「市街地の土地利用計画制度のあり方に関する今後の展望について」

 〜 都市計画中央審議会基本政策部会報告(H11.3.3)の概要 〜

1 検討の経緯  

 土地利用計画小委員会は、都市計画中央審議会基本政策部会のもとに設置され、平成8年10月より検討を開始。この間、平成9年6月に中間とりまとめを報告。

 今般、市街地の土地利用計画制度のあり方に関する今後の展望について、報告をとりまとめたところ。

2 市街地の土地利用計画制度の課題と見直し検討の基本的視点


 制度改善の視点としては、

@既成市街地の質の向上に向けて、目指すべき市街地像を想定してその実現に積極的に寄与しうる仕組みを拡充すること、

A地方分権の趣旨を踏まえて、地域の創意工夫に対応しうる自由度の拡大や参加と連携の視点に立った策定プロセスの充実を図ること、

B新設・拡充を積み重ねてきた結果複雑化した制度を、簡素でわかりやすい仕組みへと再整理すること。

  @既成市街地の質の向上へ向けた再構築の誘導

 我が国の都市の状況が、市街地が急速に拡大する都市化の段階から都市の成熟化の段階に移行することに伴い、都市整備の重点も既成市街地の質の向上へシフト。今後は、規制の大枠のみを緩やかに定める方式から、目指すべき市街地像を想定して建築物等の更新活動を誘導し、その実現に積極的に寄与しうるような制度の仕組みを拡充することが必要。

  A地方分権を踏まえた地域の主体的取り組みの支援

 都市計画における地方分権については、平成10年1月の都市計画中央審議会答申を踏まえて、順次法令改正が進められているところであるが、今後はさらに、地域の創意工夫に十分対応できる柔軟で自由度の高い仕組みへ向けて、制度面の改善が必要。また、参加と連携の観点から計画策定プロセスの充実が必要。

  B簡素でわかりやすい制度

 経済・社会の変化に伴い発生する様々な政策課題に対応するため、制度の新設・拡充が積み重ねられてきたが結果、多様な手法が整備された反面、複雑化を招いたとの批判があり、簡素でわかりやすく使いやすい仕組みとするため、制度の再整理が必要。

3 制度見直しの方向  

(1)制度構成の基本的あり方


 用途地域と地区計画の関係は、用途地域が類型化された一般ルールであり、用途や密度の広域的な配分の枠組みを設定する機能を担うものの、個々の市街地のあるべき姿を積極的に想定したものではないのに対し、地区計画は目指すべき市街地像に関する地域合意を踏まえて、きめ細かな土地利用規制を総合的に定める制度。このため、より積極的な市街地像を実現する観点から、広域的な要請との関係に配慮しつつ、地区計画が策定された場合には、その内容を用途地域に対して優先適用する方向とすることが適当。

 市街地の土地利用計画の目的は、市街地のあるべき姿を想定し、規制・誘導等を通じてその実現を図ること。しかし、我が国の市街地は、概して秩序ある街並み形成が行われてこなかったため、市街地のあるべき姿がわかりにくい特徴がある。このため、目指すべき市街地像を地域合意としていくプロセスが必要。  

 市街地の土地利用計画に関する現行制度は、大まかに用途地域と地区計画の2層で構成。用途地域は、12種類の類型化された一般ルールであり、簡便にあてはめのできる規制のメニューであるとともに、市街地全域の用途・密度配分の大枠を設定する機能を担っているが、市街地のあるべき姿を積極的に想定したものではない。一方、地区計画は、地区レベルでの詳細な計画であり、地区固有の目指すべき市街地像に関する地域合意を踏まえて、きめ細かな土地利用規制を総合的に定める制度。  

 このため、より積極的な市街地像を実現する観点から、広域的な要請との関係に配慮しつつ、地区計画により地域固有の規範が策定された場合には、用途地域に対してこれを優先適用する方向で制度構成を再整理することが適当。  

(2)地区計画制度


 地区計画制度は、市街地の質の向上に向けた政策展開にあたり、中心的役割を期待される制度。このため、

@利用しやすさの観点から複雑化した制度を再整理すること、

A市町村の創意工夫に対応して計画事項を弾力化すること、

B計画策定のプロセスにおいて行政と住民等との成熟した連携関係を構築するため地権者等による要請制度を拡充すること

など、制度の更なる改善を検討すべき。

@地区計画制度の再編成

 地区計画制度は、近年制度の創設・拡充が積み重ねられてきたが、その結果制度が多様化・複雑化し、容易に理解しにくいとの批判。例えば、現行6種類の制度を、汎用性の高い「地区計画」とアクションエリア型の「特別地区計画」の2種類に再編し、適用できる規制・誘導機能も包摂的に共通化するなど、わかりやすさと使いやすさの観点から改善を図るべき。

A地域の創意工夫に対応したフレキシビリティの充実

 地方分権のめざす基本理念を踏まえ、市町村の創意工夫ができるだけ活かし得るよう、制度の柔軟性や自由度をさらに高めることが必要。この趣旨で、先に特別用途地区制度については、法令によるメニューの限定列挙を止め、市町村が独自の種類名を定め得るよう改正されたところ。地区計画制度についても、例えば、届出・勧告のみに係る計画事項については、法令によるメニューの限定列挙を廃止し、市町村が弾力的に定められる方向で改善すべき。  

