活環境の改善を柱とした下水道の整備が本格化した。 さらに、その後の高度経済成長による公害問題の深刻化の中で開催された 昭和45年のいわゆる公害国会において下水道法の改正が行われ、新たに、 「公共用水域の水質の保全に資する」という一項が目的に加えられるとともに 流域別下水道整備総合計画及び流域下水道に関する規定が新設され、概ね現在の下水道の整備目的が確立された。
 このように、現在の下水道は、生活環境の改善、浸水の防除及び公共用水域の水質保全を目的として、 また、その実施にあたっては、 昭和38年から現在まで8次にわたる下水道整備五(七)箇年計画に基づき計画的な整備が促進されてきた。

 現在は、平成8年度を初年度とする第8次下水道整備七箇年計画に基づき事業を実施しており、 平成10年度における下水道事業実施箇所数は全国延べ2,617箇所となり、 全国3,233市町村の約67パーセントにあたる2,157の市町村で下水道事業が実施され、 処理人口普及率は58パーセント、雨水対策整備率は49パーセント、さらに高度処理人口も800万人となっており、 着実な整備が進んできている。また、平成9年度現在、管渠延長は277千キロメートル、 処理場数は1,293箇所と施設ストックが蓄積するとともに、 年間処理水量は生活用水量の4分の3に相当する124億トンに至っている。

 しかしながら、処理人口普及率は人口100万人以上の大都市の98パーセントに対して 5万人未満の中小市町村では未だ22パーセントにとどまるなど地域による格差が顕在化している。
 また、多くの水域で下水道整備の進捗に伴い着実に水質改善が図られているが、 閉鎖性水域や大都市など下水道の普及が百パーセント近くになっている地域においても 未だ十分な水質状況が確保されていないところがあり、 この原因として富栄養化物質である窒素、リンが十分除去されていないことや、 雨天時における合流式下水道からの未処理汚水の放流や路面等市街地に堆積した汚濁物質の流出などがあげられる。
 また、都市の浸水被害に対しては、速やかに集めて排除することを基本とした内水対策が進められてきたが、 その実施の多くが対処療法的であるとともに土地利用の変化に伴う流出の増大に十分対応できず安全度が低下し、 都市型水害の要因になるなど解決すべき課題がある。

 一方、バブル経済の崩壊、グローバル化の進行、少子・高齢化社会への移行、 急速な高度情報化の進展など社会経済情勢も大きな転換期を迎えており、 戦後の経済成長を支えてきた社会全体の仕組みについても抜本的な変革が求められている。 あわせて、身近な生活に関わる事項について自らも参画することへの国民の意識の高まりや 地方分権の推進にみられる行政手法の変更など、地域の自主性を高めることは時代の要請となっている。 このような中で、下水道事業をはじめとする公共事業においては、 単に不足している社会資本の整備率の向上を目的とするのではなく、 限られた財源の中で、関係者の合意形成のもと、優先順位を明確にしたうえで、 国民が真に求める社会資本の効率的な整備を行うとともに、 その社会資本をいかに適正に管理し、活用していくかを重視していくことが求められている。

 さらに、下水道事業を実施する地方公共団体の財政状況については、 税収の減少や地方債発行残高の増加などにより非常に厳しい状況となっており、 新たな財政支出を伴う事業の実施に支障を来たす状況も生じてきていることも、 下水道事業を推進するうえで解決しなければならない課題となっている。

2.21世紀を考える際の3つの視点

 20世紀の下水道事業はまさに遅れている社会資本の整備拡大の観点から事業を推進してきたが、 ある程度普及が拡大した現在においても先に述べたような課題を抱えている。 これらの課題を解決していくには、従来の下水道の整備手法を継続するだけではなく、 21世紀社会の望ましい姿を描きながら、下水道の果たすべき役割を考えることが必要ではないか。
 そこで、21世紀社会の重要な切り口である「人」、「水」、「地球」という3つの視点から、 今後の下水道の担うべき役割、有すべき機能について検討を行うこととする。

