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下水道懇談会報告について
 下水道の処理人口普及率は平成8年度末で55%に達し, 今や生活用水のほぼ3分の2に相当する水量が下水道システムを経由して 公共用水域に還元されています。今後,下水道整備がますます進展することにより, 良好な水環境を維持・回復していくうえで下水道の重要性は一段と高まっていくものと考えられます。このことは,下水道が,単なる排水の処理だけではなく,水循環という大局的な観点から考え,社会へ貢献してゆかねばならない役割を与えられつつあるということです。
 また,うるおいや安らぎを求める国民の要求は近年とみに高まっており, 水や緑に関連した環境の整備も強く求められています。
このような最近の下水道をめぐる様々な課題に対して検討を行い, 適切な施策の方向を示すため,平成8年12月,調査審議機関として(社)日本下水道協会に 「下水道懇談会」が設置されました。
 同懇談会では,最初の審議事項として「水循環における下水道はいかにあるべきか」 を取り上げ,計9回の審議を重ね,平成10年3月に報告がなされました。

■審議事項
 水循環における下水道はいかにあるべきか

検討事項
  • 良好な水循環とはどのように考えるべきか。
  • 良好な水循環を維持・回復するために,流域の水管理はいかにあるべきか。
  • 良好な水循環を維持・回復するために,下水道はいかにあるべきか。
委員名簿(敬称略)
座長 東京大学大学院工学系研究科教授 松尾友矩
委員 (財)河川環境管理財団技術参与 安中徳二
工学院大学教授 石川幹子
読売新聞社編集局解説部次長 岡島成行
上智大学法学部教授 小幡純子
(財)東京都新都市建設公社理事長 鹿谷崇義
芝浦工業大学教授 高橋 裕
茨城大学教授 高村義親
(財)国土開発技術研究センター理事長 廣瀬利雄
慶應義塾大学経済学部教授 細田衛士
北海道大学教授 真柄泰基
京都大学教授 松井三郎
(社)淡水生物研究所所長 森下郁子
(財)河川環境管理財団技術参与 福井経一
(旧委員) (旧委員の所属は委嘱当時のもの)
■報告の概要報告(平成10年3月20日)

第1章
 都市化の進展する現代社会において良好な水循環とはどのように考えるべきか。

 わが国は、古来、農耕、とりわけ稲作中心の農耕を主体に発展し、水との緊密な関係を形作ってきた。 しかしながら、都市化の進展に伴い、河川等の水質汚濁や水量の減少、水辺空間の悪化など水環境の悪化が進行した。 その結果、水辺のレクリエーション活動が衰退したり、 水に関する文化や風物詩も姿を消すなど人と水との関係は次第に疎遠になっている。
 一方、個性の重視や国民意識の多様化から要求の内容や水準にはかなりのばらつきがあるものの、 生活水準の向上とともに、豊かで潤いのある生活を希求する国民の声が強くなっている。
 他方、現代社会においては、生態系保全を始めとして、新たに発見された水系を介する病原性微生物への対策や、 次々に生産され続ける新たな人工化学物質の水系への流入対策、 国際社会の一員としての地球環境保全対策など水循環の関係行政は新たな課題への取組が要求されている。
 そこで、まず、目標とする良好な水循環とはどのようなものとすべきかについて検討した。

(1)水循環、水環境とは何か(概念整理)

 環境問題への関心が高まり、その一分野として水循環、 水環境の維持・形成への取り組みの必要が各方面で論じられている。 しかし、そもそも「水循環」、「水環境」とは何か、それらの言葉を修飾する「良好な」 とはどういうことかについて、一般的な共通認識として定まったものが見当たらない。 なかんずく、水循環、水環境の用語が相互に混同して用いられることがある。 そこで、水循環を議論するにあたっての共通的基盤形成のため、本答申では以下のように概念整理を行った。 また、これを図示すると図−1のようになる。さらに、併せて「水資源」についても、 本答申で使われている意味を明確にするため定義付けを行った。

1)水循環とは、水がある経路に沿ってめぐりめぐってもとに返り、それを繰り返すことである。 その経路としては、河川、湖沼、海域等地表上の自然水域のみならず、 地下水の通り道である地下空間や水蒸気の通り道である大気中に加え、水道、 下水道等生活・産業に起因する人工系の流路も含まれる。  なお、下水処理水の循環の形態としては、下水処理水を一旦河川、 湖沼等の水域に戻してから取水・利用する開放型循環と河川等を介さないで直接用水の原水として利用する 閉鎖型循環とがある。

2)水循環は、海洋(地表)⇔大気という大規模(マクロスケール) 循環、河川⇔用排水という流域を単位とした中規模(メソスケール)循環、 人間の身の回りの生活や産業活動の中での水の動きという小規模(ミクロスケール)循環に分類できる。 水循環の総体は、これら様々な水循環が有機的に結合するネットワークである。 

3)水環境とは、水域の水量及び水質、水辺空間、生態系に加え、景観、文化の要素を包含する概念である。

4)水環境の持つ多面的な恵沢が生かされるためには良好な水循環が必要である。


図−1

(2)良好とはどういうことか。

 「良好」という言葉には必ず客体が存在し、価値判断や是非判断を伴う。人間にとって、 ヤマメ、アユ、コイ、イトミミズにとって良好な水循環・水環境はそれぞれ異なるものと考えられる。 そして、人間以外の生物はその水循環・水環境に適合した種がそこで繁殖することとなる。 日本には原始の自然環境はほぼ皆無であり、 一般に自然環境と考えられているものもなにがしかの人間活動の影響を受け、 特に都市においては大きな影響を受けていると考えられる。そして、 それぞれの条件に適合した生態系が形成されている。
 このように、人間活動が生物の多様性や水循環系に影響を与えることを認識するならば、 人間活動と自然環境のバランスをとりながら人間活動の影響がより少ない自然環境及び それに適合する生態系を復元するため水循環の維持・回復を図ることが重要であると考えられる。

