【都市計画中央審議会基本政策部会報告】
 
 
 「市街地の土地利用計画制度のあり方に関する今後の展望について」
 
 
1 検討の経緯
 
 都市計画中央審議会においては、平成7年7月に建設大臣から「今後の都市政策は、いかにあるべきか」について諮問を受け、基本政策部会を開催し、精力的に審議を進めているところであるが、検討課題のうち土地利用計画制度について専門的かつ集中的な検討を行うため、同部会に土地利用計画小委員会を設置した。本小委員会においては、平成8年10月以来12回の会議を開催し、市街地の土地利用計画制度のあり方について検討を行ってきた。この間、平成9年6月には中間とりまとめを行い基本政策部会に報告したところである。
 
 また、平成10年1月に都市計画中央審議会において「都市計画における役割分担のあり方について」と題する第一次答申が行われ、これを踏まえて、都市計画の決定権限等に関する法令改正が行われるとともに、本小委員会中間とりまとめで提示した検討事項のうち、「特別用途地区の多様化」及び「市街化調整区域の地区計画」についての法改正が行われ、平成10年11月に施行されたところである。
 
 今般、本小委員会では、これまでの検討結果を踏まえて、市街地の土地利用計画制度のあり方に関する今後の展望について、以下のとおりとりまとめた。
 
 
2 市街地の土地利用計画制度の課題と見直し検討の基本的視点
 
(1)既成市街地の質の向上へ向けた再構築の誘導
 
 我が国の都市の状況は、市街地の急速な拡大など都市化の段階から都市の成熟化の段階へ移行しつつあり、これに伴い、都市整備の重点についても、開発による新たな市街地の形成から、すでに国民の大多数が生活し様々な活動が営まれている既成市街地の質の向上へとシフトしていく必要がある。
 
 市街地の土地利用計画に関する現行制度は、用途地域に代表される類型化された一般ルールによって大枠を定める方式が中心的役割を担っている。我が国の市街地の大部分は、これまでこうした緩やかな枠組みのもとで、急速な都市化と経済発展を背景としつつ形成されてきた。
 
 現行制度の中心となっているこのような仕組みは、市街地のあるべき姿を即地的に想定した上で、到達すべき目標像を示すものではなく、市街地環境の形成を積極的に進めるという性質のものでもない。今後は、既成市街地の質の向上へ向けて、建築物等の更新活動を的確に誘導することにより、目指すべき市街地像の実現に積極的に寄与する仕組みの構築に向けて、制度の枠組みを拡充していく必要がある。
 
(2)地方分権を踏まえた地域の主体的取り組みの支援
 
 都市計画における地方分権については、都市計画中央審議会として、都市計画における国、都道府県及び市町村の役割分担のあり方について審議し、平成10年1月に答申をとりまとめたところである。これを受けた具体的な制度改正については、都市計画の決定主体等の見直しに関する法令改正が平成10年11月に施行されたとともに、その他の事項についても地方分権推進計画(平成10年5月閣議決定)に基づき今後措置されることとなっている。
 
 今後はさらに、個性豊かで活力に満ちた地域社会の形成という地方分権本来の目的の達成に向けて、都市計画の決定権限等の分担関係の見直しに止まらず、制度面での更なる改善が望まれる。この場合、都市計画として定める内容そのものについても、地域の主体的取り組みや創意工夫に十分対応できるよう、柔軟で自由度の高い仕組みとする方向で改善を進めることが必要である。
 
 また、既成市街地では、そこで現に住民が生活しており既存の多様な都市活動が営まれていることから、土地利用計画の検討に当たっては、住民等の意向や地域のニーズを的確に把握した対応が不可欠である。このため、地域の自己決定機能の拡充という視点に立って、都市型社会における行政と地域住民等との適切な連携関係の構築に寄与するよう、土地利用計画の策定プロセスを充実していく必要がある。
 
(3)簡素でわかりやすい制度
 
 市街地の土地利用計画制度は、社会・経済活動に影響を及ぼす基本的な制度であるため、地方公共団体にとって使いやすく、住民にとって計画・規制の目的及び内容が十分理解でき、都市開発事業者にとって活力を適切に発揮でき、これらの結果、各主体の積極的な参画・協力を通じて計画の決定とその目標の着実な実現が図られるよう、計画の枠組みの整理と内容の充実を図ることが必要である。
 