(1)人の視点

 21世紀における人の視点から望ましい姿は、すべての人々が、日々の生活を安心して送れ、 心の潤いが満たされ、さらにどこにいても暮らしや仕事に必要なサービスが享受でき、 そのうえで多様かつ輻輳した意識、価値観を持つ人々が連携、協力しながら生活していくことといえるのではないか。 このような人とまち、暮らしのあり方を実現するためには人々の生活の場面における様々な要素が関連している。
 特に、都市の降雨に対して浸水被害の軽減が図られることは、 日々の生活を安心して送るうえで不可欠な要素であるが、 三大都市圏をはじめとする既成市街地では都市内の雨水が排除できないことによる内水被害が毎年発生している。 都市に降った雨は、まず、下水道に流入し、速やかに集めて、河川等の公共用水域に排除されてきた。 しかしながら、内水対策は、土地利用の変化に伴う雨水流出の急激化、大量化に対応できず、 特に既成市街地等において安全度が低下し、 地下街における被害が起きるなど浸水被害を受けやすい都市構造となっている。
 このため、都市の雨については、速やかに集めて排除するという単一の手法から、 雨を貯める・浸透する・ゆっくり流すとともに、雨を使う、汚れた雨をきれいにするといった多面的対策を併せて実施し、 都市の雨を質及び量の両面において総合的に管理していくことを目指していくべきである。 その際、大都市を中心とした合流式の下水道において 雨天時に放流される未処理汚水による衛生的問題の解消を徹底する必要がある。 また、汚濁負荷の一層の削減が必要な地域では市街地に堆積した汚濁を洗い流すことで 汚れた降雨初期の雨水の処理も検討すべきである。
 また、日々の生活の安心という点については、 身近な生活空間における衛生状態や健康への不安が除かれていることも重要な要素である。 衛生状態の確保については、下水道等の整備が着実に進められたことで、 生活空間における悪臭や蚊・ハエの発生といった問題はかなり解決してきているが、 すべての地域で汚水の衛生的な処理が早急に徹底される必要がある。 さらに、多種多様な化学物質が製造、使用される現在社会においては、 環境ホルモン等による健康への影響など新たなリスクに対する不安は生活のあらゆる場面において蓄積してきており、 これらの化学物質に対するリスクの管理・低減に関する取り組みの強化が急務である。
 平成7年の阪神・淡路大震災では、 地震による災害の危険と被災時における都市機能の確保の重要性が改めて認識された。 特に下水道をはじめとするライフラインは生活基盤を支える重要な施設として、災害時にもその機能が損なわれないよう、 また、二次災害の防止等都市の防災機能を高めるよう整備・管理が行われるべきである。
 さらに、豪雪地帯においては、冬期の積雪から日々の生活機能を守り、雪に強い都市を実現すべきである。
 一方、心の潤いに対する国民の要求は、価値観の多様化、高度化に伴い大きく変化してきている。 例えば、都市化の過程で都市空間から汚水や悪臭を排除することが最重要課題と認識されていた時代から、 それを達成したうえで水や緑と触れ合えること、 さらには、都市空間をより機能的に活用できること等様々な価値を求める時代へと変化している。 このため、都市内の水や水辺の持つ多面的機能に着目した都市の再生が求められている。
 暮らしや仕事に必要なサービスについては、 高齢化社会を見据えたサービスの提供や高度情報化社会に対応して 誰もがどこでも情報を入手できる環境の実現が重要な要素である。 高齢化に対しては、バリアフリー社会の実現や日常生活における利便性の向上によって、 誰もが快適でゆとりを感じられる人にやさしいまちづくりが望まれる。 また、21世紀における重要なサービスである情報の提供については、 誰もがどこにいても容易かつ安心して情報にアクセスでき、地域間格差がないと感じられる環境形成が望まれる。

 以上の点を踏まえれば、人の視点において、これからの下水道は、 「浸水の防除、公衆衛生の確保」といった個々の目標から、日々の生活が安心して送れ、心の潤いが満たされ、 さらにどこにいても暮らしや仕事に必要なサービスが享受できる「住みやすい暮らしの場づくり」へと、 その目標をより複合的に発展させていく必要がある。

