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都市計画中央審議会関係資料
都市計画中央審議会答申(平成7年7月18日)
「今後の下水道の整備と管理は、いかにあるべきか」

全  文
目  次 (目次の項目のクリックでジャンプ)

今後の下水道整備と管理は基本的な考え方
[T]全国どこでも豊かさを実感できる生活空間づくり
   〜下水道の普及拡大と快適な生活環境の整備〜
  (1)整備目標のあり方
  (2)整備推進の基本的考え方
  (3)整備推進のための方策
  (4)他の汚水処理施設との調整
[U]下水道の質的向上
 U−1水循環の再生
  (1)望ましい水循環像の構築
  (2)高度処理の積極的な推進
  (3)水循環の保全・再生のための施策の実施
  (4)水循環の保全・再生における国、都道府県の役割のあり方
 U−2安全で安心な街づくり
  U−2−1浸水安全度の向上
  (1)中長期的な整備目標
  (2)総合的な雨水対策計画の策定
  (3)雨水の流出抑制策の推進
  (4)広域的な雨水対策の推進
  (5)雨水対策施設の効率的運用
  U−2−2下水道における地震対策
 U−3下水道施設の改築・更新・再構築
[V]下水道の維持管理の適正化
  (1)維持管理の基本的なあり方
  (2)維持管理の効率化・合理化の推進
  (3)下水汚泥の処理処分の適正化
  (4)下水道の経営
[W]下水道の資源・施設の多目的利用
 W−1下水道の資源の有効利用
  (1)下水汚泥の有効利用
  (2)下水処理水等の有効利用
  (3)下水熱の有効利用
 W−2下水道の施設の有効利用
  (1)施設の上部空間等の積極的な活用
  (2)下水道管渠内空間の積極的な活用
  (3)有効利用に係る制度等の整備等
[X]総合行政への転換をめざした取り組み等
  (1)多様な要請に応える総合的な施策展開と関係行政分野との連携の強化
  (2)普及・啓発活動の推進
  (3)下水道の技術開発
  (4)下水道における国際協力
  (5)執行体制の整備と事務の効率化

  今後の下水道の整備と管理の基本的考え方

 地球は、水、大気、生物などの環境を構成する要素の微妙なバランスの上に成り立っている ひとつの生態系にたとえることができる。
 下水道は、人間が汚した水を人間の手でもとに戻すという意味で、 水を基軸とした生態系や自然の循環システムを健全に保つための重要な構成要素と位置づけることができる。 すなわち、本来的に環境という視点を内在化したまさに環境を守ることを使命とする最も基本的な社会資本である。
 今後の環境政策の基本的な方向性を示した『環境基本計画』においても、 その長期的な施策展開の重要な目標とされる「循環」を基調とする経済社会システムの実現、 人と自然、都市と自然との「共生」の確保と将来への継承において、 かかる役割を担う下水道に対する期待は大きく、その取り組みを一層強化していくことが求められる。
 つまり、環境保全は、個別の地域だけでは対処できない問題であり、 国全体として整合したシステムが必要である。水という問題に即していえば、 下水道から何ができるかという視点だけではなく、水を大きな循環システムとしてとらえ、 その枠組のなかで、下水道の果たすべき役割や貢献度等を検討・評価していくことが必要であろう。 特に、下水道の普及に伴い、汚水・雨水の多くの部分が下水道を経由することを考えあわせると、 下水道がこれまで以上に望ましい水循環の再生に向けて、 積極的に、そして主導的な役割を演じていくことが求められる。