 「良好」の内容を考えるとき、単にその内容のみならず様々な観点から留意 すべき事項を考える必要がある。 それらについて特に重要なものは以下のとおりである。但し、それらの具体的な内容は、時代、 河川の上流・中流・下流といった地域に適合したものでなければならないことに注意しなければならない。

@人間にとっての安全性・快適性(飲用その他の水利用、治水、潤い・安らぎ・美観)
A自然の水循環を基本に、人間が適切に修復したり、手を加えたりして自然の水循環に近づけること (自然の水循環 良好な水循環=人間活動により改変された水循環+人間の知恵)
B多様な生物との共生(良好とされた生態系が維持される水量・水質・水辺・水域連続性の確保)
C持続的発展(sustainable development※)を担保するものであること
※sustainable developmentとは「環境と開発に関する世界委員会の報告書の中心的な考え方として取り上げられ、 今や地球環境問題への取組みにおいて不可欠なキーワードとなっている。同報告書によれば、 その意味は「将来の世代のニーズを満たす能力を損なうことなく、現在の世代のニーズを満たすこと」というものである。 (中略)環境と開発を相反するものとしてではなく互いに依存するものとしてとらえ、 環境を保全してこそ将来にわたっての開発を実現できるとの考え方は、そのような対立を超えるものである。   (出典:環境庁地球環境部「地球環境問題のキーワード事典」)

(3)水資源とは何か

 水資源の用語についても、混乱を避けるため、以下のように規定して使用することとする。

@河川開発の対象となる水のみならず、地下水、海水、 河川に流入する以前の雨水及び下水処理水も含めた日本の国土・領海の空間に存在する水のうち、 利用の対象となるものであり、
Aその水質が用途に応じた適正なものであり、
Bその水量が必要な時に利用可能な程度以上にまとまっており、
Cその存在位置が需要地から利用可能な範囲にある

 という条件を満たすものを「水資源」と言うこととし、そのうち河川水等の公共用水域の淡水及び地下水を 「狭義の水資源」と言うこととする。

 水は人類共有の基礎的資源である。そして、 水資源は水循環の過程を通じて土地利用と根幹的なところで係わりを持つ。つまり、 例えば市街地では大量の水が使用・排出され、降雨が少ししか地下浸透せずに短時間で河川等に流出する傾向があり、 特に密集市街地ではこれらの傾向が著しい。森林・緑地ではこの逆となる。水田地帯では灌漑期に大量の水を使用し、 地下浸透もみられる。それゆえ、水資源の保全のためには良好な水循環の維持・形成に配慮した土地利用が求められる。

第2章
 良好な水循環を維持・回復するために、流域の水管理(management)はいかにあるべきか。

 水管理の考え方は、気候、風土、歴史、文化等を写す鏡とも言える。 欧米諸国においては流域全体を一体かつ一元的に管理する考え方が定着しているが、 わが国においては関係分野が極めて多岐に及んでおり、総合的な水管理の取り組みの必要性が指摘されている。 また、水循環に関し、流域における都市化の影響は大きく、 流域の水管理と都市における水管理の調和が必要となっている。
 そこで、本章では、前章で検討した良好な水循環を維持・回復するために、 我が国における流域の水管理はいかにあるべきかについて検討した。

(1)良好な水循環を回復するために必要な流域の水管理の基本的な考え方

1)流域全体を把えての水管理を考えることが必要であり、必要に応じて複数の流域にまたがる大流域、 あるいは支川ごとの小流域を単位とした水管理を考えることも重要である。

2)水量だけ、水質だけを重視するというのではなく、 水量、水質、利水・排水の方法を総合的に検討することが大切である。

3)土地利用は流域の水循環に大きな影響を与える。 流出雨水の水量・水質及び地下浸透並びに発生する水需要及び水使用後の排水の水量・水質は土地利用との関係が深い。 水循環のフローのコントロールのみならず土地利用に関する施策も併せて講じることが重要である。

4)水量、水質及び生態系を育み親水機能を果たす場をセットで考えることが必要である。

5)本来的には人間の活動を水量・水質の両面からの環境容量、つまり水量、水質、 空間の観点から良好な水循環が維持される限度を考慮しつつ、 土地利用対策及び環境容量の拡大策に相互に取り組んでいくことを目指すべきである。 その際、水質評価項目の選定にあたっては、可能な限り人の健康や生態系を反映できるものを含めることが重要である。

6)地球温暖化防止の観点から、エネルギー消費等による温暖化ガスの発生を抑制するため、 水循環に関わる施設の材料製造、建設、維持管理から廃棄までを見通したライフ・サイクル・ アセスメントの実施が必要である。

7)そのために関係行政が連携し、一体的に取り組むことが重要である。さらには、 流域を単位として水に関する問題の調整と解決を一元的に行うフランスの流域委員会のような制度を 創設していくことも検討すべきである。 

(2)適正な水管理の要件

1)河川・水路等及び用排水システムに関する実態の把握(「水センサス」の実施)
 良好な水循環は全国一律ではなく、地域ごとに異なると考えられる。そこで、 まず、水量・水質の需要供給構造や河川・水路等を含む用排水システムの実態を調査し、 地域に応じた良好な水循環を論じるための基礎となるデータベースを構築することが必要である。 特に、河川の流量・水質、水道、工業用水道、下水道などの既存の統計類の連結・統合、 及び慣行水利などの十分に整備されていない分野のデータ整備を図るべきである。

2)供給の把握
 水循環のバランスを検討する上で、まず、狭義の水資源確保可能量に限度があることを認識することが必要である。 河川水開発や地下水利用による経済的に実現可能な水資源確保可能量は、流域の地域条件 (気候、地形・地質、土地利用、生態系等)に基づいて定まると考えられる。 降水量の平面的・時間的分布を始めとする気候条件及び雨水の受け皿や地下貯留槽としての地形・地質条件は、 ダムや堰の設置可能な位置及び容量並びに地下水容量を決定する基礎的条件であり、 加えて土地利用や植生分布は地表面における浸透・流出・蒸発散の量を決定づける。