 しかしながら、近年、経済・社会の変化に伴い発生する様々な政策課題に対応するため、制度の新設・拡充が積み重ねられてきた。その結果、多様な手法が整備され、各々の課題にきめ細かく対応することができるようになったものの、特に地区計画制度をはじめとして、制度の種類や活用する際の条件等が複雑化し、一方でかえってわかりにくくなったとの批判もある。このため、簡素でわかりやすく使いやすい制度へ向けた、制度の再整理が求められている。
 
 拡充を積み重ねてきた結果複雑化した制度を再整理するに当たっては、単に簡素化するという視点にとどまらず、制度の本来の目的に立ち返って今日的な役割を再検討することにより、制度相互間の構成を見直す観点も重要である。そのようにして、個別課題を包摂しうる一般制度としてのあり方を検討する方向で、制度体系の見直しを図る必要がある。
3 制度見直しの方向
 
(1)制度構成の基本的あり方について
 
 市街地の土地利用計画の目的は、地域の特性に応じた市街地のあるべき姿を想定し、規制、誘導又は事業等の適用を通じてその実現を図ることにある。制度構成の基本は、この目的が十分に達成されるように、規制等の適用を受ける地権者や住民にとって、その意義が容易に理解できるわかりやすい仕組みであることが必要である。特に、今後既成市街地の質の向上に向けた取り組みが増大するに当たり、仕組みのわかりやすさが一層求められることになる。
 
 地域の特性に応じた市街地のあるべき姿の想定に関しては、我が国の市街地の特徴として、これまで個別の建築活動が比較的自由に行われてきた結果、秩序ある街並みの形成が概して行われてこなかった経過があり、各地域において具体的にどのような市街地像を目指すべきかがわかりにくい状況にある。このため、目標像を明確化した上で、適用する規制等の内容へとつなげていくことが必要であり、目指すべき市街地像に一定の地域合意として共有化できる位置づけを与えるため、合意形成プロセスを含めた制度上の対応が必要である。
 
 一方、市街地の土地利用の規制又は誘導に係る現行制度は、大別すると、用途地域をはじめとする地域地区と地区計画の2種がある。このうち用途地域については、前述のとおり、市街地のあるべき姿を積極的に規定したものではなく、達成すべき市街地像の目標ではない点に留意する必要があるが、市街地の現状を踏まえつつ、市街地の全域に及ぶ広域的観点から用途及び密度の配分の大枠を設定する機能を担うとともに、地区固有の目指すべき市街地像に関する地域合意が位置づけられていない大部分の市街地に対して、簡便な選択により土地利用規制のメニューを提供している。
 
 これに対して地区計画は、地区レベルでの固有の状況や課題を踏まえた詳細な計画という性格を有しており、当該地区の整備のあり方を示す「地区計画の方針(地区計画の目標その他当該区域の整備、開発及び保全に関する方針)」と、必要な制限事項を定める「地区整備計画」等の2段階で構成されている。策定手続きにおいても、通常の都市計画決定手続きに加えて、土地所有者等の意見を求めて案を作成することが義務づけられている。すなわち、地区固有の目指すべき市街地像に関する一定の地域合意を踏まえて、きめ細かな土地利用規制を総合的に定めることのできる制度となっている。
 
 市街地の土地利用計画に関する現行の制度構成は、このほか用途地域の補完としてその他の地域地区があるものの、大まかに用途地域と地区計画の2層のものとして構成されているが、用途地域と地区計画の関係は、用途地域で指定された規制の枠組みを前提としつつ、一般的にはこの制限をさらに強化又は付加するように地区計画の内容を定めることを基本とし、限定的な場面においてその一部を例外的に緩和できるものとして整理されている。また、地区計画が適用されるべき地域の範囲については、目指すべき市街地像の確立には一定の地域合意のプロセスが必要なことから、すべての市街地に対して固有の目標像を設定してきめ細かな土地利用規制を適用することは現実には困難であり、地域合意の熟度に応じて漸進的に地区計画の策定を進めていくことが適当である。
 
