都市づくりの政策体系のあり方
−都市再構築へのシナリオ−
都市づくりは、行政、市民、民間事業者が一体となり協同して取り組んで初めて成功するものであるが、地域を包括する地方公共団体(特に市町村)の果たすべき役割が極めて大きい。このような中、国はこれまで、法令等による制度的な枠組みの整備や、国の視点による諸計画・方針等の策定などを含め、直接・間接に様々な取組みを行ってきたところである。
このような中、平成9年6月9日、都市計画中央審議会基本政策部会は、今後の都市政策の基本的方向を明らかにする「都市政策ビジョン」(中間取りまとめ)を発表し、その中で「都市の再構築」を推進することを提唱した。その後、中心市街地の活性化や、不良債権問題に絡む土地の流動化などの問題が各方面で議論され、また、先般策定された新・全国総合開発計画においては「大都市のリノベーション」が主要戦略のひとつとされているなど、我が国の「都市の再構築」に関わる都市づくりをめぐる気運が高まっているところである。また、都市づくりへの投資は、内需主導型の経済運営を図るうえでもその有効性が期待されている。さらに、中央省庁の再編もにらみつつ、既存の行政のあり方を見直すとともに、都市づくりに関係する各行政分野間の連携を一層進めていくことが求められている。
こうした状況下で「都市政策ビジョン」を実体的な都市づくりにつなげ、我々に課された種々の制約条件下で解決すべき政策課題に応えつつ後世に誇るべき都市づくりを進めるため、国の役割及び施策の方向等を明らかにする「都市再構築へのシナリオ」を提言するものである。この場合、平成10年1月13日都市計画中央審議会「今後の都市政策は、いかにあるべきか」(第一次答申)で明らかにした地方分権を前提とし、換言すれば地方分権時代における国の役割を明らかにする。
なお、この内容については、引き続き当部会において検討を深めていくこととしたい。
T 都市政策のあるべき姿
U以下において今後の都市政策を展開するに当たっての国の役割と施策の方向を明らかにする前提として、都市政策の本来的な意義やその特徴を明らかにする。
(1)都市政策の意義
都市は、我が国においては国民の大部分が居住する場であるとともに、人間の一生の間、多様なサービスを提供する場であり、都市以外の地域もそのサービスを直接・間接に享受する場であることから、そのような都市を良質な国のストックとしてつくりあげることが必要である。また、都市に暮らす住民・生活者の立場に立って都市のあり方を考えていくことが重要である。以下の点を重視しつつ都市の再構築に取り組んでいく必要がある。
@ 生産−流通−消費の太宗をなす「都市」が経済の維持・発展の礎として十分機能しているか。(経済活動基盤)
A 居住・教育・文化・福祉・安全・健康・移動などで国民の基礎的ニーズを充足する生活の場として「都市」が十 分機能しているか。(生活基盤)
B 「都市」において土地、水、空気等の国土環境資源が全体として適正に使われているか。(国土環境基盤)
以上の考え方を前提とすれば、都市を構成する自治体にとっては、その実施する様々な行政の総体が都市行政である。国においても、土地利用や公共施設などだけでなく、住宅、交通、水、産業、福祉等々に関する各種行政について都市に関わるものを抽出し、ひとつの総合的な政策として整合的に再構成したものが都市政策と捉えられなければならない。
(2)都市政策の特徴
都市政策を他の政策と区別して特徴づけるものとして、次の4点が重要である。
@総合化
都市という「空間」に関係する事項である限り、物的なものであるか機能的なものであるかを問わず、基本的に は全て都市政策に位置づけて考える必要がある。
A優先順位の明確化
それぞれの分野の行政を都市政策として再構成する際には、一定の価値観に基づいて各行政分野の総体的な優先 度を評価し、それに応じて必要な措置を講ずることが不可欠である。
B即応化
都市は社会経済情勢の変化に鋭敏に反応する感度の高い空間である。都市政策は、こうした都市の特性を踏まえ、諸情勢の変化に即応できるものであるべきである。
C実体化
計画決定、施設整備などを時間軸に沿って整理し、理念や目標を実体としてつくりあげるための独自の手法を用意して都市のあるべき姿を実現する手順(プログラム)をつくることが重要である。
U 都市政策の基本方向
都市政策の基本方向については、平成9年の「都市政策ビジョン」においても述べたところであるが、改めて整理すれば以下のように考えられる。
@機能のレベルアップ