 一方、21世紀に向けて、わが国の社会経済情勢は大きな変化のなかにある。 たとえば、他に例を見ない急激な高齢化の進展、高度情報化の進展など、 新たな対応の求められる変化が次々に押し寄せてきている。
 また、個人レベルでも、生活水準の向上とともに水との関わりや水への関心が一層強まるとともに、 ゆとりや安らぎが重視され、心や生活の豊かさを実感できる社会が希求されてきている。
 このため、暮らし全般に関わる基本的な生活基盤施設としての下水道の整備が急がれている。 もはや、下水道は大都市など特定の都市だけのものではなく、 全国どこでも豊かさを実感できる生活空間づくりに向けて、 そして、水道・電気などと同じく暮らしに欠かせないライフラインとして、 その整備が広く国民から求められている。
 下水道整備の推進に当たっては、先に述べたような様々な変化をしっかりと見据え、 清潔・安全であることはもちろん、快適で豊かな生活環境や街づくりに向け、 また、将来に引き継げる良質なストックの形成をめざして、 中長期的な視点に立った明確な将来ビジョンを描くことが重要である。 さらには、国民にわかりやすい、誰もが実感をもって受け入れることのできる生活者の視点に立った施策展開を図ることが 重要である。 この場合、住民が政策資源の配分順位を判断できるよう、 整備目標と達成される暮らしや社会の姿、負担原則を明らかにし、 国民のコンセンサスを得ていくことが必要である。
 加えて、身近な生活環境の改善から公共用水域の水質保全などの広域的な課題まで、 下水道の有する機能に応じて、国、都道府県、市町村等のそれぞれが適切に役割を分担するとともに、 下水道を使用する国民も一定の責務を有することを明らかにしつつ、 国民と行政が一体となって下水道の整備・管理に取り組んでいくことがこれまで以上に重要である。
 こうしたことから、今後の下水道行政の展開に当たっては、循環を基調とする社会の実現、 暮らしや生活者を重視した国民的視点に立った総合的な施策展開が求められている。 また、街づくり・地域づくりに係る諸施策との連携の強化や積極的な貢献も重要な視点といえる。 特に、汚水処理施設の整備、雨水対策の実施、水環境・水循環の創出など密接に関連する行政分野との連携の強化を図り、 それぞれの施策の展開方針を共有していくことが必要である。

 そして、忘れてならないのは、下水道整備の進捗に伴い、 下水道そのものの環境や社会経済に及ぼす影響や関わりの度合いが相対的に拡大していくという点である。 下水道が、健全な水循環形成はもちろん、 地域の活性化や新たな発展に向けての基幹的な条件整備においてもより大きな役割を果たすことが期待されるであろう。
 まさに今、下水道行政に求められているのは、環境保全の旗手としての自覚を新たにし、 暮らし全般に目を向けた総合行政へのダイナミックな転換である。


[T] 全国どこでも豊かさを実感できる生活空間づくり 〜下水道の普及拡大と快適な生活環境の整備〜

 下水道は、これまでの7次にわたる五箇年計画の推進により、 全国平均の普及率は50%を超えるまでになったが、 なお中小都市では整備が立ち遅れ、都市間、地域間の格差が未だ存在しており、 清潔で快適な生活環境づくりを通じて、生活の豊かさを実感できる社会を築いていくためには、 さらなる整備が必要である。

(1)整備目標のあり方
 社会経済情勢等の変化や環境対策への要請の高まり、 また、そのなかで下水道の占める位置の相対的な高まりを踏まえ、 21世紀を見通した長期的な整備の目標を設定することが必要である。
 下水道等の集合処理によって整備すべき区域は、汚水を収集し、 まとめて処理することが合理的と判断される人口の密な地域等であり、 このうち、下水道では、市街地及びその周辺地域、 比較的規模の大きな集落及びこれと一体的に整備する区域等を対象とすべきである。
 具体的には、公共投資基本計画等の整備目標を勘案しつつ、 下水道の整備目標を2000年におおむね7割、21世紀初頭におおむね9割とすべきである。
 なお、整備に関する指標については、 下水道が国民のほとんどが毎日の生活の中で関係してくる公共施設であることからも、 下水道の役割・内容を浮かび上がらせるように、その意義や効果を的確に表現し、 住民にわかりやすく実感をもって受け入れられる指標のあり方について検討すべきである。 また、他の汚水処理施設もあわせて評価できる総合的な汚水整備指標の導入についても検討すべきである。

(2)整備推進の基本的考え方
 基本的な生活関連施設としての下水道整備に当たっては、 都市間、地域間の整備の格差のすみやかな是正をめざすとともに、 早期に整備の必要な地域に力点を置くなど、その基本的な方向性を明確にする必要がある。
 その際、特に、当面の整備目標の着実な達成の観点から、 諸施策のあり方を含め、これに至る道筋を明確に示す必要がある。
 下水道整備については、一定の期間に全国的にバランスのとれた形でその整備水準を向上させるためには、 事業の重点的、機動的な実施を支援することができる国庫補助金制度は必要不可欠であり、 今後とも、国としての生活関連施設への重点的な投資の拡大を求めつつ、その積極的な活用を図るべきである。 これに加えて、緊急に整備を推進していくためには、多様な財源措置を引き続き講ずる必要がある。
 また、円滑な事業執行を図るため、事業に係る諸手続きや仕組みの見直し・合理化に努めるとともに、 執行体制の整備、技術開発の積極的な推進などに取り組む必要がある。
 さらに、整備の効率化に向けて、費用や体制など維持管理段階も見通して、 地域特性に応じた効率的・合理的な汚水処理施設の整備方針等を定める 「全県域汚水適正処理構想」の策定を一層推進するとともに、同構想に基づき、 住民に見える計画としてのアクション・プログラムを策定すべきである。 この場合、窒素・リンの処理性能など水質保全への対応性にも配慮しつつ、 暫定施設や共同施設の導入のほか、他の汚水処理施設と連携した機動的、 弾力的な整備にも配慮すべきである。 また、地域の実情等に的確に対応した施設仕様の整備やメニュー化、 設置費等の低減に向けた技術開発にも取り組む必要がある。

