都市計画中央審議会基本政策部会中間とりまとめ(平成9年6月9日)


「今後の都市政策のあり方について」

全  文


今後の都市政策のあり方について

          中間取りまとめ(目次)

はじめに──────────────────────────────────  1

都市計画中央審議会基本政策部会委員名簿───────────────────  2

都市計画中央審議会基本政策部会土地利用計画小委員会委員名簿─────────  3

都市計画中央審議会基本政策部会における検討経緯───────────────  4

都市計画中央審議会基本政策部会土地利用計画小委員会における検討経緯─────  6

第一 都市政策ビジョン(仮称)───────────────────────  7

 T 歴史的転換期を迎えた都市行政─────────────────────  7

 U 都市をめぐる状況───────────────────────────  8

 V 総合行政による都市の再構築────────────────────── 10

 W 新しい都市政策の視点───────────────────────── 10

 X 都市行政における国・地方、行政・住民の役割分担──────────── 14

第二 都市計画における役割分担のあり方について─────────────── 18

 T 今回の見直しの背景────────────────────────── 18

 U 見直しの基本的方向────────────────────────── 19

 V 都市計画の事務の性格───────────────────────── 20

 W 役割分担のあり方─────────────────────────── 23

 X 都市計画決定手続きの透明化、円滑化等───────────────── 27

第三 市街地の土地利用計画制度のあり方について─────────────── 31

 T 検討の経緯────────────────────────────── 31

 U 基本的視点────────────────────────────── 31 

 V 制度の体系と基本的あり方について─────────────────── 32

 W 具体的課題と検討の方向──────────────────────── 33

 X 今後の検討の進め方────────────────────────── 36

はじめに

 近年、高齢化・少子化の急速な進展、国民ニーズの多様化・高度化、経済の空洞化と低成長の持続など、都市を取り巻く社会経済情勢が大きく変化するとともに、地方都市の人口減少や中心市街地の空洞化など、都市構造についても大きな変化が生じてきている。

 このような社会経済情勢や都市構造の変化等を踏まえ、都市の健全な発展と秩序ある整備を図るため、都市生活者の視点に立った目指すべき将来像の提示、都市整備やこれを支える制度的な仕組みなど今後の施策の基本方向等、今後の都市政策はいかにあるべきかについて明らかにすることが求められている。

 このため、都市計画中央審議会は、平成7年7月に建設大臣から「今後の都市政策は、いかにあるべきか」について諮問を受け、同年9月に基本政策部会を設置、以来、13回の部会を開催してきた。

 基本政策部会では、この間、都市政策の今後のあり方について国の基本的考え方を明らかにする「都市政策ビジョン」を審議しつつ、地方分権推進委員会における検討と連携を図りながら、「都市計画における役割分担のあり方について」の審議を進めてきたところである。

 また、土地利用計画制度について、制度の充実を図ることは、地域の実情に応じたまちづくりを進めていく上で重要であるが、土地利用計画と密接に関連する建築規制のいわゆる「集団規定」について、建築審議会建築行政部会において平成8年3月に市街地環境分科会を設け、「良好な市街地形成のための建築規制の在り方について」の検討が進められてきた。このため、建築審議会での審議と調整を図りつつ検討を進めるよう、平成8年10月に本部会の下に土地利用計画小委員会を設け、「市街地の土地利用計画制度のあり方について」専門的に審議を進めてきたところである。

 これらの課題については、なお検討途上にある事柄も多く残されているが、これまでの審議の結果明らかにされた主要な課題と検討の方向について、中間的に取りまとめるものとする。

 基本政策部会においては、今後、この中間取りまとめに対し、地方公共団体を始め関係各位のご意見を幅広く頂きながら、さらに必要な検討を行った後、本年末を目途に、「都市計画における役割分担のあり方について」及び「市街地の土地利用計画制度のあり方について」の最終取りまとめを行うこととしている。

都市計画中央審議会基本政策部会

部 会 長   伊藤  滋   慶応義塾大学大学院教授  

委  員   稲本洋之助   明海大学不動産学部教授

   〃    井上  繁   日本経済新聞社論説委員

   〃    金平 輝子   東京都歴史文化財団理事長

   〃    宮繁  護   (財)道路施設協会理事長

   〃    川島 正英   (株)地域活性化研究所代表

   〃    黒川  洸   東京工業大学大学院教授

   〃    河野 光雄   内外情報研究会会長

   〃    小林 重敬   横浜国立大学工学部教授

   〃    佐々木 毅   東京大学大学院教授

   〃    塩野  宏   成蹊大学法学部教授

   〃    横島 庄治   日本放送協会解説委員

都市計画中央審議会基本政策部会「土地利用計画小委員会」

【委  員】

伊藤  滋  慶応義塾大学大学院教授

稲本洋之助  明海大学不動産学部教授

岩田規久男  上智大学経済学部教授

大方潤一郎  東京大学工学部助教授

黒川  洸  東京工業大学大学院教授

小林 重敬  横浜国立大学工学部教授

塩野  宏  成蹊大学法学部教授

西谷  剛  横浜国立大学大学院教授

宮澤美智雄  (財)社会開発総合研究所理事長

柳沢  厚  横浜国立大学非常勤講師

○都市計画中央審議会基本政策部会における検討経緯

第1回 平成7年9月18日(月)

    ・諮問及び検討事項について

    ・審議の進め方について

    ・今後の都市政策の基本的方向について

第2回 平成7年11月1日(水)

    ・環境の変化を踏まえた都市政策の基本的方向と都市行政の取り組みについて

第3回 平成7年12月15日(金)

    ・都市計画と地方分権について

第4回 平成8年2月29日(木)

    ・都市計画制度のあり方について(東京都武蔵野市長、東京都中央区長、京都府園部町長からヒアリング)

第5回 平成8年4月23日(火)

    ・地方分権推進委員会中間報告について

    ・都市計画制度のあり方について(兵庫県知事、神奈川県横浜市長、山形県金山町長からヒアリング)

第6回 平成8年6月13日(木)

    ・都市計画の役割分担に関する検討課題について

第7回 平成8年7月16日(火)

    ・都市計画に関する国の関与のあり方についての検討

第8回 平成8年9月26日(木)

    ・都市計画中央審議会基本政策部会の今後の運営について(土地利用計画小委員会の設置)

    ・地方分権推進委員会における検討状況について

第9回 平成8年11月8日(金)

    ・都市計画における役割分担について

第10回 平成9年2月24日(月)

    ・都市計画制度の今後の目指すべき方向について

    ・都市計画に関する最近の動きについて

第11回 平成9年4月16日(水)

    ・都市計画における役割分担のあり方について

    ・都市政策ビジョン(仮称)について

第12回 平成9年5月14日(水)

    ・都市計画における役割分担のあり方について

    ・都市政策ビジョン(仮称)について

第13回 平成9年6月2日(月)

    ・今後の都市政策のあり方について(中間取りまとめ)について

○都市計画中央審議会基本政策部会土地利用計画小委員会における 検討経緯

第1回 平成8年10月4日(金)

    ・検討の進め方について

    ・用途地域制度と容積率制限等について

    ・地区計画制度について

第2回 平成8年10月31日(木)

    ・検討の視点と課題について

    ・用途地域制度、地区計画制度について

第3回 平成9年2月12日(水) (建築審議会建築行政部会市街地環境分科会小委員会との合同会議)

    ・住宅市街地の在り方と建築物の密度コントロールについて−住宅市街地に係る課題が顕著な大都市部を中心として−

第4回 平成9年2月28日(金) (建築審議会建築行政部会市街地環境分科会小委員会との合同会議第2回)

    ・都市における居住空間の再構築について−容積率を中心として−

    ・地域特性を踏まえた都市計画・建築規制の充実について

第5回 平成9年4月7日(月)

    ・市街地の土地利用計画制度の体系について

    ・密度コントロール手法について

第6回 平成9年5月19日(月)

    ・地区計画制度について

    ・市街地整備、特に既成市街地の再整備の推進の観点からみた土地利用計画制度の在り方について

第7回 平成9年5月30日(金)

    ・市街地の土地利用計画制度のあり方について(中間取りまとめ)について

第一 都市政策ビジョン(仮称)

T 歴史的転換期を迎えた都市行政

(歴史的な転換)

 我が国の発展は都市化と軌を一にしてきた。特に戦後の高度成長期には都市化が急激に進展し、都市行政は郊外の新市街地整備を中心として、増大する人口の受け皿づくりに追われてきた。しかしながら、今日、その流れが大きく変わろうとしている。我が国の人口のピークが間近に迫る中、都市の拡張テンポが低下してきており、加えて郊外の自然を守ろうとする動きはかつてなく強い。一方で都市の内部には、大都市、地方都市を問わず解決すべき問題が数多く残されているとともに空洞化など新たな問題が出てきている。人口、産業が都市へ集中し、都市が拡大する「都市化社会」から、都市化が落ち着いて産業、文化等の活動が都市を共有の場として展開する成熟した「都市型社会」への移行に伴い、都市の拡張への対応に追われるのでなく都市の中へと目を向け直して「都市の再構築」を推進すべき時期に立ち至ったものということができる。

(総合行政による都市の再構築)

 こうした認識に立って都市問題を見るとき、そもそも都市の本来持っている性格が一層強くなって現れていることがわかる。すなわち、都市という限定された地域の中には人口や諸々の施設が集積し、生産活動、消費活動等が集中して行われ、相互にプラス、マイナスの影響を及ぼすなど密接に関連している。したがって、行政の立場からは、それぞれ個々の施設ごとに対応するのではなく、都市行政において総合的に捉えることが必要である。総合行政を計画的に推進することにより、いま行政に対し国民から要請されている効率的な行政も可能になってくる。