従来の都市づくりは、右肩上がりの経済を背景に、「器」としての基盤施設・建築物の整備を重視し、「器」の中味である機能や器を囲む環境の視点が不明確であった。今後は、機能や環境のレベルアップを重視し、環境・景観・防災・賑わい・交流などに配慮した大胆な取組みを行うべきである。
A戦略性の高い課題への重点的取組み
新・全国総合開発計画において、「大都市のリノベーション」は、4つの主要戦略のひとつとされており、重点的な取組みが必要である。また、地方都市をはじめとする中心市街地の活性化等も含め、こうした戦略性の高い課題を重視していくべきである。
B整備追求型から課題解決型への転換(「作る時代」から「使う時代」へ)
従来、我が国においては都市化が急速に進む中で道路、公園、下水道等の都市基盤の整備水準が非常に低く、その全体的な引上げに努力を傾注してきた。現在は、個々の施設整備水準を引き上げる努力も必要な一方で、別紙に示すような多様な政策課題が浮かび上がってきており、今後は政策課題の解決に向けて必要な施策を集中する姿勢へ転換する必要がある。言い換えれば、施設を作ることを重視した時代から、施設を使うことや施設の置かれる環境を重視し、政策課題の解決に向けて都市の機能をレベルアップする時代への転換を図る。
V 都市政策における国の役割と今後の方向
Uに示した都市政策の基本方向の下で、地方分権の時代における都市政策の国の役 割はどのようなものか、さらには今後の政策をどのように再構成すべきかについては、 以下のように考えられる。
(1)国の役割
これまで、国は、
@ 都市に対し、都市に係る国の関心事を抽象的な方針として表現する、または、 制度的枠組みとして法令の制定等 を行うこと
A 必要な場合、国の関心事を積極的に実現させるため、直接・間接に「都市整備」をサポートすること
B 国の関心に沿って、具体の地域・ケースに応じ、例えば大臣認可といった形で 必要なチェックを行うこと
などにより、都市づくりに関わってきた。
我が国の都市には人口の大部分が居住するとともに、経済の太宗が営まれている。したがって、都市のあり様は、一国の経済社会や国民生活の質のあり様と深く結びつくものであり、その限りにおいて、国が都市づくりに一定の関心を持ち、その延長線上において、都市づくりが抱える種々様々な政策課題の解決に向けて、全国共通の枠組みを提示し、あるいは様々な支援を行い、さらには課題の解決の障害となっている問題の克服に取り組むということは、我が国の産業経済の安定的な維持・発展や、国民生活の質の改善を達成することに深く関わることである。
今後、地方分権が進展していく一方で、都市の現状や都市が我が国の経済社会において果たすべき役割を考えると、我が国全体としてバランスのとれた都市づくりをスムーズに進め、都市を良質な国のストックとして作りあげていくために、国には今後とも積極的な役割が期待されるところである。
また、国際社会とも協調した内需主導型の経済構造に向けて大胆な改革を行っていくことの必要性が強く求められている中で、都市づくりへの投資は、内需を拡大し雇用を確保するうえでその有効性が期待されるものである。
要するに、このような国の役割に対応して、具体的に国としてどのような政策を執ることが妥当であるかについては、経済社会の状況をにらみながら、様々な課題の重要性・緊急性に応じて決められるべきである。したがって、例えば「大都市のリノベーション」といった多様な課題の錯綜したテーマについては、強力かつ直接的な国の取組みが必要である。
(2)政策再構成の視点
以上の観点に立って、国の役割を中心として都市政策を再構成するに当たり、以下の点が重要である。
@市民の視点に立った機能重視の手法の確立
都市づくりは、居住、文化、健康、安全、移動、生産、流通、消費など多様な分野に関連する総合的なものである。従来の都市行政は施設整備を重視してきたが、施設を利用する市民の視点に立って機能をレベルアップし、良好な環境を作り出す観点からソフトな手法も組み合わせ、都市の多様な側面に対応できる計画・事業の手法を構築すべきである。これは、既成市街地での再開発に取り組む場合特に重要と考えられる。
A人材・資金の大量・集中的投入システムの構築
都市づくりは、特に既成市街地において、手間と時間と資金のかかる仕事である。我が国に余力のある間に本格的な都市をつくりあげるためには、重要課題に大量の人材・資金を集中できる仕組みが必要である。
人材・資金の投入に当たっては、投入の対象、方法等について様々な仕組みが考えられるところであるが、どのような方法が効率的で高い効果が期待できるか、課題に応じ適切な手法を選択していく必要がある。
