都市計画中央審議会基本政策部会中間とりまとめ(平成9年6月9日)


「今後の都市政策のあり方について」

要   旨


はじめに────────────────────────────────── 1

第一 都市政策ビジョン(仮称)─────────────────────── 1

第二 都市計画における役割分担のあり方について─────────────── 3

第三 市街地の土地利用計画制度のあり方について

    (土地利用計画小委員会中間取りまとめ)─────────────── 5

 はじめに

 社会経済情勢や都市構造の変化等を踏まえ、都市の健全な発展と秩序ある整備を図るため、都市生活者の視点に立った目指すべき将来像の提示、都市整備やこれを支える制度的な仕組みなど今後の施策の基本的方向等、今後の都市政策はいかにあるべきかについてこれを明らかにすることが求められている。  このため、都市計画中央審議会は、「今後の都市政策は、いかにあるべきか」について諮問を受け、基本政策部会を設置し、「都市政策ビジョン」、「都市計画における役割分担のあり方について」これまで審議を進めてきた。また、部会の下に土地利用計画小委員会を設置し、「市街地の土地利用計画制度のあり方について」専門的に審議を進めてきた。 これらの課題については、なお、検討途上にある事柄も多く残されているが、主要な課題と検討の方向について中間的に取りまとめるものとし、さらに必要な検討を行った後、本年末を目途に第二及び第三についての最終取りまとめを行うこととしている。

第一 都市政策ビジョン(仮称)

1 歴史的転換期を迎えた都市行政

 我が国の人口のピークが間近に迫る中、都市の拡張テンポの低下、郊外の自然を保全する動きの高まりがみられる。一方、都市の内部には解決すべき問題が数多く残されているとともに空洞化など新たな問題が出てきている。「都市化社会」から「都市型社会」への移行に伴い、都市の拡張への対応に追われるのでなく都市の中へと目を向け直して「都市の再構築」を推進すべき時期に立ち至っている。

 この都市政策ビジョンは、歴史的転換期の到来を踏まえ、国の側においては、都市政策の今後の方向に関する社会合意の形成、都市関係諸施策の立案の指針の提示という役割を持ち、一方、地方公共団体に対しては、国の考え方を押し付けるのではなく、それぞれが個性に応じた施策を検討する際の座標軸及び選択肢の提供という役割を有する。

2 都市をめぐる状況

 我が国の人口増加の終焉や、経済の低成長化等の経済構造の変化といった基礎的な変化の下で、都市・地域においては、都市の拡大速度の鈍化、地域間人口移動の減少、都市間の成長格差の拡大、中心市街地の空洞化等の変化がみられ、一方生活面でも、都市生活の広域化、環境問題への関心の高まり、住民の参加意識の向上等の変化が見られる。

3 総合行政による都市の再構築

 都市の中には人口や諸々の施設が集積し、国民の生活や企業の活動等が集中して行われ、相互に密接に関連している。この中で、従来の都市行政の枠内に止まらず、教育・文化、福祉、産業等の分野についても、無秩序に施設配置等が行われれば非効率的な投資等を招くおそれがある。このため、施設の立地、土地利用に関する部分について即地的・具体的な調整を行うことにより総合的な都市整備が可能となるよう、広範な分野を包含した指針としての都市政策が必要である。さらに、今後の投資余力の低下を踏まえ、あらゆる分野を通じ、都市という共通の場における総合的な施設整備の推進、土地利用の調整等により、無駄を排した効率的な都市整備を行い、「都市の再構築」を進めていくべきである。

4 新しい都市政策の視点

(1) 既成市街地の再構築と都市間連携

 従来、急激な都市化の圧力に対応して、郊外における新市街地整備及びそれに伴う都市基盤整備等を重点的に実施してきたが、今後は、都市周辺の自然を保全する必要性など環境問題への対応から、郊外部における新市街地整備等を抑制し、既成市街地の再構築に政策を集中することが必要である。その際、都市圏を一体として捉え、圏内のネットワーク整備による連携の強化を図りつつ、諸機能の配置について、各都市においてフルセットで整備するのでなく、都市圏を一体とした配置を図ることが必要である。