(都市の歴史・文化など個性の尊重)

 都市は、その地域固有の歴史・文化等を持った本来個性的なものである。総合行政により都市の再構築を進める際には、各都市の個性を尊重し、地方公共団体の実施する施策に選択肢を用意することにより、都市の多様なあり方を実現することのできる都市政策を推進するとともに、住民の広範な参加と協力を求め、その意見の適切な反映を図っていくべきである。

(都市政策ビジョンの役割)

 都市政策ビジョンは、歴史的転換期において、都市行政に関わる様々な主体にとって今後の方向が見通しにくくなっている状況を踏まえ、次のような趣旨の下に今後の都市政策の基本的方向を明らかにしようとするものである。

○ 都市政策の今後の方向について国の基本的な考え方を明らかにし、社会合意の形成を図る。

○ 国における都市関係諸施策の立案の指針とし、整合的・総合的な施策展開を図る。

○ 地方公共団体に対しては国の考え方を押し付けるものではなく、それぞれが個性に応じた施策を検討する際に自らの位置をよりよく把握するための座標軸及び施策実施の際の選択肢を提供する。

 なお、まちづくりの中心的な担い手である地方公共団体に対しては、本ビジョンを参考にしつつ、それぞれの状況を分析するとともに住民の参加と理解を得て将来の都市像を描き、的確な施策を推進することが期待される。

U 都市をめぐる状況

1 社会・経済をめぐる状況の変化

(人口増加の終焉と高齢化)

 我が国の人口増加ペースは低下してきており、人口は約10年後にピークに到達した後、減少に転ずると推計されている。また、諸外国に例を見ない急速な高齢化が進行しており、我が国の投資余力は低下していくものと考えられる。これらは、今後の都市問題を変容させる基本的な要因である。

(経済構造の変化)

 バブル経済の崩壊以後、我が国経済の低成長の時期が長期化しており、また、土地についても長期にわたり地価が下落し続けるなど、「右肩上がり」が期待できない時代になってきている。また、経済のサービス化が進むとともに、円高の影響等により製造業の海外移転が進み、移転企業に関連する国内の中小企業の集積の衰退を招いている。

2 都市・地域をめぐる状況の変化

(都市の拡大・人口増の鈍化)

 我が国の市街地(人口集中地区)は、面積及び人口のいずれもが拡大し、密度を低下させつつ規模を拡大してきたということができる。しかしその傾向も近年は落ち着きを見せている。

(地域間人口移動の減少)

 高度成長期には地方から三大都市圏、中でも東京圏へ人口が転入していたが、近年では東京圏への転入の低下が続いてきた。また、各都道府県の間でも人口移動が減少傾向にあるとともに、地方圏における社会減市町村数のシェアは近年低下を続けるなど、地域間の人口移動は総じて減少傾向にある。

(都市間の成長格差の拡大)

 全国の都市における人口増減の動向を見ると、人口の少ない都市においては人口減の都市の割合が大きいなど、ある程度の集積やポテンシャルのない都市においては発展を続けるのが難しくなっているとみることができる。なお、東京圏内においては人口が少なくても人口減の都市の割合は小さく、東京の集積、活力の広域的な影響が大きいものと考えられる。

(中心市街地の空洞化)

 都市の中心市街地において、人口減少等により空洞化が生じている。東京を含め大都市においては、居住人口が減少し、生活者に古くから根付く歴史・文化の喪失、コミュニティの崩壊等の問題が生じており、また、業務・商業・居住のバランスも損なわれるとともに、長時間通勤、低未利用地の発生等の問題も深刻なものとなっている。また、地方都市においては、魅力の低い市街地環境、駐車場・交通アクセスの不備等により、大型商業施設や官公庁施設、文化・福祉施設等の郊外立地の進展、人口の減少・高齢化、低未利用地、空店舗の増加等の問題が発生し、市街地の衰退・空洞化が進行している。

3 都市生活をめぐる状況の変化

(都市生活の広域化)

 交通基盤の整備等に伴い、自市町村外への通勤通学者の割合が大都市圏・地方圏を問わず伸び続けているなど、生活の広域化が進んでいる。また、公的な施設等について、近隣の市町村にあれば必ずしも自市町村で整備しなくてもよいとする考え方も強くなっており、周辺の他市町村との連携が重要になっている。

(身近な生活環境や地球環境問題への関心の高まり)

 「生活の便利さ」と比較して「自然とのふれあい」を求める傾向が強くなっており、今後の国土づくりにおいても自然環境の保全に力を入れるべきとする意見が大きくなっているなど、身近な緑や水、空気等への関心が高まっている。さらに、地球の温暖化、オゾン層の破壊、熱帯林の減少、酸性雨等の地球規模の環境問題が顕在化するにつれ、都市の住民としても無関心ではいられない状況となっている。

(住民の参加意識の向上)

 「物の豊かさ」と「心の豊かさ」を比較した場合、後者を選ぶ意見はほぼ一貫して増え続けている。また、社会に対し貢献したいという意識は増加傾向にあるが、阪神・淡路大震災の影響等もあり、ボランティア活動が活発化するとともに、まちづくり等への住民の参加意識が向上している。

V 総合行政による都市の再構築

1 現状

 都市という限定された地域の中には人口や諸々の施設が集積し、国民の働き、学び、楽しむといった生活や企業の投資、消費、生産等が集中して行われ、相互にプラス、マイナスの影響を及ぼすなど密接に関連している。この中で、道路、公園、下水道等の施設整備、土地利用計画、市街地整備事業など従来の都市行政の枠内に止まらず、教育・文化、福祉、産業等の分野についても、無秩序に施設配置等を行う場合には、相互にマイナスの影響を及ぼしたり非効率的な投資等を招くおそれが大きい。縦割り行政など現在の行政に向けられている批判には、こうした現状から出てくるものも多いと考えられる。

2 改革の方向

 今後は、これらの施設の立地、土地利用に関する部分について即地的・具体的な調整を行うことにより、都市生活・都市活動を支える総合的な都市整備が可能となるよう、広範な分野を包含した指針としての都市政策が必要である。さらに、少子化・高齢化の進展により中長期的にみて施設整備等に対する投資余力がなくなってくると考えられており、あらゆる分野を通じ、都市という共通の場における総合的な施設整備の推進、土地利用の調整等により、無駄を排した効率的な都市整備を行い、「都市の再構築」を進めていくべきである。その際には、国のレベルでの総合化を図るだけでなく、総合的な行政主体である地方公共団体に対して都市計画を含めて関係行政分野の権限委譲、関与の削減を進め、地方レベルでの総合的な観点からの行政を推進する必要がある。

W 新しい都市政策の視点

 以上に述べた都市をめぐる環境の変化を踏まえ、また、行政を総合的に推進することを常に念頭に置きつつ、今後の都市政策を考える上で特に重要な視点は以下の3点に整理される。

1 既成市街地の再構築と都市間連携

(1) 背景

 @ 都市圏の形成

 交通基盤の整備や情報化の進展により、市民の意識・行動や企業の活動は広域化している。市民にとっては、必ずしも自分の住む都市ですべてのサービスを享受できなくても、サービスの種類によっては近隣の地域で充足できればよいとする傾向がみられる。こうして都市が周辺の地域と一体となって住民や企業のニーズを充足する都市圏の形成が進行しており、都市圏を一つの単位として捉えることにより都市間の連携、機能分担を図ることが可能な状況になっている。全国的にみて、発展している都市には一定規模以上の人口があるのが一般的であるが、多くの都市では人口増加が望めない以上、周辺地域と一体となることにより一定の人口規模を有する都市圏として機能を高めていくことが重要である。なお、都市活動の広域化を踏まえ、周辺地域を含め全体でこれらの活動をどのように統御するかという観点も必要になっている。

 A 人口増加の終焉と環境保全の意識の高まり

 我が国の人口増加は約10年で終焉すると推計されており、都市への人口の転入の減少と相まって郊外における新市街地整備の圧力が低下している。加えて、郊外の緑地等の良好な自然環境を享受したいという欲求など広範な自然環境保全に対する意識も高まっている。

 B 中心市街地の空洞化等の進行

 この中で、大都市にあっては、都心の人口減少等に伴い、コミュニティの崩壊、低未利用地の発生等が生じ、また、遠距離通勤も依然大きな問題である。さらに、密集市街地の防災上の危険性は従来から存在したが、阪神・淡路大震災により、多くの人々が強く認識するに至った。また、地方都市を中心として、中心市街地の衰退・空洞化が進行している。

(2) 改革の方向

 @ 既成市街地の再構築への政策の集中

 従来、急激な都市化の圧力に対応して、郊外における新市街地整備及びそれに伴う都市基盤整備等を重点的に実施してきたが、今後は、都市周辺の自然を保全する必要性や、効率的に都市を整備し環境負荷の小さい都市づくりを進める観点など環境問題への対応から、郊外部における新市街地整備をはじめとする都市開発を抑制し、既成市街地の再構築に政策を集中することが必要である。また、我が国全体の経済構造改革に資するため、都市の活力を効果的に維持・向上させる観点からも、既存のインフラが活用できる既成市街地に限られた資源を投入することが重要である。