また、幅広い都市づくりの観点から様々な財源を活用できる仕組みにすることも検討していくべきである。
B多様な主体の参加と連携を促進する仕組みの整備
都市づくりは、国、地方公共団体、市民、民間事業者、さらには専門家あるいはその集団などがそれぞれの立場で一体となり協同して取り組んで初めて成功するものである。これらの主体が都市づくりに参加し、相互に連携しやすい仕組みを整備していく必要がある。
C国の一貫した方針の下で都市づくりを推進するための枠組みの構築
大都市は、極めて広域に市街地が連なって都市圏を構成し、質・量とも高いレベルで経済活動が行われるなど、我が国の経済社会の中枢をなしている。また、地方都市は、周辺農山漁村等と相互に依存しつつ都市圏を構成し、地域の拠点として発展・衰退の鍵を握っている。さらに、都市は雇用が創造される場としても重要である。このように、都市は単に国土の一部である以上に、我が国全体を支えるものであると言うことができる。
したがって、都市づくりについては国の一貫した方針の下に推進することが必要である。このことは、都市づくりに関する各主体の役割と責任を明確にする上で有効と考えられる。その際、行政区域にとらわれず、都市圏として一体的・広域的に捉えて取り組む視点が重要である。
W 具体的方策
U及びVにおいて述べたような都市政策に対する考え方を受けて、国としてより具体的にはどのような方策を講ずるべきかについては、以下のように考えられる。以下の8点は国が実施すべきことを述べたものであるが、このような国の役割は地方分権を前提としたものであり、もちろん、国と地方公共団体が協調しながら、ここで述べる施策の積極的な展開を図ることが大切である。
1 交通、産業関連、生活関連などの分野を幅広く取り込む手法の充実
@現状の評価
現在の都市計画は、制度としては対象を幅広く捉えているが、実際の運用においては、民間主体等による建築行為や、道路、公園、下水道といった建設省所管施設に係る施設整備にその対象が概ね限定されている。
都市計画の対象エリアである都市計画区域についても、現在、市街地における計画に重点を置いており、その周辺の農山漁村等を含む都市圏全体の具体的な土地利用計画とはなっていない。
A今後の方向
都市計画の内容については、鉄道など各種手段を総合化した都市交通体系の確立や、港湾エリアも圏域構造に影響を与える都市空間の重要な一部と認識して、面的な整備の一元化に向けた取組みを行っていく必要がある。また、産業政策などとも協調しながら、建築物や都市施設が個別に又は一体となって様々な機能を的確に発揮することができるよう、建築物や都市施設の詳細な機能を確保し、位置づける仕組みが必要である。さらに、都市計画において、建設省所管施設以外の都市施設、例えば福祉施設や廃棄物処理施設などについて、適正な配置を図るため、これらを積極的に取り込み、位置づけることが必要である。
都市計画の対象エリアについては、市街地やその縁辺部に限らず、周辺の農山漁村等を含め、市民の生活や活動領域である都市圏全体を対象とするとともに、さらに国土全体を通じ都市的サービスの充実を図り、質の高い生活環境を実現する方向を目指す必要がある。その際の計画手法については、都市圏人口が安定的になっている都市型社会に相応しい市街地の制御のあり方や土地利用施策と交通施設整備の連携等の検討を行うべきである。
こうした総合的な都市政策の推進を通じて環境問題に対応する視点も重要である。
2 分りやすく使いやすい都市計画・事業制度の整備
(1)都市計画制度
@現状の評価
都市計画制度は、都市計画法に基づく都市計画をベースにして、建築物に係る規制を担保する建築基準法、面的に市街地を整備する土地区画整理事業のための事業法など、制度体系が大きくかつ複雑なものとなっている。
特に、土地利用に関する都市計画は、用途地域といったベースの計画に加え、特定街区、高度利用地区などの比較的小さい地区レベルでの計画、さらには地区計画があり、複層化・複雑化している。
さらに、その担保手段についてもいくつかの手段が存在するなど、複雑なものとなっている。
A今後の方向
都市づくりにおいては市民の積極的な参加が基本的に重要であり、そのため、制度は分かりやすく使いやすいものであることが必要である。マスタープラン制度の充実等により、都市の将来像やその実現に向けた基本的な進め方について市民へ提示し、理解を得る取り組みを重視していく必要がある。マスタープランについては、広域的なものと市町村ごとのものとに分け、それぞれ性格を明確化することにより、市民にも分かりやすいものとしていく必要がある。