(2)水の視点

 水をとりまく状況については、急速な都市域の拡大等により、平常時の河川流量の減少や水質汚濁、 地下水位が低下するなど水循環系は急激に変化してきており、健全な水循環、良好な水環境を保全・創出し、 人間の諸活動と水循環系の調和を図っていくことが重要となっている。 このため、水に関係する6省庁(環境庁、国土庁、厚生省、農林水産省、通商産業省及び建設省)が 水循環系に対する共通の認識を持ち、健全な水循環系構築のため施策の基本的方向、問題点毎の対応について合意するなど、 健全な水循環系の構築にあたって関係者間の連携強化を図る動きが活発化しており、 流域全体を一体的に管理する必要性が認識されてきている。
 すなわち、水の視点から21世紀の望ましい姿としては、水は有限であり、 かつ循環していることを水に関係する様々な主体が共通認識として持ち、 水量が豊かで、水質が清澄で、連続性が保たれ、望ましい生態系が保全されている状態を維持しながら水を使い、 水を戻すことといえる。
 特に、水を使うことによって成立している都市・社会活動の中で、健全な水循環を確保し、 良好な水環境を保全・創出していくためには、 使った水をいかに水環境への影響を少なくして戻していくかが重要な要素となる。 下水道は汚水を排除、処理することで公共用水域の水質保全に寄与してきたが、 下水道整備の進捗の結果、多くの水が下水道を経由し、 下水道が水循環系に対して大きな影響力を有することとなってきたことを認識し、 高度処理の重点的な実施等によるより一層の負荷削減による水質の向上を軸として、 水量、水辺及び生態系を一体的に捉えた健全な水循環、 良好な水環境の保全・創出に大きな役割を果たしていくべきである。
 また、クリプトスポリジウム等の病原性微生物による集団感染被害の発生、 環境ホルモン等の水を経由する微量化学物質による新たなリスクに対する不安が社会問題となっている。 これらの物質については、従来の物質と比べ発生源及び物質の種類が多様化してきていること、 リスクの程度やその低減のための対策が確立されていないことが課題として挙げられる。 下水道は、整備の進捗により、汚水と併せてこれらの物質の有するリスクを受け入れて、 公共用水域に排出している現状を認識し、水系におけるリスク管理に大きな役割を果たすべきである。

 したがって、水の視点において、下水道は、「公共用水域の水質保全」から水質、水量、 水辺及び生態系を一体的に捉えた「健全な水循環・良好な水環境の創造」へと、 その目標をより総合的に発展させていく必要がある。

(3)地球の視点

 平成5年に制定された環境基本法においては、環境保全についての国、地方公共団体、 事業者及び国民の責務が規定され、それぞれの都市、地域においては、各主体が消費するエネルギーを削減し、 また、資源を循環利用することで発生する負荷を削減することが求められている。
 また、空間的、時間的広がりを持って深刻化する地球環境問題に対しては、 平成9年に京都で開催された気候変動に関する国際連合枠組み条約第3回締約国会議(COP3)において 先進国における温室効果ガスの排出削減目標などを定めた「京都議定書」が採択され、 日本は基準年(1990年)に対して2010年の人為的な対象ガス発生量を6パーセント削減することが目標とされ、 平成10年には地球温暖化防止の推進に関する法律が制定され、 それぞれの分野において温室効果ガスの排出量を削減するための対策の実施が求められている。
 すなわち、地球の視点から望ましい姿は、 大量生産・大量消費・大量廃棄型社会から環境への負荷が少ない循環型社会への転換を図ることによって、 それぞれの都市、地域の持続可能な発展が確保されるとともに未来にわたって地球環境が守られることといえる。
 このため、都市活動や社会活動においては電力等のエネルギー消費を抑制するとともに、 活動に伴って発生する負荷を資源として循環利用することで排出負荷を最小限に抑えることが重要である。 特に、下水道をはじめとする都市施設は、その整備や管理において環境対策を内部目的化し、 資源・エネルギーの消費抑制や温室効果ガスの排出抑制を責務として行う必要がある。 さらに、それぞれが有する機能や資源を有効に活用することで 環境負荷の低減や循環型社会の形成に向けた取り組みを率先していくことが求められている。

 したがって、地球の視点において、 下水道は、「持続可能な都市の構築」を内部目的化した新たな取り組みへと転換していく必要がある。

 以上3つの視点について述べてきたように、 これからの下水道は、21世紀を考える際に、人の視点からは「住みやすい暮らしの場づくり」、 水の視点からは「健全な水循環・良好な水環境の創造」、 地球の視点からは「持続可能な都市の構築」を新たな目標として整備・管理を行う必要があり、 次章に示す機能を有するべきである。 さらに、その機能を実現するための施策の実施について検討を進めるべきである。