 ただし、地区固有の状況や課題を踏まえた目指すべき市街地像は、必ずしも用途地域による一般的規制の範囲内には収まらない場合も想定される。このため、仕組みのわかりやすさの確立とともに、より積極的な市街地像を実現する観点から、後述のような考え方で、目指すべき市街地像を地域の合意として位置づける計画が策定された場合においては、それに基づく規範を定め、これを優先適用する方向で、制度構成の再整理を検討すべきである。具体的には、地域固有の規範を定める制度として地区計画があるので、地区計画が策定された場合には、その内容としての規範を一般類型たる用途地域に対して優先適用するとして、制度構成を再整理することが適当である。
 なお、都市レベルの広域的な観点からの要請と地区レベルの目指すべき市街地像との関係については、広域的な要請の枠組みの中で両者を調整するという観点に立って、都市計画の一体性を確保するものとして相互の整合が図られるべきである。
 
(2)地区計画制度について
 
 地区計画制度は、土地利用や公共施設に関する幅広い事項について、住民参加のもと、地区レベルの視点から詳細な計画を策定し、各種の規制・誘導手法を用いて目標の実現を図るとともに、目標とするビジョン自体を位置付ける方針部分と規制を伴う計画を詳細に位置付ける地区整備計画の部分とから構成され、計画制度としての高い総合性を有している。地区計画の策定実績は制度創設以来順調に増加してきているとともに、これまでにも数々の制度拡充が行われてきたところであるが、市街地の質の向上を目的とする政策展開に当たり、土地利用計画の中心的役割を果たす制度と期待されることから、利用しやすさの観点に立って、制度の更なる改善を検討すべきである。
 
 @地区計画制度の再編成
 
 地区計画制度については、近年、経済・社会状況の変化により発生する様々な都市問題に対して、対象の地区に的確かつきめ細かな対応が可能という特徴を活かして、政策ツールとしての制度の創設・拡充が積み重ねられてきた。創設された制度は、その時々の要請に対応する形でそれぞれ個別の趣旨・目的を有しているものであり、これらにより制度の拡充・発展が大いに図られたが、一方で種類の多様化や制度の複雑化、煩雑化を招くこととなり、容易には理解しにくいとの批判を受けるに至っている。このため、制度のわかりやすさと使いやすさを抜本的に改善し、簡明な制度へと再編成することが必要である。
 
 制度の再編成の具体的な方向としては、例えば、現行の6種類の地区計画制度について、地区計画、沿道地区計画、集落地区計画及び防災街区整備地区計画については「地区計画」として、再開発地区計画及び住宅地高度利用地区計画については「特別地区計画」としてそれぞれ再編するとともに、適用できる規制・誘導機能についても包摂的に共通化を図ることで、わかりやすく使いやすい制度とする方向で検討することも考えられる。この場合、用途地域との関係において、新しい「地区計画」については、基本的には用途地域で指定された用途及び密度の内容を踏襲して定めることとする一方、「特別地区計画」については、新たに整備する主要な公共施設の計画を含むこと等により用途地域の規定する容積率等の大枠を転換しうるアクションエリア型の制度として、役割分担を整理することが適当である。さらに、手続き面の仕組みについても、都市計画決定、条例化、許可・認定等が、それらの適用条件を含めて著しく複雑・煩雑化しているため、簡素化・合理化を図る見地から改善を検討することが求められる。
 
 A地域の創意工夫に対応したフレキシビリティの充実
 
 地方公共団体の自主性及び自立性を高めることにより、個性豊かで活力に満ちた地域社会の形成を図るという地方分権が目的とする基本理念を踏まえて、都市計画の制度面においても、地域の実情にきめ細かく対応するとともに、地方公共団体、とりわけ市町村の創意工夫ができるだけ活かし得るよう、自由度の高い柔軟な制度とする方向で、更なる改善に努めることが求められている。
 
 これを受けて、平成10年に特別用途地区制度については、その種類を法令で限定列挙されたメニューから選択する従来の方式を改め、市町村が地域の特別の目的を勘案して種類名を独自に定めるように改正されたところであるが、さらに地区計画制度についても、特色ある街並みの形成など地域の実情や創意工夫のニーズにより的確に対応できるよう、計画制度としての柔軟性や自由度をさらに高めることが必要である。具体的には、届出・勧告のみの対象として定める計画事項について、法令によるメニューの限定列挙を廃止し、必要な計画事項を弾力的に定めることができるようにする方向が考えられる。
 