都市計画制度全体について、地区計画の総合化をはじめとして、その体系を広域的・マクロな計画と、詳細・ミクロな計画という二つの側面に再編成し、市民にとってわかりやすい制度にする方向で基本的な構成を整理する必要がある。特に、詳細・ミクロレベルの規制については、街区単位での土地利用規制が可能となるような見直しも必要である。
より多様なレベルで事業と土地利用規制とが連携するための仕組みを整備していくことも重要であり、特に一定のまとまりのある優良プロジェクトについては、それ以外の個別の建築と区別し、個々のプロジェクトの市街地整備への貢献度を評価して柔軟な規制を行う仕組みの充実が必要である。
また、都市施設等の整備スケジュール等を分かりやすく示す都市構造再編プログラムを公表していくことも重要である。
さらに、土地利用の担保制度について、質の高い市街地形成のため統一的な対応ができるよう改善を図る必要がある。
(2)事業制度
@現状の評価
都市計画を実現するため、都市計画体系の中で土地区画整理法等の事業法が用意されており、これまで一定の役割を果たしてきているが、防災上危険な市街地の解消など取り組むべき課題は多い。
一方、実態としては法定事業と類似しているものの、予算等による支援措置のみで位置付けられ、都市計画とリンクしない事業の実施が増加している。
相当な強制力を有する法定事業手法と、任意の事業手法との間の中間的な事業手法、例えば何らかの法的位置づけはあるが要件、手続等が簡易な手法が乏しい。
さらに、事業の実施にあたっては、土地所有者の意向や権利関係に大きく左右されることから地方公共団体においては土地の取引や所有関係の把握に重点が置かれ、将来の土地利用の実現という面での必要な情報の把握と条件整備の面で不十分なところがある。また、我が国においては土地を「資産」として保有する考えがいまだに強く、それが再開発の障害となる場合が多い。
A今後の方向
面的な市街地整備に関しては、地区の整備方針の実現力を高めるため、機動的な土地利用規制と連動した再開発等の事業手法の枠組みが必要である。市街地再開発事業等のいわゆる法定事業については、例えば、広がりをもって面的に基盤施設と建築物を一体的に整備する手法など、現在の法定事業では十分に対応できないものや運用対応では制度的な位置づけが不明確なものの改善を推進すべきである。また、法定事業の枠組みを越えた民間の建築・開発行為について、より広範な市街地に良好な環境を実現する視点から、相応な強制力を有する一方でより簡易な使いやすい仕組みとするため、その都市計画における位置づけの強化と支援の充実を図る必要がある。
さらに、土地に対する国民の基本的な考え方において、「資産」としてではなく、「資源」として活用してもらう方向で仕組みを考えていくべきである。
こうした検討と併せ、新都市計画法施行後約30年を経て、中期的には、抜本改正も視野に入れた検討が必要である。
3 補助金制度・運用の本格的見直し
@現状の評価
補助金については、行財政改革、地方分権の推進の観点から、その見直しが指摘されている。また、地方公共団体がプロジェクトを推進する際、必ずしも使いやすい仕組みになっていない。
A今後の方向
公共施設の整備や公共性の高い事業については、採算性がない等により民間事業者が実施することが困難なものが多く、良好な環境を持った市街地を整備する観点から地方公共団体が主体的に実施することが必要である。そのような地方公共団体が行う都市整備については、国の直轄事業に関連する事業、国家的な計画に基づく事業、国の支援なしには実施が困難である先導的な事業、短期間集中的に実施する必要がある事業等について、国が支援していくことが必要である。
その際、類似事業をできるだけ幅広く総合化した補助金制度として合理化するとともに、重要な政策目的を有するプロジェクトを強力に推進するため、プロジェクトに着目した補助金の運用や制度の確立が必要である。
さらに、地方の自主性をより尊重しつつ、国と地方公共団体が共有する政策課題が的確に実現されるような方策の検討が必要である。
財源については、開発利益の吸収による財源確保の充実や、都市計画税を確実に都市整備につなげる仕組みなどについて検討していく必要がある。
また、時々の政策課題の実現に効果的に寄与し、国の都市政策の実現が図られるよう、一定期間ごとに補助金の効果把握を行うシステムの確立が必要である。
4 都市づくり専門機関の確立