3.下水道が有するべき機能

   今後の下水道の役割を以下に示す8つの機能として整理した。
 なお、ここに示した機能には下水道が果たすべき役割と位置付けられるもの、 地域づくりの一環として下水道が貢献できるものなど様々なレベルのものが含まれており、 都市の形態、下水道の整備状況等、それぞれの地域の実情に応じて適宜選択されるべきものである。


(1)衛生的で快適な生活を早期に実現する

 「他の汚水処理施設と連携し汚水の衛生的処理の早期普及と徹底を図る」

 汚水処理施設の整備にあたっては、 水質保全に及ぼす効果などそれぞれの汚水処理手法に関する適切な情報のもとに 地域が自らその手法及び時期を選択し、計画を定める仕組みの構築が重要である。 この際、下水道は規模等の地域性に応じて構造の弾力化を図るなど効率性の向上を図るとともに、 費用効果を明確にするなど情報を開示したうえで他の汚水処理事業と連携して効率的 かつ一体的な汚水処理を実施することにより早期に普及を図るべきである。
 また、汚水処理施設は整備が完了すれば目的を達成するものではなく、 日々の管理と適切な更新を行い、一定レベルのサービスを提供し続けていくことでその目的を果たすものである。 このため、現状の姿を固定的に考えるのではなく、地域の汚水処理施設の整備状況等に応じて 汚水処理施設の再編や発生する汚泥の一体的処理等管理体制の効率化が図られるべきである。
<機能を実現するための施策>
  • 「都道府県構想」の見直しを行い、汚水処理施設の整備手法及び時期を明確化
  • 小規模下水道の効率的整備の観点から管渠の設計基準の見直しを行うなど下水道施設の設計に関する基準を弾力化
  • 小規模下水処理場の効率的維持管理の観点から必要な水準のもと管理を簡素化、効率化
  • 流域下水道を含む複数の管理主体による共同下水道施設の整備
  • 他の汚水処理施設や廃棄物処理施設と連携した効率的な施設の整備と管理の推進


(2)安全・安心を確保する

 「都市の雨に都市全体で対応する」

 都市の雨を受け入れている下水道は、自ら主体的に関係部局と連携し、 排除、貯留、浸透等に関する諸施策を総合化した内水対策を行うべきである。 さらに、汚れた雨は集めて処理し、きれいな雨は地下に浸透する、 貯めて使うといった都市の雨の持つ多面的側面を含めた雨水管理を行うという視点にたった対策を併せて実施する必要がある。 その際、計画の策定にあたっては、流域の状況を踏まえた広域的視点からの施策も考慮すべきであり、 事業の実施にあたっては地域の様々な関係者間で適切に役割、責任を分担するとともに、 緊急に実施すべき地域を設定するなど事業の重点化を図るべきである。
 また、既に合流式で下水道が整備されている地域では、 雨天時において、未処理汚水による衛生問題が生じないよう分流化を含めた改善対策を、 また、市街地に堆積した汚濁負荷の効率的削減対策を緊急に講じるべきである。
<機能を実現するための施策>
  • 土地利用との連携、民間宅地における対策等都市全体での流出抑制対策を含めた総合的な内水対策計画の策定
  • 関係する各主体から構成される都市雨水対策協議会を設置し、各主体の対策を体系化したうえで計画的に実施
  • 都市の雨を総合的に管理する観点から、官民連携した雨水の貯留・浸透・再利用施設 及び初期雨水の汚濁負荷の処理施設整備
  • 重点地区の指定による計画的な安全度の向上対策の実施
  • 合流改善アクションプログラムの策定による越流水対策の緊急実施
  • 浸水情報提供等ソフト対策の充実


 「地震等の災害時にも最低限の都市機能を確保し、かつ、二次災害を回避する」

 下水道は生活基盤を支える重要なライフラインであり、施設の耐震化等を図り、災害発生時にも当該地域及び下流地域の、 衛生確保の観点からの安定した汚水の収集・処理、 安全確保の観点からの確実な雨水の流出抑制・排除等を行う機能を確保すべきである。 また、災害発生時には火災による家屋の延焼をはじめとする二次災害を防止するとともに 生活に必要な水や食料の供給など円滑な災害時対応の実施が重要であり、 処理場等の下水道施設の防災拠点としての整備や処理水の生活用水への活用などにより都市防災機能の向上を図るべきである。
<機能を実現するための施策>
  • 処理場等重要施設の耐震対策の緊急実施及び施設のネットワーク化を実施
  • 処理場等を防災拠点として活用するための施設の整備
  • 処理水を防火用水及び雑用水として活用するための施設の整備