B住民発意型策定プロセスの充実

 近年住民の側からのまちづくりへの自発的な動きが顕著となっており、身近な生活環境に係る計画づくりを行う地区計画制度においては、住民等の発意や主体的取り組みを的確に受け止め、策定プロセスにおける行政と住民の成熟した連携関係を構築していくことが課題。このため、地権者等による地区計画の策定要請に関する仕組みを拡充すべき。

 また、都市計画の変更を要する再開発プロジェクト等の提案についても、都市整備上の公益性が見込まれる場合には、これをオープンな形で議論できる仕組みのあり方を検討すべき。  

Cその他の改善

 地区計画の実現には、規制・誘導措置のみでは十分ではなく、様々な支援策が欠かせない。基本的には市町村が中心的役割を担うべきであるが、権利移転の円滑化や一定の地区施設等の整備について、国の支援の拡充が必要。

 また、道路整備と一体的に土地の有効利用を誘導するため、誘導容積型の地区計画制度の活用を推進すべき。  

(3)用途地域の容積率等


 用途地域の容積率は、土地利用と施設容量とのバランスや市街地環境の確保のため建築物の密度の上限を規制するもの。このため、容積率規制の緩和は、都市構造の再編や市街地環境の改善など、プロジェクトの優良性等を総合的に判断して行うべき。 一方、用途が幅広く混在している既成市街地を対象に、建築物の更新を通じて望ましい土地利用を積極的に誘導するには、限られた空間容量を適切に配分することで特定の用途の集積を奨励するタイプの手法が適切な場合もあり、制度の実効性の確保に配慮しつつ、容積率の特例制度を含めて検討すべき。

@用途地域の容積率

 用途地域の容積率は、土地利用と交通施設容量とのバランスや市街地環境の確保を図るため、建築物の密度をコントロールするとともに、都市の密度配分に関する一定の指標をなすもの。

 容積率の規制緩和については、土地の高度利用は都市基盤の整備を前提として適切に行わなければならないという考え方に立ち、都心居住など都市構造の再編という政策的必要性や、公開空地の創出など市街地環境の改善におけるプロジェクトの優良性等を総合的に判断して行うべき。

A都市機能更新の積極的誘導

 戦後の不燃構造の建築物も本格的な更新の時期を迎えつつあり、都市の中心部など各種機能が高度に集積している地区でも建替え等の動きが活発化。これらの市街地を時代のニーズに適合した魅力ある諸活動の場へと再生するには、建築物の更新の機会に望ましい都市機能の集積立地を誘導することが必要。

 用途が幅広く混在している既成市街地を対象に、建築物の更新活動を通じて望ましい土地利用を誘導するには、用途の禁止と許容の二者択一では限界。むしろ、幅広い用途を許容しつつも、限られた空間容量を適切に配分することにより、望ましい用途の集積を奨励するタイプのコントロール手法が適切な場合もあり、制度の実効性の確保に配慮しつつ、容積率の特例制度の活用も含めて検討すべき。  

4 市町村の都市計画マスタープランについて


 市町村マスタープランは、多くの市町村において現在策定が進められており、そのプロセスにおいて住民意見の反映に熱意を持って取り組んでいる事例が少なからず見られる。今後は、市町村の自主性を最大限に尊重しつつ、さらに策定後の活用状況やプランの見直しを注視。
 土地利用の制限についての根拠や考え方の説明や、まちづくりにおける住民参加が重視される中、マスタープランの策定は、目指すべき市街地像に関する地域合意のプロセスとして、重要な役割を担う可能性。

 市町村マスタープラン(都市計画法第18条の2に基づく「市町村の都市計画に関する基本的な方針」)は、住民に最も身近な市町村が、その創意工夫のもとに、住民の意見を反映させて、都市づくりの具体性ある将来ビジョンを確立することをねらいとして創設された制度。現在、多くの市町村で作成に向けた取り組みが精力的になされており、策定を了した市町村も徐々に増加しているところ。  

 従って、現時点でその評価を総括することは適当でないが、マスタープランを作成するプロセスにおいて、住民意見の反映に熱意を持って取り組み、工夫を凝らしている事例が少なからず見られる一方、将来ビジョンが十分に熟していないにもかかわらず、プランのとりまとめを急いでしまう事例も見られる。今後は、各市町村の自主性を最大限に尊重しつつ、策定後の活用状況やプランの見直しについて注視していくべき。  

 土地利用計画におけるマスタープランの役割を考えると、土地利用の制限についての根拠や考え方の説明や、まちづくりにおける住民参加が重視される中、計画の円滑な策定や住民等の理解の促進のために重要な役割を担う可能性。特に、市町村マスタープランにおける地域別構想の策定を、住民の参画を得て行うことは、目指すべき市街地像に関する地域合意を醸成する過程において、大きな意義。  

5 今後の検討課題  

 本小委員会では、市街地の土地利用計画制度のあり方に関する検討を行ってきたが、経済・社会状況の変化を踏まえて、非市街地を含む都市の圏域全体に係る土地利用計画のあり方等について、さらに検討が必要。