 A 具体的な施策の方向

 具体的には、国土構造、大都市圏構造の再編につながる事業を除き、郊外型の新規開発への支援は抑制する方向へ転換し、既成市街地の再構築と都市圏でのネットワーク整備に重点投資を行う必要がある。その際、諸機能の配置については、各都市においてフルセットで整備するのでなく、都市圏を一体とした配置を図ることが必要である。特に、活力ある中心市街地の整備に向けて、都市機能の集積・再配置、都心環状道路等の交通基盤施設の整備、都心住宅の整備、街路、公園、下水道等の都市基盤の整備、公益施設の街なか立地等を促進するため、計画・事業制度の充実により、既成市街地で都市機能を集積・再配置して都市を積極的に造り変える「ダイナミックな都市計画」への転換を図るべきである。また、再構築の前提となる安全・防災等の確保という観点からは、防災公園等の避難地・避難路の整備や建築物の不燃化、下水道の増強・耐震化など既存ストックの再構築、密集市街地の都市防災構造化を実現するプロジェクトへの都市計画制度の展開、事業、予算等の投入を実施する必要がある。  なお、これらの施策は、大都市、地方都市を通じ、また、郊外にスプロールして形成された市街地を含めて実施すべきである。

2 経済活動の活性化等に寄与する都市整備の展開

(1) 背景

 @ 経済のグローバル化による空洞化

 経済のグローバル化の進行により、企業が立地に際し国境を越えて都市を選ぶ時代になっており、産業が空洞化するおそれがある。各地の臨海部等においては大規模工場が移転した後、遊休化が生じるなど、都市の国際競争力の有無はまちづくりの上からも重要になってきている。

 A 構造改革の必要性

 少子・高齢化の進展に伴い、長期的には労働力、資本の不足が見込まれる一方で、我が国が発展させるべき高付加価値型の新規成長産業は不足又は未成熟である。経済の成長を持続させるためには都市のあり方等を含め、国際的なスタンダードを意識しつつ経済社会のあらゆる面の構造改革が必要となっている。

 B 地方都市の中心市街地の衰退・空洞化

 また、人口増加の終焉が間近に迫り、地域マーケットの伸びの鈍化によって地域経済の活力が減退する中で、特に地方都市の中心市街地において、居住人口の減少、高齢化や、大型商業施設、文化・福祉施設等の郊外立地、交通アクセスの不備等により商店街の空き店舗の増加など中心市街地の衰退・空洞化が進行している。

(2) 改革の方向

 @ 都市機能の強化による経済構造改革

 従来広く行われてきたような、立地条件を整え製造業を中心とした工場誘致を行うといった、個別業種の事業者に着目した地域振興・経済活性化ではなく、都市機能の強化により、投資・生産・生活の場として、また、異業種間の交流を促進するなど起業の場として都市を整備し、もって経済構造改革に資することが必要である。併せて、雇用の場の確保の重要性にも配慮しつつ施策を推進することが重要である。

 A 具体的な施策の方向

 このため、1で述べた「既成市街地の再構築」を推進し、活力ある中心市街地の整備を図るとともに、政策的な区域において民間投資を促進する仕組みの構築や、都市の再構築を通じて民間投資の条件整備を図る面的整備手法の制度的枠組みの充実を図ることも重要である。これらと併せ、都市内交通の円滑化、空港、港湾等へのアクセスの強化等物流の効率化や、光ファイバー等の高度な情報通信インフラの整備も必要となる。

 B 経済政策等としての都市政策

 このような、投資、生産、生活、起業等の場として都市を捉える都市政策の方向は、我が国経済全体の活性化にもつながるものであり、都市政策は、経済政策、産業政策の側面をも持つとの観点から再構成する必要がある。

3 環境問題、景観形成など新たな潮流への対応

(1) 背景

 @ 環境問題の重要性

 都市行政の一層の総合化が求められる中、環境、景観、高齢化、情報化など経済社会の新たな潮流と都市との関わりが増大し、的確な対応が必要となっている。中でも環境問題は、身近な水や緑の保全・創出から温暖化、酸性雨など地球環境問題に至るまで広範な意味を持つものである。都市は資源・エネルギーの大量消費地であり、大気・水・土壌等の物質循環の中で環境に大きな負荷をかけていることから、今日、環境に係る問題は即ち都市の問題であって、環境と共生する都市の実現が重要な課題である。

 A 景観・高齢化・情報化

 また、都市に美しさが欠けているという不満は我が国の都市に対する基本的な不満であり、先進諸国の都市との比較の上でも、美しい景観形成に関する国民の意識は一層高まっている。さらに、急速に進む我が国の高齢化や、世界的規模の高度情報通信社会の形成等に対しても、都市政策の上で的確な対応が課題となっている。

(2) 改革の方向

 @ 環境問題への対応

 環境問題については、これまでのような自然に過度に依存した資源エネルギー多消費型の都市構造を見直し、自己完結型の都市構造を志向するとともに、風や水などの自然の循環を適切に都市に取り入れ、かつ、生物多様性が確保された豊かな環境と都市における高次の社会経済活動が高いレベルでバランスした都市づくりを進める必要がある。  具体的には、都市行政の中で環境面への影響を評価する都市計画アセスメントを積極的に推進することが不可欠である。さらに、自然環境の保全等に配慮した土地利用を実現するための土地利用計画の充実や、望ましい都市構造のための総合都市交通体系の確立、水循環の確保と水環境の演出、多様なエネルギーの活用と省エネルギーシステムの定着、リサイクルの推進、河川、都市下水路、公園緑地などを全体として計画・管理し水と緑のネットワークとして広域的な視点から保全・整備するための制度の充実などが必要である。また、身の回りの道路、公園等の空間を質の高いオープンスペースとして体系的に整備していくことも重要である。  なお、これらの施策の実施に当たっては、行政における取組と、都市住民一人一人や個々の企業の取組とを総合的に実施することが重要であり、このために必要な情報提供、各種活動への支援、地域にとって身近な技術開発への支援等の充実が必要である。

 A 景観・高齢化・情報化への対応

 景観については、文化財等の歴史的資産の保全と活用や屋外広告物制度の拡充を図るなどにより、それぞれの地域の風土を尊重して美しい景観の形成を図る必要がある。また、高齢化については、市街地における面的なバリアフリーの徹底による高齢者の活動しやすい環境づくりが重要であり、情報化については、高速大容量通信を可能にする通信ネットワークを都市に不可欠なインフラとして整備していくことが必要である。

X 都市行政における国・地方、行政・住民の役割分担

 都市行政においては、他の行政分野の多くとは異なり、様々な仕組みに関する「主体」及び「プロセス」に係る問題が施策の対象、内容そのものに劣らず重要である。特に昨今は地方分権、情報公開、公民協働等が行政をめぐる大きな流れとなっており、以下ではその主要な論点について整理しておくこととする。

1 国・地方

(1) 地方の自主性の尊重

 都市整備においては、小規模な施設整備など身近なものについては地方公共団体が行い、広域的・根幹的なものについては国が行うなど、国と地方が役割を分担しつつ連携して実施するのが基本であるが、地方公共団体の中でも特に地域の実情と地域住民の意向に詳しい市町村が中心となって行うことが重要である。

(2) 国の役割

 一方、国には以下のような役割がある。

 @ 都市行政の基本的方向の提示

 社会経済構造の変化の中で、防災、環境等に関するナショナルミニマムの実現など一定の政策目標について我が国の限られた資源、投資余力を効率的に活用していくため、我が国の都市の再構築など国として誘導すべき都市行政の基本的方向を示す。

 A 都市計画制度や事業制度の法的枠組みの整備

 都市行政においては市民の建築・開発活動に対して予め計画的に制限を行うとともに、公共施設等については最終的には強制力をもって行政が実現できる仕組みが必要であり、財産権の制限や、収用権等の強制権を持った制度については、国が法制度として整備する。  特に土地利用計画制度については、地方公共団体にとって使いやすく、住民にとって分かりやすいものとなるよう、枠組みの整理と制度の充実を図ることが必要である。

 B 補助金による地方公共団体の支援

 1)一の地方公共団体を越える広域的な観点からの施設整備、2)ナショナルミニマム実現のための施設整備、3)国家的プロジェクト等に関連して必要となる集中投資、4)一時的に集中的な投資が必要となる事業、5)先導的な施策の重点実施、などについては、補助金の仕組みにより国が支援する。その際、費用効果分析を考慮して一層的確な支援を図ることはもとより、鉄道の立体化等の基幹事業と他事業の連携のパッケージ化など、より効果的な事業の推進を図る。

 特に、「都市の再構築」を進めるに当たっては、国土構造のあり方について「都市圏の集合体」と捉え、国土レベルの見地から各都市圏の発展のための平等な競争条件としての社会資本を整備するとともに、都市圏レベルでは、その中心都市における既成市街地の再構築と周辺都市・地域とのネットワークの整備を進めることが国の役割として重要である。

 なお、都市計画制度の中では、具体の事業について総合的な視点から調整を図り、住民参加手続を経てオーソライズするとともに、最終的には強制権で実現する手段を用意している。これは、上記の目的を確実かつ適切に実現できる仕組みであり、今後ともその充実を図っていくことが必要である。

 C 国の個別関与

 都市行政は地方公共団体が中心となって遂行すべきものであるが、以下に限っては国の個別関与が必要である。 1) 高速道路など広域的・根幹的施設や大都市地域の都市計画などについての広域的 ・国家的観点からの調整 2) 都市計画事業、土地区画整理事業等については、収用権等の強制権を付与するこ とから、事業者以外の第三者が関与することが必要であり、都道府県の事業につい ては国が関与することが必要。