(3)整備推進のための方策
 大都市周辺、地方の中核都市など早期に下水道整備を行うべき地域、 水質保全上の要請から整備が急がれる地域等については、積極的に整備を図っていく必要がある。 このため、特に、これらの地域のうち整備の途上にある箇所については、 重点的に整備を推進していくとともに、新市街地における計画的、先行的整備を進める必要がある。
 また、現行の下水道整備に係る計画の見直し・点検を進め、 既存施設の活用や暫定施設の導入などにより整備が推進されるよう、 機動的、弾力的な方策をさらに積極的に推進すべきである。
 一方、中小市町村は、相対的に財政力が弱い場合が多いため、特にその整備推進に当たっては、 国としての重点的な投資配分、受益者負担金制度の活用等によって必要な事業費の確保を図るとともに、 管渠等の国庫補助対象範囲の拡大、地方債の償還期限の延長など、その財政負担の軽減策を講ずるべきである。
 これらにあわせて、普及水準、水質保全上の緊急性等を加味した補助体系のあり方や、 下水道の早期供用を目指して重点的な整備を進めている地方公共団体に対する財政的な支援の強化策についても 検討していく必要がある。
 執行体制については、事業の円滑な執行に必要な組織体制の整備に努める必要があるが、 中小市町村にあっては、技術的な援助、研修による職員の養成等について日本下水道事業団、 都道府県下水道公社の積極的な活用を一層進めるとともに、 都道府県過疎代行制度のさらなる活用など都道府県の指導・支援を強化すべきである。

(4)他の汚水処理施設との調整
 下水道と他の汚水処理施設とを効率的に整備するため、 それぞれの財政負担や維持管理などの施設の特性を踏まえ、 地域の実情に応じて整合の取れた形で連携を取りつつ事業を実施すべきである。 この場合、地域住民の理解が重要な条件であり、これを確保するため、行政の透明性を高め、 街並み全体の清浄化との関係など必要な情報を住民に示していく必要がある。


[U] 下水道の質的向上

U−1 水循環の再生

下水道は、公共用水域の水質を保全し、 生態系や自然の循環システムを健全に保つための重要な構成要素と位置づけることができる。 普及拡大に伴って下水道を経由する汚水・雨水の量が増大していくなか、 河川の正常な流況の形成やいわゆる開放循環によって水の高度利用が図られるなど 水域の水量・水質に関わる下水道の影響が一層高まっている。
 一方、水環境をめぐっては、安全でおいしい水の確保や閉鎖性水域における富栄養化対策、 あるいは多様な生態系の復活や身近な水辺の創造、 全国各地で発生する渇水への対応などの課題に直面している。
 このような課題に対して、今後はより水系を広域的、一体的にとらえ、水量・水質の両面から望ましい水環境・水循環のあり方を明らかにし、そのなかで下水道の果たすべき役割をとらえ、広域的・総合的な施策の展開を図っていくことが必要である。
 このため、水に関わる部局との密接な連携の下、水に関わる施策を総合的に整理・構築し、将来にわたる流域の水循環のあるべき姿についての国民共有の理解と認識を持ってそれぞれの施策を進めるべきである。

(1)望ましい水循環像の構築
 望ましい水環境・水循環のあり方について、下水道部局、河川部局、環境部局等が連携して検討を進め、「水の政策大綱」ともいうべき将来の水循環のあり方に係る共通の基本方針を明らかにすべきである。
 また、下水道事業が、望ましい水循環の形成にさらに積極的に寄与していくことが重要であり、水量の確保や水質の保全などの観点から現行の流域別下水道整備総合計画を見直し、公共用水域の質・量にわたる良好な水循環を実現するための下水道の諸施策をより総合的、効果的に推進していく必要がある。