 「雪に強い都市をつくる」

 雪国においては、冬期の積雪による交通障害、生活環境問題等があり、 スムーズな積雪の排除が図られる必要がある。下水道は、管渠による積雪の排除、 下水処理水等の熱エネルギーによる融雪機能などを活用し、積雪地域の都市機能の確保に貢献すべきである。
<機能を実現するための施策>
  • 消融雪水路、投雪口等の積雪対策施設の計画的整備


(3)まちのうるおいと活力を向上する

 「身近なまちなかの水辺を保全・復活し、また、オープンスペースを創出する」

 下水道は、処理水、雨水及び開水路等の施設を活用し、身近なまちなかに残る貴重な水辺を保全し、 また、都市化の進展に伴い失われた水辺を復活するなど、水と人とのふれあいを確保するとともに 身近なまちなかにやすらぎやゆとりを感じられる水と緑のオープンスペースを創出すべきである。
<機能を実現するための施策>
  • 地域に応じた水辺の共通目標の設定
  • 水路の開渠化等による水辺の整備
  • 処理場等の施設空間を活用し、水と緑のオープンスペースを創出


 「都市・地域の活力を向上する」

 下水道は管渠空間を光ファイバーの敷設空間として開放するとともに、 下水道施設の高度管理を目的として公共施設や各家庭まで敷設された光ファイバーネットワークを都市・地域の情報化に活用し、 ファイバートゥーザホーム(FTTH)を実現することで、都市・地域の活力の向上を支援すべきである。
 また、既成市街地の複合的な土地利用の必要な地区においては、 都市の再構築において下水道施設空間を高度に利用することで地域の活性化を支援すべきである。
<機能を実現するための施策>
  • 下水道管理者以外の者が下水道管渠空間に光ファイバーを敷設 又は下水道管理用光ファイバーを利用する際の方法及び条件を整備
  • 下水道管理用光ファイバーを都市・地域の情報化に活用する際の管理方法等条件の整備
  • 複合的な土地利用の必要な地区において下水道施設空間を高度利用する際の利用方法等条件の整備


(4)健全な水循環系を構築する

 「水循環系をつなぐ」

 下水道は汚水を排除、処理することで水循環系の静脈として公共用水域の水質保全に寄与してきた。 しかしながら、下水道整備の進捗の結果、多くの水が下水道を経由し、 その放流水質が水域の水循環系に大きな影響力を有することとなった現状を踏まえ、 下水道は水質をよりよくすることを軸としつつ、流域の水量、水質及び生態系の総合的な保全を図る観点から、 限られた物質を処理し、放流するという静脈機能に加え、下水道システムを経由する様々な物質について、 何をどこまで処理し、どこに還元するかといった動脈機能もあわせ持つことで、 健全な水循環系の維持・回復に大きな役割を果たすべきである。
<機能を実現するための施策>
  • 水質、水量及び生態系の総合的な保全を図る観点から流域毎に水循環系に係る下水道整備の基本方針を設定


 「都市・社会活動の浄化システムとして機能する」

 水質環境基準の速やかな達成をはじめとする水環境の改善のために目標処理水質を明確に定めたうえで、 その目標に向けた高度処理を早急に実施すべきである。
 また、雨天時における路面等市街地に堆積した汚濁の流出負荷が大きく、 その削減が都市の水環境改善に大きな影響をもつ地域においては、 下水道が集めた雨について汚濁負荷の削減を実施すべきである。
<機能を実現するための施策>
  • 流域別下水道整備総合計画に放流水質を定め、事業計画に反映したうえで、必要な高度処理を実施
  • 初期雨水の汚濁負荷を処理するための施設の整備(再掲)