@現状の評価
国全体の見地から要請される政策課題については、その解決に向けて、一定の地域内の行政を担うことを本来的使命とする地方公共団体との適切な役割分担の下に、国が事業実施レベルにおいても相応の役割を果たすべきとの意見が強い。
また、道路、河川などの直轄事業の実施に加えて、大規模あるいは困難性の高い都市整備事業について、国の直接的な支援を求める声が強い。
地方公共団体、住民、民間事業者など各主体の間のコーディネートも円滑に行われていない場合が多い。基盤整備と建築物整備がばらばらに行われる場合が多く、総合的・効率的に街づくりを行う仕組みが十分ではない。
一方で、制度的枠組みの構築や財政上の支援措置以外の手段で、国が都市づくりを支援するルールが明確になっていないという問題もある。
A今後の方向
都市整備は、基盤整備と建築物整備がセットになって初めて実現するものである。建築物整備は基本的には民間の役割であり、基盤整備についても、建築物整備と一体的に行うことにより採算ベースにのるものは民間に任せるべきである。
一方で、都市整備上の政策課題を解決していくためには、基盤整備を中心として公的主体がトリガー的な役割を果たさなければならない。
このような公的主体のあり方を考えた場合、基本的には地方公共団体が中心的な役割を果たすべきであるが、地方公共団体の規模・性格等からくる種々の制約や、多様な管理主体が存する様々な基盤施設の整備を一括して効率的に行う重要性を考えると、基盤整備を中心とする都市づくりを専門的に行う機関が必要となってくる。このような公的主体は「全国都市整備戦略」の実現を図る上でも有効と考えられる。
また、個々の都市づくりがうまく機能するためには、基盤整備を担う公的主体と建築物整備を担う民間主体とがきちっとかみ合うことが重要であるが、この場合、公的主体として、行政権限を有する地方公共団体よりも、公的色彩を帯びつつも民間事業主体に類した特性も併せ持つ主体が取り組む方が、民間との協調もうまく機能する場合が多い。
即ち、限られた時間の中で具体の政策課題に応えながら都市づくりを成功させるためには、一定の広がりの中で基盤整備を総合的・効率的に行い、併せて、主として民間の役割である建築物整備との連携、一体実施を図りうる公的な専門機関は不可欠であり、地方公共団体の主体的能力の強化に加えて、そうした主体の確立・整備に向けて国が積極的役割を果たすべきである。行政改革の趣旨に沿って、既存の機関について、能力を高めつつ適切に活用していく必要がある。
さらに、都市づくりは多額の資金を長期にわたり要する場合が多いことから、こうした主体はコスト負担能力の高いものであることが不可欠であるため、国としても適切な支援を行うことが必要である。また、緊急性・公共性は大きいものの採算性の乏しい事業を実施する場合などについては、国からその公的主体の財政基盤への支援を行うことにより事業の成立を図ることも必要である。
5 都市づくり産業への幅広い支援
@現状の評価
都市づくりの主体としては、地方公共団体と民間が適切に役割を担うことが重要であるが、現状では、国からの支援は地方公共団体に対するものが中心となっている。実際に広範な市街地を形づくっている民間サイドには政策的支援が乏しい状況にある。
国からの支援の形態としても、地方公共団体に対する補助金に大きなウェートが置かれており、税制・融資などの民間事業者向けの支援が乏しい。
また、ビッグバンや財政改革の中で、民間の資金を有効に活用していくことが求められているが、都市づくり事業の分野に資金を誘導する仕組みは不十分である。
さらに、支援措置は事前に一般的な形で定められ、事業者やプロジェクトの特性・状況に応じた柔軟な対応が困難なものになっている。
A今後の方向
官・民の適切な役割分担の下に都市整備を進めるには、民間事業者や地権者の再開発等に対する支援を充実し、その事業意欲、資金能力等を効果的に引き出していくことが必要である。その際、整備される施設に着目した無利子又は低利の融資、税制上の支援措置の充実といった支援手法の多様化・充実だけではなく、民間事業者の営む産業としての活動である点を重視して、それを適切に支援するという観点から、プロジェクト経営の安定化のため事業主体に着目した出資、債務保証といった新しい事業者支援の仕組みを導入することが必要である。
また、民間事業者のプロジェクトに対して資金調達の円滑化を図るため、証券化を推進するための方策の充実が必要である。
単に民間事業者だけでなく、地権者等が構成してまちづくりをコーディネートする株式会社などへの支援も充実することが求められている。