(2)高度処理の積極的な推進
 望ましい水環境の実現、湖沼・内湾等の富栄養化の防止、処理水の再利用の推進などのため、整備目標を設定し、高度処理を積極的、計画的に推進する必要がある。
 具体的には、清らかな水環境を創出し、健全な水循環システムを構築するためには、ほぼ全ての水域において、水域の特性に応じた高度処理を実施することが求められる。このような国民の要請に対してその着実な達成が必要であるが、特に閉鎖性水域や水道水源などの緊急を要する重要水域においては積極的かつ可及的速やかな高度処理の実施が必要である。
 また、今後、あわせて下水道が取り組むべき施策の具体的内容、直接的な効果がより的確に把握できる水質保全対策に係る整備指標についても、検討していく必要がある。
 高度処理の推進に当たっては、処理水による住民に身近な水辺の復活等の施策を広く展開し、国民の目に見える形で提示し、その効果と必要性が理解されるよう努めるとともに、その水質保全にもたらす効果や受益の広域性、自らの汚濁を自ら処理するという汚染者としての責務の範囲等を踏まえ、その負担のあり方について、幅広い国民のコンセンサスを形成していくことが必要である。

(3)水循環の保全・再生のための施策の実施
水環境に対する社会的要請の多様化・高度化に対応するため、下水道の放流水質のあり方について検討する必要がある。
 特に、雨水とともに公共用水域に排出される汚濁負荷を削減するため、合流式下水道の改善やノンポイントソースに由来する汚濁負荷削減対策に取り組む必要がある。
 また、河川等における水量の確保や地下水かん養、下水処理水の再利用による都市内の生態系の保全も含めた水環境の再生に配慮した放流先の多角化・分散化、中間浄化施設やせせらぎの設置についても実施する必要がある。この場合、河川に放流された下水処理水が、河川の維持流量を構成し、さらにこれによって再度下流で取水されて間接的な利用が図られることについて積極的に評価すべきである。

(4)水循環の保全・再生における国、都道府県の役割のあり方
 下水道の普及拡大に伴い広域的な水循環に占める下水道の役割が増大し、また、流域が複数の自治体にわたる湾等の閉鎖性水域における水質改善の要請、一水道事業者の範囲を超えた水道水源の保全の要請など、利害関係の広域化に対して、国や都道府県の主導的な役割への期待、広域的な水管理のあり方を念頭に置きつつ、より一層の総合的な取り組みが重要となっている点に留意すべきである。


U−2 安全で安心な街づくり

U−2−1 浸水安全度の向上

 都市部においては依然として水害が頻発しており、内水による被害がその多くを占めている。特に、近年、都市化の進展により人口、資産が集中するとともに、降雨の流出量が増加するため、浸水被害は増大する傾向にある。
 雨水対策は、下水道の重要な役割のひとつであり、これまでも整備が進められてきたが、その整備状況はいまだ十分ではない。
 このため、市民の生命・財産を守り、誰もが安心して暮らせる浸水のない安全な街づくりに向けて、下水道による雨水対策に係る整備目標を定め、計画的、効率的に整備を推進していくことが必要である。

(1)中長期的な整備目標
 将来的には、都市の規模や都市内河川の整備目標との整合を考慮して、おおむね30年から50年に1回程度の大雨に対して浸水する区域を解消することをめざすべきである。
 また、21世紀初頭に向けては、少なくとも10年に1回程度の大雨に対して浸水する区域を解消するよう整備を行う。
 こうした長期的な目標を着実に達成するため、当面、5年に1回程度の大雨に対する安全度を確保するための整備を推進し、特に人口等が集中し、浸水被害が頻発している地区については、少なくとも5年に1回程度の大雨に対して浸水することがないよう整備を行うものとする。
 なお、整備に関する指標については、事業の進捗状況、整備効果をより的確に把握できる指標のあり方について検討する必要がある。

(2)総合的な雨水対策計画の策定
 都市部における雨水対策を総合的、効率的に実施するため、流域ごとに下水道管理者、河川管理者等が、地域の諸計画との関係を踏まえつつ、連携して総合的な雨水対策計画を策定し、これに基づき下水道と河川等の整合の取れた計画的な整備を推進する必要がある。