 また、地区計画の策定対象地域についても、平成10年に市街化調整区域の地区計画について大幅な改善がなされたところであるが、さらに地域の実情に応じた制度の活用を図るため、未線引き都市計画区域内の用途地域未指定区域についても計画策定の推進を検討する必要がある。
 
 B住民発意型策定プロセスの拡充
 
 近年、身近な市街地環境に対する住民意識の高まりを反映して、住民の側からのまちづくりへの提案や取り組みが自発的になされる動きが各地で顕著にみられるようになってきており、特に住民の身近な生活環境に関する計画づくりを目的とする地区計画制度においては、こうした住民等の発意や主体的取組みをも的確に受け止め、適切な連携関係を構築しつつ制度の的確な運用を図っていくことが求められている。
 
 そもそも地区計画の策定プロセスでは、案の作成の段階から地権者等の意見を求めることが義務付けられており、また、具体的な制限等を定める「地区整備計画」の策定に当たり、地権者等が要請できる制度が措置されているが、現行制度での策定要請の仕組みについては、地区計画の方針があらかじめ定められている区域内を対象に、一団の土地の区域について地権者の全員合意のもとに、地区整備計画の策定についてのみ要請ができることとされており、活用できる条件に一定の制約がある。
 
 地権者等による地区計画の策定要請という仕組みは、都市計画の策定手続きにおいて、行政の働きかけによるアプローチだけでなく、地権者側からのアプローチを制度上位置付けているものであり、住民参加のあり方として重要な意義を有している。地権者合意に裏打ちされたルールづくりの推進とともに、今後の都市型社会における行政と住民等との成熟した連携関係の構築に向けて、地区計画の策定プロセスにおける要請制度の拡充が重要である。この場合、具体的には、地区計画の方針段階からの策定要請の導入、地権者の一定割合の合意により要請できる仕組みの整備、要請を受けた都市計画決定権者の行うべき措置の明確化等があげられる。
 
 また、要請にあたり地権者等が締結する協定については、その内容において、建築物等の整備のためのルールのほか、公共施設の整備に関する事項を含むものであり、その負担関係を含めて地区計画の内容の実現に積極的な役割を果たすものである。このため、公共施設等の整備の確実性をさらに高める方向で、負担に関する地権者合意を含む協定について、制度上の位置づけのあり方を検討すべきである。
 
 さらに、まちづくり協議会等の住民組織の活動について、地域合意の形成の母体としての機能や、策定後の計画の自主管理的な機能に着目して、これらの適切な支援策についても検討すべきである。
 
 なお、地権者等による上述の要請のほかに、例えば再開発プロジェクト等の構想が、開発事業者など第三者からの発意で提案される場合がある。このような提案は、実現するにはしばしば現状の都市計画の変更を必要とする場合があるが、提案内容における都市整備上の公益性や事業実施面での可能性等が十分に見込まれる場合については、これをオープンな形で議論できるような仕組みのあり方についても検討すべきである。
 
 C推進手法の強化
 
 地区計画に位置付けられた目指すべき市街地像の円滑な実現のためには、規制・誘導措置のみでは必ずしも十分ではなく、住民や地権者等の十分な理解と協力とともに、様々な方策による実現の支援が欠かせない。計画実現の支援は、基本的には地区計画の決定主体であり、かつ、住民等に最も身近な行政主体である市町村が中心的役割を担うべきであるが、我が国の市街地における生活環境等の質の向上という政策課題の達成に向けて、各種主体の協力のもとに円滑に推進しうる社会・経済環境の整備のため、国の制度においても改善を推進する必要がある。
 
 具体的には、 整備に資する権利移転の円滑化のため、市街地整備に必要な土地の譲渡、交換等については、公共事業や土地区画整理事業等として実施される場合を除き土地所有者等に権利調整や税に係る負担が生じることから、政策上の必要性から相当の負担を課すこととなる場合について、当該負担の軽減方策を検討する必要がある。
 また、地区施設等の整備については、住民や地方公共団体が中心となって進めるべきであるが、国においても、密集市街地の防災性の向上や中心市街地の再構築などに資するものを重点として、国民生活の質の向上を図る観点から、積極的に財政・金融・税制上の支援措置を講じるなど、国の支援を拡充する必要がある。
 