(5)安定した水資源を確保する

 「都市における安定的水源を確保する」

 都市においては、新規水資源開発の困難性や環境への負荷の低減などを考慮し、 下水道は都市における安定した雑用水供給源として処理水の再利用を促進すべきである。
 また、河川への処理水の還元による開放系の水利用においても、関係部局と連携のうえ、 処理水の水質レベルと放流先河川あるいは利水時に要求されている水質レベルとを勘案し、 放流位置及び放流方法を決定するなど処理水の効果的活用を促進すべきである。
<機能を実現するための施策>
  • 下水処理水を雑用水として利用する際の技術上の基準の設定及び事業の計画的実施
  • 下水処理水を雑用水として活用するための施設の整備 及び民間等が雑用水を利用するための設備を設置する際の支援措置の拡充
  • 河川部局、水資源部局、水道部局等の関係部局と連携し、水資源に関する総合的な計画を策定したうえで、 開放系水循環における処理水を効果的活用するための事業を実施


(6)水系リスクを管理、低減する

 「公共用水域の番人として機能する」

多様な都市活動、社会活動の場面から水とともに様々な物質が排出されており、その多くが下水道に流入している。 このため、クリプトスポリジウム等の病原性微生物や環境ホルモン等の微量有害物質など 水を経由する様々な物質のリスク管理においては、下水道が受け入れから処理、 放流に至る各プロセスにおいて対応することが、効率的な水系リスクの管理に不可欠であるとの認識のもと、 下水道システムのあり方を検討していくべきである。
<機能を実現するための施策>
  • 下水道システムを経由する様々な物質について流入を含めた挙動の監視及び流入規制を含めたリスクの制御
  • 効率的なリスク管理のための管理体制の整備・各種リスク物質を除去する高度処理技術の開発


(7)生態系を保全する

 「水域の生態系を未来に引き継ぐ」

 生態系の保全は生活環境の改善や人の健康の保持と同様すべての施策において共通の目標であることを踏まえ、 下水道は、その放流水質、放流方法をはじめとする下水道システムの見直しを行い、 水系における生態系を保全するとともによりよい生息空間の形成を実現すべきである。
<機能を実現するための施策>
  • 流域全体の生態系を考慮し、なじみ放流による放流水質の改善、放流位置の変更による放流方法の改善等を明確化
  • 開水渠の多自然化、処理場内ビオトープの整備、 環境教育の拠点となる施設整備を推進し、地域の住民や教育関係者等との連携を強化しながら環境教育活動を実施


(8)循環を基調とし、環境負荷を削減する

 「都市の代謝システムを構築する」

 下水道は都市の汚水を集めて処理することによって、水のみならず物質の循環にも大きな役割を担っている。 このため、下水道は清掃部局等関係部局と一体となって、 ディスポーザー排水など処理可能な有機汚濁等の受け入れを拡大し メタンガス回収等エネルギーの有効利用を組み合わせること 及びビルピット対策による臭気問題の解消を図ることで 都市全体の代謝システムの効率化と環境負荷の低減を図る手法を検討すべきである。
<機能を実現するための施策>
  • モデル都市において、ディスポーザー使用やビルピット対策を講じた場合の環境や利便性に与える影響を調査し、 効率的な都市代謝システムのあり方を検討


 「地球環境保全のための循環・リサイクルシステムとして機能する」

 下水道はライフサイクルアセスメントの観点から、 施設の建設や管理の各段階における資源・エネルギーの消費抑制及び施設からの温室効果ガスの発生抑制を行うべきである。
 また、下水道は整備の進捗により有することとなった多くの処理水、 汚泥の持つ熱エネルギーや原材料としての価値を有効に活用することで 環境負荷の低減や循環型都市の形成に向けた取り組みを率先していくべきである。 特に、下水汚泥については計画的な減量化及び再利用による環境への負荷の少ない物質循環系の構築を目指すべきである。
<機能を実現するための施策>
  • 環境負荷発生抑制型下水道施設の整備及び循環型都市の形成に資する下水道資源の活用
  • 広域的視点から下水汚泥の減量化及び再利用に関する総合的な計画を策定し、 下水汚泥の処理、再利用に係る施設整備を計画的に実施