(3)雨水の流出抑制策の推進
 雨水対策に当たっては、雨水の排除能力の確保に加えて、 面的な対策である貯留・浸透など流出抑制策も含めて総合的な方策を検討し、実施する必要がある。
 雨水の流出抑制策の実施に際しては、下流河川の負担軽減だけでなく、 汚濁負荷の削減効果や地下水をかん養し健全な水循環システムの回復につながることを積極的に評価するとともに、 さらに、貯留した雨水の利用方策についても推進すべきである。

(4)広域的な雨水対策の推進
 大規模雨水貯留管等の浸水解消効果が大きな雨水対策事業については、 事業効果の早期発現のため、プロジェクト的に重点的、集中的に実施することについて検討する必要がある。
 また、複数の自治体に関係する広域的な雨水対策については、 都道府県等により一体の事業として実施していく必要がある。

(5)雨水対策施設の効率的運用
 雨水ポンプ場等の雨水対策施設の降雨時における迅速かつ効率的な運用のため、 広範囲をカバーする既存の河川情報システムを活用するとともに、 きめ細かく迅速に降雨量を把握できる下水道降雨レーダーシステムについても、 その技術水準の向上を図りつつ、整備を図っていく必要がある。 また、各自治体で整備した降雨レーダーの情報を相互に利用できるよう検討する必要がある。

U−2−2 下水道における地震対策

 下水道施設は、水道、電気、ガス等と並び重要なライフラインである。
 このため、地震時においてもその機能が損なわれないよう、 また、都市の防災機能を確保するために、 下水道としての地震対策を講じていくことが必要である。

 こうしたことから、地震等の災害に強い下水道施設をめざし、 新しい耐震基準を定めるとともに、これに基づき、設計、 施工上の配慮や免震構造を採用する等により下水道施設の耐震性の向上を図る必要がある。 また、既存の下水道施設については、耐震性の診断を早期に行い、 必要に応じて補強、改築・更新を推進する必要がある。
 これとあわせて、施設機能の相互補完・統合的な運用を前提とした下水道施設のネットワーク化など、 下水道のシステムとしての地震対策についても推進する必要がある。
 また、緊急時の他都市との支援方法や地震直後の緊急点検・応急復旧の手法等を確立するとともに、 下水道台帳のデータベース化など必要な情報の管理のあり方についても検討する必要がある。
 さらに、都市の防災機能を高めるために、 下水処理水や雨水の防火用水等への活用や下水処理場を防災拠点として整備すること等により 下水道の持つ資源や施設を有効に活用することも必要である。

U−3 下水道施設の改築・更新・再構築

 下水道整備が進みその施設ストックが増大するにつれて、 水環境・社会経済への影響の度合いが増し、この点からも、 下水道施設の適正な管理が求められる。
 一方、施設は、年数の経過とともに、施設能力が相対的に低下し、 また、劣化等により様々な支障が生じてくる。

 このため、定期的な機能の点検・調査を実施するとともに、 常に先を見越した計画的、段階的な改築・更新が必要である。 この場合、下水道施設の老朽化の診断技術、更新技術の確立を図っていくことが必要である。
 また、改築・更新に際しては、従来機能の更新に加えて、 下水道に要請される様々なニーズに応えるべく、より高度な機能を発揮できるように、 施設のグレードアップ・統廃合を同時に行う再構築について積極的に進めるべきである。 このため、大都市等において、 改築・更新とあわせた再構築のマスタープランの策定を促進する必要がある。


[V] 下水道の維持管理の適正化

早くから下水道事業に着手し、普及水準の高い大都市等では、 維持管理のための基盤が確立しているが、膨大な下水道施設のストックを抱えることから、 今後は、その維持管理の効率化・合理化への取り組みに加え、 多様化・高度化する要請への対応が必要である。
 一方、今後、維持管理段階に入る中小市町村では、組織的、 財政的にもその基盤が脆弱な場合が多く、これに適した維持管理のあり方を検討する必要がある。

(1)維持管理の基本的なあり方
 下水道の適正な維持管理は、 下水道を設置・管理する各地方公共団体の責務であることを踏まえつつ、 特に中小市町村を中心として、その効率化・合理化を進めていくことが必要である。
 このため、維持管理体制の強化を図る一方で、 委託可能な業務については積極的に委託を推進するとともに、 優良な民間業者を育成するため、資格制度を導入する必要がある。
 また、特に技術者の確保が困難な中小市町村については、 日本下水道事業団の積極的な活用や下水道公社による広域的な管理支援のしくみの導入とともに、 都道府県の指導・支援の充実など、一層の支援体制の整備が必要である。
 このほか、排水設備の設置促進や管理の徹底、 事業場排水の監視の強化等に取り組んでいくことも必要である。