(2) 経済活動の活性化等に寄与する都市整備の展開

 地方都市の中心市街地の衰退・空洞化が進行しているなどの状況を踏まえ、従来広く行われてきたような、立地条件を整え製造業を中心とした工場誘致を行うといった、個別業種の事業者に着目した地域振興・経済活性化ではなく、都市機能の強化により、投資・生産・生活の場として、また、異業種間の交流を促進するなど起業の場として都市を整備し、もって経済構造改革に資することが必要である。このような都市政策の方向は、我が国経済全体の活性化にもつながるものであり、都市政策は、経済政策、産業政策の側面をも持つとの観点から再構成する必要がある。

(3) 環境問題、景観形成など新たな潮流への対応

 都市行政の一層の総合化が求められる中、環境、景観、高齢化、情報化など経済社会の新たな潮流と都市との関わりが増大し、的確な対応が必要となっている。なかでも環境問題は、身近な水や緑の保全・創出から温暖化、酸性雨など地球環境問題に至るまで広範な意味を持つものである。都市は資源・エネルギーの大量消費地であり、大気・水・土壌等の物質循環の中で環境に大きな負荷をかけていることから、今日、環境に係る問題は即ち都市の問題であって、環境と共生する都市の実現が重要である。また、都市に美しさが欠けているという不満は我が国の都市に対する基本的な不満であり、美しい景観形成に関する国民の意識は一層高まっている。さらに、急速に進む我が国の高齢化や、世界的規模の高度情報通信社会の形成等に対しても的確な対応が必要となっている。

5 都市行政における国・地方、行政・住民の役割分担

 都市行政においては、他の行政分野の多くとは異なり、様々な仕組みに関する「主体」及び「プロセス」に係る問題が施策の対象、内容そのものに劣らず重要である。

(1)国・地方

 一方、都市整備においては、小規模な施設整備など身近なものについては地方公共団体が行い、広域的・根幹的なものについては国が行うなど、国と地方が役割を分担しつつ連携して実施するのが基本であるが、地方公共団体の中でも特に地域の実情と地域住民の意向に詳しい市町村が中心となって行うことが重要である。一方、国には都市行政の基本的方向の提示、制度的枠組みの整備、補助金による地方公共団体の支援等の役割がある。

(2) 行政・住民

 プロセスを重視しつつ公民協働のまちづくりを進めるシステムの確立が必要であり、都市整備の各段階において、地方公共団体の判断でより柔軟な意見交換等ができるよう、運用・制度面での充実を図ることが重要である。また、より早期の段階での情報提供の充実、まちづくり協議会や都市プランナー等の活用も必要である。一方で、公共のために必要な広域的・根幹的な施設整備等については、最終的には行政の責任で実現するという強力なシステムも併せて不可欠である。

第二 都市計画における役割分担のあり方について

1 見直しの背景

 都市計画制度は、昭和43年の新法施行時に都市計画は全て地方公共団体において決定するといった抜本的変革がなされるなど、市町村の役割を拡大する方向で制度改正を進めてきた。

 近年、地域がそれぞれの個性や主体性を生かしたまちづくりの実現のため、市町村の果たす役割が期待されるなかで、国と地方の関係について平成7年に地方分権推進法が制定され、その後、地方分権推進委員会で検討が進められてきた。都市計画制度については、同委員会と連携を図る形で、基本政策部会において検討を進めてきたところである。

2 都市計画の事務の性格

 国と地方の役割分担の見直しに当たり、都市計画区域の指定、都市計画の決定等地方公共団体の行う都市計画に関する事務について、自治事務とすることとする。

 この事務の性格の変更に伴う課題について整理すれば、以下のとおりである。

(1) 条例との関係

 法律と条令との関係については引き続き検討を深める必要があるが、都市計画の内容については条例への委任が法律上明らかなものに限ってその制定が可能となっており、また、手続きとの関係では住民の意見反映措置について条例を制定することはあり得るものであるが、この仕組みは基本的には変わらないものであると考えられる。