 D 国の直轄事業

 大都市圏の骨格となる道路等の国家的な見地から整備する施設については、地域の他の施設、土地利用等と関係があることから、地方公共団体と十分な調整を取りつつ、国が直轄事業として実施する。

 E 公団事業

 Dと同様に国家的見地から、大都市圏の骨格となる道路や広域的な河川との一体的な整備を行う都市再開発、広域的な都市構造を変革するための拠点的な事業、密集市街地の再整備など国民の生命、安全、財産に係るもので地方公共団体の体制等の問題から早急な対応が困難なものについては、国の機関として公団が取り組む。

(2) 都市整備の将来見通し

 今後見込まれる投資余力の低下を踏まえつつ、各分野の社会資本整備、都市整備について、いつまでにどれだけ行うべきかを明確にするため、国において整備目標を設定することが一層重要となってきている。これは必ずしも各都市における都市整備を一律に規定するものではなく、国家的観点から作成された目安を持つことは、地方公共団体にとっても有益と考えられる。その際には、事業を行う行政の立場から必要事業量として表現するのではなく、国民が生活の中で実感できる分かりやすいものとするよう配慮することが必要である。

2 行政・住民

(1) プロセスを重視した公民協働のまちづくりの推進

 都市住民の間におけるまちづくりに対する参加意識の向上や、地域固有の多様なニーズに関するきめ細かな対応の必要性の増大、都市という限定された場において高密度に居住すること等による利害対立の先鋭化等を踏まえ、プロセスを重視した公民協働のまちづくりを進めるシステムの確立が必要である。このため、都市整備の各段階において、地方公共団体の判断でより柔軟な意見交換等ができるよう、運用・制度面での充実を図ることが重要である。さらに、これらの施策と併せて、街並みとの関係を重視した土地利用や、共同住宅の住まい方、身の回りの公共空間の整備方法など、都市型社会にふさわしい住民の意識の醸成に努めることも重要である。

(2) 情報公開

 住民の理解と協力を得つつ都市整備を進めるためには、都市計画のより早期の段階での情報提供を進める必要がある。特に、広域的・根幹的な公共施設整備など行政側が主導的な役割を果たすべき計画等について、マスタープランレベルでの素案提示などが必要である。この場合、高度情報システムの活用等を図ることにより、簡易で分かりやすい形での情報提供を行うことも重要である。

(3) まちづくり協議会や都市プランナー等の活用

 生活に身近な施設など地域住民の意向を尊重して計画づくりを進めるべきものについては、主体的な地域住民のまちづくり活動への参加を支援する必要がある。「密集市街地における防災街区の整備の促進に関する法律」における防災街区整備組合・防災街区整備推進機構などに一部制度化されているが、地域住民等からなるまちづくり協議会組織やまちづくり公社等の地方レベルでの組織に対する支援や制度的な位置付けが必要である。また、専門知識・経験を活かし、住民の意見の集約化やまちづくりの提案等を行う都市プランナー、コーディネーター等の活用も今後ますます重要と考えられる。

(4) 公共の福祉のための強力なシステム

 まちづくりにおいては住民の理解が極めて重要であるが、一方で、公共的なものに係る権利義務に関し近年において都市住民の意識が高まってきたこと等を踏まえれば、公共のために必要な広域的・根幹的な施設整備等については、市民の理解と参画を得ながらも最終的には公共の福祉のため行政の責任で実現するという強力なシステムも併せて不可欠である。

第二 都市計画における役割分担のあり方について

T 今回の見直しの背景

@ 都市計画制度における国と地方の役割分担については、昭和43年の新都市計画法への移行時に、新憲法と地方自治法の下における整理を行い、従来、都市計画は全て国が決定していたものを、国の政策や利害との調整が必要な事項については国が関与する仕組みを設けた上で、都市計画は全て都道府県と市町村において決定することとするなどの変革がなされたが、当初は、市町村の都市計画決定権限を限定するとともに、都道府県や市町村に対して国や都道府県が後見的役割を果たすべきであるとの運用姿勢が見られた。その後、市町村の都市計画決定権限を逐次拡大するとともに、地区計画制度の創設とその拡充、「市町村の都市計画に関する基本的な方針」(市町村マスタープラン)の創設など市町村の役割を拡充する方向で制度改正を行ってきたところである。

A 近年、国民の意識、価値観が大きく変化する中で、経済力に見合った生活の質の向上 に加え、個性的で多様性に富んだ国民生活の実現が強く求められている。これに対応するためには、地域がそれぞれの個性や主体性を発揮しつつ、その文化、経済の潜在力を活用できるよう、住民に身近な基礎的自治体である市町村がその期待される役割を十分に果たし得る行政システムへの変革が求められている。

 一方、モータリゼーションの進展や広域的交通網の整備等による都市活動の広域化、都市間の依存関係の深まりといった課題にも対応する必要がある。

B また、国と地方の関係については、平成7年5月に地方分権推進法が制定され、その 後、地方分権推進委員会において検討が進められてきており、平成8年3月の中間報告を経て、同年12月には第1次勧告が出され、国と地方の新しい関係について方針が示された。

 この中で、従来の機関委任事務制度を廃止し、「事務の性質上、その実施が国の義務に属し国の行政機関が直接執行すべきではあるが、国民の利便性又は事務処理の効率性の観点から、法律又はこれに基づく政令の規定により地方公共団体が受託して行うこととされる」事務を法定受託事務(仮称)と位置付け、他は全て自治事務(仮称)とすることとされるなど、国と地方の関係について抜本的な見直しが勧告されているところである。

C このような状況に対応して、今般、四半世紀にわたる新都市計画法施行の実績を踏ま え、都市計画における国と地方公共団体の役割分担について見直しを行うこととする。 基本政策部会としては、最終的な制度的枠組みの整備に向けて引き続き検討を加えるべき課題もあるが、地方分権推進委員会の審議状況を踏まえ、都市計画における国と地方の役割分担について、現行制度の見直しの基本的方向を示すものである。

U 見直しの基本的方向

 都市計画は、都市の実態及びその将来を見通し、「生活に身近なまちづくりの計画」から「広域的・根幹的な計画」までを一体的、総合的かつ即地的に決定するものである。

 このため、都市計画の決定に当たっては、「個性的なまちづくりの推進」と「広域的・国家的観点からの調整」がともに適切に図られるよう、国、都道府県及び市町村が適切に役割分担すべきものである。これらを踏まえて、都市計画制度の見直しの基本的方向は以下のとおりとする。

@ 都市計画区域の指定、都市計画の決定等地方公共団体の行う都市計画に関する事務は自治事務(仮称)とする。

A 都市計画を決定するに当たっては、市町村が中心的な主体となるべきである。今後とも、市町村の執行体制等の充実に努めるとともに、市町村の役割を一層拡大する。

 しかし、都道府県が責任をもって定めないと適切に計画を定めることができない「市町村の区域を越える広域的・根幹的な都市計画」は、都道府県において決定すべきである。

B 国の利害に重大な関係のある事項について、適切な都市計画区域の指定、都市計画の決定やそれらの変更が行われない場合には、今後とも、国が指示、代行を行うことができることとすべきである。

C 都道府県において定める都市計画については、国の認可を廃止し、「人口及び行政、経済、文化等の中枢的な諸機能が集積、その影響が都道府県の区域を越えて広域化している地域における広域的・根幹的な計画」並びに「国土政策や国の利害に特に重大な関係がある計画」に限り、都道府県は国と合意(又は同意)を必要とする事前協議を行う。

 この場合、社会経済情勢の変化等を踏まえ、今後とも、国の関与がその趣旨の実現に必要な範囲にとどまるよう見直しを行う。

D 市町村が決定する都市計画については、市町村は都道府県と合意(又は同意)を必要とする事前協議を行う。

E 都道府県において定める都市計画に対する国の関与、市町村の定める都市計画に対する都道府県の関与は、新都市計画法への移行期を中心に、実務上後見的な観点から行われてきた部分があることは否めない。今後は、それらの関与が真に必要な範囲に止まるよう、国や都道府県が関与するに当たって立脚すべき利害や視点を明確化することにより、後見的観点からの関与が運用上も行われないようにする。

F 都市計画が、総合行政の手段として、また、個性あるまちづくりの実現手法として、より一層地方公共団体によって活用されるよう、制度及び運用を改善する。

G 都市計画制度は、国民の財産権に対する制限という厳しい負担を課すものであり、国民の信頼が不可欠であることから、制度及び運用の見直しに当たって混乱を生じるものであってはならない。このため、今後さらに、制度及び運用の実態を詳細に分析し、細部にわたり十分な検討を加えた上で、役割分担のあり方を決定することが必要である。

V 都市計画の事務の性格

 今回の地方分権推進委員会の勧告によって、都市計画区域の指定及び都市計画の決定等地方公共団体の行う事務は、自治事務(仮称)として整理されることとなるが、このような都市計画の事務の性格の変更を踏まえて、条例との関係、議会の関与、建設大臣の指示及び代行について検討する。