3)需要の把握
 次に、水量面及び水質面の需要の総量及び分布を明らかにすることが必要である。 具体的には、人口、産業、水辺利用、生態系等が必要とする水量・水質の分布を明らかにすることが必要である。 許容取水量、許容汚濁負荷量は公共用水域におけるそれら必要な水量・水質の維持・達成を前提とした場合、 用排水に係る許容限界量として定まることとなる。

4)用排水システムの最適配置
 良好な水循環を実現し又はそれに少しでも近づけるため、 最適な規模・性能の用排水施設の整備・再構築が必要である。
 特に、用排水サイクルを小さくして排水をこまめに水域に戻すようにし、 何回も再利用するという水資源の量的拡大を図るべきか、 それとも用排水サイクルを大きくして排水を水域に戻す回数を少なくし、 水域の水源としての安全度を高めるべきか、渇水に対する安全度や利水に伴うリスクに照らして検討・ 判断することが重要である。

5)汚濁負荷の排出抑制
 排水中の汚濁負荷が原因で公共用水域において必要な水質を達成できていない場合、 水質や汚濁物質の総量の面からの排水規制の強化が必要である。

6)排水処理困難物質及び新たなタイプの有害物質の発生・排出抑制
 排水処理困難物質は発生源での対策が不可欠である。それらの製造、使用、 廃棄の各段階において一般環境中や下水道への流出抑制策が十分に講じられるよう関係行政・ 関係業界に要請していくことが必要である。
 また、生物の成長や生殖機能に異常を引き起こす可能性がある化学物質であって、 ノニルフェノールエトキシレートの如く排水処理の過程でその有害性が顕在化するものもあると指摘されている、 いわゆる「環境ホルモン」の実態を解明し、必要に応じて、その発生・排出抑制のための施策を講じていくべきである。

7)水に関係する生態系の保全と多様性確保に資する河川、海岸等の形状の確保や、 表流水及び地下水の水域連続性の確保等
 水に関する生態系の保全には、水量、水質の他、河川・水路の線形、瀬や淵の配置、 堤防や護岸等の材料・形状等生態系を構成する生物の生息に適した水域条件を整えること、 生物の行き来が広域的に起こって生態系が安定化するための河川・ 水路の水域連続性が確保されていること並びに表流水の水量、 水質の安定性確保のための表流水及び地下水の水域連続性が確保されていることが重要である。

(3)適正な水管理の課題

1)水質保全費用の負担の適正配分
 水質保全費用の負担は、事業排水に関する汚染者の負担と生活排水に関する下水道等公共事業による負担で 行われてきた。近年、主としてこれら排水(=ポイントソース)が公共用水域の危機的な水質悪化を もたらして環境や旧来の水利に障害を与えていた段階から、 下水道整備の進捗など適切な排水処理の拡大によって一応の水質の回復が進みつつある段階となってきている。 一方、道路、宅地、農地等面的広がりを認識すべき汚濁負荷発生源(=ノンポイントソース) からの汚濁負荷の割合の増加、おいしい水や良好な水辺空間への欲求の高まり、 近年開発された及び今後開発される水資源のための水質保全の必要、 経済的手法の導入の流れなど水循環を取り巻く新たな状況に応じて新たな負担のあり方を 構築していくことが必要となってきている。 欧米では水質保全費用の配分システムとして汚濁排出に係る排出権取引又は賦課金・奨励金の制度が行われている。 昨今、市場原理あるいは経済的手法の活用は誘導的手法であって、 懲罰的手法とも言われる従来からの規制的手法に比べて効果的である可能性があるとして注目されており、 わが国においてもその適用性を検討していくことが必要である。

2)水利使用の合理化
 水利使用の合理化を推進するため、利水者等の理解と協力を得つつ、特に、 全体では相当な取水量に上る慣行水利権の取水実態の把握等慣行水利権の明確化、 許可化を一層推進していくことが必要である。

3)河川、湖沼海域或いは山林、原野、湿地、干潟などにおける自然の浄化能力の適正な評価及び保全・回復
 現代では、人間活動により発生する汚濁負荷量は自然の浄化能力に比べて大きいため、 人為的対策をしないと自然環境の汚染につながる。したがって、まず人為的対策を講じつつ、 それと併せて、河川、湖沼、海岸等とその自然面源(面源=ノンポイント) における自然の浄化能力を適正に評価するとともに浄化能力の保全・回復を図る必要がある。

4)利害調整ルールを含め計画プロセスへの住民参加方法の確立
 水循環・水環境に関する政策の決定プロセスにおける利害調整方法の確立が必要である。 近年、住民の直接参加による民意の反映が重要であるとされつつあり、 住民参加の要件や方法について検討及び確立する必要がある。

5)行政手続の透明性確保
 近年、行政手続の公正さを明らかにするため、その公開が求められているところである。 公共用水域において目標とする水量、水質、生態系とそれを達成・維持するための方策、 コスト等に関する代替案についても一般に開示し、 政策決定のプロセスについて透明性を確保することを検討すべきである。

6)他水系からの導水による生態系への影響の検討
 大都市は全てと言っていいほど他水系からの導水で成り立っているなど、わが国の水資源の実態から、 他水系からの導水の必要性は高い。しかし、他水系からの導水は生態系に大きな影響を与える場合があるので、 新たな導水にあたっては生態系に与える影響についても十分な検討をすべきである。

(4)実現のための施策の提言

水循環・水環境に関係する行政は河川、用水、排水、都市計画、環境、公衆 衛生、農林漁業、産業立地、 舟運等極めて多方面にわたる。したがって、下水道行政だけでは良好な水循環の維持・形成はもとより困難であり、 施策内容に応じて関係行政が適切に連携・調整し、総合的、一体的な施策として実施することが必要である。