(2) 議会の関与

 都市計画の決定に際し、都市計画地方審議会への付議、議決を要する市町村の建設に関する基本構想に即すること、住民手続きを経ること等の合理的措置が講じられており、議会の議決を義務付けるべきではないが、都道府県知事決定について、都道府県の自治事務とされた場合の議会の関与については、団体の自治に任せるべきである。

(3) 建設大臣の指示、代行

 現行の都市計画法第24条により、国の利害に重大な関係のある事項に関し、適切な決定変更等が行われない場合など必要があると認めるときは指示、代行ができる仕組みとなっているが、これは新法制定時に決定権限を全て地方公共団体に委譲したことに伴って設けられた措置であり、自治事務と整理した場合であっても同様の制度上の手当が必要である。

3 役割分担のあり方

(1) 都市計画の決定主体等 都市計画決定に当たっては、市町村が中心的な主体となるべきである。このため、都道府県が責任をもって定めないと適切に計画を定めることができない「市町村の区域を越える広域的・根幹的な都市計画」に限って、都道府県において決定するとの観点から、都市計画決定を行う主体の区分を見直し、基本的には以下のとおり市町村の役割を一層拡大する。

@ 都市計画の根幹的制度である都市計画区域の指定、線引きは、都道府県において定め、国と合意を必要とする事前協議を行う。

A 用途地域については三大都市圏の既成市街地、近郊整備地帯等と政令指定都市 の区域を含む都市計画区域に限って都道府県決定(ただし政令指定都市の区域は当該政令指定都市の決定)とし、他は全て市町村決定とする。

B 都市施設に係る都道府県決定の範囲を、市町村道等について、幅員16m以上と されているものを四車線以上の幅員に、公園緑地について、面積4ha以上とされているものを10ha以上に、それぞれ引き上げる。

C 市街地開発事業に係る都道府県決定の範囲を、土地区画整理事業については20 ha超を50ha超に、市街地再開発事業については1ha超を3ha超に、それぞれ引き上げる。

(2) 政令指定都市の決定権限の拡充

 政令指定都市については、都市の規模、都市機能の集中実態、他の事務の委譲状況等を踏まえ、都市計画区域の指定、線引きの決定を除き、原則として政令指定都市が決定することとする。

(3) 市町村と都道府県、都道府県と国との調整

 市町村と都道府県の調整は同一の区域で複数の主体が定める都市計画を一体的なものとして定めるよう、都道府県と国との調整は広域的・国家的観点から適切に計画が定められるよう、いずれも計画の内容が不当でないかまで、合意を必要とする事前協議により行うこととする。

(4) 市町村における審議会の法定化

 市町村の都市計画決定の役割の拡大に対応し、また、審議会の設置状況を踏まえて市町村における審議会を制度的に位置付け、都道府県と市町村の手続きの円滑化、機動的な決定を可能とする。

(5) 国と調整を要する範囲

 現在、国の認可が必要とされている地域の範囲については、三大都市圏の既成市街地、近郊整備地帯等は引き続き国が関与することとするが、三大都市圏の都市開発区域及び新産・工特の区域は、政府全体の政策的位置付けを踏まえて必要な措置を講ずるとともに、人口規模要件によりその範囲が定められている市の区域について、現在、人口10万以上で建設大臣が指定するものとされているが、これを人口30万以上に引き上げる。

4 視点の明確化

 市町村の定める都市計画と都道府県との調整は、都道府県の定める都市計画との適合性、市町村間の広域的調整の観点から、都道府県の定める都市計画と国との調整は都道府県の区域を越えた広域的観点、国土政策や国の利害に関係があるかという国家的観点から行うこととし、いずれも後見的関与を排除する。

5 引き続き検討すべき課題

(1) マスタープランの充実

 新市街地の形成を中心とする都市づくりから、既成市街地の整備を中心とする都市づくりに移行する時期にあっては、今まで以上に住民の合意の下に長期的な視点からの将来の都市像や市街地像を明らかにすることが求められてきており、都市計画決定や都市整備のプログラムの提示、住民意見の反映等の課題について検討を深めつつ、マスタープランの充実について検討する。