1 都市計画法制度、条例及び都市計画の関係

(1) 基本的考え方

 一般的に法令、条例及び都市計画の関係は、次のように整理される。

 @ 法令は、全国を通じる共通の枠組みを定めるもの

 A 条例は、行政区域全体を対象として地方公共団体により一般的にルールを定めるもの

 B 都市計画は、行政区域の一部を対象に即地的かつ具体的にルールを定めるもの

 地方分権推進委員会第1次勧告においては、条例制定権に関して「自治事務(仮称)については、法令に反しない限りすべての事項に関して、条例を制定することができる。」とされており、一方で、「地方公共団体の事務について、法律との関係において条例制定が制約されるかどうかは、個別の法律の明示の規定によるほか、法律の趣旨、目的などにより判断されることとなるものである。こうした法律と条例の関係についての考え方は、国と地方の新しい関係の下においても維持されるものである」ともされている。

 法律と条例の関係は、学説においても意見の分かれるところであり、引き続き検討を深める必要があるが、中間取りまとめの段階で基本的な考え方を整理すれば次のとおりである。

(2) 都市計画法に定める都市計画の内容と条例の関係

 現行法においては、国民の財産権に対する強い制約を課すという都市計画について基本的枠組みを定める都市計画法の趣旨、目的からみて、基本的な公平性・平等性を確保すべきものであるとの観点から、風致地区内における建築等の規制のように条例への委任が法律上明らかにされたものに限って制限の内容を条例によって定めることができる仕組みとなっている。都市計画事務が自治事務と構成されても、基本的には、この仕組みは変わらないものであると考えられるが、他に法律において条例に委任することを明示すべき事項があるかどうか、引き続き検討する。

(3) 都市計画法に定める都市計画決定手続きと条例との関係

 都市計画が国民の財産権に対する制約を課すことから、その決定手続きについては、権利保護のための共通の枠組みを全国を通じて設ける必要がある。具体的には、住民参加や審議会審査の手続き等は法令で定めるべきであり、これらを条例によって簡素化することは認められない。一方、現行法においても、都市計画決定権者の判断により必要に応じて、公聴会の開催など住民の意見反映措置を行うことができるとされている。このような決定手続きについては、基本的に都市計画決定権者の判断に委ねられるものであるため、これについて条例を制定することはあり得るものである。

(4) 都市計画と条例の関係

 地域地区、地区計画等と条例との関係については、土地利用計画小委員会で、市街地の土地利用計画制度のあり方について検討を行っているところであり、その結果を踏まえ、必要な整理を行うこととする。

(5) 都市計画法とまちづくり条例

 いわゆる「まちづくり条例」は、まちづくりの基本方針を定めるなど、それ自体拘束力を持たないものから、届出・勧告などの手段で規制・誘導を行うものなど様々な要素が含まれている。

 このうち、基本方針を定めたり、住民組織を位置付けるなど、住民の積極的・主体的参加による個性あるまちづくりを条例の制定により推進することは望ましいものと考えるが、条例による規制、誘導を行うものについては、都市計画法制度において特別用途地区、地区計画等により地域の実情に応じた個性的、主体的なまちづくりを実現できるよう枠組みを用意しており、基本的には、これによることが望ましいと考えられるので、これらを活用することで規制、誘導が行われるよう、一層その改善に努めるべきである。

2 都市計画への議会の関与

 都市計画は即地的かつ具体的に図面上に定めるものであり、権利制限が課される対象は、市町村民の一部(いわゆる「地域住民」「利害関係者」)に限定される。また、決定に当たっては、専門的、技術的判断が必要とされるという性格を有している。

 このため、現行都市計画法上、次のような措置を講じている。

 @ 都市計画決定に際しては、専門的・技術的分野に優れた学識経験者を構成員に含 む都市計画地方審議会において慎重に審議すること。

 A 都市計画地方審議会には議会関係者を必ず構成員とするものとされ、また、市町 村が定める都市計画は議会の議決を経て定められる当該市町村の建設に関する基本構想に即したものでなければならないこととする等、議会に代表される住民全体の意向を反映させる制度的担保措置を講じていること。

 B 都市計画は即地的に定まることから関係住民の意見を直接聴き、これを都市計画 に反映させる手続きを経ること。

 このように現行の決定手続きは、都市計画における専門技術性の尊重の要請と地方自治及び国民の権利保護の要請との調和を期したものであって、十分合理的なものであり、都市計画に係る事務が自治事務(仮称)とされた場合であっても、議会の議決を経ることを都市計画法上、義務付けるべきではないと考えられる。

 都市計画決定における議会の関与のあり方を、市町村決定についてみると、現在、団体委任事務であることから、地方自治法に基づき条例の定めにより議会による議決を求めることが制度上可能であり、その意思決定の仕組みについては団体の意思に任されているが、多くの市町村で重要な案件について議会の全員協議会等の場で了承を得るといった慣行が見られるものの、都市計画の決定に先立って議決している例はない。

 したがって、都道府県知事決定について、これが都道府県の自治事務(仮称)と構成された場合には、現行の市町村決定と同様、団体の意思決定について議会の議決を経るかどうかは、その団体の自治に任せるべきである。

3 建設大臣の指示、代行

 地方分権推進委員会の第1次勧告においては、自治事務(仮称)に係る国の関与の類型として、「緊急の場合など特に必要があるものとして、法律又はこれに基づく政令で定めるところにより、個別に一定の措置を講ずべき旨の指示を行うことができるものとする。」、「なお、自治事務(仮称)として地方公共団体が処理する事項に関し、その性質上特に必要があるものについて、国民の利益を保護する緊急の必要がある場合には、国は、法律の定めるところにより、直接事務を処理することができるものとする。」とされている。

 現行の都市計画法においては、第24条に基づき、都市計画決定等に係る指示、代行について、

 @ 建設大臣は、国の利害に重大な関係がある事項に関し、必要があると認めるときは、都道府県知事に対し、又は都道府県知事を通じて市町村に対し、期限を定めて、都市計画区域の指定又は都市計画の決定若しくは変更のため必要な措置をとるべき ことを指示することができる。

 A 建設大臣は、都道府県知事又は市町村が所定の期限までに正当な理由がなく指示 された措置をとらないときは、正当な理由がないことについて都市計画中央審議会の確認を得たうえで、みずから当該措置をとること等ができるものとする。

等とされている。

 この都市計画法第24条の仕組みは、現行法制定時に、決定権限を全て地方公共団体に委譲したことに伴って設けられたものであり、都市計画決定等に係る事務を自治事務(仮称)と整理した場合であっても、国の利害に重大な関係のある都市計画等について適切な決定・変更等が行われるためには、このような仕組みは不可欠のものである。

 したがって、建設大臣は、国の利害に重大な関係のある事項に関し、適切な決定・変更等が行われない場合など必要があると認めるときは、都市計画決定権者に対して指示を行うことができることとするとともに、都市計画決定権者が正当な理由がなく指示された措置をとらないときには、みずから当該措置をとること等ができるよう、制度上の手当を講ずるべきである。

W 役割分担のあり方

1 都市計画の決定主体等

(1) 都道府県と市町村の役割分担

 都市計画決定に当たっては、市町村が中心的な主体となるべきである。このため、都道府県が責任をもって定めないと適切に計画を定めることができない「市町村の区域を越える広域的・根幹的な都市計画」に限って、都道府県において決定するとの観点から、都市計画決定を行う主体の区分を見直し、市町村の役割を一層拡大する。

@ 都市計画区域の指定

 都市計画区域は、都市の実態を踏まえ、市町村の区域を越えた広域的な都市の実態に即して指定すべきものであり、また、その指定は、都市計画決定等の都市計画法に基づく権能を特定の地方公共団体に創設的に付与する効果をもつ都市計画法の中でも根幹的制度であることから、都道府県において行うべきものである。この場合、指定又は変更に当たっては、国と合意(又は同意)を必要とする事前協議を行うこととする。

A 市街化区域及び市街化調整区域の区域区分(線引き)

 線引きは、人口及び産業の将来の見通し等を勘案しつつ、計画的な市街化及び市街化の抑制を図るため、都市計画区域を区分して定めるものであり、根幹的な都市計画であることから、都道府県において定めるべきものである。この場合、その決定又は変更に当たっては、国と合意(又は同意)を必要とする事前協議を行うこととする。

B 用途地域

 地方分権推進委員会の第1次勧告において、用途地域については「市街地が市町村の区域を越えて広域化している地域」に限って都道府県において決定することとされたところである。現行制度において都道府県知事決定とされる人口25万以上の市の区域の全部又は一部を含む都市計画区域であっても、市街化区域は大多数の区域で市町村の区域を越えて連たんしている状況にあるが、市町村の役割を極力拡大する観点から、都道府県において決定する範囲を、市街地が特に広域化している以下の土地の区域の全部又は一部を含む都市計画区域に限定し、その他の都市計画区域については全て市町村が決定することとする。

 ・首都圏整備法に規定する既成市街地又は近郊整備地帯

 ・近畿圏整備法に規定する既成都市区域又は近郊整備区域

 ・中部圏開発整備法に規定する都市整備区域 (以下「三大都市圏の既成市街地、近郊整備地帯等」という。)

 ・政令指定都市の区域

 ただし、政令指定都市(三大都市圏の既成市街地、近郊整備地帯等に存するものを含む。)においては、その決定権限を極力都道府県並みに拡充するという方針に基づき、当該政令指定都市が決定することとする。