 D道路整備と土地利用のきめ細かな誘導
 
 既成市街地の再整備には道路の更なる整備・改善が不可欠であるが、その効率的な整備を図るとともに、道路と土地利用の適切な関係を確保しつつ街区内の土地の有効利用を推進するためには、地区としてのまとまりの中で、良好な市街地環境の形成の観点から道路整備と一体的に土地利用を誘導することが望ましい。このためには、地区計画制度の活用・改善が有効である。
 
 具体的には、地区の状況に応じた適切な配置及び規模の区画道路の整備を図るため、地区計画において区画道路等の計画の策定を進めるとともに、既成市街地内の幹線道路の整備を促進しつつ、沿道地域の将来の市街地像に合致した土地の有効高度利用を推進していくために、沿道地域の用途地域の変更と地区計画の誘導容積制度を組み合わせていく方法について、工夫を加えつつ活用を推進する必要がある。
 
 また、商店街や交通結節点付近等の市街地において、建築敷地や建築空間の一部を活用し、ゆとりある歩行者空間の確保を図るため、地区計画制度の活用など、そのための方策を検討すべきである。
 
(3)用途地域の容積率等について
 
 @用途地域の容積率について
 
 用途地域において定める容積率は、土地利用と都市基盤、特に交通施設の容量とのバランスや市街地環境の確保を図るため、建築物のボリューム(敷地面積当たりの延べ床面積の倍率)の上限を設定して土地利用強度をコントロールするものであるとともに、都市の密度配分に関する一定の指標をなしている。
 一方、この容積率は、市街地の一定のまとまりごとに大くくりに定めるものであり、当該区域内における密度の一般的な上限を規定するものではあるが、個別具体の敷地における建築行為に当たっては、この制限に加え、前面道路幅員による容積率制限や形態制限により、個別敷地の条件に対応して、即地的に利用可能な容積が決まるものである。
 
 用途地域の容積率制度については、例えば、低層住居専用地域について、容積率制限が公共施設への負荷を制御する手法としての側面よりも、市街地環境の確保のため空間占有をコントロールする手法としての側面が強いことに着目して、規制内容の分かりやすさを高めつつ、住宅や住環境の質の向上を誘導するため、必ずしも容積率によらない密度規制など、多様な方式・メニューの可能性について検討すべきである。
 なお、近年多く見受けられる容積率についての規制緩和の要望に関しては、都市における土地の高度利用は、都市基盤の整備を前提として適切に行わなければならないと言う考え方に立ち、容積率の引き上げは、都心居住の推進など都市構造の再編という政策的必要性、公開空地の創出等により都市景観など市街地環境の改善に資するというプロジェクトの優良性等を総合的に判断して行うべきであると考える。
 
 A都市機能更新の積極的誘導について
 
 我が国では建築物の建替えによる市街地の更新が絶え間なく行われてきたが、近年、戦後建築された不燃構造の建築物についても本格的な更新の時期を迎えつつあり、都市の中心部など利便性が高く各種機能が高度に集積している地域においても、建築物の建替え等の動きが活発化してきている。これらの更新活動の動きは、既存の都市機能集積を次世代に継承していくための大切な機会を提供するものであり、土地利用上の誘導措置を適切に講ずることにより、これらの市街地を新しい時代のニーズに適合した魅力ある諸活動の場へと再生し、ひいては都市のリノベーションの推進に資することが必要である。特に、特定の都市機能の集積立地により都市において特別な役割を担うことが求められる地区では、歴史的に形成されてきた街並みの文脈等に配慮しつつも、土地の高度利用とともに建築物の用途の適切かつきめ細かな誘導により、特定の都市機能集積の増進と魅力と活力ある都市空間の形成に向けて、望ましい姿の都市機能更新を積極的に誘導することが必要である。
 