(2)維持管理の効率化・合理化の推進
 現在、全国一律となっている各施設の管理基準等については、 今後、効率化・合理化の観点から再点検し、 自然的、社会的な状況等を踏まえた管理の内容や水準のあり方について見直していく必要がある。
 また、一体的な管理による業務の効率化・合理化やサービスの均一化を図るため、 他の汚水処理施設も含めて、汚泥処理施設の共同化、維持管理業務の広域化を推進するとともに、 効率化・合理化を進めるため既存施設の統廃合などの再構築を推進する必要がある。
 さらに、降雨量予測システムの整備、下水道台帳のデータベース化、 運転管理の自動化等、維持管理に係る情報管理の高度化を図る必要がある。

(3)下水汚泥の処理処分の適正化
 下水道の普及とともに増大する下水汚泥について、その処理処分をより適正に行うため、 下水道管理者の責務を明確にするとともに、管理に係る基準等を整備する必要がある。
 また、下水道管理者自らが行う下水汚泥の処理処分に関して、 最終処分地の整備に対する助成措置等、財政的な支援を強化すべきである。
 下水汚泥の処理処分については、下水汚泥の広域的な処理処分を推進するとともに、 あわせてその計画的かつ総合的な有効利用を図る必要がある。 このため、日本下水道事業団による下水汚泥広域処理事業を一層推進するとともに、 広域的な下水汚泥処理を円滑かつ効率的に推進するための新たな方策を講ずる必要がある。 また、下水汚泥だけでなく、 他の汚水処理施設から発生する汚泥等を含めて一体的に処理処分することについても推進する必要がある。

(4)下水道の経営
 地方公共団体は、下水道の経営の健全化に向けて、 一層の経営の効率化・合理化に努めるとともに、国としても財政的な支援の充実を図るべきである。
 下水道使用料については、 汚水に係る費用のうち公費負担とすべき費用を除いたものを使用者負担とすることとされているが、 必ずしも水道料金を基準とすることなく住民のコンセンサスを得つつ、 これが適正な水準に達していない地方公共団体にあっては、長期的な収支の均衡に配慮しつつ、 使用料水準の適正化に努めるべきである。 また、国においては、全国的に見ても使用料の水準に極端なアンバランスを生じることがないように 処理原価の格差縮減のための措置の拡充や施設管理の実態に応じた地方債の償還期限の設定等を図る必要がある。
 また、高度処理の推進に当たっては、水質保全効果や受益の広域性、汚染者の責務の範囲等を踏まえ、 費用の負担のあり方について、国民のコンセンサスを形成していくことが必要である。 特に、維持管理に要する経費に対する国の財政措置のあり方について検討する必要がある。


[W] 下水道の資源・施設の多目的利用

 下水道は、生態系や自然の循環システムを健全に保つための重要な構成要素と位置づけることができる。 今後とも、拡大する諸活動を支えつつ、それに伴う環境への負荷を極力抑制することが、 下水道に課せられた大きな使命といえる。
 このため、エネルギー消費の節減や炭酸ガスの削減などの観点から下水道システムの評価を行っていくことも必要であり、 さらに、循環を基調とする経済社会システムの実現に向けて下水道のもつ資源・エネルギーの積極的な活用を推進することが 重要である。
 一方、下水処理場は都市内に広い空間を有し、 また、管渠は都市内で各家庭にまでつながるネットワークを形成している。 生活の豊かさの実現、高度情報化等の対応等において、 その有する施設やシステムとしての特性を有効に活用していくことが求められる。

W−1 下水道の資源の有効利用

 下水道資源の有効利用については、資源としての有用性、地球環境の保全等の観点から、 整備に係る目標値の設定を行い下水道事業として積極的に推進すべきである。
 このためには、下水道管理者としての有効利用の推進における責務の明確化、 品質基準の設定等を行うとともに、コスト削減等を目指した技術開発の推進を図る必要がある。

(1)下水汚泥の有効利用
 下水汚泥の有効利用を計画的に推進するために、 広域的な観点から有効利用に係る基本方針を定めるとともに、 これに基づき、各下水道管理者が下水汚泥の有効利用計画を策定していくことが必要である。 この場合、都市部・地方部のそれぞれの特性に応じた有効利用に係る方針を明らかにすべきである。 また、緑農地還元及び建設資材等の利用を促進するための技術開発のほか、 人造御影石等のより高付加価値の用途の開発を図ることも必要である。