都市づくりは官民の共同作業であることから、公的セクターの立場だけでなく民間事業者のの立場も考慮して支援の内容を決める仕組みも必要である。
さらに、PFI事業の考え方にみられるように、プロジェクトごとの公的支援の程度や官民の役割・リスク等の分担について協定等の形で定める柔軟な仕組みも導入していくべきである。
6 民間レベルのプランナーの制度的位置づけの明確化
@現状の評価
都市計画の立案や事業の実施については、専門的な知識と経験が必要となるが、そうした専門家は、地方公共団体においても十分ではなく、地域における地元組織においては絶対的に不足している。
A今後の方向
NPOや市民が主体的に都市づくりに参加するためには、専門家を適切に位置づけ、市民の立場で考えて行政との橋渡しができる人材を増やしていくことが重要であり、都市計画の立案課程で住民の考え方の取りまとめを支援する観点から、都市計画プランナーについて民間レベルの人材についても制度的に位置づけるなど積極的な活用の促進が必要である。
7 市民と地方公共団体の主体的力量の向上に向けた支援
@現状の評価
一般の市民は都市づくりに対し必ずしも主体的な意識を有しておらず、また、セミパブリックな主体、例えばNPO、地権者や地域住民の組合、協議会組織などの活動も不十分である。
都市づくりに当たっては、計画面、事業面それぞれ地方公共団体の主体的役割が重視されるべきであるが、一方で、地方公共団体、特に市町村にあっては、行政能力、財政能力などの面でバラツキが多い。
事業についても、公共施設の整備や、公共性の高い事業に地方公共団体の役割が期待されているが、地方公共団体の規模によっては専門職員を抱えることは非効率となることから専門的能力が不足しており、円滑には事業が進まない状況にある。
A今後の方向
まちづくり情報センターの整備・充実など市民と行政との情報の交流と共有を強化することを通じ、都市づくりに取り組む市民に対し支援を行っていく必要がある。また、市民の活動については、地権者や地域住民の意向を適切に都市計画や市街地整備に反映していくため、協議会組織やNPOを制度的に位置付けるとともに税制等の支援措置の充実を図る必要がある。
地方公共団体の体制の強化を図るためには、研修等により担当職員の専門的能力の向上を図るとともに、担当セクション及び担当職員の地位向上を図ることが重要であり、例えば、都市計画に関し専門的な知識・経験を有する職員を位置づける「都市計画主査」といった制度の導入を始めとする積極的な支援が必要と考えられる。
また、地方公共団体間で専門職員をプールして融通し合えるような仕組みの確立も必要である。併せて、各地方公共団体や民間事業者等に共通の都市計画の専門家を位置付ける仕組み、例えば「都市計画プランナー」といった制度も必要である。
さらに、都市活動の広域化に対応し、地方公共団体間の連携等による広域的取組みを強化していくべきである。
8 全国を視野に入れた都市整備に関する国の方針の確立
@現状の評価
都市及び都市整備に関する国の考え方について、施策ごと、施設ごと、事業ごとといった「部分」についてしか明らかになっていない。外部からは、審議会答申、白書、法令・通達等の中からその時々で適切なものを探すしかないのが実態である。
また、都市は多様な要素により成り立っているため、国の多くの部局が関係している。体系的な枠組みがなければ国の考え方や対応は分野ごとの縦割りに陥るおそれが大きい。
A今後の方向
都市整備に関する国の現状認識、整備の目標、政策課題等を整理した全国レベルの方針として、例えば「全国都市整備戦略(UDS:Urban Development Strategy)」(仮称)を策定し、地方公共団体を始めとして広く対外的に公表すべきである。その内容は、3〜5年毎に社会経済情勢の変化に応じて見直していく必要がある。その制度的位置づけについても、中期的には、首都圏整備計画など広域的な計画との関係についても整理しつつ、法律に基づくものとすることも含めて今後さらに検討すべきである。また、大規模な空港など全国的な見地からの配置が必要な施設の計画上の位置付けについて、国が積極的な役割を果たす観点からの検討が必要である。こうしたことは、都市づくりに関する各主体の役割と責任を明確にする上で有効と考えられる。
(別紙)
都市づくりが抱える政策課題