4.連携と役割分担

(1)役割分担

 下水道の多様な機能を円滑に発揮し、「住みやすい暮らしの場づくり」、「健全な水循環・良好な水環境の創造」、 「持続可能な都市の構築」を実現するためには、国、都道府県、市町村及び住民等関係する各主体、 さらに、水・都市・環境に関係する下水道、水道、廃棄物、河川、都市計画、環境、農林等各部局が、 計画から管理に至る各段階において適切な役割と責任を分担しながら連携していく必要がある。
 例えば、都市における総合的な内水対策や地域における水辺のあり方について地域の実情に応じた目標を設定し、 実施プログラムを策定する際には、行政が各段階において幅広い情報を積極的に開示し、 また、住民に対するアカウンタビリティを徹底することにより、関係者が情報を共有化し、目標を共通化したうえで、 合意形成を図り、事業を進めていくことが求められている。
 この際、国は財源確保を含めた制度設計等の基本的枠組みの構築を行うとともに、 広域的水域の水質保全、水系リスクの管理及び浸水被害の軽減等国家的課題への対応に重点化すべきである。 都道府県は地方分権による下水道事業計画の認可等国からの権限委譲に適切に対応するとともに 広域的な下水及び下水汚泥管理事業の実施主体として円滑な事業執行を行うため、組織、体制の強化を図る必要がある。 市町村は下水道管理者として円滑な事業執行のため組織、体制の強化を図るとともに、 事業効果を明確化し事業に対する関係主体・分野の共通認識や合意形成を得て連携を進めるための取り組みを強化する必要がある。 住民は地域におけるまちづくりや良好な環境形成に積極的に参加するとともに、 環境負荷の排出者であり環境改善の受益者であることを踏まえた対応が望まれる。 また、施設の効率的かつ効果的な整備・管理を図るため、 民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用することも検討する必要がある。

(2)費用負担

 現在の財政制度の背景となっている費用負担の考え方は、 基本的には、昭和36年の下水道財政に関する研究委員会において提示された雨水公費汚水私費の原則を基本に、 時代の変遷に伴い修正、追加を加えてきたものであるが、最後の見直しである第五次下水道財政研究委員会から既に14年が経過し、 この間の社会経済状況の著しい変化を踏まえた体系的な検討がなされていない。
 一方、今後の循環型社会の構築に向けて下水道に新たな役割が求められることに鑑みると、 これらに即した費用負担の理念の構築と必要な財源の確保が必要不可欠である。 検討すべき個別具体的な課題としては、高度処理に係る費用負担、雨水対策に係る費用負担、 また、長期的、安定的な下水道事業の運営の確保の観点から指摘された大都市、 中小市町村等の下水道財政上の課題等多岐にわたるが、このうち、高度処理については以下の通りの方向で検討すべきと考える。
 本来的には、水質環境基準のすみやかな達成を図るために全ての排出者が排出を抑制する義務を負うべきであり、 この場合は、いわゆる「高度処理」の費用負担については、現行の通常処理と区別すべき必要性はなく、 排出者が特定しうる限り、排出者責任の観点から費用負担すべきものである。
 しかしながら、現行制度の枠組みのもとで、下水道が他の排出者と異なり、 環境基準を達成するために法的に義務づけられた排水基準より高度な処理を行う場合、 下水道利用者である排出者にその費用全額の負担を求めることは、その他の排出者に比し過重な負担を求めることとなり、 公平な負担の観点から適当ではない。 また、広域的水域における高度処理は、下流域の水質改善を含む広範な受益を生じることから、 排出者と下流受益者等との間で公平な負担の観点から調整を図る必要がある。
 そこで、排出者責任の観点からの下水道利用者の費用負担と併せて、高度処理により受ける受益に着目し、 受益者負担の考え方を加味し、費用負担の制度設計を行うことが適当であると考える。 この場合、具体的な費用負担ルールは個々の住民のコンセンサスを得やすいものとすべきであるとともに、 広域的水域の水質保全の緊急性・重要性に鑑みると、国が誘導的に高度処理を支援する制度設計を行うべきと考える。

5.施策の推進にあたって

(1)適切な管理と改築・更新

下水道は施設が整備されればその目的が達成できるという施設ではなく、 日々の管理が適切に行われてはじめて機能を十分発揮することが可能となる。 整備の進捗に伴い管理すべきストックは着実に増大しており、 また、高度経済成長期に急速に進展した下水道整備の状況を踏まえると、今後老朽化してくる施設の増加も顕著となってくる。 さらに、耐震機能や水質管理機能の向上など下水道に求められる機能も時代とともに高度化してきている。
 したがって、21世紀に向けて下水道が有すべき機能を十分に発揮するためには、 これらのストックを、施設の一体的管理による効率化を含め適切に維持・管理し、 さらに施設の劣化や要請される機能の高度化に対応して的確に改築・更新を行うことが不可欠である。