(2) 執行体制の充実と都市計画の専門家の活用 市町村の役割の拡大に対応し、執行体制の充実を図るとともに都市計画制度の活用が一層図られるよう、都市計画の専門家の位置付けと育成、活用を検討する。

第三 市街地の土地利用計画制度のあり方について

1 基本的視点

 土地利用計画制度の見直しに当たっては、特に既成市街地の再整備の推進に配慮しつつ、社会構造の変化に的確に対応するとともに、地方公共団体にとって地域の実情に応じ柔軟で使いやすく、住民にとって計画・規制の趣旨が十分理解でき、都市開発事業者にとって活力を適切に発揮でき、これらの結果、各主体の積極的な参画・協力を通じて計画の決定とその目標の着実な実現が図られるよう、枠組みの整理と制度の充実を図ることが必要である。

 この場合、制度の基本的あり方としては、私権制限の公平、環境等に係る最低水準の確保の観点から全国共通に適用する枠組みを備える一方、地域の実情を適切に反映し得る柔軟さを備えたものであることが必要がある。

2 具体的課題と検討の方向

(1) 用途地域の容積率について  

 国が定めたメニューから選択して都市計画で定めることとなっているが、地方公共団体がより適切な数値を設定できるよう制度のあり方について検討する。また、低層住居専用地域に立地する戸建て住宅等について、形態規制を重視する方向で密度コントロールのあり方を検討する。

(2) 用途地域等による用途規制について

 特別用途地区について、市街地環境確保への多様な要請に機動的かつ効率的に対応するための制度のあり方について検討する。

(3) 地区計画制度について

 地区計画制度を活用して、多様な市街地において地区の特性に応じた計画の策定と計画の目標の着実な実現を図るため、計画・規制制度の充実、制度の簡素化、計画実現力の充実が必要である。

 @ 計画・規制制度

  イ 地区計画の強制力に関し条例など地方議会の意思決定との関係のあり方について検討する。

  ロ 建築物など土地利用に関して定めることができる計画事項の追加について検討する。

  ハ 6種の地区計画制度の計画策定、届出・勧告に係る手続き等をできる限り共通化する方向について検討する。

  ニ 未線引き都市計画区域内の用途地域未指定区域についても計画策定を推進することを検討する。

  ホ 地区計画の都市計画決定は住民の全員合意が要件となっているとの誤解があるが、住民の意見反映について制度運用上の目安を整理することにより、地区計画の適切な決定を促進することを検討する。

 A 推進手法

  イ 市街地の整備方策に関する住民合意について、地区計画において位置付けることができるようにすることなどを検討する。

  ロ 住民の自主的なまちづくりの推進や地方公共団体による多様な施策の展開のため、整備組合、整備推進機構の制度の適用の拡大を検討する。

  ハ 市街地整備に必要な土地の譲渡、交換等に係る住民負担について、政策上の必要性から相当の負担を課すこととなる場合の軽減方策を検討する。

  ニ 地区施設等の整備については、国においても、積極的に財政・金融・税制上の支援措置を講じる必要がある。

(4) 既成市街地の再整備の推進の観点からみた土地利用計画制度のあり方について

 各種事業を積極的に推進するとともに、土地利用計画制度においても、地区としてのまとまりの中で市街地構造や土地利用形態を望ましい方向に誘導できるような枠組みを充実する必要がある。

 @ 道路整備・道路空間確保のための方策

 区画道路の整備や幹線道路用地の円滑な確保を図るため、また、建築敷地や建築空間の一部を活用し、ゆとりある歩行者空間の確保を図るため、地区計画制度の活用など、そのための方策を検討する。

 A 土地利用と道路の関係

 地区の状況に応じた建築敷地と道路の関係を形成できるよう、地区計画制度により接道ルール等の計画を位置付けることについて検討する。