1)水循環マスタープランの策定及び流域別下水道整備総合計画の充実
イ)流域単位で、水量と水質を一体的に評価し、流域、河川、地下水、 沿岸海域における望ましい水循環のあり方とそのための方策をまとめた水循環マスタープランを策定することが 必要である。その際、望ましい水循環の実現方策については、施設整備だけでなく、 規制、自主的管理や経済的誘導などのソフト施策も重視すべきである。
ロ)水循環マスタープランは市町村単位にブレイクダウンし、市町村の都市計画の「整備・開発・保全の方針」 に反映できるようにすべきである。なお、市町村単位の水循環マスタープランは、 流域単位の水循環マスタープランと整合を図りつつ市町村内においてさらに詳細な水循環・ 水環境に関する内容を定めるものとする。
ハ)流域別下水道整備総合計画は、基本的には下水道整備計画であるが、 水質環境基準を達成するための包括的なプロセスを提示し、 しかも水量に関する検討も加える唯一の法定計画である。水循環マスタープランの実現のため、 先導的に流域別下水道整備総合計画を見直し、下水道以外の施策・要因が水循環、 水環境に与える影響も総合的に評価し、勘案するなど、その充実を図ることとする。

2)用排水システムによる水循環のコントロール
 公共用水域に必要な水量・水質を維持でき、かつ、用水需要に応じた必要な水量・ 水質の水を供給できる用排水システムを新設又は既存の施設を再構築することが必要である。 具体的には、供給、需要及びそれらをつなぐ水道、工業用水、農業用水等の用水システム、 下水道等の用排水システムの水循環をコントロールすることにより、供給と需要を相互に適合させ、かつ、 相互間の円滑な水循環を維持することが必要である。

3)取水地点及び排水地点の見直し並びに排水規制の見直し
 用排水システムを最適配置・配分へ円滑に移行するため、 用排水システムの未整備部分及び変更を要する部分の整備又は再構築を推進するとともに、人口、産業、水辺利用、 生態系等が必要とする水量、水質の分布を実現するため、 水質環境基準及び排水規制の必要な見直しを進めることが必要である。

4)水量面及び水質面からの需要の抑制等のための各種施策
 需要が供給の限界を超える又は超えるおそれがある場合、需要の抑制策の実施が必要である。
イ)土地利用規制への反映
 人や産業が集積してしまえば、需要抑制策には自ずと限界が生じる。それゆえ、最も基本的なこととして、需要を用排水の許容限界内に収めるため、都市計画の「整備・開発・保全の方針」への組み込みなど人口や産業の集積の総量規制的機能を有する土地利用制度への反映が重要である。
 また、地表面からの雨水の地下浸透は、河川・水路への雨水流出の総量及びピーク流量の低減という洪水対策として並びに地下水涵養による水資源の拡大策としての二つの面で効用を有するので、その促進を図るべきである。そのためには、森林・緑農地の保全、雨水の貯留・浸透施設の整備促進等の施策に加え、市街地においては建ぺい率規制にならい、不浸透面積を抑制し、高い容積率が認められている地域では、雨水利用・排水再利用を義務付ける等の誘導策を検討すべきである。
ロ)水リサイクル促進
 工業用水の工場内リサイクルはかなり進んでおり、農業用水についても、繰り返し利用が伝統的に徹底している地域もある。生活排水のリサイクルについては、水洗トイレ用水、冷却・冷房用水、散水等を用途とする雑用水利用施設が一部地域で整備されているが、二重配管などの費用がかかることから普及拡大が進んでいない。このため、生活排水のリサイクルの促進に努めることが重要である。
ハ)節水意識の普及啓発
 節水意識の普及啓発は、需要抑制策として、最初に取り組まれるべきものであり、効果もあると言われている。例えば、しばしば渇水にみまわれる福岡市では、大規模ビルに対する排水再利用施設の設置の義務付けのほか、市民への節水コマの普及促進など節水意識の普及啓発が積極的に行われ、一人一日当たりの給水量は昭和50年に355gであったところ、平成6年には296gまで低下して全国平均の393gを大幅に下回るまでに水需要が抑制されている。節水意識の普及啓発のための広報と教育は積極的に進めていくことが重要である。
ニ)豊水・渇水期に応じて水消費量が適切に増減するようにする経済的手法(水道料金等)の政策的導入
 私的財の購入における選択の自由を尊重する観点から施策的誘導において規制的手法よりも経済的手法を採用すべきとすることが言われており、水道料金等についても水需給のひっ迫する時期において水消費に抑制が働くような体系の採用を検討していくことが必要である。

5)ノンポイント汚濁負荷の排出抑制対策
 面源は道路、宅地などの都市面源、ゴルフ場を含めた農耕牧畜地面源、山林、原野、湿地などの自然面源に分類される。その中で、人為的活動と密接な都市面源と農耕地面源からの流出負荷削減対策即ち面源負荷対策が求められる。また、湿地は汚濁した水を浄化する機能を有すると考えられるのでその保全が必要であり、また、その他考えられる自然の浄化機能の保全や回復が必要である。特に、汚濁負荷の蓄積や富栄養化が起こりやすい湖沼、海域のような閉鎖性水域又は地下水については汚濁負荷の総量規制、窒素・リンの規制、底泥の浚渫除去のほか、土地利用の適正化も有効であり、都市面源では下水道による雨水処理、農耕牧畜地面源では、施肥・排水管理の改善についても検討・実施していく必要がある。また、必要となる規制や公共投資にコンセンサスを得るため、水循環・水環境が良好に維持されていることの費用便益の計測精度の向上が重要である。

6)狭義の水資源の維持・拡大
 供給量の増大のための基本的施策として、浸透施設整備があり、これらによって地下水涵養を図り、地下水利用可能量の維持・拡大を図るとともに、普段の河川流量の増加を図ることが重要である。

7)良好な水循環・水環境の維持・回復に必要な技術開発の推進
 水循環に関し、基礎的、体系的なデータ収集をする水センサスの実施と併せ、項目数が増加し続ける微量有害物質を包括的に測定・評価する方法及び環境ホルモン等新たな有害物質が人体・生態系へおよぼす影響を測定・評価する方法の開発、生態系保全、地下水滋養、快適性、防災性、地球温暖化防止等の観点から効果的な機能を有する多自然型河川整備技術、透水性舗装技術等個々の施設技術の開発等が必要である。