都市づくりにおいて取り組むべき政策課題は、それぞれの都市によって様々であるとともに、何が政策課題であるかは本来的に都市のレベルで行政と市民とが協同して明らかにすべきこととも言えるが、一方で、国全体として実効ある都市づくりを整合性をもって実現するためには、都市づくりに関わる様々な政策課題を国民的レベルにおいて共有することが何よりも重要である。この場合、新・全国総合開発計画において「大都市のリノベーション」の重要性が取り上げられているように、共通の認識の醸成に向けて、国としても積極的な問題提起を行う必要があると考えられ、このような観点から、都市づくりが抱える政策課題を明らかにする。
(1)望ましい都市構造を形成するため取り組むべき課題
大都市圏、地方都市圏は、都市構造の観点からそれぞれ異なる課題に直面している。共通する部分もあるが、各都市圏の政策課題としては以下のようなものが特に重要である。
@大都市圏
大都市圏では、人口や諸機能の集中に変化の兆しが見え始めているが、都心部への過度の集中は依然として解消されていない。一方、国境を越えた都市間競争に対応できる都市機能の整備も求められている。このため、多核型の都市圏の形成を進めることを基本とし、業務核都市等への諸機能の分散及び都市間の連携・交流によるネットワークの構築を進めるとともに、都心における機能の高度化など、大都市圏の構造の再編を図ることが必要である。
○業務核都市圏等広域拠点地域の育成・整備
業務核都市などにおける商業・業務等の複合拠点の形成は、大都市圏構造の再編に加え機能の集積による相乗効果、周辺地域に対する波及効果の両面で重要である。都市構造の多核化の実現のみならず、我が国経済全体の発展を図る観点からも、市街地における面的整備や交通基盤整備等を一体的かつ強力に実施することにより、こうした拠点を計画的に形成することが必要である。
○広域的・根幹的都市基盤の整備促進
環状方向の広域幹線道路など多核型都市圏を支えるインフラ整備が不十分であり、これが大都市圏構造の再編が進まない大きな要因となっている。特に、稠密な市街地部において整備すべきこれら都市基盤は、市街地整備と一体となった整備手法が不可欠な場合もあり、整備促進に向けた体制の再整備が必要である。
○危険度の高い市街地の解消
災害に対して住民や財産の安全を守り、都市の機能を確保することは基礎的に重要な課題であるが、現在も危険市街地は大量に残されている。その解消のためには、緊急な対応を要する地区の絞り込み及びそこにおける総力的取組みが必要である。
○臨海部地域の再編整備
産業構造転換に伴い、臨海工業地帯での新たな都市機能導入、土地利用転換を円滑に進め、民需誘発や機能更新を着実に進めるための措置を講じるべきである。この地域は大都市の再構築に向け重要な空間であり、個々の跡地開発というやり方ではなく、体系的かつ戦略的な再編が可能な仕組みと体制が必要である。
○不整形地等の有効利用
バブル期の地価の高騰とその後の下落等を背景として、不良債権に絡んだ不整形地等が多数発生しており、債権債務関係の円滑な処理、土地の整形・集約化等を通じて有効活用を促進していく必要がある。
○住宅宅地の供給
常磐新線沿線など新たな住宅宅地の供給の促進や都心居住の推進など、現在の大都市圏の構造、長時間通勤等に対する施策については、かつてのような強い需要はなくなってきたものの、大都市圏における良質な住宅という生活基盤の形成の観点から依然として重要である。
○スプロール市街地の再整備
都市基盤が整備されないまま市街化した郊外部のスプロール地域において、面的な整備を進めることにより、良質な市街地として再整備することが必要である。
A地方都市圏
1)地方中枢都市・地方中核都市
今後、地方ブロックレベル又は県レベルの地域の拠点として、人口・諸機能の一層の集中とともに都市の緩やかな拡大が予想されるが、高次の都市機能の集積は依然として不十分である。中枢管理、情報、国際交流等の機能の一層の高度化を図りつつ、これまでの大都市の経験を活かし、エネルギー効率が高く福祉等のサービスも受けやすいコンパクトな都市を目指すことが必要である。
○都心部等の拠点性の強化など、地域連携の核都市としての機能強化
当該都市の盛衰が周辺の広域圏域へ影響を及ぼすことから、面的な市街地の再構築により高次の都市機能の集積・強化を推進する必要である。
○豊かな環境と利便性の両立
人口等が集積傾向にあるこれら都市では、大都市圏で生じた都市問題が再び起こることのないよう、既成市街地の再構築による集積の受け入れ、公共交通のサービスレベル向上等、戦略的な取り組みが必要である。また、環境問題への意識の高まりも踏まえ、都市の周辺の緑を極力残し、施設、エネルギーを効率的に使えるコンパクトな構造とすべきである。