 C 都市施設、市街地開発事業

 地方分権推進委員会の第1次勧告において、都市施設及び市街地開発事業については「市町村の区域を超える広域のネットワークを形成する道路など、特に広域的・根幹的な都市計画」に限って都道府県において決定することとされたことを踏まえ、社会経済情勢の変化を背景に都市施設に要求される水準が高まっていることなども勘案し、都道府県において決定する都市施設、市街地開発事業の都市計画の範囲を次の考え方に沿って見直すこととする。

  i) 市町村道等

 広域的かつ大量の交通を処理するなど重要な幹線道路としての機能を有するものについては、広域的観点から都道府県において決定すべきである。市町村道であっても4車線以上のものは大量の交通を処理するものとして計画されていることから、基本的に広域的観点から定めるべきであり、都道府県において決定することとする。

 また、その決定区分は、これを明確にするため幅員によって定めることとし、この場合の具体的な幅員の数値については、道路構造令の改正経緯、現在決定されている実態等を踏まえて検討する。

 さらに、決定される個々の道路の広域交通処理など機能的な観点についても、決定区分に盛り込むことができるかどうかについて、引き続きその可能性を検討する。

  ii) 公園、緑地

 公園、緑地は、施設の「利用機能」とともに、自然的環境の保全・創出、防災機能など「存在機能」とを有している。このため、利用機能の面からは、利用者の広がりに応じてその広域性を判断する一方、存在機能の面からは、自然的地形や歴史的遺産に係る緑地など、都市全体を見据えたネットワークの観点から、現実の行政界とは必ずしも関係なく計画決定されるべきものである。

 また、都市計画決定された公園等の事業主体は、周辺の土地利用の状況や各地方公共団体の財政状況など地域の実態に即して決定されるものであるため、計画決定の段階であらかじめ、事業主体を想定して、決定主体を区分することは困難である。  このため、公園、緑地の都市計画の決定区分は、これを明確にするため、面積規模によることとし、都市環境保全、防災、レクリエーション利用等の広域的観点を踏まえ、現在4ha以上とされている都道府県において定める公園の規模を10haに引き上げることとする。

 なお、都道府県が定める公園、緑地をさらに広域的観点から限定するために、面積以外に広域性を的確に示す要件を決定区分に盛り込むことができるかどうかについて、引き続きその可能性を検討する。

  iii)市街地開発事業

 市街地開発事業については、事業の実施の影響が市町村の区域を越えて及ぶものについては都道府県において定めるべきであり、このため、以下のような観点から、土地区画整理事業及び市街地再開発事業について、都道府県において定めることとされる規模を、土地区画整理事業については20ha超から50ha超に、市街地再開発事業については1ha超から3ha超に引き上げる。

 ・ 土地区画整理事業における50haの規模は、飛び地の市街化区域の一般的要件となっており、単独で一体の都市機能を形成可能な規模であることから、それ以上の規模の土地区画整理事業についてはその市街地造成の影響が一の市町村の区域を越えるものである。

 ・ 市街地再開発事業における3haの規模は、商業系で平均容積率を500%とすれば、商業業務床が15万uと霞ヶ関ビル(17万u)に匹敵する規模の供給がなされるものであり、住宅系で高層住宅(300戸/ha〜)では1,000 戸を超える供給がなされるなど、それ以上の規模を有する市街地再開発事業の影響は市町村の区域を越えた広域的なものとなる。

 (2) 政令指定都市の決定権限の拡充

 政令指定都市については、都市の規模、都市機能の集中実態、他の事務の委譲状況等を踏まえ、都市計画決定権限について、極力、都道府県並みに拡充する方向で見直すこととする。

 このため、市町村の区域を越えた観点から定める「都市計画区域の指定又は変更」と「市街化区域及び市街化調整区域の区域区分(線引き)の決定又は変更」は道府県が行うこととするが、これ以外の都市計画は、原則として政令指定都市が決定することとする。

 ただし、高速自動車国道や流域下水道のように施設の配置や機能自体がそもそも政令指定都市の区域を越える都市施設について政令指定都市が決定することとした場合には、本来一体的に定めるべき都市計画を複数の主体が定めることとなり不適切であることから、このような性格を持つ都市施設に限っては道府県が決定することとし、その具体的な範囲について、引き続き検討する。 この場合、政令指定都市が決定する都市計画に関し国と必要な調整を行うこととするとともに、道府県との調整については、当該道府県の定める都市計画との関係など必要なものに限って行うこととする観点から、そのあり方を検討する。

2 市町村の定める都市計画と都道府県との調整

(1) 調整のあり方

 都市計画は、市町村と都道府県の複数の主体が定めることになるが、これらの複数の決定権者によって同一の区域に定められる都市計画を全体として一体的なものとして定めるという観点から、市町村が定める都市計画について都道府県と調整する仕組みは不可欠である。

 この場合の調整のあり方としては、上記の観点が的確に反映されるよう、事前に意思が合致するまで調整を行うとともに、単に手続き等の違法性だけでなく、両者の計画が図面上食い違っているかなど、計画の内容が不当でないかまで調整することが必要であり、その仕組みとしては、合意(又は同意)を必要とする事前協議とする。

(2) 市町村における審議会の法定化

 都市計画決定に当たっては、都市計画が都市の将来の姿を決定するものであり、土地に関する財産権にも相当の制約を加えるものであること等にかんがみ、その妥当性について公正な判断をすることが必要であることから都市計画地方審議会の議を経ることとされているが、市町村の都市計画決定の役割の拡大に対応し、また、いわゆる市町村審議会の設置状況や、即地的な調整、地域住民との調整の必要性の高まり(地区計画の充実、市町村決定の増大等)といった状況を踏まえ、市町村における審議会を制度的に位置付けることとする。

 これにより、審議会を設置した市町村において、当該審議会の議を経た市町村の定める都市計画は、都道府県に置かれる都市計画地方審議会の議を経ることを要しないこととし、都道府県と市町村との手続きの円滑化、機動的な決定を可能とする。

3 都道府県の定める都市計画と国との調整

(1) 調整のあり方

 都道府県において決定する都市計画のうち、都道府県の区域を越える広域的な計画、国の政策や利害に関係のある計画については、広域的・国家的観点から国と調整する仕組みが不可欠である。

 この場合の調整のあり方としては、国の政策や利害に反する事態が進むことのないよう、計画の内容が不当でないかまで事前に国と意思が合致するまで調整を行うことが必要であり、その仕組みとしては、合意(又は同意)を必要とする事前協議とする。

(2) 国との調整を要する範囲

 @ 調整を要する地域の範囲

 国土政策上の位置付け、人口及び諸機能の集積状況いずれの観点からも、三大都市圏の既成市街地、近郊整備地帯等の区域については、国の関与が必要である。

 なお、三大都市圏の都市開発区域及び新産業都市区域・工業整備特別地域の区域については、その政策的な位置付けについて政府全体として変更がなされた場合は、その変更の考え方を踏まえ、必要な措置を講ずる必要がある。

 また、国土の均衡ある発展の実現のためには、三大都市圏に加えて、「人口及び行政、経済、文化等の中枢的な機能が集積し、その影響が都道府県の区域を越えて広域化している地域」が適切な機能連携、機能分担により複合的なネットワークを形成し、集積された都市機能の広域的な波及が図られるよう、これらをバランスよく整備していくべきであり、国の関与が必要である。このため、現在、建設大臣の認可を要するもののうち人口規模で定められている区域については、人口10万以上の市の区域で建設大臣が指定するものとされているが、この人口規模要件を上記の観点から見直し、人口30万以上に引き上げることとする。

 A 地域の如何に関わらず調整を要する都市計画

 都道府県において決定する都市計画のうち、高速自動車国道や国道、国営公園など国の設置管理する都市施設や日本の貴重な歴史的資産である古都を保全するための歴史的風土特別保存地区などは、地域の如何に関わらず、それ自体が国の利害に重大な関係のある都市計画である。

 したがって、現在、この観点から建設大臣の認可を要するとされている都市計画については、今回の見直しの趣旨を踏まえ、具体の計画項目ごとに、国の利害との関係について引き続き検討すべき余地は残されているが、基本的には、今後とも国の関与の仕組みは維持するべきである。

X 都市計画決定手続きの透明化、円滑化等

1 関与の視点の明確化

 市町村の定める都市計画と都道府県との調整、都道府県の定める都市計画と国との調整については、前述のとおりいずれも都市計画が適切に定められるよう、計画内容が不当でないかまで調整することが必要であり、その仕組みとしては合意(又は同意)を必要とする事前協議とするが、その関与が必要最小限のものとなるよう、以下のとおり視点の明確化を図ることとする。

(1) 市町村の定める都市計画と都道府県との調整

 都市計画は、直接、国民に財産権に対する制約を課すこととなるので、決定権限の全面的な委譲がなされた新法制定時には、市町村の定める都市計画を市町村限りで定めるのではなく、都道府県知事が承認に当たって後見的に審査することで適正かつ合理的な都市計画が定められるものとされていた。近年では、複数の決定権者が定める都市計画の一体性の確保と市町村間の広域的調整の観点から知事承認を行うようにしてきているが、現在でも、一部において、計画事項の細部や、手続き等必要以上に細かい点まで審査しているとの指摘がなされている。

 このため、市町村における知識・ノウハウの蓄積等を踏まえ、求めに応じて行う指導、助言は別として、法律上の関与については、知事承認を都道府県との合意(又は同意)を必要とする事前協議とし、この事前協議に当たっては、都道府県の定める都市計画との適合性、市町村間の広域的調整の観点から調整を行うよう視点を明確化し、後見的関与を排除する。

 なお、法律に基づき審議会を設置した市町村の定める都市計画は、知事承認に当たって必要であった都市計画地方審議会の議を経る手続きが不要となる。このため、都道府県との事前協議に当たっての視点は純粋に上記の点に限られることから、この面からも後見的関与は排除される。