(2)技術開発

 地域に応じた効率的な整備の推進に対する要請が高まる一方、下水道の有するべき機能は多様化、高度化してきている。 下水処理水や汚泥等のリサイクルや新たな水系リスクへの対応などなど様々な分野における役割を円滑に果たしていくためには、 基礎的な調査研究から新たな技術開発及びその実用化まで幅広い取り組みが不可欠である。
 このため、技術開発に関係する各機関が役割分担と密接な連携のもとに調査、研究を進めていく必要がある。 また、下水道技術の開発においては、民間における技術開発へのインセンティブが重要な要素であり、 開発した技術を評価、導入していく仕組みを確立する必要がある。

(3)費用効果の明確化

 下水道の有すべき機能は豊かな暮らしや良好な環境の創出等非常に広範囲にわたっており、 かつ、その効果を経済性で表現することが困難な機能もあることから、 現状ではその効果の定量化が十分なされていない分野も多いため、 下水道整備の意義について十分な住民理解が得られていない場合がある。 このため、下水道施設の整備にあたっては、環境保全に対する効果をはじめとする下水道事業の費用効果を明確にし、 事業の妥当性を評価するとともに、施策目標をわかりやすく表現することで、 住民等に対するアカウンタビリティを十分に果たしつつ、将来を見据えた効果的かつ効率的な事業推進を図る必要がある。

(4)国際協力

 地球環境問題をはじめとして環境問題のグローバル化が進行している。 その中でも、淡水資源の枯渇や水質悪化等の水問題は世界的にも重大な課題であり、 特に人口集中が引き起こす大規模かつ広域的な水質汚濁等の解決のためには、下水道の貢献が不可欠と考えられる。
 そうした中で開発途上国においても、急速な都市化の進展による水質汚濁、大気汚染等の環境問題に直面している。 特に水環境に関する問題は深刻であり、汚水の処理や雨水の排除が緊急の課題となっている。 しかしながら、開発途上国においては技術的、経済的理由等からその整備は進捗していない状況にあり、 わが国への技術協力要請は益々増加している。
 このため、我が国はかつて自らが経験してきた水質汚濁や浸水被害への対応における技術の蓄積を活かしつつ、 要請国の特性に応じた下水道の整備を実現できるよう国際協力を推進する必要がある。

6.今後の課題

 中間報告においては、21世紀を考える3つの視点から下水道が有するべき機能及びその役割分担等を提示したが、 これらの課題については、最終報告に向けて引き続き審議を行い、より検討を深めていくものとする。
 一方、現段階においては具体的な提言を行うには至っていないが、長期的視点から今後検討が必要な課題も存在している。 このうち、今後の下水道の方向性を定めるうえで重要と考えられるいくつかの課題を以下に示す。 なお、ここでは課題としては別記しないが、下水道利用者に協力を求める諸施策についても検討していくことが必要である。

(1)流域における水管理

 水環境問題の広域化に伴い、流域全体を一体として捉えて対策を講じることが不可欠となってきており、 今後、関係者、関係分野が責任と役割の分担を明確化しつつ連携を図ることが求められている。 このため、まず連携の基礎となる水に関する基本法を制定し、 一元的な流域管理の実現を目指して取り組んでいくことが必要である。

(2)物質循環と下水道システム

 循環型社会の構築を考える際、多くの物質が水によって輸送されることに鑑みれば、 これらの物質をいかに回収、循環させていくかが重要な課題である。 下水道は様々な発生源から多様な物質を含む汚水を一体的に収集しているが、資源の効率的かつ効果的な回収の視点からは、 地域の状況に応じて、集めない、あるいは、分離するという対応も含めた多様なシステムを検討することも必要である。

(3)効率的な下水道の管理

 下水道事業の役割は多様化・高度化してきており、住民サービスの一層の向上を、 コスト縮減を果たしつつ実現していくことが求められている。 一方、PFI法の制定等の民間活力の活用についても様々な検討がなされている。 このような状況を踏まえ、下水道の役割の多様化、高度化に対応する手法について幅広く検討していく必要がある。
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