8)良好な水循環の維持・回復と地球環境保全の調和
 CO2の排出は、単に化石燃料やこれを燃焼させて得られる電力等の二次エネルギーの直接的消費によってのみならず、使用する資材の製造工程で使用されたエネルギーの間接的消費によって、また、使用する鉄やセメントの製造工程で原料の一つの石灰石中に固定されていたCO2が解放されることによってももたらされる。このように、水循環の維持・回復のための施策においても、施設の建設や維持管理等においてCO2を始めとする温室効果ガスの排出が伴う。したがって、わが国の良好な水循環の回復のための施策の実施においても、国際的に取り組まれつつある地球環境保全のため、極力温暖化ガスの排出抑制に努める必要がある。

第3章 良好な水循環を維持・回復するために、下水道はいかにあるべきか。

 下水道はこれまでも良好な水循環を維持・回復するうえで重要な役割を担ってきたが、下水道の普及拡大による処理水量の増大、高度処理の促進により、水量管理、水質管理の両面における重要性が益々増大することが見込まれる。下水道は下水を集めるシステムであるがゆえに、河川等の流量を減少させる反面、水量、水質の適切なコントロールによって良好な水循環に貢献する様々な施策を積極的に展開できるポテンシャルを有する。
 そこで、これらの役割を効率的かつ効果的に実現していくために、今後の下水道はどのような施策を展開して行くべきかについて検討した。

(1)背景及び基本的考え方

 現在、全国で年間約171億m3の水が生活用水として使用され、この約2/3に相当する約107億m3が全国の下水処理場で処理されている。この量は今後下水道の普及拡大に伴い下水処理水の量はますます増加していくことが見込まれる。また、下水道は、都市に降る雨水を河川等へ排水する機能もあり、良好な水循環の維持・回復のため、その雨水に含まれる都市面源からの汚濁負荷の除去や雨水の貯留・浸透・利用にも取り組んでいくことが必要である。このように今後の水循環の中で下水道の果たす役割は質・量ともにますます増大してくるので、積極的に取り組んでいくことが求められる。
 特に、下水道は汚濁負荷量の除去システムとして中核的な存在であり、その際、農業集落排水施設、コミュニティプラント、合併処理浄化槽という下水道以外の生活排水処理施設や河川浄化施設等と連携しつつ、水質保全施策を展開していく必要がある。
 また、地域や社会の要請に応じ、下水処理水は水資源として積極的に活用を図るべきである。
 特に、河川の上流部、中流部、下流部という位置によって、また、それら各地域の人口・産業の分布によって、水循環に果たす下水道の役割も異なってくるので、具体的な施策の展開においては地域の状況を十分配慮していくことが必要である。

(2)下水道の果たすべき役割

1)公共用水域の水質保全
@高度処理の推進
 良好な水循環を維持・形成し、健全な水循環システムを構築するためには、長期的には、ほぼ全ての水域において、水域の特性に応じた高度処理を実施することが求められる。高度処理の内容として、有機性汚濁物質の他、閉鎖性水域における窒素、燐、さらには、下水道事業は、微量有害物質の除去、無害化を進めることによって積極的に社会基盤施設としての責任を果たすべきである。特に、生態系濃縮を受ける有害な物質は下水道への流入規制も含め、下水処理システムで除去することが基本である。
A合流式下水道の改善
 合流式下水道では、雨水を汚水と同一の管渠系統で排水するため、大雨の時には雨水と汚水が混合したものの一部を未処理で河川等に放流することとなる。この未処理放流水に含まれる汚濁負荷を可能な限り削減することが必要である。このため、合流式下水道の分流化、未処理放流下水の一部貯留・処理化など合流式施設の改善を図るべきである。
BO−157、クリプトスポリジウム等病原性微生物の除去等
 O−157、クリプトスポリジウム等に対する国民の健康被害のリスクを最小化するための施策のうち、下水道の処理で担うべきものへの取組みが重要である。O−157については、下水処理で通常採用されている塩素消毒により十分な滅菌が可能であることから、患者発生や病原菌発見の情報に対応して敏速に下水処理水の消毒を強化できる施設・体制の整備が効果的であると考えられる。クリプトスポリジウムについては、塩素消毒で死滅・不活化することが困難であることから、膜処理の採用等、下水処理水の再利用をしている場合及び患者が集団発生した場合に有効な対策をさらに研究開発していくことが必要である。
C工場・事業場等から下水道に排出される排水の水質監視・規制の評価、充実(生物を用いた監視、測定、評価方法(バイオアッセイ)による微量有害物質、変異原性物質等の監視・規制等)
 下水道管理者は、その処理場からの放流水に水質汚濁防止法等の排水規制をかけられる一方、下水道に接続する排水者に対しては下水道法の排水規制をかける立場にあり、有害物質や処理困難物質について下水道に接続する工場・事業場等からの排水を水質監視することが重要である。近年、重金属類、変異原性物質、環境ホルモン等微量有害物質等監視すべき水質項目が急激に増加しており、簡便かつ効果的にそれら多数の水質項目を同時監視できる方法の技術開発が求められており、例えばバイオアッセイの技術の活用が期待される。また、長期的には、排水の水質監視の徹底のため、バイオセンサー等の先端技術や光ファイバー通信網を活用した水質監視システムの構築も検討していくことが必要である。