(2) 都道府県の定める都市計画と国との調整 都道府県の定める都市計画についても、新法制定時は建設大臣が認可に当たり監督・後見の役割を果たすものとされていたが、近年は関与の視点を限定して運用してきたところである。

 しかしながら、都市計画決定の標準となるべき技術的基準等が法令に位置付けられていないなど、都道府県が国との調整を行うに当たって、調整の視点が不明確である点は否めない。このため、今回の見直しにより、事前協議に際し国は、都道府県の区域を越えた広域的観点、国土政策や国の利害に関係があるかという国家的観点から調整を行うよう視点を明確化し、後見的関与を排除する。

2 都市計画を定めるに当たっての標準等

 都市計画決定は、地域の実情を踏まえ、地方公共団体が自らの判断で、できるだけ柔軟に決定できることが適当であり、地方公共団体が共通に遵守すべき事項については必要最小限とすべきである。

 このため、技術的基準の政令の充実を行うなど都市計画決定に当たって地方公共団体が共通に遵守すべき事項は法令で標準を定め、それ以外の事項は、ガイドラインとして整理することとする。

3 都市計画事業認可の取り扱い

 都市計画事業認可により、事業者に収用権限を付与しているが、土地収用による強制力の発動等に当たって、公正性・中立性確保のための第三者による審査が不可欠であることから、市町村事業に対する都道府県の認可、都道府県事業に対する国の認可が今後とも必要である。

4 個性あるまちづくりのための都市計画制度の改善

 土地利用計画制度については、近年、用途地域について詳細化を図るとともに、地区計画について容積率や形態制限を柔軟に緩和又は強化できるようにするなど改善を図ってきているが、土地利用計画小委員会での検討を踏まえ、個性あるまちづくりが一層的確に進められるよう制度の充実を行う。

5 引き続き取り組むべき課題

(1) マスタープランの充実

 計画的なまちづくりを行うに当たっては、現在の都市の状況及びそれを取り巻く環境を踏まえ、都市全体の将来像を示し、人口の配置や用途、公共施設の配置や規模について長期的な目標を明らかにする必要がある。

 現在、都市計画におけるマスタープランとしては市街化区域及び市街化調整区域の「整備、開発又は保全の方針」と「市町村の都市計画に関する基本的な方針」がある。

 「整備、開発又は保全の方針」については、既定の都市計画の羅列であったり、抽象的な表現に止まっているものも見られるが、大都市等に係るものに関して、都市再開発方針、住宅市街地の開発整備の方針の作成が義務付けられるなどその充実が図られてきているところである。

 一方、「市町村の都市計画に関する基本的な方針」については、平成4年に制度が創設され、現在、市町村において策定作業が本格化している段階であり、今後とも積極的にその策定を進めていく必要がある。また、この方針は「整備、開発又は保全の方針」に即することとされており、今後、都道府県と市町村の役割分担の見直しを踏まえ、その策定段階から相互に適切な連携調整を図り、両者が一体となって総合的なまちづくりのマスタープランとして機能するよう、「市町村の都市計画に関する基本的な方針」の内容の充実を図る必要がある。

 また、都市の成長、発展の趨勢の下に新市街地の形成を中心とする都市づくりを目標としてきたこれまでの「都市化社会」から、都市の成長管理の下に既成市街地の整備を中心に都市のあり方を変えていこうとする「都市型社会」のまちづくりに移行する時期にあっては、今まで以上に住民の合意の下に、長期的な視点からの将来の都市像や市街地像を明らかにしていくことが求められてきている。

 マスタープランの充実を図るためには、

・あるべき都市像を目指して都市計画決定、都市整備のプログラムを示すこと

・地方公共団体が主体性を持って住民の意見を的確に反映させて策定すること

・住民に開かれ、分かりやすいものであること

等の課題について検討を深めることが重要である。

 マスタープランは、その策定自体が都道府県と市町村、地方公共団体と住民との調整機能を有しており、計画的なまちづくりがより円滑に進められるよう、その策定過程を含め、充実を検討していく必要がある。また、マスタープランの位置付けの明確化により、国、都道府県、市町村の役割を見直すことも可能となることから、この観点からも充実を検討していく必要がある。

(2) 関係省庁との調整の見直し

 線引きについての農林水産大臣協議や、臨港地区についての運輸省との調整など、都市計画の役割分担の見直しに当たっては関係行政分野とも一体として議論する必要があり、それらの関係行政分野と都市計画との調整について、更なる円滑化が図られるよう引き続き関係省庁と連携をとって改善を進めていく必要がある。

(3) 執行体制の充実と都市計画の専門家の活用等

 市町村の役割の拡大に当たっては、専門性を有する都市計画の事務について的確な処理がなされるよう、組織の充実、専門職員の確保など都市計画に係る執行体制の充実を図る必要がある。また、地域の特性を生かしたまちづくりを推進するとともに、住民参加型のまちづくりの要請の高まりに応え、都市計画制度を一層地域に根付くものとするため、国、地方公共団体の不断の努力が必要であるが、これに加えて、都市計画に関する情報・技術の提供や助言、行政・市民・企業の間の利害調整を担う都市計画の専門家の果たす役割は重要であり、その位置付けを明確化するとともに、育成、活用が図られるよう、その方策を引き続き検討していく必要がある。

第三 市街地の土地利用計画制度のあり方について

T 検討の経緯

 都市計画中央審議会においては、平成7年7月に建設大臣から「今後の都市政策は、いかにあるべきか」について諮問を受け、基本政策部会を開催し、精力的に審議を進めているところであるが、検討課題のうち土地利用計画制度について専門的かつ集中的な検討を行うため、同部会に土地利用計画小委員会を設置した。本小委員会においては、建築審議会建築行政部会市街地環境分科会小委員会と連携しつつ、平成8年10月以来、これまでに7回の会議を開催し、良好な市街地形成のための建築規制と特に密接な関連を有する「容積率」と「地区計画制度」を中心に、市街地の土地利用計画制度について今後のあり方の検討を進めているところである。

 また、政府においては、本年2月10日に閣議決定した「新総合土地政策推進要綱」において、都市の再構築を推進するため、都市計画・建築規制の枠組みについて総合的な見直しを進めることとし、さらに5月16日に閣議決定した「経済構造の変革と創造のための行動計画」において、見直しのための検討は平成9年度中を目途とすることとしている。このうち、職住のバランスのとれた都市構造の実現にとって重要な中高層共同住宅の供給促進に資する容積率等に関する規制緩和については、検討の前倒しにより、今通常国会への法案提出等の措置が講じられているところである。

 本小委員会においては、このような政府の方針を踏まえ、また、部会での「都市政策ビジョン」や「都市計画における役割分担のあり方について」の検討を反映させつつ、今後、引き続き検討を進めていくこととしているが、以下にこれまでの検討状況を中間的に取りまとめるものとする。

U 基本的視点

 我が国の都市の状況は、市街地の急速な拡大など都市化の段階から都市の成熟化の段階へ移行しつつあり、国民の大多数が生活する都市における生活の質の向上を図るため、既成市街地を中心に、都心地域の土地の高度利用による職住近接などバランスのとれた都市構造の実現、公共施設が不十分な市街地の再整備による安全性の向上、街並み整備等による個性的で魅力ある市街地の創造などの課題の実現に向け、都市政策を積極的に展開する必要がある。

 また、経済社会全体の要請から、行政全般について地方分権と住民参加の充実、規制緩和などが進められており、都市計画においても、この潮流に適切に対応する必要がある。

 このため、市街地の土地利用計画に関する制度の見直しに当たっては、特に既成市街地の再整備の推進に配慮しつつ、社会構造の変化に的確に対応するとともに、地方公共団体にとって地域の実情に応じ柔軟で使いやすく、住民にとって計画・規制の趣旨が十分理解でき、都市開発事業者にとって活力を適切に発揮でき、これらの結果、各主体の積極的な参画・協力を通じて計画の決定とその目標の着実な実現が図られるよう、枠組みの整理と制度の充実を図ることが必要である。

V 制度の体系と基本的あり方について

1 制度の体系

 我が国の市街地の土地利用計画制度は、大別すると、用途地域を初めとする地域地区と地区計画の2種がある。これらの役割としては、用途地域により全国的な市街地類型に基づいた分類に従い、市街地のあり方の大枠が定められ、建築物等の用途、密度、形態等について一般的規制が適用されるとともに、用途地域以外の地域地区(特別用途地区、高度地区、風致地区等)が都市レベルの観点から当該都市固有の状況を踏まえた用途地域の補完として定められる一方、地区計画により地区レベルの状況や課題を踏まえた詳細な計画が定められ、用途地域に基づく一般的規制の強化・緩和が適用されることとなっている。

 このうち、地区計画については、昭和55年に制度が創設されたものであるが、平成4年に「市町村の都市計画に関する基本的な方針」(市町村マスタープラン)が法定化された趣旨にみるように、また、新総合土地政策推進要綱において重点課題として取り上げられているように、地区レベルの詳細な計画に基づく適切な土地利用の実現を図るため、その策定の推進が特に重要となっている。

 一方、地区レベルの詳細な計画の策定に当たっては、地区の状況と課題や都市における当該地区の位置付けなどについての円滑な合意形成が必要であるが、合意形成の円滑化のためにも市町村全体のマスタープランの充実が重要である。