2)地方中小都市
周辺地域に都市的サービスや就業機会を提供する拠点として機能することが期待されているが、多くの都市においては、モータリゼーションの進展や産業構造の変化等に十分対応できず、都市機能の存続が危機的な状況になっている。地域の個性や豊かな自然を活かしつつ、中心市街地の活性化、交通基盤の整備等により、周辺農山漁村を含む自立都市圏の形成を目指すべきである。
○中心市街地の活性化
中心市街地は、都市の歴史が凝縮した「街の顔」であるとともに、様々な都市機能が集積した都市構造上重要な地域であって、その都市圏のサービス拠点でもあり、都市圏の存立基盤としても機能している。今後は、従来の商店街の振興といった狭い立場を越えて、各種施策目的を総合的に実施する都市整備の観点から、市民が住み、遊び、学び、働き、交流する「生活・交流空間としての市街地」として再構築する必要がある。
○自立都市圏の形成
都市圏の中心となる市街地の活性化、圏域内の交通網整備等による連携の強化は、望ましい都市構造の形成、国土資源のバランスのとれた利用、無駄のない効率的な整備等の観点から重要である。また、周辺の農山漁村や中山間地域における都市的土地利用は、都市圏全体の視点に立って計画的に行われることが必要である。
(2)各都市が共通して直面する重要課題
以上のほかにも、経済社会のグローバル化、少子・高齢化、環境問題への意識の高まりなど、全国的・国際的な潮流の変化等により各都市が共通して直面する重要課題がみられる。これらについて、国民的レベルで共通の認識を持ち、協同した取組みが必要である。
○ナショナルミニマムの確保
下水道、公園など、我が国の都市において環境、安全等の面で最低限必要な水準に達していない施設の整備は依然として必要である。排水の高度処理や密集市街地の解消など新たなナショナルミニマムとなりうるものも敏感に捉えていくべきである。
○豊かで快適な生活を支える都市交通体系の整備
都市整備の中で広域幹線道路網等の計画的な整備などモータリゼーションの進展への対応を図り、空港、インターチェンジ等高速交通機関へのアクセスを確保することは経済活動の円滑化に不可欠であり、国際競争力の観点からも必要である。
都市におけるモビリティを高め、効率的な都市生活を可能とするため、都市内公共交通機関の整備支援を図るとともに、駅前広場等における交通結節機能を強化し、自動車、公共交通機関、歩行者等の間で、効率性と快適さに配慮した組み合わせを実現することが必要である。併せて、都心部にトランジットモールを導入すること等により歩行者優先の空間に再構築すべきである。
○バリアフリーなど万人に優しいまちづくり
歩道の段差の切下げ、駅等へのエレベーターの設置など高齢者、障害者を含め全ての人々が円滑に移動することが可能な環境の形成や、便利で利用しやすい場所へのサービス施設等の立地は、本格的な少子・高齢社会の到来に向けた基礎的な対応として重要な課題である。
○地球環境問題への対応
地球温暖化をはじめとする地球環境問題に対応するためには、都市活動に関連
する施策が重要であり、この観点から、省エネルギー型で環境負荷の軽減に資する都市構造の形成や公共交通機関の積極的導入などを通じた都市交通体系の構築を図る必要がある。また、温室効果ガスの吸着やヒートアイランド現象の緩和に資する緑地等の保全・創出を進めるとともに、自然の循環を適切に都市に取り入れ、かつ、生物多様性が確保された豊かな環境と都市における高次の社会経済活動がバランスした都市をつくっていくことが必要である。さらに、都市廃熱の回収や廃棄物再生燃料の活用等を進めるとともに、資源の再利用システムを採用し、持続的な発展が可能な都市を目指す必要がある。
○良好な水循環の維持・回復
都市は、流域を単位とする水循環によって受益するとともに水循環に対して多大の影響を及ぼしており、都市政策においても良好な水循環の維持・回復を図ることが必要である。
○広域レクリエーション需要への対応
自然とのふれあい志向の高まりや広域的なレクリエーション需要の増大に対応して、良好な自然環境の中で余暇を楽しむことができるよう、また、後世に優れた自然的資産や歴史文化資産を伝えていくため、大規模公園等の整備を図ることが必要である。
○グローバル化に対応する情報基盤の整備
高度情報通信社会の到来を控え、光ファイバー網等の情報インフラは今後ますます重要である。このため公共施設の整備と併せた収容空間の整備等を積極的に推進することが必要である。