2)下水処理水の有効利用
@下水処理水上流還元事業等下水処理水を必要な水域まで送水・供給する事業
 下水処理水は従来処理場の地先に特段の活用を考慮せずに放流されてきた。しかし、近年、処理レベルが向上し良好な処理水質が得られ、様々に利用することが可能となってきている。一方、各種用水やせせらぎ創出のための水需要が増大し、河川等の水域環境を維持するための水量確保も必要となってきている。また、大都市地域における震災、大渇水等災害時に対する備えはいまだ十分とは言えず、そのような時にもたらされる生活の著しい不便や都市機能の麻痺をいかに防ぐかが課題として残されたままである。したがって、特に、これらの分野での下水処理水の積極的な活用を進める必要がある。
 流域の水循環のあるべき姿は、行政の一分野の判断で決定されるべきものではなく、関係行政機関、利害関係者のみならず、まず第一に相当範囲の住民の意見を反映したものであることが求められる。
 このような流域の水循環のあるべき姿の実現のために下水処理水が必要である場合、下水処理水上流還元事業等の下水処理水を必要な水域まで送水・供給する事業を推進すべきである。その場合、適切性、有効性の評価にあたっては、費用負担のあり方の検討、ダム開発との比較検討が必要である。特に、上流還元された下水処理水が水道水源の補給水となる場合、安全性確保と水道事業者や水道利用者のコンセンサスが必要であり、そのためには、渇水時等の一時的な利用に留めたり、下水処理水を遊水池等に一旦貯留した後に河川に還元する方法を採用したりすることも考えるべきである。
A下水処理水による河川維持用水の確保
 放流先の生態系の持続可能な回復力の補強のため、河川維持用水として下水処理水の水量・水質が安定していることを有効利用すべきである。
B水と緑のネットワークの形成と維持用水の確保
 分流式下水道の雨水渠や都市下水路はできるだけ開渠とし、河川等との水の連続性の確保、水路周辺の緑化等を進めることにより、都市周辺の自然環境と都市内の水空間・緑地をネットワークで結ぶ「水と緑のネットワーク」の形成を推進すべきである。下水処理水はネットワークの維持用水の水源として期待される。維持用水の需要地が、下水処理場から遠く上流側に離れているため下水処理水を送水することが困難又は不経済である場合には、当該需要地の近くに小規模な処理プラント(せせらぎプラント)を設置し、その下水処理水を維持用水として供給することが有効である。水と緑のネットワークの形成とあわせて、このような下水処理水を都市内河川・水路等に導入することにより生態系、水辺空間、気温等の都市内水環境を改善する事業を推進すべきである。
C下水処理水の雑用水・防災等への利用
 下水処理水を水洗便所用水等雑用水に利用する事業は全国各地で既に実施されており、今後も水需給のひっ迫した大都市地域において都市内に大量に保有している下水処理水の利用を積極的に推進すべきである。そのためには、雑用水利用施設整備に係る既存の事業制度や低利融資制度の活用を始め、雑用水利用を前提とした下水処理場周辺の土地利用のあり方まで含めた検討も必要である。また、下水処理水を震災の火災時の消火用水、炎や熱気を遮断するために空中に噴水して作る防火水幕用水として利用する取り組みも行われており、震災後の生活用水への利用も期待されている。 今後もそれらの取り組みの推進が必要であり、さらには災害時に取水しやすいように下水処理水の放流渠を要所に貯留槽のある開渠とすることもすべきである。また、それら震災関連利用の前提として、下水処理水の貯留施設の耐震化が必要である。
D下水道の再配置
 現在の下水道は地形等に応じて下水を効率的に収集できるように計画・配置されている。このため、良好な水循環の維持・形成のために最も必要とする位置に下水処理水を放流するという観点からは必ずしも最適な配置であるとは言えない場合がある。下水道施設、とりわけ下水処理場は恒久施設として収集・処理が効率的に行われるよう都市計画決定や地元住民の合意を経て既に多大な投資が行われている場合がほとんどであるが、長期的には良好な水循環の維持・形成の観点から配置の変更を検討すべきである。

3)地球温暖化防止
 地球温暖化防止の観点はこれからの全ての都市基盤整備を進める際の最重要な評価項目となるべきものである。下水道事業にあっても、CO2を始めとする温室効果ガスの排出抑制に努める必要がある。下水道事業で採りうる対策としては、未利用エネルギーの活用を図る下水熱利用事業及び消化ガス発電が既に実施されてきており、それらの推進に加え、今後さらに省エネルギー的施設設計、焼却炉の機能向上によるN2O発生量の削減、処理水の道路散水による冷房消費電力の低減などに取り組んでいくことが必要である。なお、施設建設に使用される鉄やコンクリートは製造工程において大量のCO2が発生する。CO2の発生量の削減を考えるとき、単にエネルギー消費についてだけ考えるのではなく、ライフサイクル・アセスメントの考え方が必要である。
 また、都市の水面は水の気化熱等の吸熱作用を有するので、都市のヒートアイランド現象を緩和し、その結果、都市の空調に消費されるエネルギー量を削減して地球温暖化防止にも資すると考えられる。したがって、雨水・下水処理水系統の管渠はこの観点からも長期的にはできるかぎり開渠とし、水面の拡大を図るべきである。
 また、台所の流しの配水管に設置して生ゴミを破砕して下水道へ流し込むディスポーザーについても、生活利便の向上のみでなく、下水処理場で回収された生ゴミを利用した消化ガス発電により未利用エネルギーの活用が図れるという意見がある一方、ディスポーザーを動作し及び破砕された生ゴミを下水処理場で分離・処理することがエネルギー消費の増大をもたらすという意見や、下水道の建設費及び維持管理費の増大をもたらすという意見があり、今後、地球温暖化防止、ライフサイクルコスト等の観点から総合的に検討すべきである。

(3)具体的な施策の提言

1)下水センサスの実施
 全国各地域における下水の挙動とその影響並びに下水道に対するニーズ等の把握を目的として、どこで、どのような量・質の下水が発生し、それが下水道その他の経路に沿って運搬、処理或いは再利用されているかなどについての基礎的、体系的なデータを収集するため、「水センサス」の一環として「下水センサス」を実施する必要がある。「下水センサス」は、水循環マスタープランのなかに、下水道を位置付けるためにも重要である。