(2)下水処理水等の有効利用
 下水処理水は河川の流量を構成する重要な要素であり、 その有効利用を計画的に推進するためには、 水循環システムの中での位置づけを明らかにするとともに、 流域毎に広域的、総合的な有効利用に係る基本方針及び全体計画を策定し、 これに基づき、下水処理水の有効利用計画を策定していくことが必要である。
 特に、この場合、身近な水辺の創造をはじめ、地震、 渇水時の緊急利用など安全な街づくりのための利用についても積極的に推進すべきである。 なお、処理水質と用途との関係については十分に留意する必要がある。

(3)下水熱の有効利用
 下水及び下水処理水のもつ熱エネルギーを、 地域冷暖房や積雪対策等の熱源として有効利用を推進していく必要がある。 特に、下水熱はクリーンな未利用エネルギーであり、 地球環境保全の観点からも積極的な推進を図るべきである。
 こうした処理水や熱エネルギーについては、処理場だけでなく、 供給対象地域の下水管渠やポンプ場から直接取り出して供給するなど、その機動的、 効率的な利用手法等についても検討すべきである。 また、他の公的部門との相互の資源・エネルギーの有効利用もあわせて検討すべきである。

W−2 下水道の施設の有効利用

(1)施設の上部空間等の積極的な活用
 下水処理場、ポンプ場などの上部空間や場内の空間は、都市内の貴重なオープンスペースであり、 住民が広く利用できるように、その有効利用の一層の推進を図る必要がある。
 具体的には、水と緑にあふれたアメニティの創出、環境教育の場の提供、 緊急時の防災機能の確保等、多様な要請を勘案し、その用途のあり方を検討すべきである。 その際、下水処理水や下水汚泥を複合的に活用することが効果的である。

(2)下水道管渠内空間の積極的な活用
 都市内で各家庭にまでアクセスし、ひとつの大きなネットワークを形成している下水管渠について、 その内部に下水道管理用光ファイバーを敷設し、下水道施設の管理の効率化・高度化を推進すべきである。
 また、今後の高度情報化社会に対応して、 この下水道管理用光ファイバー網を活用し行政情報を提供するなど、 下水道管渠内空間を積極的に活用すべきである。

(3)有効利用に係る制度等の整備等
 下水道施設の空間利用を推進するため、占用規定、 利用方針等の利用に係る規準等の整備についてもあわせて検討すべきである。
 また、下水道の資源・施設の有効利用に係る費用については、 その社会的意義を踏まえつつ、適切な負担のあり方について検討する必要がある。


[X] 総合行政への転換をめざした取り組み等

 下水道の果たすべき役割や機能に加え、 下水道の環境問題や社会経済に占める位置づけが拡大してきているなか、 地球環境の保全、循環を基調とする経済社会システムの実現、 生活者中心等の視点に立った総合的な施策展開が求められている。

(1)多様な要請に応える総合的な施策展開と関係行政分野との連携の強化
 今後の下水道事業の展開に当たっては、地球環境の保全、循環を基調とする社会の実現等のほか、 街づくり・地域づくりに係る諸施策との連携の強化や積極的な貢献に努めるとともに、 汚水処理施設の整備、雨水対策の実施、水環境・水循環の創出、都市内の光ファイバー網の整備、 緑化の推進等の下水道と密接な関連のある行政分野との連携強化を図り、 施策の展開方針を共有していくことが必要である。

(2)普及・啓発活動の推進
 下水道の普及・啓発活動は、投資対効果の観点からみれば、 下水道の隠れがちなメリットやニーズを明らかにするという意味で大きな意義がある。 つまり、水質や快適さなど生活の質に対する住民のニーズが高まっているなかで、 下水道が住民に見えにくい施設であること、上下流問題等外部不経済の問題などの点があり、 これらの点から普及・啓発活動のあり方や意義をとらえ直すことが必要である。
 また、下水道は、行政側の整備への取り組みとともに、住民が水洗化を進め、 これを正しく使うという責務とが一体となって、本来の効用を発揮するものである点からも、 普及・啓発活動の意味は大きい。
 このため、下水道に関する情報を様々な機会を通じてわかりやすい形で伝えるなど住民の立場に立った情報発信とともに 住民の意向のより的確な把握に努める必要がある。 つまり、このような「見える下水道」の視点から、下水道の普及・啓発活動について、 学校教育も含めてそのあり方を再点検し、戦略的に展開していくことが必要である。 この場合、住民が政策資源の配分順位を判断できるよう、整備目標と実現される暮らしや社会の姿、 そのときどきの適切な負担など必要な情報を提示していくことが必要である。 また、環境・エコロジーの観点から、生態観察園、キャンプ場といった自然を感じさせる環境教育施設、 下水道見学施設や科学館などの体験型の施設の整備を通じ、下水道の果たす役割の大きさ、 その重要性を正しく伝えるとの視点も重要である。
 また、下水道については、従来、行政が主体となって普及・啓発活動を行ってきているが、 下水道の普及に伴い、下水道が国民のほとんどが毎日の生活に関わる施設になってきており、 その意味でも、まさに住民が主体になって、行政、民間とともに幅広い運動を展開すべき時期にきているといえる。
 このほか、住民にわかりやすく親しまれる下水道事業に名実ともに転換を図るため、 下水道用語、事業名称の見直し等について検討することも必要である。