 現況の用途が幅広く混在する既成市街地を対象に、建築物の更新活動を通じて土地利用を望ましい方向へと誘導するに当たっては、用途の「禁止」と「許容」の二者択一型の土地利用規制のみでは限界がある。すなわち、規制の指定に当たって、用途制限を厳しいものとすれば、既存の建築物が不適格の状態となり通常の更新活動も妨げられる一方、用途規制を緩いものとすれば、多様な用途の集積が高密度に進行するおそれが生じ、望ましい土地利用の実現が困難となる。むしろ、幅広い用途をある程度許容しつつも、限られた空間容量を適切に配分することにより、望ましい用途の集積を奨励し、あるべき姿の機能更新を「誘導」するタイプのコントロール手法が適切な場合もあり、制度の実効性の確保に配慮しつつ、容積率の特例制度の活用を含めて検討する必要がある。
 
 
4 市町村の都市計画マスタープランについて
 
 市町村の都市計画マスタープラン(都市計画法第18条の2に基づく「市町村の都市計画に関する基本的な方針」。以下、「市町村マスタープラン」という。)は、住民に最も身近な市町村が、その創意工夫のもとに、住民の意見を反映させて、都市づくりの具体性ある将来ビジョンを確立することをねらいとして創設された制度である。制度の施行後約5年を経た現在、多くの市町村において作成に向けた取り組みが精力的になされている状況にあるとともに、すでに策定を了した市町村数も徐々に増加してきている。
 
 市町村マスタープランについては、人口規模の大きな市を含めて多くの市町村が現在作成作業中であり、現時点でその評価を総括することは適当ではないが、特に、マスタープランを作成するプロセスにおいて、住民意見の反映に熱意をもって取り組み、方法に工夫を凝らしている事例が少なからずみられることは、注目に値する。一方、例えば、地域別構想を策定する場合に、一部の地域についての将来ビジョンのねらいや内容が住民等と共有できる程に十分熟していないにもかかわらず、プランのとりまとめを急いでしまう事例も見受けられる。また、すでに策定を了した市町村においても、策定したマスタープランの有効な活用方法等についての具体的な見通しを持っていない場合も少なからずある。今後は、各市町村の自主性を最大限に尊重しつつ、策定への取り組みを引き続き支援するとともに、策定後における活用状況や、プランの適切な見直しについて、さらに注視していく必要がある。
 
 市街地の土地利用計画におけるマスタープランの役割を考えると、土地利用計画は土地所有者等に対する私権制限によりその実現が図られるものであるが、近年、そうした制限について、その根拠や考え方の説明が求められるようになってきているとともに、まちづくりにおける住民参加が重視される中にあって、マスタープランが重要な役割を担う可能性がある。土地利用の規制を定めるに当たり、必ずしもマスタープランが常に必須というものではないが、土地利用計画の円滑な決定と、住民等の理解の促進のために、マスタープランの活用が推進されるべきである。特に、市町村マスタープランでは、都市全体の構想のほか、地域別の構想の策定が行われるため、目指すべき市街地像に関する地域合意を醸成する過程において、住民の参画を得て地域別の構想を策定することは、既成市街地の質の向上を積極的に推進する上で、大きな意義がある。
 
 
5 今後の検討課題
 
 本小委員会では、市街地の土地利用計画制度のあり方に関する検討を行ってきたが、現行の都市計画制度の基本的枠組みが創設されて以降、都市化に伴う市街地の膨張圧力や、国民の生活様式、価値観には変化がみられるところであり、このような経済・社会状況の変化を踏まえて、非市街地を含む都市の圏域全体に係る土地利用計画のあり方については、さらに検討が必要である。
 
 この場合、特に、モータリゼーションの成熟化により諸機能の立地特性が変化してきていること、ライフスタイルの多様化により居住地の選好に変化のきざしがみられること、混住化等の進展により生活様式の上では都市と農山漁村地域を峻別することが意味を無くしつつあること、国土の美しさや環境の保全に対する国民の意識が急速に高まっていること等、これからの時代の基調となる変化のきざしを十分に踏まえて検討することが必要と考える。
 
 また、都市計画制度全体については、平成10年9月に基本政策部会がとりまとめた「都市再構築のシナリオ」において「新都市計画法施行後約30年を経て、中期的には、抜本改正も視野に入れた検討が必要となっている」と指摘されているところであり、線引き制度の再点検や用途地域外における土地利用コントロールのあり方とともに、マスタープラン制度のあり方など都市計画制度の構成を含めて、総合的な見地からの検討が必要である。