2)下水処理水の総合的リスク管理
 下水処理水がもたらすリスクとして、病原性微生物によるリスク、微量有害物質によるリスク、災害時・事故時の未処理下水の流出によるリスクが考えられ、これらリスクを適正に評価するとともに、その低減策について検討・実施すべきである。特に、渇水時に水道水源の補給のために下水処理水上流還元事業を行う場合、人体への危険性を検討し、膜処理など病原性微生物等の除去が期待できる超高度処理のレベルと補給期間、補給量等に関し安全な範囲を明らかにする必要がある。なお、下水に関するリスクの総合的な評価・管理については、水センサスや流域別下水道整備総合計画のデータ並びにスキームの活用が有効である。
@病原性微生物のリスクについては、患者の集団発生した地域・時期、特にその場合の水道水源への放流又は人体接触の可能性の高い用途への利用については慎重な対応が必要である。
A微量有害物質については、近年、その数が非常に多くなりつつあり、しかも未解明のものの危険性も指摘されている。したがって、個々の物質項目の測定ばかりでなく、バイオアッセイ等水質を総合的に監視測定する手法の開発・導入が重要である。
B災害時・事故時の未処理下水の流出によるリスクについては、流出しにくい施設構造とするほか、それでも流出した場合に下流の利水者等に警告を発するようなソフトな対策を組み合わせることも重要である。
C下水に含まれる環境ホルモンの実態の解明に努めるべきである。下水処理場は、環境ホルモン物質の公共用水域への排出に対する最後の関門としての役割を担うこととなることから、生態系保全の観点のみならず国民存続等の観点から国は下水処理場において効果的に除去できる処理方法の開発等の施策に積極的に取り組む必要があり、そのための研究・技術開発体制の強化充実を検討すべきである。

3)都市面源負荷量の削減
 下水道は市街地の雨水を排水する機能を有し、市街地の雨水は道路や宅地などの都市面源の汚濁負荷を洗い流して含んでいる。特に降雨初期の雨水には比較的高濃度の汚濁物質が含まれており、水質保全の観点からその処理・除去をすることが望ましい。

4)雨水等の貯留・利用及び地下涵養
 都市化の進展とともに雨水保水能力のある森林や農耕地の面積が減少し、反対に不透水性のコンクリートやアスファルトで覆われた地表面積が増加し、それらの結果、流域の雨水貯留浸透能力の低下から洪水ピーク流量の上昇や地下水位の低下がもたらされる。雨水・地下水の良好な水循環を回復するため、雨水の貯留・地下浸透の促進が重要であり、下水道施設において多孔質又は穴あきの材料でできた雨水浸透管渠や底が砕石充填又は穴あきとなっている雨水浸透ます等を用いることにより雨水の地下浸透を促進し、また、下水道施設や宅地内に雨水貯留施設を設置することにより雨水流出量の削減を図るべきである。なお、雨水の貯留とともに、貯留した雨水の利用も併せて行うことにより節水も図るべきである。また、他事業で特段利用されずに放流されている湧水を雨水系統の下水道施設で有効利用していくような連携施策も検討すべきである。分流式下水道の雨水管渠は、災害時の消火用水、生活用水の水源等としての機能を発揮できるように要所に貯留槽を設けるとともに、できるだけ開渠構造とすべきである。

5)費用負担の明確化
 流域単位での良好な水循環を実現するための施策の実施にあたっては、施策の費用効果分析を行い、コスト、効果を明らかにするとともに、下水道管理者たる地方公共団体と流域全体の関係地方公共団体、さらには国や利害関係者の役割分担(費用負担を含む)を明確にする必要がある。
@まず良好な水循環の実現を図るために必要なコストの負担の適正配分を検討する必要がある。ダム等による河川開発では、特定利水に係る利水者負担と同時に、不特定補給水量の確保については、都道府県が費用の一部を負担する仕組みとなっている。上流から下流へと一方向にだけ流れるという水の基本的性質を考えれば、水量であれ、水質であれ制御に必要な費用負担、特に下水道の高度処理のような通常レベルを超えた排水処理の費用負担は河川開発と同様に下流側も負担するという仕組みを検討すべきである。
Aまた、日本では多くの流域において、上流部で取水した水を河川からバイパスさせたまま下流部地域の大都市に供給し、河川の最下流部や海域に下水処理後、放流するという用排水システムとなっているため、中下流部地域では河川水が枯渇したり、河口部の滞留によって水質悪化が生じたりなど、本来の河川流量の豊富さを享受できない状況にある。この状況を改善するための下水処理水上流還元事業等の施策については、還元地点より下流の受益者や地域に受益に応じた負担を求めることも検討すべきである。
B特に、閉鎖性水域の富栄養化対策としての下水道の窒素、燐除去の高度処理については、当該流域における適正な費用負担を実現する方策として排出権取引が有効に働くことも想定される。また、ポイントソースとノンポイントソース間の排出権取引も想定される。
Cまた、下水道事業が負担すべき費用については、その財源が住民等から徴収した下水道使用料等の私費と国や地方公共団体の公費とで構成されることから、施策の内容のどの部分がどちらの費用に対応するものであるかを明確にする必要がある。例えば、市街地からのノンポイント負荷対策等原因者の特定が困難なものや公共用水域の水質保全に必要な高度処理等不特定多数が受益するものは原因者の存在範囲や受益の広がりの範囲に応じて国、都道府県、市町村の公費で賄うことが適当であるとすることが考えられる。また、合流式下水道の改善のために必要な遮集管渠の増強、雨水と汚水の混合した下水の一時貯留のための雨水滞水池等の整備については、公共用水域へ流出する汚濁負荷量を少なくとも分流式と同程度にまで削減するために必要なものであり、公費負担とする範囲を検討すべきである。なお、処理水上流還元事業については、受益に応じた費用負担のあり方について検討する必要がある。また、費用負担の適正化及び下水の汚濁負荷の総量を削減する経済的手法の観点から水質使用料制度の採用を検討すべきである。