2 制度の基本的あり方

 制度の基本的あり方としては、私権制限の公平、環境等に係る最低水準の確保の観点から全国共通に適用する枠組みを備える一方、地域の実情を適切に反映し得る柔軟さを備えたものであることが必要である。特に既成市街地に着目すると、新市街地に比べ形成の経緯等により多様な状況があり、これに対応しつつ良好な市街地環境の整備・保全を図るためには、都市計画の決定主体である地方公共団体が地域の実情を踏まえて適切に計画を定められるようにすることが一層重要である。

 基礎的な土地利用計画である用途地域の種類と規制内容等に代表されるように、都市計画の種類と定めるべき事項、規制方法等の制度の枠組みについては、国の法令で定めることが必要であるが、地方公共団体が都市計画として定める内容については、上記の観点から、できる限り自由度が高くなる方向で検討を行うべきである。

 なお、地域の実情に応じたきめ細かな土地利用計画を策定するためには、このような制度の充実を図る一方で、制度を運用する地方公共団体において、都市計画の重要性を十分認識するとともに、これを推進する執行体制の充実や住民の意向の把握等を通じた積極的取組みを図ることが何よりも重要であることは論を待たない。

 また、市街地整備を適切かつ着実に推進するため、都市開発事業者や都市計画の専門家による土地利用に関する提案等について、地方公共団体がマスタープランとの整合性等を踏まえつつ、計画に適切に反映させることも今後一層重要になると考えられる。

W 具体的課題と検討の方向

1 用途地域の容積率について

 用途地域において定める容積率は、土地利用と都市基盤、特に交通施設の容量とのバランスや市街地環境の確保を図るため、建築物のボリューム(敷地面積当たりの延べ床面積の倍率)の上限を設定して土地利用密度をコントロールするものであり、都市の将来像に基づき市街地のあるべき姿を実現するための重要な要素である。

 一方、この容積率は、市街地の一定のまとまりごとに大くくりに定めるものであり、当該区域内における土地利用密度の一般的な上限を規定するものではあるが、個別具体の敷地における建築行為に当たっては、この制限に加え、前面道路幅員による容積率制限や形態制限により、個別敷地の条件に対応して、即地的に利用可能な容積が決まるものである。

 現行制度では、用途地域の容積率は、用途地域の種類に応じ国が定めたメニューから選択して都市計画で定めることとなっているが、その選択肢の中では地域の市街地像に対応しにくい場合があるとの指摘もあり、地方公共団体がより適切な数値を設定できるよう制度のあり方について検討する。

 一方、低層住居専用地域に立地する戸建て住宅等に係る容積率は、公共施設への負荷の制御よりも市街地環境の確保のための空間占有をコントロールする手法としての側面が強いことから、この目的に対してより的確に対応しうる手法である形態規制を重視する方向で密度コントロールのあり方を検討する。

 なお、近年多く見受けられる容積率についての規制緩和の要望に関しては、都市における土地の高度利用は、都市基盤の整備を前提として適切に行わなければならないという考え方に立ち、容積率の引き上げは、都心居住の推進など都市構造の再編という政策的必要性、公開空地の創出等により都市景観など市街地環境の改善に資するというプロジェクトの優良性等を総合的に判断して行うべきであると考える。

2 用途地域等による用途規制について

 用途地域の種類と用途規制の基準については、近年における市街地の状況の変化を踏まえ、平成4年に種類の詳細化等の見直しが行われ、都市計画もこの改正による新しい用途地域への切替え指定が完了したばかりであり、現時点においては、制度のさらなる見直しの緊急性はない。

 一方、都市固有の状況から全国共通の市街地類型に基づく用途規制に修正を加える必要がある場合に対応するための特別用途地区については、その類型が法令で列挙されており、平成4年に中高層階住居専用地区等の類型の追加が行われたところであるが、市街地環境確保への多様な要請があるなかで、こうした類型だけでは直ちに対応が困難な状況も発生してきているとの指摘があり、機動的かつ効率的に規制を行うための制度のあり方について検討する。

3 地区計画制度について

 地区計画制度は、土地利用や公共施設に関する幅広い事項について、住民参加のもと、地区レベルの視点から詳細な計画を策定し、各種の規制・誘導手法を用いて目標の実現を図るものである。

 本制度を活用して、多様な市街地において地区の特性に応じた計画が策定されるとともに、的確に土地利用規制が行われるためには、その計画・規制制度のより一層の充実が必要である。

 また、制度が適切に活用されるため、市町村の担当職員や住民にとって分かりやすいものとなるよう制度の簡素化に努めることが必要である。

 さらに、策定された地区計画の目標の着実な実現を図るためには、計画・規制制度のみならず、地方公共団体等による市街地整備の推進や住民の自主的なまちづくり活動の促進など計画実現のための推進手法があることが必要である。特に既成市街地の再整備を図る地区にあっては、計画実現力の充実が一層重要である。

(1) 計画・規制制度

 @ 地区計画と建築規制の関係の見直し

 現行制度においては、地区計画の内容を強制力を持った建築基準とする場合、地区計画の内容を受け、条例で地区ごとの制限内容を規定することとなっているが、地区計画の強制力に関し条例など地方議会の意思決定との関係のあり方について検討する。

 A 計画事項の追加

 建築物など土地利用に関して定めることができる計画事項は法令により列挙されているが、これまでの制度運用の経験を踏まえた市町村の意向等を把握しつつ、事項の追加について検討する。

 B 手続き等の共通化

 地区計画制度は、地区の特性に応じ6種の制度があるが、全体としての分かりやすさに資するため、計画策定、届出・勧告に係る手続き等をできる限り共通化する方向について検討する。

 C 計画策定対象地域の拡大

 用途地域が指定されていない地域における土地利用の整序を図る上で地区計画制度の活用は有効である。このため、集落地区計画制度が創設されているほか、平成4年に市街化調整区域について一般型の地区計画の策定が可能となっているが、未線引き都市計画区域内の用途地域未指定区域についても計画策定を推進することを検討する。

 D 制度運用上の意見反映の扱い

 一部の地方公共団体や住民等において、地区計画の都市計画決定は住民の全員合意が要件となっていると誤解している場合がある。住民の意見を適切に反映させることは地区計画の円滑な決定とその目標の着実な実現にとって重要なことであるが、全員合意を目指して日時をいたずらに費やすことは、かえって、適切な目標の設定や適時の計画決定を阻害するものである。

 このため、例えば一定比率以上の住民が計画案に賛同した場合に決定の法的手続きを開始するなど制度運用上の目安を整理することにより、地区計画の適切な決定を促進することを検討する。

(2) 推進手法

 @ 整備方策に関する住民合意の位置付けの強化

 地区計画の目標の着実な実現を図るためには、従来、協定の内容にとどまっていた市街地の整備方策に関する住民合意を制度的に明確にすることが重要であり、地区計画において位置付けることができるようにすることなどを検討する。

 A 整備組合、整備推進機構制度の適用の拡大

 住民の自主的なまちづくりの推進や地方公共団体による多様な施策の展開のためには、そのための組織体制の整備が重要であり、密集市街地等において適用される整備組合、整備推進機構の制度について、その他の地区における適用を検討する。

 B 整備に資する権利移転の円滑化のための措置の拡充

 市街地整備に必要な土地の譲渡、交換等については、公共事業や土地区画整理事業等として実施される場合を除き、土地所有者等に権利調整や税に係る負担が生じるため、政策上の必要性から相当の負担を課すこととなる場合、当該負担の軽減方策を検討する。

 C 地区施設整備等への国の支援の拡充

 地区施設等の整備については、住民や地方公共団体が中心となって進めるべきであるが、国においても、密集市街地の防災性の向上や中心市街地の再構築などに資するものを重点として、国民生活の質の向上を図る観点から、積極的に財政・金融・税制上の支援措置を講じる必要がある。

4 既成市街地の再整備の推進の観点からみた土地利用計画制度のあり方について

 既成市街地の再整備を図るためには、市街地整備のための各種事業を積極的に推進するとともに、土地利用計画・規制制度においても、地区としてのまとまりの中で市街地構造や土地利用形態を望ましい方向に誘導できるような枠組みを充実する必要がある。

 特に、市街地環境の確保や土地の高度利用に必要な道路の整備や土地利用と道路の適切な関係の確保を図りつつ、街区内の土地利用が一体となって良好な市街地空間を形成することを誘導することが重要である。

 (1) 道路整備・道路空間確保のための方策

 地区の状況に応じた適切な配置及び規模の区画道路の整備を図るため、地区計画において区画道路等の計画の策定を進めるとともに、既成市街地内の幹線道路の整備に際して敷地の一部を提供する建築物の扱いにも配慮しつつ、当該道路用地の円滑な確保を図るため、地区計画の誘導容積制度の活用を推進する必要がある。

 また、商店街や交通結節点付近等の市街地において、建築敷地や建築空間の一部を活用し、ゆとりある歩行者空間の確保を図るため、地区計画制度の活用など、そのための方策を検討する。

 (2) 土地利用と道路の関係

 建築敷地と道路の関係を規定する接道ルールについては、建築規制の的確な運用を図るとともに、地区の状況に応じた関係を形成できるよう、地区計画制度により接道ルール等の計画を位置付けることについて検討する。

X 今後の検討の進め方

 これらの課題については、今後、マスタープランとの関係の整理や計画策定における住民、都市計画専門家、都市開発事業者等の役割の整理等を行いつつ、さらに検討を進めていく予定である。また、課題は建築行政と一体の関係にあるものが多いため、建築審議会と緊密な連携をとって検討するものとする。