(3)下水道の技術開発
 下水道の早急な整備と効率的な管理に対する要望が高まる一方、 下水道の果たすべき役割が多様化・高度化する中で、 下水道事業をこれまで以上に効率的に推進していくために、 他の専門分野からの技術移転や先進諸国との技術交流も図りつつ、 今後とも下水道技術の開発と実用化が重要である。
 このため、既に策定されている「下水道技術五箇年計画」に基づき、 優先度の高い課題の調査研究に土木研究所、日本下水道事業団等が中心となり、 民間企業も併せて集中的、重点的に取り組むとともに、 あわせて、必要な経費の確保、体制の整備を図っていく必要がある。
 また、新技術の実用化研究を推進するとともに、 開発された新技術を実際に下水道事業において活用・導入されるように環境の整備を図る必要がある。

(4)下水道における国際協力
 近年、発展途上国において、 し尿や生活排水が未処理なことによる生活環境の悪化や水質汚濁の問題が深刻化している。 このため、わが国に対して下水道に関する技術協力の要請が急増しており、 アジェンダ21等の国際的な動向を踏まえ、わが国もその技術力と経験を生かし、 途上国の要請に的確にかつこれまで以上に積極的に応えていく必要がある。
 このため、途上国への専門家の派遣や途上国技術者の日本国内での研修等をより一層推進するとともに、 これらを組み合わせた総合的な技術援助であるプロジェクト方式技術協力についても積極的に推進する必要がある。
 また、各途上国の状況に適した下水道技術の開発にも取り組む必要がある。

(5)執行体制の整備と事務の効率化
 下水道の整備と管理を円滑に実施していくため、 身近な生活環境の改善から公共用水域の水質保全などの広域的な課題まで、 下水道の有する機能に応じて、国、都道府県、市町村等が、適切な役割分担の下、 それぞれ執行体制の充実・強化を図ることが必要である。 この場合、特に、流域が複数の自治体にわたる広域的な閉鎖性水域の水質改善、 一水道事業者の範囲を超えた水道水源の保全など、 ある地域での汚水対策のあり方が他の地域に問題を引き起こす、 いわゆる外部不経済の問題等への対応においては、国や都道府県の主導的な役割が期待される。
 下水道法における国の権限の相当部分は既に都道府県知事に委譲されているが、 今後とも、広域的、技術


的な観点からの国の果たすべき役割、 地方公共団体の執行体制等を勘案しつつ、地方への権限委譲に努めていく必要がある。 この場合、国の関わり方については、国全体として整合のとれたシステムが必要な環境保全、 市町村ではまかなえない専門的サービスの提供という観点からとらえていく必要があろう。
 また、下水道事業を円滑かつ効率的に実施していくためには、計画・設計から施工、 管理にわたる各段階で民間分野のノウハウや技術力を活用していく必要がある。 このため、優良な民間業者を育成し、必要な技術水準の確保、 生産性の向上等を図っていく必要がある。
 各種事務手続については、たとえば、都市計画手続きとの関係など、 一層の事務の簡素化・効率化を図る必要がある。 特に、緊急に下水道を整備する必要がある場合について機動的、 弾力的な整備を進めるためには、それに対応した事務手続の見直しを図る必要がある。
 また、積算の体系・手法についてその客観性・妥当性を一層高めるとともに、 公正な下水道工事の入札・契約の実施を確保するために必要な手続きの見直し等をさらに進めるなど、 国民の下水道事業に対する信頼を維持していくよう、努めなければならない。

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