6)季節別に設定する下水道使用料体系の導入
 水源の乏しい季節などの水循環の厳しい季節には比較的高額な使用料とし、逆に水源の豊かな季節などの水循環に余裕のある季節には比較的低額な使用料とする季節別の使用料体系の考え方は、経済的手法により国民の水消費行動を誘導しようとするものであり、水道料金等の用水料金体系と連携しつつ、この考え方の導入を検討すべきである。

7)下水道の機能についての技術的知見の蓄積及び技術開発の推進
 下水道の機能向上等各種施策展開を基盤から支えるのが技術であり、それらを効率的に進めていくために効果的かつ経済的な技術の開発が必要である。その分野の例としては、高度処理技術、ノンポイントソース対策技術、合流式下水道改善技術、病原性微生物・微量有害物質等対策技術、雨水貯留・地下浸透技術、災害時対策技術、下水熱利用技術等があり、開発にあたっては地球温暖化防止、コスト縮減、耐震、費用効果、ライフサイクルコスト等の観点から十分なレベルに達していることも求められる。また、ディスポーザーからの排水の受け入れについて、受け入れた場合の利害得失を検討できる基礎情報の整備を図るべきである。

8)下水道の適切な理解に向けて
 排水処理等、良好な水循環を維持する人間社会の装置を適切に働かせるには多くの関係者の努力と多大な費用が必要である。特に下水道は施設の大部分が地下に埋設されていて普段国民の目に触れることがないため広報はますます重要である。そして、下水道行政は、下水道事業の重要性について国民から理解を得るためのみならず、行政プロセスの透明化、情報公開の観点からも様々な機会を捉えて国民、住民に対してわかりやすく情報を提供し、また、国民、住民から意見を聞くことをねばり強く続けていくべきである。
@基本的方向
イ)国民、住民の視点からの、国民、住民へのわかりやすい広報
 いわゆる広報のみならず、下水道による水質改善がもっと国民、住民の目に見えて解りやすいような工夫を凝らした河川・水路の整備に努めるべきである。特に、分流式下水道の雨水管渠、都市下水路及び下水処理水の放流渠は、国民、住民の身近な水辺空間としてできるかぎり開渠とすべきである。
 また、メディア技術は日進月歩であるので、どのメディアをどのように使用するのが効果的か調査研究を怠らないことも重要であり、例えばインターネットのホームページの活用なども積極的に検討すべきである。
ロ)国民、住民の意見の適切な反映
 広報と同様、国民、住民から適宜意見を聞いて下水道行政に反映させる広聴に積極的に取り組むべきである。特に、流域別下水道整備総合や下水道の事業計画の決定に至るプロセスにおいて、最終段階のみならず、初期段階から国民、住民が情報を入手して意見を提出する等の機会を設けることが重要である。
ハ)教育機関との連携
 国民の下水道に対する認識の深化のためには学校教育での下水道の学習が重要であり、小中学校の義務教育において下水道を含めた環境学習が行われるよう教育関係者の理解を得ていくことが必要である。そして、下水道管理者は、下水道施設の見学や下水道に係る副読本の作成に積極的に協力すべきである。
A国民、住民へ広報する内容
イ)水循環・水環境と下水道の役割
 下水道には便所の水洗化、ドブの解消などの都市環境の改善、雨水の速やかな排水による浸水防止、公共用水域の水質保全など多様な役割があるので、当該地域に該当するものをわかりやすく説明することが重要である。
 特に、水循環の観点から下水道は流域の中でどのような役割を果たしていくか、今後、良好な水循環の維持・形成のために下水道はどのような様々な施策を展開することができるかなどについて、大局的な視点のみならず身近な視点からわかりやすく国民、住民へ情報提供する必要がある。
 水循環・水環境における下水道の役割に関する情報提供については、流域別下水道整備総合計画が優れた素材になりうる。各都道府県は、流域別下水道整備総合計画を策定した場合には、わかりやすい表現を工夫し、積極的な公表に努めるべきである。
ロ)下水道の財政・経営
 下水道事業の過去の推移、今後の事業計画を示しつつ、下水道財政・経営の状況、下水道使用料の設定の考え方等をわかりやすく説明することにより、経営内容のディスクロージャーを推進し、特に、良好な水循環の維持・回復を図るために必要となる費用の内容について国民、住民に対して積極的に理解を求めていく必要がある。
ハ)下水道資源・施設の有効利用
 下水道には様々な宝が埋もれている。下水処理水は水洗便所用水、工業用水、農業用水等各種用途に再利用が可能であり、枯渇した河川・水路にせせらぎを創出したり、融雪用水や地域冷暖房の熱源水にも利用できる。また、雨水の一部を貯留して災害時等に利用したり、地下浸透して地下水涵養を図ることもできる。また、下水処理施設の上部空間は地域の憩いの場となる親水空間とすることができる。これらを地域の水循環、水環境に関係するニーズに応じて公共財産の効率的利用の観点から積極的に掘り起こして役立てていくことは重要であり、情報提供はそのための出発点である。

9)国際協力
 水循環の中に位置付けられた下水道の役割は世界に共通であり、日本における先駆的下水道計画は国際協力の推進に役立つ材料となりうるもののはずである。
 また、マクロスケールの水循環は地球全体をその舞台としており、その中に数限りないメソスケールである流域の水循環が包含され、それらは、主に水自体は大気、海洋を介して、水に含まれる物質は大規模な国際間の物資の移動とともに、相互に影響を与え合っている。したがって、日本の各流域において良好な水循環が維持・形成されることは世界各地の流域の水循環が良好に維持・形成されることと無関係ではなく、特に海を挟んだ近隣諸国とは関わりが生じやすい。
 また、近年、発展途上国において、し尿や生活排水が未処理なことによる生活環境の悪化や水質汚濁の問題が深刻化し、わが国に対して途上国から下水道に関する技術協力の要請が急増している。
 したがって、わが国はそれらの要請に積極的に応えていく必要があり、その際には、各途上国の状況を十分に考慮し、良好な水循環を維持・回復する観点から検討した上でわが国の技術力と経験を活かしていくことが必要である。

参考 (パンフレット)

第1章
第2章
第3章
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